「う゛ぇーい……」
「うわぁ……」
保須市を一通り見て回り、戻ってきた俺達……俺、リューキュウ、ネジレちゃん。
そんな俺達3人とは別で見回っていたマウントレディと峰田……いや、峰田も今はヒーロー活動中なんだから、ヒーローネームで呼ばないとな。
峰田のヒーローネームはグレープジュースだから、これからはグレープジュースと呼ぼう。
……何でグレープジュースなんだろうな?
やっぱり峰田のヒーローコスチュームを着ている姿が、葡萄のように思えるからか?
まぁ、峰田を強く印象づけるといった意味では悪くないと思う。
分かりやすいし。
ぶっちゃけ、俺が自分で考えたアークエネミーよりもグレープジュースの方が分かりやすいし覚えやすいと思う。
だからといって、アークエネミーというヒーローネームが悪いとは思っていないが。
ともあれ、俺達が戻ってきた時、既にホテルにはグレープジュースも戻ってきていた。
それは別にいいんだが……この場合、問題なのはグレープジュースが精根尽き果てた状態で部屋のソファで横になっていたという事だろう。
もし何も知らない者がこの光景を見たら……うん、それこそヴィランに襲われたんじゃないかと、そう思ってしまうくらいには不思議な状態だった。
「一応聞いておくけど、ヒーロー殺しに遭遇したとかそういうのじゃないよな?」
保須市を見回っている時、もしマウントレディやグレープジュースがヒーロー殺しと遭遇したら、マウントレディが巨大化の個性を使ってすぐに分かるといったようなことを話していた。
それを思えば、特にマウントレディが巨大化したりはしていなかったのだから、ヒーロー殺しに襲われたといったことはまずないだろう。
……そうなればそうなったで、グレープジュースのこの状態は一体何なのかと疑問に思うんだが。
「女怖い」
「……は?」
一瞬、グレープジュースが一体何を言っているのか分からなかった。
グレープジュース……いや、今は峰田の方がいいか。とにかくその峰田は、俺が知っている限り、かなりの女好きだ。
もっとも、女好きと一口で言っても、例えばオルフェンズで俺と兄弟分の杯を交わした名瀬とかは、しっかりと成功している女好きだし、実際にハーレムも築いて何人もの子供がいる。
俺も……まぁ、恋人の数は名瀬には及ばないし、混沌精霊という種族だからか、養子はいるけど恋人達が子供を産んだりはしていないものの、ハーレムがある。
だがそんな俺や名瀬と違い、峰田は女好きは女好きでも、まだ実際に恋人の1人もいない女好きだ。
だが、そうした状況だからこそ、峰田の女好きはもの凄い熱量があった。
……実際、ヒーロー科だけではなく、他の学科にまで女にちょっかいを出しに行くだけの行動力を持っているのだから。
もっとも、それでもまだ1人ともデートにまでこぎ着けていないが。
ともあれそんな峰田だけに、女という存在に対する熱量はもの凄い。
そんな峰田が、性格には少々問題はあるけど、外見は間違いなく美人のマウントレディと一緒に……それこそ2人きりで出掛けたというのに、こんな状態になってるのは疑問でしかない。
あの峰田が、女怖いと言うとは……と。
「峰田、マウントレディと何かあったのか?」
「女怖い、女怖い、女怖い」
おい、本当に何があった?
今の峰田は、俺の知っている峰田ではない。
それこそいつ何があっても峰田が女を怖がるなどという事は信じられなかった。
「あー……取りあえずしっかりと休んでおけ」
今の峰田には、何を言っても無意味。
だとすれば、ここで無理に話を聞き出そうとしなくてもいい。今はゆっくりと休ませておいた方がいいだろう。
そんな訳で峰田をその場に残し、俺はマウントレディの部屋に向かう……前に、ヒーローコスチュームから制服に着替えてから、部屋を出る。
俺達の部屋とマウントレディ達の部屋はそんなに離れている訳ではない。
単純にこのホテルが高級ホテルなので、部屋数がかなり少ないというのもあるのだが。
ともあれ、マウントレディ達の部屋までやってくると、扉をノックする。
……峰田なら、あるいはノックをしないで扉を開けて、着替え中のラッキースケベを狙ったりするのかもしれないが。
『はーい』
「俺だ、アクセルだ」
『アクセル? 入ってもいいわよ』
マウントレディの声を聞き、扉を開ける。
するとそこでは私服に着替えたリューキュウ……いや、もう私服に着替えたんだから、ヒーローネームじゃなくてもいいか。
そんな訳で、龍子達がソファに座りながら紅茶を楽しんでいた。
有名なドーナツチェーン店のドーナツがあるけど、あれどうしたんだろうな。
龍子やねじれは買ってなかったし、そうなると優が買ってきたといったところか。
「アクセル、どうしたの? ドーナツ食べる?」
「ああ、貰うよ」
優の言葉に頷き、ソファの空いている場所に座る。
そしてテーブルの上にあるドーナツから、チョコでコーティングされているドーナツを手に取り、口に運ぶ。
へぇ……これはなかなか。
有名なチェーン店のドーナツだけあって、このドーナツはかなり美味い。
それに感心しながら、俺は優に視線を向ける。
「何よ?」
「部屋の中にいた峰田がもの凄く疲れ切るというか、正気を失う1歩手前というか、そんな感じなんだが、何かしたか?」
「ああ、その件ね。ちょっとセクハラしてきたから、お仕置きしたのよ」
あっさりとそう言ってくる。
……ある意味予想通りの内容ではあったが、それはそれでどうかと思わないでもない。
峰田の性格……というか、女好きを知っていれば、最初からセクハラをするだろうというのは予想出来ただろうし。
ましてや、優の……マウントレディのヒーローコスチュームは身体にピッタリと密着してボディラインがくっきりと出ているタイプの奴だ。
峰田が我慢出来ず、セクハラをしたとしても無理はない。
普通なら職場体験をしているプロヒーローを相手にセクハラをするというのは考えられないが、峰田の場合はそういうのは全く気にせずセクハラをしても驚きはなかった。
いや、寧ろそれでセクハラをしなければ、峰田らしくないとすら思ってしまうだろう。
とはいえ、優にセクハラをしたお仕置きをした結果が今の峰田の状況だと考えると、俺もそれに対して何も言えない。
ヒーロー殺しと戦う可能性が高いのに、鍛える峰田を使い物にならなくするのはどうかと思うが……うん。別にそれを大々的に話していた訳でもないしな。
寧ろ俺の考え……企みを口にしようものなら、生真面目な性格をしている龍子辺りにふざけるなと怒られる可能性が高かったし。
「お仕置きは分かったけど、やりすぎじゃないか? あれ、今日はともかく明日には使い物になるのか?」
そう言うと、優は不満そうな視線を俺に向けてくる。
「なら、セクハラをされっぱなしにしろと言うの?」
龍子も……それにねじれも、俺を責めるような視線を向けてくる。
「あー……いや、うん。しょうがないな。セクハラをした峰田が悪いんだし」
この場で峰田を擁護するような言葉を口にすれば、色々な意味で面倒な事になるだろう。
なので、この件については取りあえずスルーしておく。
明日、峰田が復活してくれているといんだけどな。
とはいえ、峰田の場合だ。最悪エロ本なりなんなりをエサにすれば、あっさりと復活しそうな気もするが。
あるいは、その手の動画か。
「分かればいいのよ」
俺の反応が正解だったのか、優はそう言って視線もいつものものに戻る。
龍子やねじれもそれは同様だった。
「それで、今日は保須市を見て回った訳だけど、明日はどうするんだ? 本格的にヒーロー殺しを捜すのか?」
峰田の件については、取りあえずこれ以上は突っ込まない方がいいだろうと判断し、話題を移す。
もっとも、この話題は聞いておかなければならないものの1つではあったが。
「そうね。ヒーロー殺しの今までの行動から見ると、夜に活動しないという訳ではないけど、それでもやっぱり日中の方が多く行動しているわ。だとすれば、やっぱり日中に狙いを絞った方がいいでしょうね」
龍子の中では既にそういう風に決まっていたらしい。
にしても……日中に行動する事が多いというのは少し意外だったな。
ヒーロー殺し……プロヒーローを殺すのだから、当然ながら明るい日中よりも、暗くて姿を隠しやすい夜の方が行動しやすいだろうに。
考えられるとすれば……
「個性の問題か?」
「どうかしらね。さっきも言ったけど、日中に行動する事が多いのは間違いないけど、夜に全く行動しないという訳でもないわ。個性の問題と考えるにはちょっと疑問が残るわ」
龍子のその言葉に、それもそうかと納得するが……
「可能性、あくまでも可能性としての話だが、夜はヒーロー殺しが個性を使えないとして、個性を使わなくても十分に強いタイプだったりしたらどうする?」
そんな俺の言葉は龍子にとっても……いや、優やねじれにとっても意外だったのか、驚いた様子を見せる。
とはいえ、そこまで驚くような事でもないと思うんだけどな。
個性というのは、あくまでも戦闘の一要素にしかすぎない。
勿論強力な個性……例えば爆豪の爆破とか、轟の炎や氷といった強力な個性は、強力な武器となる。
だが、戦闘の全てが個性だけで決まる訳ではないのも事実。
なら、個性は弱くても素の状態で強くなればいい。
……もっとも、このヒロアカ世界においては個性こそが全てといった認識の者も多いので、弱い個性なら自分も弱いと考えるような者もいる。
そんな諸々について考えれば、このヒロアカ世界は個性前提の世界だというのがよく分かる。
ヒーロー殺しもそんなタイプである可能性は十分にある訳で、だからこそ俺の思いつきが正しい可能性も否定は出来なかった。
「そうなると……厄介ね。それでも夜より日中の方が活動する可能性は高いから、それがせめてもの救いだけど」
「広い場所に出てくれば、私や先輩があっさりと勝てるんだけど」
龍子に続いて優がそう言う。
とはいえ、実際20m程まで巨大化する優の個性はかなり強力なのは間違いない。
龍子もドラゴンに変身出来るので、広い場所なら有利だろう。
「俺と模擬戦をした時の事を忘れたのか? もしヒーロー殺しが模擬戦をやった時の俺と同じくらいに強かった場合、巨大化やドラゴンになると、寧ろカモだぞ」
巨大化というのは強力な個性だが、だからといって決して無敵という訳ではない。
それを俺との模擬戦の時に体験している筈だったが。
「アクセルと同じくらいの強さを持ってるというのは……考えたくないわね」
龍子の言葉に優とねじれがしみじみといった様子で頷く。
「あくまでも可能性だけど、ない訳でもないだろ」
この世界にも、オールマイトのような例外がいる。
……とはいえ、映像を見ればオールマイトの強さは十分に理解出来るのだが、実際に自分の目で見てみると、そこまで強さを感じないんだよな。
ただ、オールマイトは50代? 60代? そのくらいの年齢だと考えれば、力が落ちたと思っても仕方がないんだよな。
「とにかく、夜に動く可能性もあるけど、もし夜にヒーロー殺しが動いたら私達にもすぐに出番があるかもしれないから、しっかりと準備はしておいてちょうだい」
龍子にそう言われ、それを聞いていた俺、優、ねじれの3人は頷く。
ただ、夜に何か起きたら即座に動くとはいえ、そうなると峰田を連れていけるかどうかは微妙だな。
峰田が今の状態から出来るだけ早く復活して欲しいんだが。
やっぱりエロ本の類を見せるしかないか。
「分かった。ちなみに夕食はどうするんだ?」
「ホテルのレストランで食べるつもりだけど、どこか他の場所で食べたいとかある?」
「いや、このホテルは食事も美味いらしいから、このホテルで食べるのなら、それでいい。俺としては、他の場所で食べると言ったら、このホテルで食べたいと要望するつもりだったんだし」
「そう。なら問題ないわね。……夕食は何時くらいにする?」
「俺は何時でもいいけど……少し時間を置いた方がいいんじゃないか?」
そう言い、テーブルの上にあるドーナツに視線を向ける。
俺の場合は、食べればすぐに体内で魔力として吸収するので、腹一杯でもう食べられないといったようなことはない。
このドーナツを食べた後でラーメン、カレー、お好み焼きといったチャレンジメニューに挑戦し、それをクリアしたら他のチャレンジメニューも次々と挑戦するといったことも出来ない訳ではない。
ただ、それはあくまでも俺が混沌精霊だから出来る事で、この場にいる者は……ヤオモモがいればどうにか出来たかもしれないが、それ以外の者達には難しい。
甘いものは別腹とよく言うが、それはそれ、これはこれだろう。
どうせなら美味い料理は美味く食べたいと思うのは、そうおかしなことではない。
そんな風に思いながら、俺は龍子達と話をするのだった。