転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4447話

 夕方近くなり、もう少ししたらホテルに戻るかといったような事をリューキュウやネジレちゃんと話していた時、それは起こった。

 どこからともなく、姿を現したその群れ。

 何も知らない者が見れば、あるいは異形系の個性を持っている者と認識してもおかしくはない、そんな存在。

 だが……そんな者達を見て、俺だけがその群れの存在について知っていた。

 

「脳無?」

 

 脳を剥き出しにし、そこに直接目や口が存在する相手。

 USJで俺が戦い、捕らえた脳無との類似点を持つ存在達。

 

「ちょっと、脳無って……USJの?」

 

 空を飛び、あるいは地上を走り回っている脳無を見て、リューキュウがそう言ってくる。

 

「ああ、その脳無だ。いや、正確には俺が倒した脳無と同じとは言えないけど」

 

 脳が剥き出しになっている点は俺が知っている脳無と同じだったが、共通点と言えばそれだけだ。

 外見だけならそれが唯一の共通点だが……その共通点がもの凄く印象的なので、見間違うような事はない。

 

「とにかく、脳無を止めるわよ! アクセルは個性を使ってもいいから、街に被害が出ないようにして!」

 

 アークエネミーではなくアクセルと呼んだのは、それだけ脳無が多数出て来るという展開がリューキュウにとっても予想外だったのだろう。

 ……いや、俺にとっても普通に予想外だったけど。

 

「分かった。ただ、USJの時の事を考えると、この脳無というのは……」

 

 そこまで言って、ふと気が付く。

 USJの脳無の時の事を考えると……それに、どこからともなくいきなり現れた多数の脳無達。

 となると……いるな?

 死柄木……いや、シラタキと黒霧がどこかにいるのはほぼ間違いないように思えた。

 

「アクセル? どうしたの?」

「ああ、悪い。俺が知ってる限りだと、脳無はヴィランというか、ヴィランの命令を聞く生きたロボットだ。そうなると、当然ながらその命令を出している奴が近くにいると思う。USJを襲ってきたヴィラン連合がな」

 

 恐らくはシラタキと黒霧だと思うのだが……それ以外のヴィラン連合のメンバーは知らないしな。

 とはいえ、脳無という存在をこんなに大量に用意出来るとなると、俺が思った以上にヴィラン連合という組織は大きいのかもしれない。

 あるいはヴィラン連合そのものではなく、その後ろにいる組織か。

 

「それは……厄介ね。ただ、とにか今は脳無を倒すのを優先してちょうだい。ヴィラン連合も厄介なのは間違いないけど、今直接的に厄介なのは脳無だもの」

「分かった」

 

 職業体験では、個性は自由に使う事は出来ない。

 個性を使うには体験先の事務所に所属するプロヒーローの許可がいるのだが、先程のやり取りでその許可は貰った。

 そうなると、俺も自由に個性を使えるようになる。

 ……もっとも、実際には俺には個性が存在しないのだが。

 ただ、俺の能力は一見すれば個性にしか見えないし、何より混沌精霊という個性で登録している以上、表向きにはリューキュウから許可を貰っておく必要があり、その許可が先程出た形だ。

 

「じゃあ……行くか」

 

 ちょうどこちらに向かってくる脳無を見つけ、その脳無に向かって瞬動を使い一気に間近まで接近する。

 USJの脳無とは違い、そこまで筋肉質ではない。

 いや、寧ろ筋肉は殆どない……骨と皮だけなのではないかと思えるような、そんな存在だ。

 ただし、手が左右2本ずつ、合計4本生えていて、その4本の手の全てがかなりの長さを持っていた。

 そして脳無だけに剥き出しの脳に眼球があり、口も備え付けられていた。

 そんな脳無の身体に、瞬動の勢いのままで拳を振るう。

 ボグッ、と。

 そんな音が周囲に響く。

 プロヒーローの許可を貰っての活動なので、当然ながら脳無に攻撃を命中させても、殺さないように注意しての一撃だ。

 そんな一撃だったが……バギッ、と。

 殴った部位の骨が折れる感触が手に伝わってくる。

 

「うげ、マジか!?」

 

 これは予想外。

 USJで戦った筋肉ムキムキの脳無と同じ感触で……それでも筋肉がないだけ防御力が弱いだろうと考え、USJの脳無よりも若干手加減をした一撃を放ったのだが、まさかこの一撃で骨を折るとは思わなかった。

 脳が剥き出しの事から考えて、この連中も脳無と呼ばれるような存在なのは間違いない。

 だが、同じ脳無ではあっても、USJの脳無と比べると一段と……いや数段弱いのは間違いなかった。

 俺の一撃で骨を折りながら吹き飛んだ脳無。

 そんな脳無に視線を向けると……

 

「元気だな」

 

 今の一撃で吹き飛んだのは間違いなかったし、骨……肋骨が折れたのも間違いはなかったが、それでも脳無は何事もなかったかのように立ち上がると、こっちに向かって走ってくる。

 肋骨を折られたんだから、痛みはある筈なんだが……それがないというのは、痛覚が死んでいる、いわゆる無痛症なのか。

 そう思っていると、距離を詰めた脳無が右手の上下2本の腕を振るってくる。

 その一撃が強力なのは間違いない。

 ただ……読みやすい程度の一撃ではある。

 脳無は素の能力は高いものの、技術というのはない。

 このヒロアカ世界においては、格闘技の類がかなりマイナーになっている。

 異形系もそうだが、それ以外の個性においても普通の人とは違うので、純粋に人と戦う為の格闘技は使いものにならなかったりするのも珍しくはない。

 格闘技の技術がなくても、個性があればどうとでもなってしまうというのも影響してるんだろうな。

 なので、この脳無も殴るという行為は行っているものの、その一撃は技術も何もない、本能的な……言ってみれば、無駄の多い一撃だ。

 その一撃を回避しながら、エヴァ譲りの合気道を使い、投げる。

 ポーンと、投げられる脳無。

 これで格闘技の覚えがあれば、あるいは受け身を取ったり出来るのかもしれない。

 しかし、脳無にそのような技術はなく、そのまま吹き飛び、地面に叩き付けられる。

 

「とはいえ、これでもまだ駄目か」

 

 骨を折られても痛みを感じた様子もなく行動出来る脳無だ。

 受け身が取れなくても、普通に立ち上がってくる。

 ……能力という点ではそこまで高くない脳無だが、こうしてダメージを受けても復活してくるのは厄介だな。

 幸いと言うべきか、この脳無はUSJで戦っていた脳無と違って回復系の個性は持っていない。

 いやまぁ、複数の個性を持っているのがそもそも有り得ない事なんだけどな。

 もっとも、混沌精霊として多種多様な能力を持つ俺がそういうのを言うのが、そもそも間違っているだろうけど。

 立ち上がろうと地面に腕を突く脳無だったが、その瞬間蹴りを入れて左手のうちの1本の骨を折る。

 回復系の個性がないだけUSJの脳無よりもマシかもしれないが、それでもこうして起き上がってくるのは面倒だな。

 いっそ、USJの時のように鬼眼を使うか?

 一瞬そうも思ったが、鬼眼は効果がランダムだしな。

 USJの時は睡眠か気絶といったような効果だったが、今回も同じように相手を殺さない効果が出るとは限らない。

 それこそ即死とか石化とかそういう効果が出ると、少し困る。

 となると……

 

「君、何をしている!?」

 

 4本腕の脳無を相手にどうするべきか考えていると、不意にそう声を掛けられる。

 声のした方に視線を向けると、顔の周囲に複数のピンポン球をつけているヒーローが俺に視線を向けていた。

 ……その視線にあるのは、俺を警戒すればいいのか、それとも助ければいいのか分からないといった様子だ。

 まぁ、俺のヒーローコスチュームは大魔王……どちらかといえばヴィラン風なので、ヒーローとしては警戒してしまうのだろう。

 それでも即座にこのヒーローが俺に攻撃をしてこなかったのは、俺の戦っていた相手が脳無だからだろう。

 既にこの周辺では多くの脳無が暴れている。

 プロヒーローがそれぞれに対処しているものの……脳無は決して弱い訳ではない。

 中には不利なプロヒーローも多い。

 もっとも、ヒーロー殺しを求めて多くのプロヒーローが保須市に集まってきていたのを考えれば、数の差でどうにかなるとは思うけど。

 俺に声を掛けてきたプロヒーローも、そんな……こう言っては悪いが、有象無象のプロヒーローの1人なのだろう。

 

「俺はリューキュウの事務所の職場体験に来ている雄英の生徒だ。個性を使うのはリューキュウから許可を貰っている」

「リューキュウから?」

 

 リューキュウの名前を出すと、目の前のプロヒーローの警戒心が緩む。

 この場合、リューキュウの名前の凄さに驚けばいいのか、リューキュウの名前を出したとはいえ、別にそれを証明する何かを持っている訳でもないのに、あっさりとそれを信じたプロヒーローの迂闊さに呆れればいいのか、どっちなんだろうな。

 

「とにかく、このヴィランはこちらに任せて欲しい。見たところ、君はヴィランを相手にしてもどうにか出来るだけの力を持っているようだ。既に弱っているこのヴィランではなく、他のヴィランに当たって欲しい」

 

 ヴィラン、か。

 脳無という名称はまだ広まっていないらしいな。

 ……このプロヒーローが本気で俺に言っているのは分かる。

 ただ、この脳無を倒した……捕獲したのを自分という事にしたいのか、それとも本当に他の者達の事を思っての言葉なのか。

 俺も別にどうしてもこの脳無を倒したという手柄が欲しい訳ではない。

 このプロヒーローが自分の手柄にするのなら、それはそれで構わない。

 ……これで、例えばホワイトスターと行き来出来るようになっていれば、あるいはこの脳無を確保したいと思ったかもしれないが、今はまだホワイトスターと繋がっていないしな。

 そうなると、もしこの脳無を確保してもどこかに閉じ込めておくとかしないといけないが、生憎とそういう場所はない。

 俺の部屋は……それなりに来客があったりするし、何より誰かに脳無が見つかったらそれは決定的な証拠となってしまうので、どうしようもない。

 なら、龍子や優の事務所。

 それもそれで駄目だろう。

 寧ろ俺の部屋よりも来客があるだろうし、事務員とかそういう部外者もいる。

 雄英高校……うん、これは最初から論外として。

 なら、公安?

 もしかしたら公安ならこっちの都合で動いてくれるかもしれないが……そもそもヴィラン連合や脳無という時点で公安もその情報を少しでも欲しい以上、脳無を尋問……はこの脳無は一言も喋らなかったから無理でも、身体を調べたりして何らかの手掛かりを欲してもおかしくはない。

 そうなると、素の状態のままで技術班……というか、この手の技術の専門家でもあるレモンに渡せなくなるしな。

 なら、無人島?

 影のゲートがある俺にしてみれば、どこぞの無人島まで脳無を運ぶのは問題なく出来るだろうが、そうなるとそうなったで、脳無を自由にさせればどこかに消えたり、あるいは死んだりとか、そんな感じになってもおかしくはない。

 ……うん、結論としてやっぱり今の状態で脳無を確保しておくのは無理だな。

 

「じゃあ、この脳無は任せる」

「え? 脳無? それってどこかで……」

 

 聞いた覚えがあるような?

 そう言葉を続けるつもりだったらしいプロヒーローをその場に残し、俺は他の脳無の相手をする。

 幸い……というか、ヒーロー殺しを目当てに多くのプロヒーローが保須市には集まっていたので、大量の脳無が出ても一般人に被害は……ゼロとはならないが、それでもかなり少ない筈だ。

 ただ、プロヒーローと一口に言っても、その質はピンキリだ。

 ピンの方に分類されるプロヒーローなら、1人……は無理だが、それでも2人、3人といれば1人……いや、1匹か? 1匹の脳無を相手に出来る。

 だが、ピンキリのキリ……プロヒーローの中でも実力が低い、あるいは戦闘向きではないプロヒーローの場合、数人どころか十数人、場合によっては数十人規模がいないと相手に出来なかったりする。

 何しろ脳無は……USJに出て来た脳無は、対オールマイト用の脳無だったらしいし。

 ヴィラン連合にしてみれば、つまり対オールマイトという事は、オールマイトに勝てる……あるいは勝つ事は無理でもある程度やり合えるような実力を持っている自信があったのは間違いないだろう。

 この保須市に解き放たれた脳無の全てが、USJの時の脳無と同程度の実力を持っているとは、俺も思わない。

 実際、俺が戦った脳無はそれなりの強さではあったが、USJで戦った脳無と比べれば明らかに強さは下だったし。

 そうなると、やはりここで解き放たれた脳無はそこまで強くはないという結論になる。

 もっとも、それはあくまでも俺の基準での話だ。

 例えば10の力を持つ者が、100と110の力を持つ敵を前にして、100の敵の方が弱いからといって、それに対処出来るかは……考えるまでもないだろう。

 だからこそ、今のこの保須市は極めて危険な状態な訳だ。

 そんな訳で、俺はこれからどうするべきかと考え……

 リィン、と鈴の音が聞こえた。

 

「は?」

 

 その鈴の音はLINに新しいメッセージが書き込まれた奴で……それが不思議と俺の意識を引くのだった。

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