転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4438話

 峰田と共に龍子の事務所にやって来た俺。

 ……考えてみれば、雄英に通うようになって今のマンションに引っ越してから、この事務所には戻ってきてなかったんだよな。

 優はそれなりに頻繁に俺の部屋にやって来るし、龍子も時々俺の部屋にやっては来るが、俺がこの事務所に来る事はなかった。

 とはいえ、この事務所は静岡にある雄英からかなり離れているから、ちょっと顔を出すといったような事も出来ない。

 影のゲートを使えば距離とかそういうのは気にしなくてもよくなるものの、それはそれで問題だしな。

 俺が移動するだけなら影のゲートを使っても構わないものの、龍子の事務所の者達にしてみれば、静岡の雄英に通っている俺が頻繁に顔を出すというのは、明らかに不自然だ。

 

「お、アクセルじゃないか。久しぶりだな、体育祭見たぞ」

 

 峰田と共に事務所を見ていると、不意にそんな風に声を掛けられる。

 声のした方に視線を向けると、そこには近くの薬局の店主の姿があった。

 

「あ、あはは。顔見知りにそういう風に言われると照れるな」

「はっはっは。照れるな、照れるな。アクセルの事はこの辺りの住人はよく知ってるんだからな、皆喜んで応援していたぞ? その証拠に……ほら」

 

 店主がそう言って周囲を見ると……うん、その辺りにいる顔見知りの面々が、俺に向けて笑みを浮かべながら、視線を向けていた。

 当然ながら、俺はさっきからこの手の視線は感じていたのだが、相手をすると面倒な事になりそうだったので、スルーしていたんだよな。

 

「えっと、じゃあ……取りあえず今日から俺とこの峰田が龍……リューキュウの事務所で職場体験をするから、よろしく」

 

 そう言い、峰田を引っ張って事務所に入っていく。

 

「ちょっ、おい、アクセル!?」

 

 引っ張られた峰田がそんな声を上げていたが、取りあえずそちらはスルーで。

 龍子の事務所に住んでいた時は、それなりに買い物をしたりとかで外に出ていた。

 それだけならまだしも、龍子やねじれと一緒に買い物をしたり、外食をしたりとかもしていたので、俺が龍子の関係者だというのはそれなりに知られている。

 だからこそ、俺としてはそうした知り合いがそれなりにいる中で生暖かい視線を向けられるのは遠慮したかった。

 もっとも、俺と龍子との関係――そこまで大袈裟なものではないが――を知っているにも関わらず、ネットにその辺の情報が上がったりしていないのを考えると、倫理観の高い者が多いのかもしれないが。

 取りあえず俺にとっては助かるけどな。

 

「ほら、こっちだこっち」

「いや、だから……そう簡単にオイラを持ち運ぶなって!」

 

 俺に片手で持たれた峰田が、不満そうな様子で手足を動かして暴れる。

 もう既にビルの中に入ったので、手を離す。

 すると床に着地した峰田は、不満そうに俺を見てきた。

 

「アクセル、オイラは荷物じゃねえんだぞ」

「分かってるよ。ただ、こうした方が手っ取り早かっただけで」

「……それ、本当に分かってるのか?」

 

 そんな風に言葉を交わしながらも龍子の事務所の中に入っていく。

 入っていくのだが……何だ? 妙に騒々しいな。

 龍子の事務所は、元々事務員とかは少ない。

 何しろ龍子は若手のプロヒーローなので、事務所の規模そのものは小さいのだ。

 これがNo.2ヒーローのエンデヴァーとかなら、結構な数のサイドキック……簡単に言えば、雇っている従業員のヒーローを抱えているのだが。

 まぁ、龍子はまだ若手なので、その辺もしょうがない。

 それに……こう言ってはなんだが、龍子を目当てにくるサイドキック希望も多いらしいしな。

 その辺りはしっかりと選り好みしないと、色々と問題が起きる。

 だからこそ、サイドキックの数も少ない訳だ。

 もっとも、ねじれは来年卒業したら龍子の事務所に就職予定らしいけど。

 

「うわ、何だこれ……」

 

 事務所の中を見た峰田が、唖然とした様子で言う。

 するとそんな峰田の声に気が付いたのか、それとも俺の存在に気が付いたのか、俺にとっても顔見知りの事務員が手を振る。

 

「お、アクセルじゃないか。今日から職場体験だったんだっけ? おかえり」

 

 その事務員の言葉に、なるほどと思う。

 事務員の面々は、俺が異世界から来たというのは知らないが、何らかの個性事故によって龍子や優の保護下にあると認識している。

 そして雄英に合格するまでは龍子の事務所に居候をしていた訳で、そうなると俺にとってこの龍子の事務所こそが帰る場所であると認識されてもおかしくはなかった。

 微妙に複雑な気分ではあるが、向こうが親切心から言っているのは分かるので、手を振り返しながら口を開く。

 

「ただいま。……それで、一体この騒ぎは何だ? 微妙に見た事がない連中もいるけど」

 

 俺がこの事務所を出てから、何だかんだとそこまで時間は経っていない。

 しかしその短時間で見た事のない顔が何人かいる。

 恐らくは新年度になるに従って龍子が新たに雇った事務員やサイドキックなのだろうというのは、予想出来たが。

 

「ああ、実は保須市に行くって話をしてるところなんだよ」

「……保須市?」

 

 何だか聞き覚えのある地名だな。

 えっと……

 

「ちょっ、おい、アクセル保須市ってあれだぞ。体育祭の時、飯田の兄貴が……」

 

 俺の服を引っ張って峰田が小声で言ってくる。

 ああ、それか。

 

「ヒーロー殺し、ステインだったか?」

 

 体育祭の翌日から飯田が変になったのも、その件が関係していた筈だ。

 

「ああ、そうだけど……そっちの子は?」

 

 俺と話していた事務員が、峰田を不思議そうに見て尋ねてくる。

 

「こいつは峰田。俺が龍子の事務所で職場見学をするように、峰田は優の事務所で職場見学をする事になっている」

「あー……なるほど。それでうちの事務所に」

 

 微妙な表情の事務員。

 まぁ、ここはあくまでも龍子の事務所であって、優の事務所はきちんと別にあるしな。

 ただ、現在は俺との関係もあるので、龍子とチームアップをしていて、その結果として龍子の事務所に入り浸っている。

 もっとも、最近では俺の部屋に顔を出す事もそれなりにあったりするが。

 ただ、この事務員の様子を見ると、やっぱり今も結構な割合でこの事務所に顔を出してはダラダラしてるんだろうな。

 

「優と峰田の件はともかく、何で保須市に? いや、ヒーロー殺しが目当てだってのは知ってるけど、龍子の性格からして、自分から保須市に行くとか、そういう事はあまりするようなタイプじゃないだろ」

 

 龍子は間違いなく有能なプロヒーローなのは間違いない。

 だが、それでも自分の事務所のある区域……つまり、自分の担当をしている場所を放って置いてまで、わざわざヒーロー殺しを倒す為に保須市に行くようなタイプかと言われると、俺は即座に首を横に振る。

 あるいは保須市で行動出来るプロヒーローが誰もいないのなら、少しは話が違ってくるが……今のところ、そういう感じじゃないしな。

 であれば、龍子の性格からして自分から出しゃばる事はないと思うんだが。

 

「優が行きたいと言ったとか?」

 

 龍子は無理に出しゃばったりはしないものの、これが優となれば話は別だ。

 何しろ優は目立つのが好きなのだから。

 であれば、優が保須市に行ってヒーロー殺しを倒したいと言い、龍子がそれに巻き込まれたって形か?

 それなら十分に納得出来るんだが。

 

「いや、それが……」

「アクセル、丁度いいところに来たわね。ちょっと来てちょうだい。話があるから。……ああ、貴方が峰田君ね? 悪いけどマウントレディも少し私達と一緒に話があるから、今は……悪いけど、書類仕事について教えておいてくれる?」

「え? あ、はい」

 

 俺が事務員と話し、峰田はそれを聞いていたのだが、そんな俺の姿に気が付いたのだろう。

 龍子が優を引っ張って俺の方にやって来ると、空いている手で俺を引っ張り、事務員の男に峰田に仕事を教えるように言い、事務所の中にある会議室に向かう。

 そうして会議室に入ると、ガチャリと鍵を掛け、3人全員が座る。

 

「さて、アクセル。事情はどこまで聞いてる?」

「保須市のヒーロー殺しを倒しに行くって話は聞いてる。また優が駄々をこねたんだろ?」

「ちょ……何で私が……ソースどこよ、ソース!」

 

 ソースネタ、気に入ったのか?

 もしかしたら、本当にいつかソースのCMに抜擢されるかもしれないな。

 

「それはいいから。……でもそういう風に優が言うって事は、違うのか?」

「ええ、そうよ。そもそも保須市の話は公安の方から回ってきたの」

 

 優を庇うように……いや、本人にそんなつもりがあるのかどうかは分からないが、とにかく龍子がそう言ってくる。

 

「公安から? 目良か?」

「ううん、違う人」

「……俺との接触は目良を窓口にするんじゃなかったか?」

「そうね。でも、今回はアクセルにじゃなくて、私とマウントレディに対する要請だもの。勿論、アクセルの件で公安と繋がりがあるから、依頼をしてきたんでしょうけど」

 

 龍子の言葉に、なるほどと思うと同時に、公安は大丈夫なのか? とも思う。

 取りあえず公安委員長はそれなりに信用出来る相手だとは思っているし、それは目良も同様だ。

 だが、それ以外となると、公安は色々と評判が悪いのもあって、素直に信じることは出来ない。

 

「それ、本当に大丈夫なのか?」

「一応目良さんに連絡をとって、その辺の確認はしてるから大丈夫よ。……実際、ヒーロー殺しの件はかなり大きな騒動になっているし。それを思えば、どうにか出来るのならした方がいいと私も思ったから」

 

 世話焼きだな。

 そう思うが、そもそもそういう性格でもなければ、この世界に来た俺を保護したり、半ば一蓮托生の状態になったりはしないか。

 そういう風に考えると、龍子のこの反応は分からないでもない訳だ。

 それに、一応目良に確認はしているらしいし。

 

「で、そうなると……俺も行った方がいいか」

「……あら、来るの? いえ、アクセルが来てくれるのなら私も嬉しいけど。それに目良さんもそれを見越してるでしょうし」

 

 龍子が予想外といった様子で俺を見てくる。

 うん、まぁ……もし龍子達が保須市に行くような事はせず、地元――という表現が正しいのかどうかは微妙だが――で活動するのなら、俺も特に保須市に行こうとは思わなかった。

 何しろ、ヒーロー殺しだ。

 恐らく……いや、間違いなく原作のイベントだろう。

 だが問題なのは、この世界の原作主人公である緑谷の職場体験先は、保須市のヒーローではなかった筈だ。

 ちょっと聞いただけだが、何だかかなり珍しい? プロヒーローからの指名があったらしい。

 ここ数年は職場体験を受け入れていなかった人物だとか。

 この辺も原作主人公らしいよな。

 多分、気難しい強者とか、そんな感じな気がする。

 あるいは代々緑谷のような強力な増強系の個性を継承してきたとか何とか。

 実際のところは分からないが。

 とにかくそんな訳で、今回の保須市のイベントに原作主人公の緑谷は関わらない。

 つまり、俺がこのイベントに参加して、ヒーロー殺しを倒しても問題はないのだろう。

 ……いや、もしかしたら保須市で暴れた後に緑谷がヒーロー殺しを倒すといったイベントがあるのかもしれないけど。

 あれ? それを思えば、俺がここでヒーロー殺しにちょっかいを出すのは間違っているのか?

 そうも思ったが、もしここで俺が介入しなければ、ヒーロー殺しによる被害がこれからも多く出るという事を意味している。

 であれば、やっぱりここは俺が出た方がいいだろう。

 ここは原作の存在する世界であると同時に、人が生きている世界でもあるのだ。

 であれば、イベントだからといってヒーロー殺しの行動に一般人が巻き込まれるのは、あまり愉快なものではない。

 これが例えばヴィラン同士の殺し合いとか、マスゴミ殲滅大作戦を行うとか、そういうのなら笑って見ているつもりではあるのだが。

 

「そうだな。じゃあ、俺も行こう。一体何があるのか分からない以上、最大戦力を出すのは当然だろうし」

 

 自分で自分を最大戦力と言うのはどうかと思わないでもなかったが、実際に俺は龍子と優とねじれの3人を同時に相手にしても無傷で勝利出来るだけの実力があるしな。

 なら、俺が出るのは……あ、待てよ?

 

「俺も保須市に行くとして、峰田はどうするつもりだ?」

「え? 誰?」

「……おい?」

 

 もしこれで、龍子が今のように言ったのなら、俺も多少は疑問に思いつつも、納得したかもしれない。

 だが、誰? と言ったのが優、それこそ峰田を指名した本人であるのを思えば、俺が今のように呆れてもおかしくはない筈だ。

 

「ちょっと、マウントレディ?」

「え? 先輩? えっと……あー、あーあーあーあー、思い出した、思い出したよ! 私のところに職場体験に来る子ですよね。うん、忘れてませんから」

「今、思い切り思い出したって言ったんだが」

 

 優の言葉にそう突っ込む。

 優は数秒前の自分の言葉を思い出したのか、笑みを浮かべて誤魔化そうとするのだった。

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