転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4437話

 職場体験当日、俺はヒーローコスチュームの入ったケースを手に、駅にいた。

 相澤からコスチュームの入っているケースを落とすなと、そう言われて解散となる。

 この駅から、それぞれ職場体験の事務所に向かう訳だ。

 緑谷と麗日が飯田に何か声を掛けているのが見える。

 飯田は最近、ちょっと変なんだよな。

 自主訓練にも殆ど参加していなかったし。

 とはいえ、飯田とはそこまで親しい訳じゃないので、俺に出来るのは何かあったら手を貸すくらいだ。

 

「緑谷」

「え? あ、どうしたのアクセル君」

 

 飯田が立ち去った後、緑谷にそう声を掛ける。

 その緑谷は、俺に声を掛けられたのが意外だったのか、少し驚いた様子で返事をしてきた。

 

「飯田の件だ」

「あ……」

 

 まさか俺の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったのか、緑谷が驚きの声を上げる。

 

「A組の中で飯田と一番仲が良いのはお前だ。もし何かあったら、すぐに連絡をしろ」

「……アクセル君、飯田君に何かあると思ってるの?」

「あくまでも可能性の話だけどな」

 

 そう言うが、俺はこの職場体験中に何らかの事件が起きるのはほぼ確実だろうと思っていた。

 これは何の確証もなくそのように思っている訳ではない。

 緑谷はこの世界の原作の主人公で、そして飯田は緑谷の親友。

 だとすれば、恐らく……いや、ほぼ確実にこれは原作の出来事なのだろうと思う。

 それこそUSJでヴィラン連合が襲撃してきた時と同じように。

 USJの時は俺がその場にいた事もあって、ヴィラン連合をボコボコにして全員捕まえた。

 ……もっとも、その後で護送中に奪い返されてしまったが。

 とにかくUSJの時は俺がいたから原作のイベントなのだろう事態にも即座に対応出来た。

 その結果として、緑谷の実戦経験の場を奪ってしまったのはどうかと思うが。

 そのフォロー的な意味を込めて自主訓練の時は毎日のように緑谷を参加させたけど。

 そういう意味では、緑谷の現在の戦闘技術は恐らく原作よりも上だろう。

 ただ……俺とやっていたのは、あくまでも模擬戦でしかないのも事実。

 1度の実戦は、普通の訓練よりも大きな成長をもたらすと言われる事が多い。

 だからこそ、今の緑谷は純粋な実力では原作よりも上だろうが、実戦経験の少なさが悪影響を与えかねない。

 あ、でもここで緑谷に手を貸さなければ、実戦経験を積めるのか?

 ただ、USJでの実戦経験がない分、職場体験での実戦においてどうなるのかがちょっと心配だけど。

 そんな訳で、何かあったら連絡をするように言ったのだ。

 

「……分かった。ありがとう、アクセル君」

「おう。何だったら爆豪にも連絡をしておくか?」

「え? かっちゃん? 何で!?」

 

 まさかここで爆豪の名前が出るとは思わなかったらしく、緑谷が驚きの声を上げる。

 とはいえ、爆豪は原作において主人公のライバル的な存在だというのもあるが、それ以上に純粋な戦力として数えられる。

 峰田は別方向で扱いやすい性格をしてるしな。

 

「何かあった時の戦力は多い方がいいだろ?」

「でも、かっちゃんはベストジーニストの事務所に行くから……」

 

 それを言うのなら、俺も龍子の事務所に行くんだけどな。

 龍子の事務所は都内にある。

 飯田が行く場所とはそれなりに離れており、何よりも緑谷もまた飯田とは別方向だ。

 ……あれ? そう考えると、もしかしたら俺が心配するようなことはないんじゃないか?

 

「まぁ、何はともあれ……俺もそろそろ電車の時間だから行くけど、緑谷も頑張れよ」

「うん、アクセル君も頑張ってね」

 

 そうして緑谷と挨拶を交わし、まだ残っていた何人かとも同様に挨拶を交わすと、俺は龍子の事務所のある方面に向かう電車に乗る。

 

「あれ? アクセル?」

「峰田か。……職場体験が終わるまでよろしくな」

「え? 何でアクセルがそう言うんだ? あれ? アクセルはリューキュウの事務所だったよな?」

 

 リューキュウという名前が出たところで、悔しそうな様子を見せる峰田。

 自分もマウントレディ……優の事務所に行くのに、俺が龍子の事務所に行くと知れば、やはり悔しいらしい。

 

「そうだけど……あれ? 知らなかったのか? 今、マウントレディはリューキュウとチームアップしてるんだぞ?」

「……え?」

 

 俺の言葉にたっぷり数秒沈黙した後で、峰田がそんな声を出す。

 どうやら本気でチームアップの件については知らなかったらしい。

 普通なら信じられないところだが、峰田の場合はそういう事をしても何となく理解出来てしまうんだよな。

 まさに、これぞ峰田といった感じで。

 

「お前が一体何をどう考えてマウントレディの事務所を選んだのかは分からない。……いやまぁ、実際には峰田なんだから容易に予想出来るけどな。ただ、それでも今回の一件を考えれば、チームアップの一件についてはしっかりと覚えておくべきことだと思うぞ」

「ぐぬぅ」

 

 言葉に詰まる峰田。

 峰田は決して無能という訳ではない。

 ただ、女好きが過剰で、それが絡むと馬鹿になってもおかしくない訳で。

 今回の一件は、まさにそんな感じなのだろう。

 職場体験でそこが治ればいいけど……無理だろうな。

 

「アクセルは……随分とマウントレディに詳しいんだな」

 

 せめてもの反撃といった様子で、峰田がそう言ってくる。

 あ、そういえばそうだな。峰田が優や龍子と会うという事は、それはつまり俺と龍子達との関係も、完全にではないにしろ知る事になる訳か。

 

「体育祭の昼休みにはアクセルと拳藤を呼びに来ていたし……一体どういう関係なんだよ?」

「そうだな、分かりやすく言えば……俺の後見人の1人だな」

 

 いずれ知る事になるのだから、今ここで話しても特に問題はないだろう。

 そう思い、多少のネタばらしはしておく。

 

「後見人?」

「ああ。俺は……まぁ、詳細な事はちょっと言えないが、とある個性事故に巻き込まれてな。そんな訳で、現在の俺の後見人は龍子と優……リューキュウとマウントレディな訳だ。ちなみにマウントレディとは、峰田も会った事があるんだけど、覚えてるか?」

「は? えっと、体育祭の昼休み以外でか?」

「ああ」

「……え? オイラがマウントレディと?」

「そうだ」

 

 俺の言葉に、峰田は考え始める。

 どうやら本気で覚えてはいないらしい。

 もっとも、俺の部屋で峰田が優と会ったのは、体育祭の翌日にチラッとだ。

 そうなると、峰田が覚えていなくても……

 

「ああああああああっ! 体育祭の次の日、アクセルの家に来た! もしかして、あれがマウントレディなのか!?」

 

 どうやら思い出したらしい。

 女に関しては、記憶力がいいよな。

 

「正解」

「……やっぱりな。アクセルの家にあんなエロいねーちゃんが来るのはおかしいと思ってたんだ。なるほど、後見人か。なら、仕方がないよな」

 

 そう言い、ポンと俺の肩……には手が届かなかったのもあって、膝を叩く。

 上機嫌なのは、あの時に会ったのが俺の恋人とかそういうのじゃないと理解したからだろう。

 ……まぁ、それは決して間違っている訳じゃないんだけどな。

 とはいえ、ホワイトスターや他の世界に俺の恋人が20人以上いると分かったら、峰田は一体どういう反応をするんだろう。

 それが少し気になったものの、だからといってそれを意図的に教えたいとか、そんな風には思わない。

 

「そうだな。そんな訳で、俺とマウントレディはそれなりに親しい訳だ」

「ふふん、この職場体験が終わった時、オイラはアクセル以上にマウントレディと仲良くなってるぜ!」

 

 自信満々に言う峰田。

 職場体験が終わったら……いや、今日が終わってもまだそういう風に言えるのならいいけど。

 

「そうか。まぁ、頑張れ」

「……あれ? 予想と違う反応だな」

 

 まさかそんな風に言われるとは思っていなかったのか、峰田が意表を突かれた様子でそんな風に言ってくる。

 峰田にしてみれば、恐らくもっとこう……対抗心を剥き出しにするとでも思っていたのだろう。

 だというのに、何故か今はこんな風に言ってくるのだから、納得がいかないらしい。

 

「峰田が予想したように、別に俺と優はそういう関係じゃないしな。……とはいえ、峰田に優が扱いきれるかと言われれば、正直微妙なところだと思うけど」

 

 それに、もし下手に優と付き合うとかそういう感じになると、うるさい連中もいる。

 通称、キタコレ族。

 言ってみれば優の……マウントレディの熱心なファン達だ。

 プロヒーローには多くのファンがいる。

 分かりやすい例だと、オールマイトのガチファンたる緑谷だろう。

 まぁ、あそこまでディープなファンはそう多くはないものの、ファンというのはいるのだ。

 そんな中で、巨大化という強個性を持ち、美人の優に熱心なファンがつかない筈がない。

 ただ、そんなファンの中でもキタコレ族と呼ばれる者達は、特に熱心に優の写真を撮ってはネットにアップしている。

 人によっては勝手に写真を撮られてネットにアップされるというのは決して好ましい事ではないのだが、優の場合は自分の名前と顔が売れるという事で黙認している。

 もっとも、エロを目的にした写真だったり、画像を加工したりしたような写真の場合は、プロバイダとかに連絡をして削除してるらしいが。

 とにかく、キタコレ族と言われる熱心なファンがいる以上、優も迂闊に男と付き合ったりは出来ない訳だ。

 峰田は……あー……うん、どうだろうな。

 いや、峰田の外見を見れば、恋人というか、マスコット……もっと悪ければペット扱いにされてもおかしくはない。

 もっとも、その見た目とは裏腹に中身は性欲MAXだったりするのが知られたら、どうなるか分からないが。

 まぁ、その辺がどうなるのかは分からないが、俺が気にする事じゃないか。

 ちなみに俺が今回選んだ龍子もまた、凜々しい系の美人という事でかなり人気が高い。

 ただ、アイドル的な人気のある優とは違い、龍子の場合はドラゴンに変身出来るという事もあり、幅広い年齢層にファンがいる。

 ……龍子と優のヒーロービルボードチャートの順位に差が出るらしいという前評判は、この辺りが大きく関係してるんだろうな。

 

「ふん、オイラはしっかりと活躍するからな。それで……ウッハウッハな日々を楽しんでみせるぜ!」

「うん、まぁ、頑張れ」

 

 そんな風に会話をしていると、やがて電車は目的地に……龍子の事務所の最寄り駅で停まる。

 

「ほら、峰田。着いたぞ。ヒーローコスチュームを忘れるなよ」

「あ、ああ。ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 

 峰田は小柄なせいもあってか、どうしてもヒーローコスチュームの入っているケースを持ちにくい。

 まさか引きずる訳にもいかず、担いで俺を追ってくる。

 こういう時、峰田のような小柄な体格だと損だよな。

 ……もっとも、10代半ばの俺も平均程度の身長で、そこまで突出して大きな訳ではない。

 これが20代になればしっかりと大きいんだが。

 峰田の速度に合わせ、少しゆっくり移動する。

 

「それで、これから行く事務所はここからどのくらい掛かるんだ?」

「そこまで遠くじゃないから安心しろ」

 

 プロヒーローというのは、騒動を解決するのが仕事だ。

 なので、プロヒーローとしての実力が上がり、顔や名前が知られるようになると、騒動の起きやすい場所に事務所を構えることが多くなる。

 何か騒動が起きる可能性が高いのは、当然人が多く集まっている場所だ。

 であれば、騒動が起きた時、出来るだけ早く現場に到着出来る場所の方がいいのは明らかだろう。

 巨大化という個性を持つ優のような場合は……まぁ、うん。それでも優は街中というか、都会というのか、目立つ為に栄えている場所に事務所を構えているが、その結果が保険でも対応出来ず、自費で賠償金とかを支払う羽目になっているのだが、それはそれだ。

 俺のお陰で公安からも報酬を貰って、その結果として自費で賠償金とか弁償とかそういうのをしなくてもいいようになったらしいし。

 勿論これは、報酬だけではなく龍子とチームアップをしたのも影響してるだろう。

 龍子もまた、ドラゴンに変身するという個性を持っており、それで周囲に被害が出ないようにするコツとかそういうのを教えて貰ってるらしいし。

 龍子のドラゴンも巨大になるという意味では同じだしな。

 ただ、ドラゴンになれる龍子と、ただ巨大化する優では、その性質は大きく違う。

 ドラゴンになった龍子は空を飛べるので、いざとなったら建物とかを壊さないように上空に避難出来るのに対し、優の場合は空を飛べないので、建物を壊すのを回避するのは不可能……とまではいかないが、かなり難しいのは間違いないんだよな。

 まぁ、そこそこの共通点があるからこそ、優は龍子を先輩と慕っているし、龍子も優を後輩として可愛がっているのだろうが。

 そんな風に思いながら峰田と街中を進み……

 

「ほら、見えてきたぞ。あそこだ」

 

 俺は龍子の事務所を指さし、峰田に教えるのだった。

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