「それにしても騎馬戦……アクセルのチームは強すぎだよなぁ……」
耳郎の錯乱も終わり、現在話は騎馬戦についてのものになっていた。
取蔭の口から出た言葉に、他の面々も同意する。
ちなみにその騎馬戦で俺と一緒だった面子は、現在ここに全員集まっていたりするのだが。
「私の個性で手をバラバラにしたのに、あっさり見つかっちゃうし」
「オイラだって、障子の中に隠れていたのに、梅雨ちゃんと一緒にハチマキを奪おうとしてもあっさりと回避されたぜ」
「それを言うなら、私だってイヤホンをあっさりと……」
「私も巨大化した手を……」
「轟さんの作戦が……」
「俺もダークシャドウも……」
そんな風に、それぞれに愚痴を言われる。
「とはいえ、騎馬戦で露骨に手を抜かれて、わざとハチマキを取らせるとか、そういうので勝ち残っても、お前達には嬉しくなかっただろう?」
そう言うと、全員が当然といった様子で頷く。
あ、峰田だけは微妙な表情だな。
俺が知っている峰田の性格であれば、自分が勝ち残るのならその経緯はどうでもいいって感じだしな。
「俺としては、それなりに皆に活躍の場を作る事も出来たから、満足出来る結果だったんだけどな」
「騎馬戦で1位になったのだから、それも当然でしょう。……私は、1回戦で貴方に敗れた事が残念でしたが」
塩崎が生春巻きを食べながら、そう言ってくる。
「塩崎の個性は、応用が利いて使いやすい個性だよな。……髪の毛を使うという点では峰田と似たような感じだけど」
「なら、オイラと個性についてちょっと話さないか?」
「結構です」
俺の言葉を聞いた峰田がここぞとばかりに塩崎を誘うものの、考える様子もなく、即座に断られていた。
……まぁ、塩崎と峰田は、個性はともかく性格的な相性はもの凄い悪そうだしな。
最終種目のトーナメントにおいて、プレゼント・マイクが刺客扱いした時に抗議した様子を思えば、それは納得出来る。
良い意味でも、悪い意味でも、塩崎は潔癖なのだ。
そんな塩崎に対し、峰田は個性こそかなり強力ではあるが、その性格は男子高校生らしく、女に強い興味を持つ。
塩崎と峰田では、性格的な相性が致命的なまでに悪いのだ。
「ちくしょおおおおおっ! アクセルめえええ!」
「いや、なんでそこで俺なんだよ」
塩崎に誘いをあっさりと断られた峰田は、いつもの血の涙を流しながら俺を睨んでくる。
そんな理不尽に思わず突っ込んだが、これは別に俺が悪くないよな?
そもそも、俺と塩崎には別に何がある訳でもないし。
「あれだけの強さを持ち、トーナメントでも優勝したアクセルさん。……素晴らしい方だと思います。貴方のような好色な輩とアクセルさんを一緒にしないで下さい」
「えっと……あれ? おい、塩崎? お前もしかして酔っ払っていたりしないよな?」
峰田に追撃の攻撃……口撃を加える塩崎に、そう返す。
いやまぁ、トーナメントで優勝したのも、しかも実際には実力の1割も使っていないのも事実だ。
それは間違いない。
だが同時に、俺が強いからといって高潔な性格をしているのかと言われれば、俺は即座にそれを否定するだろう。
寧ろ塩崎が峰田を女好きという事で嫌っているのなら、20人以上の恋人がいて、その多くと同棲している俺は……うん、もしその辺について塩崎に知られたら、どうなるんだろうな。
「え? 別にお酒とかは買ってきてないよ?」
葉隠のその言葉に、だよなと床に置かれている幾つかのペットボトルを見る。
ウーロン茶にスポーツ飲料、炭酸飲料。
どれも酒ではなく、普通の飲み物だ。
……というか、もしここでアルコールがあった場合、明日の朝には色々ととんでもない事になりそうなので、その辺は前もってしっかりと確認してあった。
つまり、塩崎は酔っている訳ではなく、素でああいう風に言ってる訳か?
それとも、いわゆる場酔いって奴なのか?
「えっと、塩崎? 色々と褒めて貰って嬉しいが、俺は別にお前が思うような高潔な人格って訳じゃないぞ?」
「そんな事はありません!」
俺の性格について、何故か塩崎は俺よりも詳しそうな様子で否定してくる。
「選手宣誓の時の、自分は壁となる発言。そして、実際にそのような事を言えるだけの実力を見せて下さいました。それに私との戦いで見せた実力も素晴らしかったです。そのようなアクセルさんなのですから、その性格も高潔なものであるのは間違いありません」
いや、おいおいおい……これ、塩崎本当に大丈夫か?
それとも、もしかしたらトーナメントで自分が負けたから、今のように思っているのかもしれないが。
「……拳藤、取蔭、どうにかしてくれ」
塩崎の様子を見ると、ここで俺が何を言っても恐らく無駄だろう。
なので、ここは塩崎と同じクラスの拳藤と取蔭に頼む。
だが、俺が視線を向けた2人も、戸惑った様子を見せていた。
「えっと……こんな茨は初めて見るんだけど」
「私も。もしかしたら、こうしたパーティをやるのが初めてとか、数回しかした事がないから、テンションが上がってるだけかもしれないけど」
どうやらこの2人にもお手上げらしい。
えっと……じゃあ、この状況はどうすればいいんだ?
「三奈」
「いやいや、私達がどうにかするのも無理だってば。見てよ、あのアクセルに心酔している様子を」
そう言われ、塩崎に視線を向けると潤んだ目をこちらに向けている。
えっと……何でだ?
塩崎が俺に心酔するような事って何かあったか?
そもそも、今日帰りに合流してからも特に何か俺に特別な感情を向けてはいなかったと思う。
なのに、こうしてパーティの中で何故いきなりこんな感じになったのか。
「えっと、塩崎? お前が俺を褒めてくれるのは嬉しいけど、何度も言うようだが俺は別に高潔な人格者って訳じゃないぞ?」
「そのような事はありません。私は、啓示を感じたのです」
「啓示を……感じた?」
啓示っていうのは、いわゆる神が神官とかそういう相手に与える……単純な言い方だと、指示のようなものだ。
その啓示を受けたのなら……その内容はともかく、話の流れとしては分からないではない。
だが、啓示を感じたというのは、使い方としてちょっと間違ってないか?
それって実際に啓示があったとかじゃなくて、そもそも自分で勝手に啓示だと思っているだけとか?
というか、このヒロアカ世界に神はいるのか?
まぁ、神という存在がいても、しっかりと自分の目で確認出来る世界というのも珍しいが。
ペルソナ世界なんかはそうだったし、行けなくなったが門世界も同じような感じだよな。
そういう意味では、この世界において神がいるのかどうかは……原作が進めば、あるいは緑谷が神と接触するような機会もあったりするのかもしれないが。
「はい。アクセルさんはこの世界にとって重要な人物だと」
「それは……」
え? あれ? これ……もしかして本当に啓示を受けていたりしないよな?
自分で言うのもなんだが、俺はこのヒロアカ世界においては大きな利益をもたらすと同時に、場合によっては大きな不利益をももたらすような存在だろう。
俺が正体を打ち明けた公安でも、ゲートを設置する土地に対して未だに返答がない。
あるいは俺を飼い殺しにでもしようとしているのかと思わないでもないが、ゲートを設置するのは、別に何らかの決まりがある訳ではない。
もし公安が俺を飼い殺しにしようと考えているのなら、それこそどこか適当な場所にゲートを設置してしまえばいいのだから。
そうして一度ゲートを設置してしまえば、公安にはもうどうしようもないのだから。
公安も俺との話からそのくらいは分かっているだろうし、そうなれば俺を飼い殺しにしようとか、そういう風には考えない筈だ。
……考えたら考えたで、面白そうな気がしないでもないが。
とにかく、俺が重要人物であるというのは間違いない訳で。
もしこのヒロアカ世界に本当に神がいるとすれば、塩崎に託宣を与えてもおかしくはない……のか?
普通なら神? そんなのいる訳ないじゃんと言いたいところだ、何しろ俺の場合は普通に神と遭遇した事があるしな。
なので、塩崎の言葉を露骨には否定出来ない。
出来ないのだが……だからといって、こう、敬われるのは好みじゃないんだよな。
そういうのは、ホワイトスターにいるエルフ達だけで十分だ。
今この状況でどうにかするには……そうだな。
つまり、俺が塩崎が思うような高潔な性格ではないと思わせればいいんだよな?
とはいえ、三奈達がいるこの場でそこまで露骨な事も出来る訳じゃないし。
三奈を含めた他の面々も、俺と塩崎のやり取りを興味深そうな様子で見ている。
うーん……これは……まぁ、そうなったらそうなったで仕方がないか。
「あのな、塩崎。お前が女好きという理由で峰田を嫌っているみたいだが、俺だって高校生の男だ。当然ながら女には興味がある。ただ、それを表に出していないだけでな」
これについては、他の者達も……それこそ爆豪だろうと、高校生の男である以上、女に興味がないなという事はないだろう。
ただ、峰田のように露骨にそれを表情に出していないだけなのだ。
「構いません。アクセルさんが望むのなら、私は夜伽だろうとなんだろうとします」
「……あー……塩崎、お前は場の雰囲気に酔ってるんだよ」
塩崎の夜伽という言葉に魅力を感じなかったかと言えば、それは否だ。
否ではあるが、だからといってまさかそれを受け入れる訳にはいかない。
というか……こう言うのはどうかと思うが、塩崎はこう……うん。今のやり取りとかでは、面倒臭い女という風に感じてしまう。
勿論、実際にそういう関係になった時、面倒臭いと感じない可能性も十分にある。
ただ……うん。今この状況で塩崎とそういう関係になるといった事は考えていなかった。
「……そうかもしれませんね。ただ、私はアクセルさんが望むのなら、どのような事でもしようと思います」
「あー……うん。取りあえず覚えておく」
俺に出来るのは、そう返すだけだった。
「それにしても、決勝は凄かったよな。まさか、爆豪がアクセルを相手にあそこまでやるとは思わなかったし」
場の雰囲気が微妙になったのを察したのか、上鳴がそう話題を移す。
すると他の面々もまた、今の話題についてはこれまでにしておいた方がいいだろうと考えたらしく、その話題にのっていく。
「ああ、ヒーロー基礎学で以前アクセルと爆豪、後は轟もか。戦った時も凄いやり取りだと思ったが、今日のは一段と凄かった」
「あ、やっぱり常闇もそう思うか? だよなぁ……今日の戦いを見る限りだと、爆豪もこの2週間でかなり訓練してきたって感じがしたし」
「オイラもこの2週間、アクセルと訓練したのに、トーナメントには残れなかったんだよなぁ。……まぁ、オイラの場合は他の学科の生徒にこれでもかと狙われて、それでも生き残ったから問題ないけど」
「哀れな」
常闇のその言葉は、峰田に向けられたものだったのか、それとも峰田を狙ったのに結局仕留める事が出来なかった他の学科の生徒達に向けられたものなのか、分からない。
どっちもありそうなんだよな。
「爆豪は元々才能はあるからな。……性格的に問題はあるが」
そう言うと、多くの者が……それこそ、爆豪については殆ど知らない取蔭や塩崎までもが頷く。
ちなみに拳藤は俺と一緒に通学する時、たまに爆豪の話題になるので、その辺はそれなりに詳しかったりする。
「とにかく、これからもヒーロー科の授業は続くんだ。今日はあまりパッとしなかった奴でも、しっかりと訓練を続ければ注目される実力を持つ者が出てくる可能性はあるだろうな。……峰田とかな」
「オイラ!?」
まさかここで自分の名前が出るとは思っていなかったのか、峰田が驚きの声を上げる。
「ああ。俺が見る限りだと、峰田はそれこそ爆豪や轟に負けないだけの才能があると思う」
「……前から思ってたけど、アクセルって何だか妙に峰田を買ってるよな? いやまぁ、その気持ちは分からないでもないけど、何だかこう……疑問に思ってよ」
上鳴の言葉に、何人もの視線が俺に向けられる。
実際、俺が峰田を贔屓……とまではいかないが、見込みがあると思っているのは、それだけ信じられないといった者が大きいのだろう。
「別に、そこまで不思議に思うようなことじゃないとは思うけどな。実際、峰田の個性はそれだけの能力があると思うぞ? 本人はあまり自分の個性に自信がないようだけど」
「……だって。いいなー、峰田。私もアクセルに褒めてもらいたいのに」
「あのな、三奈の個性だってかなり強力なのは間違いないぞ? 応用という意味では、今日のトーナメントでも酸を使って舞台の上を自由に滑っていたし。ああいうのが出来るとなると、それこそ他にも色々と応用は出来そうだし。……それに、そもそもここにいる全員は競争率300倍の雄英のヒーロー科に合格したんだから、間違いなく能力はあるんだと思うぞ」
そう言うと、話を聞いていた者達は完全ではないにしろ、納得するのだった。