「うおおおおおん、ありがとな、アクセル。オイラ……お前を誤解していたよ」
「あー……峰田程じゃないにしろ、打ち上げに混ぜてくれた事には感謝してるよ。ありがとな」
「大いなる闇の住処……」
峰田、上鳴、常闇がそれぞれ感謝の言葉を口にしてくる。
……いや、前者2人はともかく、常闇のは感謝の言葉なのか?
それを微妙に疑問に思いながらも、俺はそんな3人に向かって口を開く。
「一応言っておくけど、峰田と上鳴はセクハラ注意な。三奈が何か楽しそうにお仕置きを考えていたぞ。……まぁ、それを楽しむだけの勇気があるのなら、試してみてもいいとは思うけど」
そう言うと、峰田と上鳴はビクリとする。
三奈の考えるお仕置きというのが、一体どういうものなのか考えてしまったのだろう。
1つ分かりやすく考えるとするなら、三奈の個性は酸だという事だろう。
三奈にも言ったが、俺の部屋で打ち上げをやるんだから、ロボット掃除機の出番がないようにして欲しいものだ。
「で、常闇……これから行くのはあくまでも俺の部屋であって、そこまで大仰な場所じゃないからな?」
「我が同胞よ、感謝する」
いや、一体いつ俺がお前の同胞になった?
そう思ったが、常闇は厨二病ではあるが、言ってみればそれだけだ。
峰田や上鳴と比べると、女達からの受けも……まぁ、悪くはない。
「それより、そろそろ行こうぜ。校門前で待ち合わせだろ?」
瀬呂の言葉にそれもそうかと頷き、俺達は先に行った三奈達を追うように教室を出るのだった。
やる気満々といった様子の峰田を俺が、そして峰田程ではないがかなりやる気満々の上鳴を瀬呂が押さえつつ、常闇と話をしながら校門前に行くと……そこには、三奈を始めとした女達が待っていた。
少しだけ驚いたのは、拳藤と一緒にいたのが取蔭と塩崎だった事だろう。
取蔭はともかく、塩崎はトーナメントで戦った相手だけに、打ち上げというか、俺の祝勝会に来ても問題ないのか? と思えたのだが……まぁ、塩崎の性格からして、嫌なら嫌だときっぱりと断っているだろう。
それなのにこうして校門前にいるという事は、打ち上げに参加するのは無理矢理という訳ではなく、きちんと自分で考えての事なのだろう。
「アクセル、遅かったな」
「ちょっとな。……この状況を見れば分かってくれると思うけど」
拳藤の言葉に、俺は暴走しないように捕まえていた峰田を持ち上げ、見せる。
「あー……うん。前にA組の前でも見たよな」
微妙な表情でそう言う拳藤。
ああ、そう言えばUSJの一件の後でA組の前に集まってきた連中の中に拳藤もいたか。
いや、正確にはA組にやってきた鉄哲を追い掛けて、拳藤がやって来たんだったな。
で、俺が峰田を見せつけてお前達の雄英からの評価はこの峰田以下だと、そう言ったんだった。
……結果として、峰田は最初の障害物競走で普通科、経営科、サポート科の多くの生徒から集中攻撃されたんだよな。
もっとも、それでも騎馬戦に進むだけの順位でゴールした辺り、峰田の能力の高さを示しているが。
こうして考えてみると、峰田以下だと言った俺の言葉は決して間違いではなかったんだよな。
まぁ、実力と性格は別物って事で。
「そうそう、この峰田が打ち上げに参加出来るって喜んでいて暴走しそうだったから」
「……あ、別に暴走してもいいわよ? そうしたらお仕置きをするだけだし」
俺と拳藤の会話に、三奈がそう口を挟む。
満面の笑みを浮かべている三奈は、出来るだけ早く峰田には暴走して欲しいと思っている様子だった。
それを見た峰田は、ヒュン、と。数秒前までの猛っていた様子が一瞬にして消える。
三奈の様子に、何か感じるところがあったのだろう。
チラリと瀬呂の方を見ると、上鳴も峰田程露骨にではないが、先程と比べると明らかに落ち着いた様子だった。
上鳴もまた、今の三奈の言葉に本気を感じたのだろう。
……男として、それも高校生の男として、女と一緒に騒げるというのが嬉しいのは俺にも理解出来る。
だが、そこでこの2人のように欲望を丸出しにするのは、それはそれでどうかと思わないでもなかったが。
「さて、じゃあ落ち着いた事だし、俺の部屋に行くか」
「あ、ちょっと待ってアクセル君。打ち上げで食べる料理とか途中で買っていかないと。どこかにいいお店、ある?」
葉隠の言葉に、その場にいた者達の視線が俺と拳藤に向けられる。
俺と拳藤が同じ駅を使っているというのは、この場にいる全員が知っているのだろう。
「なら、俺のマンションの1階にあるスーパーを使えばいいんじゃないか? 運ぶのも楽だし」
空間倉庫について秘密にしている以上、当然ながら購入した食べ物は手で運ぶ必要がある。
いや、食べ物だけならまだしも、飲み物もとなると……まぁ、これだけの人数がいるんだから、そう考えるとやっぱり近い方がいいよな。
「え? アクセルのマンションって1階がスーパーになってるの? いいなぁ、便利そうで」
取蔭が羨ましそうに言ってくる。
まぁ、普通なら1階にあるのって、コンビニくらいだからスーパーは珍しいよな。
「ちょっ、駄目だって。あそこ高いだろ!?」
俺と取蔭の話を聞いていた拳藤が、そう話に割り込んでくる。
「アクセルは金持ちかもしれないけど、私達にああいう店を使うのは無理だって」
「え? ちょっと、もしかして何か凄い店なの?」
「あー……うん。まぁ、ちょっと高級志向のスーパーなのは間違いないな。その代わり、値段相応の品質は期待出来るけど」
「駄目に決まってるだろ。途中で私が使っているスーパー……アクセルのマンションにあるようなスーパーじゃなくて、普通のスーパーで何か買っていこう。後はファーストフード店で何か買っていってもいいな」
そう拳藤が言うと、賛成多数でそういう事になる。
いっそ、俺のマンションのスーパーで俺が奢ってもいいんだが、拳藤の様子を見る限りだとまず間違いなく断られるだろうしな。
とはいえ、食費を含む俺の生活費は公安から出ている訳で、別に遠慮する必要はないんだが。
もっとも俺が公安から依頼を受けているというのは秘密な訳で、その辺りの事情を話せる訳もないのだが。
そんな訳で、俺と拳藤の使っている駅で降りると、途中でスーパーやファーストフード店で適当に食べるのを買い込み、マンションにやって来たのだが……
「え、嘘……本当にこれがアクセルの部屋があるマンションなの?」
三奈がマンションを見て驚きの声を上げる。
まぁ、この辺りのマンションの中では明らかに一番高いマンションだしな。
家賃という意味でも、階数的な意味でも。
とはいえ、俺の部屋は最上階とかじゃないんだが。
「えっと……その、ねぇ、アクセル君。ちょっと聞きたいんだけど……もしかしてアクセル君ってお金持ち?」
恐る恐るといった様子で葉隠が聞いてくる。
ちなみに、ヤオモモだけは何故皆が驚いているのか、分からない様子だった。
このくらいのマンションは、ヤオモモにとってはそこまで珍しいものじゃないだろうな。
「別に金持ちって訳じゃないけど、色々と訳ありなのは間違いないな」
「闇とはまた別の意味で闇の者だったりはしないな?」
常闇の言葉はそれだけを聞いただけでは意味が分からないが、常闇の性格を考えれば何を言っているのかは理解……いや、予想出来る。
この場合、最初の闇というのは常闇にとっては厨二病的な意味での闇。
そして次の闇は、俺が何か悪い事とをして稼いでいるのではないかと思っているのだろう。
「俺が雄英に合格をしたという事からも、俺がヴィランではないのは明らかだろう」
とはいえ、実は雄英に合格した者の中にヴィランがいるという可能性は否定出来ないのだが。
ただ、俺の場合は雄英の教師も公安からの推薦があっての事なので、雄英側も俺がヴィランだという事は考えていないだろう。
「そうか。では、俺はアクセルを信じよう」
常闇がそう言うと、他の面々の中でも俺を微妙に疑っていた者達も納得した様子で頷く。
「信じて貰えたようで何よりだ。じゃあ、部屋に行くか」
「……アクセルさん、1つ聞きたいのですが、何故エレベータはこんなに多数あるのですか?」
塩崎がそう不思議そうに聞いてくる。
どうやら塩崎にしてみれば、これだけ多数のエレベレータのある理由が理解出来なかったらしい。
「このエレベーターは、どれもそれぞれの階層の直通のエレベータだ。途中で止まるような事はないから、真っ直ぐに1階と自分の部屋のある階層を行き来出来る。……もっとも、そうなるとそうなったで、乗り遅れた時には戻ってくるまで待っていないといけないけど」
「……怠惰、と言ってしまってよいのでしょうか?」
「そう? このマンションは見るからに高級マンションだし、そう考えればこのくらいの設備があってもおかしくはないんじゃない?」
どうやら塩崎はこのマンションの様子に若干の不満はあるものの、取蔭はそうでもないらしい。
まぁ、塩崎は見るからに真面目な性格をしているし、取蔭は中学校の時はギャルだったらしいから、こういう高級マンションに来る機会とかもあったのかもしれないな。
……取蔭の件については、半ば俺の妄想もあるような気がするけど。
「とにかく、いつまでもここにいても目立つから、さっさと行こうよ」
そう言う三奈は、周囲の様子を気にしている。
まぁ、このマンションは普通に考えれば学生が住むような場所ではない。
あ、いや。でも家族で暮らしている場合、その子供が学生というのはあるか。
ただ……それでも俺達の側を通るこのマンションの住人が、不思議そうな視線をこちらに向けてくるのも事実。
三奈はその視線が気になったのだろう。
もっとも、もし本当に何か怪しい奴がいた場合、エントランスにいる管理人が注意するなり、あるいはマンションの敷地内から出ていくなり、場合によっては警察に連絡をするなりするだろうが。
このマンションに住人である俺がいるので、その辺の心配はない。
「そうだな。いつまでもここでこうしていると、買ってきた料理とかも冷めてしまう。早く行くか」
冷めてもレンジやオーブントースターで温め直せばいいんだろうけど。
俺の部屋にあるレンジやオーブントースターは、どれも高性能な奴だし。
……もっとも、高性能な家電というのは使いこなすにも相応の知識や経験が必要だったりするので、俺も本当の意味で使いこなせているといった訳ではないのだが。
「丁度下にあったみたいだな。ほら、行くぞ」
エレベータが開き、そこに乗る。
すると他の面々も乗り込むので、扉を閉める。
エレベータは真っ直ぐに俺の部屋のある階層に向かう。
途中の階層で止まったりしないのは、ストレスがなくていいよな。
何気にエレベータを使っている時に目的の階層以外で止まるのってストレスになるし。
……これは俺の心が狭いだけかもしれないが。
「さて、到着だ」
「……最初にアクセルの話を聞いた時は、途中で止まらないのが楽だって話だったけど、実際にこうして乗ってみると本当に楽だよな」
しみじみと瀬呂が言う。
他の面々もその意見には賛成だったのか、頷いていた。
エントランスでは他の住人の視線が気になっていた三奈も、俺の部屋のある階層までくると、その視線を気にしたりはしなくなった。
「じゃあ、こっちだ」
そう言い、三奈達を引き連れて部屋に向かっていると……
ガチャリ、と。
不意に俺の部屋の近くにある別の部屋が開く。
そこから出て来たのは、30代程の男。
上質なスーツを着ており、どこかの会社の若社長といった具合だ。
同じ階層に住んでいる相手だが、この手の高級マンションにありがちな感じで近所付き合いの類はないので、初めて見る顔だった。
俺が相手の顔を知らないのだから、当然ながら向こうもこちらの顔を知らず、一体何故学生がこのマンションに? と不思議そうな様子でこちらを見て……不意にその動きが固まる。
「八百万のお嬢さん?」
そう言ったのだから、誰について言っているのかは考えるまでもないだろう。
俺を含めた全員の視線がヤオモモに集まる。
そのヤオモモは、いきなり自分の名前……というか、名字を呼ばれて驚いた様子だったが、男をじっと見て、やがて口を開く。
「えっと、確か以前パーティでお会いした、インフェクション通信の……」
「ああ、覚えていてくれたようで何よりです。まさか、このような場所で八百万のお嬢様と会うとは思っていませんでした」
このような場所って、このマンションはこの辺り一帯でも最高級のマンションなんだが。
そう思いはしたものの、ヤオモモの家はかなりの金持ちで、それこそ財閥といった表現が相応しい規模らしいし。
分かりやすく言えば、俺の恋人の1人であるあやかの実家、雪広財閥を思い出せばいいだろう。
あるいは、千鶴の家である那波重工……いや、那波重工はかなり大規模な会社だが、それでも雪広財閥には及ばないか。
ともあれ、そんな規模の家なのは間違いない。
「ええ、知っての通り今日は雄英の体育祭で、彼が優勝しましたので、その優勝祝いにと」
そう言い、ヤオモモが俺を見ると、インフェクション通信の社長? か重役? とにかくその男は俺を驚きの視線で見るのだった。
……雄英の体育祭はオリンピック代わりらしいけど、見てない奴もいるんだなと思いながら、挨拶代わりに小さく頭を下げるのだった。