ポン、ポン、ポンと花火が上がる。
その花火を、俺は表彰台の上から見ていた。
……隣の、2位の表彰台にいる爆豪からは視線を逸らすようにして。
何しろ爆豪は、表彰台の上に用意された石柱に鎖で縛り付けられ、しかも個性も使えないように手に頑丈な鍵の掛かった手錠……手を完全に覆うようなのを手錠と呼んでもいいのかどうかは微妙だったが、とにかくそんな感じだった。
しかも猿轡までされる念の入れようだ。
もっとも、実際に爆豪はそんな状態にされても暴れているのだから、それを見ればやはりあのような状態にして良かったと思わないでもなかったが。
実際、表彰式が始まる前から、観客達の多くの視線は1位の俺でも、3位の常闇でもなく、2位の爆豪に向けられていたし。
だが、司会を務めるミッドナイトはそんな爆豪の様子であったり、あるいは周囲の視線についてもスルーして口を開く。
「それでは、これより表彰式に移ります!」
ミッドナイトがそう言うと、観客を含めた大半の視線が爆豪からミッドナイトに移る。
その中には当然のように欲望に満ちた視線もあるが、そのような視線を受けてもミッドナイトは特に気にした様子もない。
その手の視線を向けられることが多いので、その辺はもう気にしなくなったのだろう。
「それでは、これよりメダル授与を行います。勿論メダル授与はこの人……」
「私が、メダルを持って……」
「我らがヒーロー、オールマイト!」
あ、被ったな。
応援席から飛びだしてきたオールマイトが表彰台の近くに着地したものの、そこでミッドナイトの言葉が被ってしまう。
こういうのって、前もって打ち合わせとかしてるんじゃないか?
そうも思ったが、雄英の教師の面々を思えば、意外とその辺りは行き当たりばったりでやっていそうな気がしないでもない。
ミッドナイトが手を合わせ、視線を向けてくるオールマイトに謝っているのを見れば、何となく自分の予想は間違っていないと思える。
そうしていると、観客席からは今年の1年はオールマイトにメダル授与をして貰えて羨ましいといったような事を言ってる声が聞こえてくる。
……なるほど、俺にしてみればオールマイトは緑谷と関係する重要な人物だが、言ってみればそれだけだ。
だが、このヒロアカ世界の日本に住む者にとって……ましてや雄英まで体育祭の応援に来る者達にしてみれば、オールマイトからのメダル授与というのはもの凄く羨ましいのだろう。
ともあれ、ちょっとしたトラブルはあったものの、オールマイトはメダル授与を行っていく。
常闇には個性の強さを褒めながらも、個性だけではなく他の能力……具体的には生身での近接戦闘能力か。そういうのを磨くように言われ、素直に頷く。
常闇の一件はこうして問題なく終わったのだが……問題は爆豪だった。
「さて、爆豪少年……っと、こりゃあんまりだな」
2位の爆豪の前に立つと、せめてもという事で猿轡を外したのだが……
「オールマイトォ……2番なんて何の意味もねえんだよ! 2番じゃ駄目なんですかとかいうネットミームがあるが、2番じゃ意味がねえんだよぉっ!」
猿轡を外された瞬間、そう叫ぶ爆豪。
その時の爆豪の表情……何と言えばいいか、目が吊り上がり、ヴィラン……それもちょっとやそっとのヴィランではなく、かなり有名なヴィランのようにすら思えてしまう。
そのように思ったのはどうやら俺だけではなかったらしく、多くの者が爆豪の凶相とも評すべき表情に驚いていた。
「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる者はそう多くない。このメダルは受け取っとけよ。君の傷として、決して忘れぬよう」
「いらねえっつってんだろ!」
銀メダルを首に掛けようとするオールマイトだったが、爆豪はそれに抵抗する。
最終的にはオールマイトも爆豪の様子に諦め、首ではなく口に……囓らせるような形で銀メダルを掛ける……掛ける?
うん。まぁ、とにかくそんな感じ。
ただ、爆豪もオールマイトから貰ったメダルを吐き捨てる気にはならないのか、素直にメダルと繋がっている布の部分を囓っていたが。
そうして最後にオールマイトがやって来たのは、俺の前。
「……アクセル少年、有言実行。選手宣誓で口にしたように、君は1年で最強だというのを示してみせたね」
「個人的には、雄英最強のつもりではいるんですけどね」
「はっはっは。その意気や良し!」
そう言い、笑うオールマイト。
とはいえ、俺も決してその辺りについては何の根拠もなく言っている訳ではない。
実際、3年のビッグ3の1人、ねじれとの模擬戦では俺が全戦全勝している。
であれば、他のビッグ3の2人も同じように……とはいかないかもしれないが、それなりにしっかりと戦えば勝利出来る筈だ。
ただ、オールマイトはその辺の事情については知らない様子だったので、仕方がないのかもしれないが。
「だが……強いからといって、力に溺れるような事はしないで欲しい。今のまま、しっかりと前に進む事を祈っているよ」
「そういう事が絶対にない……とは言いませんけど、肝に銘じておきます」
俺が雄英に学生として通っているのは、あくまでも公安からの依頼があってのものだ。
そもそも俺がヴィランになったら……うん。自慢じゃないが、オールマイトだろうと対処出来ないようなヴィランになると思う。
何しろ影のゲートがあるし、破壊力という点でも混沌精霊であったり、ニーズヘッグを始めとし人型機動兵器を使ったりも出来るし。
しかもヴィランになればゲートをどこにでも設置出来る訳で、最悪シャドウミラーが……いや、シャドウミラーだけではなく、友好世界もヒロアカ世界で暴れるような事になれば、どうしようもなくなるだろう。
そういう意味でも、俺がヴィランになる訳にはいかない。
「なるほど。……アクセル少年とは、一度ゆっくり話してみたいと思うよ」
「そうですね。俺もそういう機会があったら嬉しいですけど……オールマイトは緑谷とは親しくしてるみたいですが、それ以外の生徒はそうでもないですしね」
「それは……」
俺の言葉に、オールマイトは視線を逸らしてキョロキョロとする。
うん、本人にそのつもりはないのかもしれないが、オールマイトは嘘が苦手だな。
俺にしてみれば、別にその件については構わないけど。
「オールマイトがどういう風に思っているのかは分かりませんけど、緑谷は才能ある生徒なので、別にオールマイトと緑谷の関係の件を責めようとは思っていませんよ。もっとも、A組の中ではオールマイトと緑谷が何か特別な関係だというのは、全員が知ってますけど」
特に今日の体育祭が始まる前に、控え室で轟が緑谷にオールマイトとの関係について尋ねていたのを、クラスの全員が聞いていたしな。
「それは……」
「俺にとっては、その辺についてはあまり気にしていないですけど、気にする人は気にするので、注意した方がいいですよ」
「……肝に銘じておこう」
真剣な表情でオールマイトはそう言うと、俺の首に金メダルを掛ける。
当然ながら、俺は爆豪のようにメダルを掛けられるのを拒否したりはしない。
優勝者の金メダルだしな。
ただ、日本においてはオリンピックの代わりとなった雄英の体育祭と思えば、この金メダルの価値は俺が思っている以上のものなのかもしれないな。
どのみち汚職塗れのオリンピックの金メダルよりは、雄英の金メダルの方がいいし。
何しろどこぞのオリンピックだとメダルが安っぽい手抜きの品なので、すぐに塗装が剥げて100個以上が返却されるとか、そういう事もあったらしいし。
それと比べれば、雄英の体育祭のメダルはそういう偽物……もとい、安物のメダルではない。
緑谷から少し話を聞いた限りだと、個性を使って作っているメダルだとかなんとか。
どういう個性を使っているのかは、ちょっと分からないが。
そんな風に思っていると、俺の首に金メダルを掛けたオールマイトが観客席に……そして、TVを見ていた者達に向かって声を掛ける。
「さぁ、今回は彼らだった! しかし皆さん! この場に立つ誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高めあい! 更に先へと登っていく、その姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! てな感じで、最後に一言!」
オールマイトがそう言い、人差し指を立てながら手を掲げ……
「皆さん、ご唱和下さい。せーの!」
『Plus Ult……』
「お疲れ様でした!」
……うん、最後まで締まらなかったな。
ミッドナイトから、そこはPlus Ultraだろと突っ込まれているオールマイトの姿が、全国に放映されたのだった。
表彰式と閉会式も終わったが、俺達はその場で解散といった訳にはいかない。
一応連絡事項とかそういうのもあるので、SHRの為に教室に戻ってきていた。
とはいえ、体育祭が終わったばかりということで多くの者が浮き足立っているし。
「ねぇ、アクセル。今日の打ち上げだけど、一佳も呼ぶけどいい?」
席に座った三奈が、そう声を掛けてくる。
打ち上げじゃなくて、俺の優勝祝いじゃなかったのか? そうも思ったが、その件についてはスルーしておく。
「拳藤も? それは別に構わないけど、拳藤は拳藤でB組の親しい連中と集まるんじゃないか?」
「あ、そっか。……でもまぁ、誘うだけ誘ってみるよ。それでもし来られるようならアクセルの家に来ればいいし。あ、でも一佳ってアクセルの家を知ってるの?」
「知ってるぞ。以前俺の部屋に来た事あるし」
「ふーん……」
あれ? 何でそこで三奈が微妙に不機嫌になるんだ?
同級生の自分が俺の家に来た事がなかったのに、拳藤だけ以前俺の部屋に来た事があったのを不公平だと思ったとか?
三奈と話をしていると、やがて相澤が教室に入ってくる。
「おつかれっつう事で、明日と明後日は休校だ。プロからの指名等については、こっちで纏めて休み明けに発表する。ドキドキしながら、しっかりと休んでおけ」
そう相澤が言い。合理的に判断したのかそれ以上は特に何も言わず、SHRは終わるのだった。
「さて、じゃあ家に行くけど……結局誰が参加する事になったんだ? 最初はいつものメンバーって話だったけど」
「いつものメンバーにプラスして、耳郎と常闇、峰田、上鳴だね。本当は梅雨ちゃんも誘ったんだけど、弟の面倒をみないと駄目らしいから」
相澤がいなくなったところで三奈にそう聞くと、返ってきたのは予想外の返事だった。
いや、いつものメンバーに耳郎がプラスされるのは分かる。何だかんだと、耳郎は俺達と一緒にいる事が多いし。
梅雨ちゃんも俺達と一緒にいる事が多いが、弟の世話があるのなら仕方がないか。
……実際には、別に俺達の中でも俺や瀬呂じゃなくて、三奈、葉隠、ヤオモモといったようなクラスの中心人物が俺や瀬呂と一緒にいる事が多いから、自然と耳郎や梅雨ちゃんが俺達と一緒にいるようになっているというのが正しいのだが。
ちなみにA組女子最後の1人である麗日は、緑谷や飯田と一緒にいる事が多い。
その飯田だが、何でも家族に何かあったとかで体育祭の途中で帰ってしまっている。
その辺りについては少し気になるが……今ここで、俺がどうこうといったように考えたりしても意味はないしな。
ともあれ、それについてはともかく、常闇、峰田、上鳴が打ち上げに参加するのを三奈が認めたというのは少し……いや、大分驚きだった。
いや、常闇なら俺や瀬呂ともそこそこ仲が良いので納得も出来るが、峰田と上鳴は三奈を始めとした女達には嫌われていた筈だ。
そんな2人をわざわざ打ち上げに参加させるというのは、一体何がどうなってそうなったのか、全く分からない。
「いいのか?」
「まぁ、たまにはね。ただ、セクハラしたらちょっとしたお仕置きをするけど」
ニヤリ、と。そんな笑みを浮かべる三奈は、黒目だけに一種異様な迫力があった。
これ……一体どういうお仕置きをするつもりなんだ?
もしかして、そのお仕置きをする為、試す為に峰田と上鳴を呼んだりしたんだろうか。
「言っておくけど、俺の部屋で凄惨な光景はNGだぞ」
まぁ、多少凄惨な事があっても、ロボット掃除機ならその辺を問題なく片付けてくれたりするのだが。
それでもやっぱり、その辺についてはない方がいいのは間違いない。
「ちょ……アクセル、一体何を想像したのか分からないけど、別にそういうのは考えてないからね!」
そう主張する三奈だったが、果たしてどこまで信じてもいいのやら。
まぁ……うん。三奈というかA組の女達にしてみれば、チアガールの件もあるし、この機会にお仕置きしておきたいと思ってもおかしくはないかもしれないが。
「その辺は任せるよ。で、拳藤は?」
「あ、こっちに参加するって。その代わり、2人連れてきたいって言ってるんだけど、どう?」
「別に構わないぞ」
「……大丈夫? 私が言うのも何だけど、何だかんだと結構な人数になるけど」
「俺の部屋は広いから、そのくらいなら問題はない」
そうして、打ち上げに参加する面々が決まるのだった。