「いいの、本当に?」
「別に構わないだろ。昨日だって来たんだし」
「でも……その、昨日は大勢いただろ? けど、今日は私1人な訳で」
「優もいるから、1人って訳じゃないだろ」
そんな会話を交わしながら、マンションに向かう。
何だか、自分で会話をしながらではあるが、家に連れ込んで妙な事をするような奴に思えなくもないな。
「それに、拳藤も今はもう1人なんだろう?」
「まぁ、もう皆帰ったし。だからさっきレンタル屋にいたんだしな」
「だろ? なら、1人で映画を見るよりは、2人で……優が見るのを考えると、3人で見た方が楽しいと思わないか?」
もっとも、映画を見る時のスタイルには色々とある。
何人もで見るのが楽しいと思う者もいれば、周囲に誰もいない状態で1人で集中して見たいと思う者もいる。
その辺りは人それぞれだったが、俺は複数人で見ても特に何も問題はなかったりする。
……勿論、映画の途中で騒がしくするとか、そういうのが相手にいたら、また話は別だろうけど。
「うーん……まぁ、アクセルがそう言うのならいいけど」
拳藤も納得し、エレベータに乗り込む。
「それにしても、まさか2日続けてアクセルの家に行くとは思わなかったな」
「言われてみればそうかもしれないな。……とはいえ、俺にしてみれば拳藤が一緒にいるのはもう普通の事だし」
「ばっ! ……全く、アクセルはそういうことばかりを言ってると、そのうち誰かに刺されるんじゃないか?」
驚きつつも、後半は呆れた様子でそう言ってくる拳藤。
「何でだ?」
「……自覚がないのは、こういう時に困るよな」
今度はより大きな呆れと共に、そう言ってくる。
いや、そういう風に言われても……
もっとも、物理的に刺すのであれば、俺には効果がないので、それはそれで構わないが。
個性を使って刺されると……うん、ちょっと困る。
もっとも、拳藤が言ってるのは別にそういう事じゃないんだろうが。
ちょうどそのタイミングで部屋に到着する。
扉を開けると、そこには……
「おかえり。……あら? 貴方以前……何、レンタル屋に行くんじゃなかったの? 実はそう見せ掛けてデートをするつもりだったのかしら?」
冷蔵庫から取り出したお茶を飲みつつ、優がそう言ってくる。
本人にはあまりそのつもりはないのかもしれないが、風呂上がりなのが妙に色っぽく見える。
化粧とかそういうのはしていない筈だが、これが風呂上がりの魔力という奴か。
勿論、俺の持つ魔力とはまた別の意味の魔力で。
もっとも、それを口にすると間違いなく優は調子に乗るから、実際にそれを口にするようなつもりは全くなかったが。
「いや、レンタル屋で拳藤と会ってな。どうせなら俺の家で映画でも見るかって事になったんだよ」
「ふーん。どんな映画?」
「身体に棘を生やすことが出来る個性を持ったスパイが、アメリカ政府を支配している凶悪なヴィランを相手に戦いを挑む……とか、そんな奴だったか?」
「ああ。これ……去年映画館でやっていた時に興味があったんだけど、受験勉強で映画館に行く時間なんてなかったから、丁度よかったんだよね。……その、マウントレディも一緒にどうです?」
「えー……私、それ見た事があるわ。ネタバレはしない方がいいだろうから言わないけど、それなりに面白かったわよ」
別に1度見たからって2度目は見られないとか、そういう事はないと思うんだが。
俺は違うが、世の中の映画マニア……映画オタク? そういう連中は何度も繰り返し映画を見るって聞いた事があるし。
また、映画を作っている側もその辺を考慮してか、お遊び的な要素だが何度も見る事でようやく理解出来るような何かを仕込んだりとか、そういうのもあるらしい。
「そうか? まぁ、無理にとは言わないけど。……じゃあ、拳藤。俺達だけで見るか」
「あ、うん。……その、本当にいいんですか?」
「いいのよ、私は午後からのお仕事に備えてゆっくりと英気を養って……痛っ! ちょっ、何でこの状況で私を攻撃してくるのよ!」
話の途中で、ロボット掃除機が再び優の足に体当たりをする。
体当たりそのものは、実際にはそこまで痛くはないだろう。
だが、来ると分かっていればともかく、不意打ちで体当たりをされると、やっぱり痛いらしい。
一番値段の高い奴だっただけに、移動する際の音とかもかなり小さいしな。
それこそ普通に生活をしている限りだと、全く気にならない音だ。
勿論、俺の場合は混沌精霊で聴覚も常人とは比べものにならないくらいにいいから、ロボット掃除機が動いているのは普通に分かるが、優の場合はそれが出来ない。
なので、気が付けばいつの間にか近付いて来たロボット掃除機に体当たりを受ける事になるのだろう。
「相変わらず、ロボット掃除機に嫌われているな」
「……ちょっと、これアクセルの躾が悪いんじゃないの?」
ロボット掃除機から逃げた優は、ソファに座ってそう不満を言ってくる。
「あのな、ロボット掃除機だぞ? 別に生き物って訳でもないんだから、躾なんて出来る筈がないだろ」
もし躾っぽいのが出来るとすれば、それはプログラムの技能を持った奴だろう。
そして、俺は……まぁ、士官学校で簡単なプログラムは習った覚えがあるが、それは随分と昔の話だし、何よりこのヒロアカ世界のプログラムではないので、そのまま俺の知ってるプログラムを使うのは難しい筈だった。
「うー……何でこんなのを買ったのよ」
「いや、それをお前が言うか?」
俺の記憶が間違っていなければ、この部屋に置く家電製品を始めとした諸々を買いに行った時、どうせなら最高性能の奴を買おうと言ったのは優だった筈だ。
公安が支払う金なので、俺もそんな優の意見に特に反対はしなかったが。
つまり、このロボット掃除機は俺と優が2人で買うと決めた品な訳で……そんな中で、何でこれを買うといったようなことを言われても、正直なところ困る。
「えっと、その……大丈夫ですか?」
拳藤が優に対し、心配そうに尋ねる。
優はそんな拳藤に、問題ないと手を振る。
「いいわよ、この家に来ればいつもの事なんだから。それより、映画を見るんでしょう? さっきは色々と言ったけど、この部屋で映画を見るというのは悪くないわよ。TVもそうだし、スピーカーもしっかりとした奴を選んで購入したんだから」
少し自慢げなのは、自分が選んだという自負があるからだろう。
……実際、俺はその辺についてはあまり詳しくないので、もし優がいなければ店員に勧められるままに購入していただろう。
そしてよくある話だが、店員にしてみれば自分の成績の為にとにかく高い商品を売ろうと考えている者がいる。
ましてや、俺と優は公安のクレジットカードを使って既に結構な数の家電を買っていただけに、店員にしてみればカモに思えてもおかしくはなかった。
そんな中で優はそれなりにスピーカーについて知識があったらしく、値段はそれなりだが性能の高い奴を購入した。
ちなみに、後でスマホで調べてみたのだが、スピーカーというのはまさに沼といった感じで、嵌まれば嵌まる程にマニアックになっていくらしい。
何でも人によっては家の側に自費で電柱を用意するとか。
……電柱がスピーカーにどんな風に影響するのかまでは、俺には分からなかったが、
ともあれ、そういう意味で優がスピーカーの自慢をするのは分からないでもなかった。
「TVも大きいですし、うちで見るよりは迫力ある映画が楽しめそうですね」
拳藤がそう言い、俺達は映画を楽しむのだった。
「……いや、予想外だったな。まさか主人公がラスボスパターンだとは思わなかった」
映画が終わり、昼食を食べながらそう言う。
映画の場面で妙な構図があったと思ったんだが……うん。主人公がラスボスで、アメリカ政府の裏にいるヴィランが実はいわゆるダークヒーロー的な存在だったという。
「まさに大どんでん返しだな。いや、面白かったからいいんだけど」
「そうよね。改めて見ると色々な場面に伏線があったのは驚きだわ」
1階のスーパーで買ってきたサンドイッチや惣菜、朝食でも食べきれなかった分の昨日の残りを昼食にしながら、映画の感想を語り合う。
ちなみに1階のスーパーに行く時も、レンタル屋に行く時と同じく変装をしたのだが、必要だったのか、これ。
……ちなみに、1度見たから自分は見ないとか言っていた優も、実はしっかりと見ていた。
その辺りについて突っ込みたい思いがあったが、それをすると面倒になりそうだったので止めておく。
「あ、そう言えば……ねぇ、アクセル。体育祭が終わった後のスカウト……スカウトじゃないか。職場体験の奴、私の事務所からはアクセルに要望を出しておいたから……分かってるわね?」
映画の感想が一段落したところで、優がそう言ってくる。
昨日のSHRでも、相澤がその辺りを纏めたのを休日が終わったら知らせるって言ってたな。
どうやら、優は俺を指名したらしい。
「そう言われてもな。まだ他に誰から体験を希望するのかの奴が来てるか分からないから、何とも言えないな」
というか、優は龍子とチームアップをしてるから、龍子の事務所に体験に行っても変わらないような気がしないでもない。
「いっそ、拳藤が優の事務所に行ってみるのはどうだ?」
「え? 私? いや、でも……」
「なるほど。それは考えてみる価値があるわね」
俺の言葉に拳藤は戸惑ったが、優もそれをまともに受けてか、真剣な表情で拳藤を見ていた。
あれ? これ……もしかしたら、本当に拳藤にも可能性があるんじゃないか?
拳藤は騎馬戦までは残ったが、そこで脱落してしまった。
ただ、手を巨大化する個性というのは、シンプルなだけに応用も利く。
そう考えれば、障害物競走と騎馬戦を見たプロヒーローのうち、拳藤を指名する者がいないとも限らない。
その中に追加で優が……マウントレディが入っても、おかしくはないだろう。
「えっと、その……アクセルじゃないですけど、指名されたからといって行けるとは限りませんが、それでも指名してくれたら嬉しいです」
「あら、可愛い。……アクセルも、こういうのを見習いなさい?」
そう言い、俺に視線を向けてくる優。
優にしてみれば、こうして自分を尊重してくれる拳藤が気に入ったのだろう。
お漏らしの後始末とかもして貰ったしな。
「そういう扱いを受けたいのなら、そういう姿を見せるんだな」
「ね? 可愛くないでしょ?」
「あ、あははは……」
優の言葉に困った様子で笑いを浮かべる拳藤。
拳藤にとっては、どう対応すればいいのか分からないのだろう。
「それより、優。そろそろ時間はいいのか?」
拳藤を助ける……という訳ではないが、優は午後から仕事があるという話で、だからこそ今日は朝から俺の部屋に来ていたのだ。
なのでそう言うと、優はピタリと動きを止め、時計を見て……
「まだそれなりに余裕はあるけど、ゆっくりしていられる時間はないわね。じゃあ、私は行くから」
そう言い、優は素早く部屋を出ていく。
ロボット掃除機が追撃を仕掛けようと動いたものの、プロヒーローの優が本気になれば、とてもではないが体当たりが出来る筈もない。
そんな訳で、ロボット掃除機の攻撃は不発に終わり、優は急いで部屋を出ていくのだった。
「えっと……どうしたんだ?」
「優は午後から泊まり掛けの用事があるらしい」
「ふーん、やっぱりプロヒーローって、それも人気の高いプロヒーローって忙しいんだな」
「だろうな。寧ろ人気が高いからこそ、呼ばれる訳で。……具体的にどういう仕事なのかは分からないけど」
優がいなくなった部屋で、昼食を食べ終わる。
「それで、だな。えっと……アクセルは今日午後からどうするんだ?」
「どうするって言っても、特に何かやるべき事がある訳でもないしな」
「じゃ……じゃあ、用事がないのなら、もう少しこの部屋にいてもいいか?」
「は? まぁ、俺は別に構わないけど。でも、いいのか?」
「いいのかって……何が?」
「日中とはいえ、男の部屋に2人きり。……優もいなくなったしな」
「ばっ! ……いきなり何を言うんだよ!」
俺の言葉に、拳藤が何を想像したのか頬を薄らと赤く染めて叫ぶ。
とはいえ、拳藤は自分が美人だというのをしっかりと自覚して欲しいところだよな。
俺だからこの状況でも手を出していないのであって、もしこれでここにいるのが俺じゃなくて峰田や上鳴だったら、一体どうなっているのか、想像するのは難しくない。
とはいえ、あの2人でも相手が本気で嫌がっていると知れば、実際に手を出したりはしないと思うけど。
ただ、それはつまり相手が受け入れるのなら手を出すという訳で……うん。そう考えたら、峰田や上鳴を女と2人きりにしない方がいいのかもしれないな。
「拳藤はしっかりしてるように見えて、隙が多いからな。自分が美人だというのは自覚した方がいいぞ」
「……馬鹿、いきなり何を言ってるんだよ」
先程よりも頬を赤く染めたまま、拳藤はそう言うのだった。