転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4450話

 ヒーロー殺しと、デク、ショート、グレープジュースの戦い。

 テンヤと名前も知らないプロヒーローは、まだヒーロー殺しの個性によって動く事が出来ない。

 そんな戦いが始まって、既に数分。

 数分と一口で表現をすれば、戦闘の時間そのものはそこまで長くないように思えるが、戦闘における数分というのは十分に長い。

 

「峰田!」

 

 ショートがグレープジュースの名前を呼ぶ。

 本人はヒーローネームではなく本名を呼んでいるのに気が付いているのか、いないのか。

 ともあれ、ショートに名前を呼ばれたグレープジュースは、モギモギをヒーロー殺しに向かって投擲する。

 ヒーロー殺しも、モギモギに触れるのは自分にとって自殺行為だというのは理解しているらしく、そのモギモギには触れないようにして回避するが……

 

「スマッシュ!」

 

 その隙を突くかのように、デクの蹴りが放たれる。

 へぇ……蹴りか。

 少し前まで、デクは憧れのオールマイトに倣ってか、パンチを主に使っていた。

 だが、体育祭でのトーナメント……特にショートとの戦いで腕や指の骨をバキバキに折った。

 その為、俺が勧めたのはパンチではなくキック、拳ではなく足を使った戦闘スタイルだった。

 デクにしてみれば、憧れのオールマイトと違う戦闘スタイルということで面白くないのかもしれないが、デクの身体がまだ個性に耐えられない。

 だが、腕は個性に耐えられなくても、腕の3倍の筋力があると言われる足なら、デクの個性にも耐えられるのではないか。

 そう思っての提案だったが、どうやら職場体験の数日である程度蹴りをメインにした戦闘スタイルを使えるようになったらしい。

 もっとも、まだそこまで慣れた様子ではないので、それによってヒーロー殺しはデクの蹴りを回避しているのだが。

 お、上手い。

 デクの蹴りに対し、手にしたナイフを突き出すヒーロー殺し。

 もしデクがその攻撃を回避出来なければ、足にナイフが突き刺さり、また血を舐められて動けなくなっていた可能性が高い。

 だが、デクはそんなナイフに向かって放った蹴りを途中で止め、膝で角度を変えてヒーロー殺しに向けて蹴りを放とうとする。

 その発想自体は悪くない。

 いわゆる、蹴りの途中で軌道が変わる、ブラジリアンキックとか呼ばれる類の蹴り。

 だが……デクの蹴りは途中で止まる。

 ブラジリアンキックというのは、素人がやろうと思ってすぐに出来るようなものではない。

 相応の練習が必要だし、身体の柔らかさや膝の可動域といったものも関係してくる。

 デクはブラジリアンキックの存在を知っていて咄嗟に放とうとしたのだが、身体がその動きについてこなかったのだろう。

 デクの身体はそれなりに鍛えられてはいるが、それはあくまでもそれなりだ。

 咄嗟に……それも思いつきでブラジリアンキックを出せる程ではない。

 ……寧ろ、無理にそのような動きをした事によって、膝を痛めなかったのが幸いだろう。

 もしそうなっていれば、デクはこの戦いで最初の脱落者……いや、脱落者という意味では、テンヤがいるか。

 ともあれ、脱落していた可能性がある。

 試行錯誤をしながら戦うデク。

 グレープジュースとショートはそんなデクをサポートするように行動していた。

 デクは増強系の個性を持ち、直接敵と戦う前衛。

 グレープジュースは遠距離からモギモギを投擲する、典型的な後衛。

 そんな2人に対し、ショートは近接戦闘もある程度出来るが……ただ、やっぱりショートのメインの攻撃は個性の氷と炎を使った攻撃で、中衛だ。

 ……そう考えると、ある意味この3人はバランスがいいんだよな。

 

「それで、お前はまだ動けないのか?」

 

 デク達の戦いを見ながら、俺は放って置かれていた……というか、動けない以上はどうしようもないテンヤにそう声を掛ける。

 

「アクセル君……君は、何故……」

 

 テンヤは俺の名前を呼ぶものの、それから何を言えばいいのか分からない様子で戸惑っている。

 無理もないか。

 俺がヒーロー殺しと戦えば、勝てるというのは実際に戦ってみせたことで明らかだ。

 だというのに、何故この状況で俺がヒーロー殺しと戦わず、デク達に任せているのか疑問に思っているのだろう。

 俺が必ず勝てるからこそ、壁の役割も込みでデク達に実戦経験を積ませている。

 それが分かっていても、テンヤにしてみれば自分の兄を殺した……ああ、いや、殺してはいないんだったか? とにかく自分の兄を襲ったヒーロー殺しを俺が倒さないでデク達に戦わせているのかが分からなかったのだろう。

 

「俺は壁、ヒーロー科の生徒の壁だ。なら、ヒーロー科の生徒達が少しでも成長出来るようにするのは当然だろう? それで、テンヤはいつまでそうしているつもりなんだ? いやまぁ、ヒーロー殺しがデク達に倒されてもいいのなら、俺からは他に何も言わないけど」

「ぐ……くそう……」

 

 生真面目なテンヤにしては、汚い言葉遣い。

 実際に兄を襲ったヒーロー殺しがいて、自分の同級生がそのヒーロー殺しと戦っているのに、自分がどうしようも出来ないのは、それだけ悔しいのだろう。

 まぁ……うん、その気持ちは分からないでもない。

 だが……だからこそ、テンヤにはこの状況をどうにかするのなら、自分の力でやって貰う必要があった。

 

「悔しいのなら、火事場の馬鹿力でも、あるいは自分の限界を突破するなりして、動いたらどうだ? ヒーロー殺しの個性によって動けなくなっているとはいえ、同じように動けなかったデクはもうああして動いてるんだぞ?」

 

 もっとも、その辺は恐らく根性とか何かでどうにかなった訳ではなく、ヒーロー殺しの個性に何らかの条件があるのかもしれないが。

 ともあれ、この世界の原作主人公であるデクがいて、テンヤはそのデクの親友と呼ぶべき存在だ。

 ……ぶっちゃけ、爆豪よりもテンヤの方がよほど親友らしいと思える。

 デクは爆豪にどんなに雑に扱われても、爆豪を慕ってはいるが。

 ともあれ、テンヤがデクの親友の1人である以上、原作においても重要な役どころとなるのは間違いないと思う。

 ……まさかとは思うけど、実はテンヤは原作だと兄に続いてヒーロー殺しに殺されるなりなんなりして、そのままリタイアするとかないよな?

 それによってデクはヴィランに対する人の良さがなくなるとか。

 とはいえ、もしそのような展開であったとしても、それはあくまでも原作での話だ。

 このヒロアカ世界には俺が思いきり介入している以上、原作の流れ通りにする必要はない。

 なので、俺はテンヤを煽る。

 

「それとも……お前が兄に対して思う気持ちは、その程度のものなのか?」

 

 そう言った瞬間、不意にテンヤが動く。

 勢いよく置き上がると、俺に近付き、身体を覆っているマントの首元の部分を掴む。

 

「ふざけるな!」

「……どうやら動けるようになったみたいだな。なら、俺の言った事が間違っていると証明する為にも、ヒーロー殺しを倒してこい。ただし、プロヒーローとして復讐だけではなく、あくまでも捕らえるというのを目的にするのを忘れるなよ」

 

 そう言うと、テンヤは血走った……といった表現が相応しい、強い視線を俺に向けてから、ヒーロー殺しに向かう。

 さて、テンヤが突然動けるようになったのは、俺の言葉で限界を超えてヒーロー殺しの個性を無効化するなりなんなりしたからか、それともデクのように個性の効果時間が切れたのか。

 その辺りについては俺もよく分からないが……とにかくテンヤが動けるようになったのは間違いなく、得意の蹴り技をヒーロー殺しに放っている。

 先程のブラジリアンキック……正確にはそのモドキとでも言うべき蹴りを使おうとしたデクと違い、テンヤの攻撃手段は元々蹴りが主体だ。

 ヒーロー殺しに対して放たれる蹴りは、どうしても蹴りを主体の戦闘スタイルにしたばかりのデクのそれとは違い、かなり滑らかな一撃だ。

 ……それでいながら、兄の件もあってかテンヤの蹴りはかなりの攻撃性を持っている。

 あれ……本当に大丈夫なんだろうな?

 一応、さっき仇討ちじゃなくて、きちんとヒーロー科の生徒として、ヒーロー殺しは捕らえるように言っておいたんだが……もしかして、それをスルーしてたりしないよな?

 ともあれ、テンヤが戦闘に参加したことで戦局はデク達が有利になり始めた。

 元々テンヤがいない状態で、ヒーロー殺しとデク達の戦いは拮抗している状態だったのだから、それも当然だろう。

 今となっては、ヒーロー殺しはテンヤも含めた自分に直接攻撃してくる相手に対処するので精一杯で、俺に向けられる警戒心は先程と比べると極端に減っていた。

 だからこそ、もし俺がその気になれば、ヒーロー殺しは俺の攻撃を回避することはまず出来ないだろう。

 勿論、俺はそのようなことをする気はない。

 これはあくまでもデク達の実戦経験の場なのだから。

 ただ……うん、こうして改めて見ると、多分原作と比べても実戦によって得られる経験は少ないだろうなと思う。

 まず第1に、グレープジュースがいる。

 グレープジュースがこの場にいるのは、俺の存在があってこそ、公安からの依頼があってリューキュウとマウントレディが保須市にいるのだ。

 つまり、俺がこの世界に来ない原作の展開では、恐らく保須市にはリューキュウとマウントレディはいなかった。

 そうなれば、マウントレディの事務所に職場体験に行ってるグレープジュースも、保須市にはおらず、ヒーロー殺しとの戦闘に参加していなかった。

 グレープジュースは直接的な戦闘力という点では決してそこまで高くはないものの、相手の行動を制限するモギモギは、場合によっては致命傷となる。

 実際、ヒーロー殺しは鍛えられた身体と技術で戦うタイプだけに、モギモギの効果は絶大だ。

 それは、ヒーロー殺しがデクやショートより、グレープジュースを警戒しているのを見れば明らかだろう。

 デクやショートの攻撃は、命中すれば痛いが、それだけだ。

 いや、ダメージは蓄積するのだから、そういう意味では痛いだけではないか。

 それでもモギモギによって動けなくなるのと比べれば大した事はないが。

 そんな訳で、グレープジュースの存在はヒーロー殺しにとって致命的なので、何かあってもすぐ対処出来るよう、意識を向けられている。

 ……グレープジュース本人は、何故自分がそこまで警戒されているのか、分かっていないようだったが。

 第2に、俺という……何かあったら、最終的に助けてくれる相手がいるというのは、緊迫感を欠く。

 お、デクとテンヤの蹴りが揃ってヒーロー殺しの胴体に決まった……が、吹き飛んで壁に叩きつけられても、すぐにヒーロー殺しは戦闘態勢に戻ったな。

 タフ……いや、でもヒーロー殺しは華奢とまでは言わないが、それでも決して持久力があったり、高い防御力を持つような身体付きではない。

 それでもこうしてデクとテンヤの一撃を……それも腕よりも筋力のある蹴りの一撃を入れられたのに、すぐ復活するというのはちょっと疑問だな。

 これでヒーロー殺しの個性が血を摂取する事によって相手を動けなくさせるといったものだと判明していなければ、あるいはこれこそが個性なのでないかと、思わないでもないのだが。

 もしくは、ショートのように複数の効果を持つ個性とか。

 そういうのがなくて、ヒーロー殺しがこうしてあっさり復活するのは……防具? いやまぁ、見た感じそこそこの防御力はあるようだが、何か特別な装備といった様子ではない。

 これがプロヒーローなら、ヒーローコスチュームやサポートアイテムでどうにかするといった可能性もあるのだが。

 とはいえ、プロヒーローに対してヴィランがいるように、サポートアイテムをヴィランに横流しする事で小遣い稼ぎをしていたり、あるいは最初からヴィランの為にサポートアイテムを作る技術者とかがいておおかしくはない。

 実際、その辺のチンピラヴィランはともかく、有名な……いわゆる、ネームドと呼ばれるようなヴィランは、自分用のサポートアイテムを持っているのは珍しい事ではないのだから。

 なら、ヒーロー殺しのように有名なヴィランがサポートアイテムの類を持っていても不思議ではない。不思議ではないが……こうして見た感じ、特に何かサポートアイテムを持っているようには見えないんだよな。

 となると、考えられるのは……俺と戦った爆豪がそうだったように、精神が身体を凌駕した状態になっているのか。

 その辺りについては、正直なところ納得出来ないでもない。

 ヒーロー殺しの存在は、異常なまでの何らかの信念によるものだというのは、デク達と戦いながら自分の中にあるヒーロー論を口にしている事からも十分に理解出来るのだから。

 そうなると、やっぱりこのヒーロー殺しは原作キャラ、しかもデクを相手にしっかりと戦いを行うようなものだったのだろうな。

 そんな風に考える俺の視線の先で、右足を凍らされ、左足がモギモギで動けなくなったヒーロー殺しに、デクとテンヤの2人揃っての蹴りが決まり……精神が肉体を凌駕しているとはいえ、それでもダメージの限界を突破したヒーロー殺しは気絶するのだった。

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