「勝負あり! 以上で全ての競技が終了! 今年度雄英体育祭1年優勝は……アクセル・アルマー!」
ミッドナイトの声が周囲に響く。
ふぅ、何とか勝利したな。
……もっとも、この場合の何とかというのは爆豪に何とか勝利したといった訳ではなく、爆豪に致命傷を負わせることなく勝利したという意味なのだが。
もし俺がこんな事を考えていると爆豪が知ったら、間違いなく俺に向かって苛立ちを露わにするだろう。
とはいえ、爆豪に正直には言えないが、俺と爆豪の間にはそれだけの……それこそ、爆豪を切れさせるのを前提で言えば、圧倒的なまでの実力差がある。
あるいは爆豪がヒーロー科の授業やら何やらで訓練を重ねれば、その実力差が縮まってもおかしくはない。
しかし、今の時点ではどうしようもない。
ただ、それでも安心出来ないのが爆豪なのだが。
実際にヒーロー基礎学で最初に行った模擬戦において、爆豪は既に動ける筈ではない状態であったにも関わらず、精神が肉体を凌駕して俺に攻撃をしてきたのだから。
普通はそういう事が出来ないので、そのような事が出来る爆豪は素直に凄いと思う。
思うのだが、だからといって精神が肉体を凌駕するというのは、一時的に……その場でなら良い結果をもたらすかもしれないが、長期的に見れば決してプラスの影響ばかりではない。
だからこそ、今日はそうならないように脳震盪を起こして一瞬にして気絶させた訳だが。
まぁ、その……それで場外に落ちたのはちょっと予想外だったけど。
あれで怪我をしていないといいんだが。
気絶していたので、受け身とかそういうのを取れないまま、地面に落ちたしな。
とはいえ、舞台から地面まではそこまでの高さがある訳でもないので、さすがにそれで怪我をしたりといった事はないと思う。
ミッドナイトの指示によってロボがやって来ると、爆豪を保健室につれていく。
そこまで大きな怪我はさせていないので、リカバリーガールが個性を使うまでもないとは思うが。
ともあれ、そうして爆豪がいなくなると舞台の上には俺だけとなる。
キャーキャー、ワーワー、歓声やら奇声やらが聞こえてくるが、俺はそんな面々に手を振る。
体育祭において優勝した身としては、このくらいの観客に対するサービスはやる必要があるだろう。
……あ、龍子と優が俺に向かって手を振ってる。
それに笑みを浮かべながら手を振り返す。
すると龍子は笑みを深め、優は手を振る勢いが増していた。
次に視線を向けたのは、応援席のA組……ではなく、離れた場所にいるB組。
トーナメントには残れなかった拳藤だったが、俺が優勝したのは喜んでくれたのか、拍手をしている。
少し離れた場所では、物間が不満そうな様子でそっぽを向いていたが。
障害物競走で策略を練った物間にしてみれば、結局トーナメントに残った大半がA組だったのが面白くなかったのだろう。
B組からトーナメントに参加した塩崎と鉄哲もそれぞれ1回戦で負けてしまったしな。
そんな物間を無視し、拍手をしてくれる拳藤を指差す。
え? 自分? と拳藤は意表を突かれた様子を見せたが、そんな拳藤に向かって手を振る。
取蔭が拳藤の耳元で何かを囁くと、拳藤は顔を赤くして取蔭に何かを言っていた。
混沌精霊であっても、さすがに離れすぎているし、何より観客達から歓声を浴びているので、さすがに何を言いたいのかは分からなかった。
そうして少しの間他にも手を振ったりしていたのだが……
「アクセル、そろそろ応援席に戻ってもいいわよ。後はこの舞台を片付けた後で表彰式をやるから、そうなったら戻ってきてね」
「分かりました」
「……アクセル、格好よかったわよ」
ミッドナイトのその言葉に、驚く。
まさかミッドナイトがそういう風に言うとは思わなかったのだ。
だが、俺がミッドナイトに視線を向けると、既にミッドナイトは俺から視線を逸らし、俺とは反対側の舞台から下りるところだった。
教師だけあって、まだこれから色々とやるべき事があるのだろう。
ミッドナイトに褒められたのを嬉しく思いながら、峰田に知られないようにしないとなと思いつつ、俺は応援席に戻るのだった。
「ただいま」
「おかえり」
俺の言葉に三奈がそう言うも……あれ? 何だか少し不機嫌?
一体何があったんだ?
「おかえり、アクセル君。優勝おめでとーっ!」
三奈の様子に疑問を抱いていると、葉隠がやってきてそう祝いの言葉を口にする。
「おめでとうございます、アクセル君。……アクセル君の事ですから、優勝すると思ってはいましたわ」
プリプリプリプリと、ヤオモモが笑みを浮かべて言ってくる。
常闇に負けた時はショックを受けていたヤオモモだったが、どうやら立ち直ったらしい。
うーん、このプリプリしているヤオモモは、年齢不相応……本来の意味とは逆の意味でだが、可愛らしいな。
「アクセル、その……おめでと」
「ケロ、おめでとう」
ヤオモモに続き、耳郎と梅雨ちゃんがそれぞれ祝いの言葉を口にしてくる。
「ありがとな、耳郎や梅雨ちゃんが……瀬呂?」
耳郎と梅雨ちゃんに感謝の言葉を口にしようとしたところで、不意に瀬呂が俺の腕を引っ張ってつれていく。
「ほら、ちょっとこっちに来いって」
何だか分からないが、瀬呂の表情は結構真剣なものだったこともあって、その瀬呂に逆らわずに移動する。
……途中、峰田がいつものように血涙を流しながら俺を睨んでいたが、それについてはスルーしておく。
多分、A組女子――麗日以外――から祝福の言葉を言われたのが面白くなかったのだろう。
もっとも、それが羨ましいのなら俺を嫉妬するよりも、峰田も実力を磨いてトーナメントに出ればよかっただけだと思うが。
実際、峰田のモギモギはかなりの強個性だと思う。
それを鍛えれば、間違いなくA組の中でもトップクラスの実力に手が届くだろう。
そうなれば多分……峰田の性格を知らないような相手になら、実力もあるという事でモテると思うんだが。
まぁ、峰田の性格を知ったらどうなるのかというのは分からないけど。
「で? 何だよ、こんな場所まで連れてきて」
瀬呂が俺をクラスの面々から離れた場所まで連れて来たので、そう尋ねる。
「芦戸だよ、芦戸。……気が付かなかったか?」
「ちょっと不機嫌そうだったのは分かったけど。でも、何であんな風に不機嫌なんだ?」
「優勝が決まった後、アクセルが拳藤に向けて特別な対応をしただろ。多分、それが原因だ」
「特別な……別に指さしただけだろ? 何でそれでそこまで三奈が怒るんだ?」
「あのなぁ……はぁ、まぁ、詳しい事を言うつもりはないけど、とにかくそれで芦戸が怒ったのは事実なんだ。後できちんと機嫌を取っておけよ」
「そう言われてもな。……あ、なら表彰式が終わって解散になったら、俺の優勝祝いでどこかに行くか?」
話の流れからすると、何となく俺の奢りになりそうな気がする。
普通、祝われる立場の俺が金を払って祝って貰うというのは……正直、どうなんだ?
そう思わないでもなかったが、それくらいで三奈の機嫌が直るのなら、それはそれでいいか。
「ああ、うん。そうした方がいいと思う。出来るだけ早く芦戸の機嫌を直してくれ」
何故瀬呂がそこまで三奈の機嫌が損ねた状態を嫌がるのかは分からない。
分からないが、それでも三奈の機嫌がいい方が俺にとっても嬉しいので、瀬呂の言葉に素直に頷いておく。
そうして席に戻ると、俺は早速三奈に声を掛ける。
「三奈、表彰式が終わったら、どこかでちょっと何か食べていかないか? 俺が自分で言うのもなんだけど、優勝祝いって事で」
「え? うーん……何でいきなり?」
お前が不機嫌そうだったからだよ。
そう思ったが、まさかそれを実際に口にする訳にもいかないだろう。
「何となくな。で、どうだ? どこか行きたい店があるのなら……」
「あ、それじゃあ私、アクセルの部屋に行ってみたい」
本気か?
そう突っ込みたくなったのは、決して俺だけではないだろう。
寧ろ少し離れた場所で話を聞いていた瀬呂も俺と同じ気持ちだったのか、驚きの表情を浮かべている。
他にも俺と三奈の話を聞いていた多くの者達が、三奈の言葉に驚いていた。
普通に考えれば、高校生の女が男の部屋に遊びに行きたいと言えば、そこには邪推が入ってもおかしくはない。
「……あ。ちょっ、別にそういう訳じゃないからね!? 私だけじゃなくて、他にも何人か誘うつもりだったんだから! アクセルも妙な勘違いをしないでよね!」
三奈も俺や周囲にいる者達の視線から自分がどのように思われたのかを理解したらしく、焦った様子でそう言う。
だよな。
まさか、いきなり三奈がそんな事をするとは思わなかったし。
それに三奈が焦った事によって、本人の不機嫌そうだった様子が消えたのは、俺にとっても悪くない事だとは思う。
「で、どう? ほら、アクセルの部屋って広いんでしょ? なら、それなりに集まる事も出来るんじゃない?」
「まぁ、俺は別に構わないけど」
実際、俺の部屋は人が来ても何の問題もない。
1人暮らしだしな。
他にいるとなれば……ロボット掃除機くらいか。
妙に優を敵視しているロボット掃除機だが、三奈達は別に優ではないのだから、敵対視するとは思えない。
……ないよな?
あのロボット掃除機は、グレード的に最高級の奴なので、その分だけAIも賢い。
優に対する態度を思えば、自我があるのではないかと思えてしまうくらいには。
「それで、誰が来る?」
「うーん……いつものメンバーでいいんじゃない? 一佳も呼ぶ?」
「それでいいか」
取りあえずそんな風に決まり……
そうして話している間にもセメントスを始めとした雄英の教師陣がスタジアムに用意された舞台を片付けていく。
舞台は結構いいものだったので、それを壊すのは少し勿体ないと思うけど……多分、セメントスが本気になれば、すぐにでも同じ物を作り出せるんだろうな。
「ねぇ、アクセル。……多分、アクセルはあれに乗るんだよね?」
耳郎が指差したのは、表彰台。
1位、2位、3位の奴なのだが、普通こういうのってこう……デコボコというか、四角形というか、そんな感じになってると思うんだが、セメントスが作ったのは円柱状の奴だった。
それも1位、2位、3位の順番は普通の奴と同じだが、1位と2位、1位と3位の間が妙に離れているのが気になる。
えっと、もしかしたらヒロアカ世界ではこれが標準なのか?
俺がイメージしている奴は、もしかしてヒロアカ世界では時代遅れとか、流行から遅れているとか?
ああいうのにそういうのがあるとは思えないが、個性の存在するヒロアカ世界においては、意外とそういうのもあるのかもしれないな。
いや、でも耳郎が今のように聞いていたのを考えると、ヒロアカ世界的に見てもおかしかったりするのか?
「そうだろうな。ただ……爆豪がどう反応するのかちょっと気になる……あれ? 3位って結局どうなったんだ?」
表彰台を見て、ふとそう疑問を抱く。
俺が優勝で爆豪が準優勝。
そうなると3位は準決勝で俺に負けた轟と爆豪に負けた常闇で3位決定戦をやるんだと思ったが、特にそういうのはない。
だとすれば、3位は2人なのか? それともどっちかが3位決定戦に参加しなかったのか。
「そう言えば、3位決定戦をやっていないわね。だとすれば、やっぱり2人なんじゃない?」
耳郎の言葉に、やっぱり3位決定戦はやっていなかったのかと納得する。
「いいのか?」
「先生達が決めたんだし、それでいいんじゃない?」
耳郎は特にその辺について気にしてはいないらいし。
なら、常闇は……と視線を向けると、俺の視線に気が付いたのか常闇がこっちに近付いてくる。
ちなみに轟はと思って見回してみたが、轟の姿はどこにもない。
「どうした?」
「いや、3位決定戦はやらないんだと思ってな」
「ああ、轟はまだ保健室だ。なので、どうやら俺の不戦勝らしい。……不戦勝で3位というのは、あまり面白くないのだがな」
そう言う常闇だったが、常闇の弱点は爆豪との試合で大々的に広まってしまった。
保健室にいる轟がそれを知る事は今は出来ないだろうが……いや、どうだろうな。もし轟が3位決定戦に参加するとなれば、エンデヴァーが教えていたかもしれないな。
ただ、俺が見たエンデヴァーは、あくまでも轟を体育祭で優勝させようとしていた。
俺に負けて3位決定戦に参加するとしても、エンデヴァーは興味を失っていた可能性は十分にある。
その辺りについては、轟の家の問題なので俺が自分から関わる必要があるとは思えなかったが。
これで轟が、例えば瀬呂のような感じで俺と友好的な関係であったりした場合なら、あるいは家族関係についても踏み込んだりしたかもしれないが……俺と轟の関係でそこまで踏み込むのは、それこそ轟にしても面白くないだろうし。
そんな訳で、その辺りについては気にしない事にして常闇を含めた他の面々と話をするのだった。