保須市の中でも一番大きな病院、保須総合病院。
現在、俺達……俺、デク、グレープジュース、ショート、テンヤの5人はその病室にいた。
いや、ヒーロー活動はもう終わったので、緑谷、峰田、轟、飯田と言い直した方がいいか。
俺達がここにいるのは、現在の状況がかなり忙しいからだ。
何しろヒーロー殺しという、このヒロアカ世界の中でも突出した知名度を持つヴィランを倒したのが、プロヒーローではなくヒーロー科の生徒……つまり、学生だったのだから。
勿論それは、保須市に複数の脳無が出たからというのが影響しているのも間違いない。
ただ……ここで問題になってくるのが、やはり個性の使用許可。
俺はリューキュウから使用許可を貰ってはいたものの、俺以外は見事なまでに全員がその許可を貰っていなかった。
いやまぁ、峰田の場合は俺が半ば強引に連れて来たのだから、不満を持ってもおかしくはないと思うが。
また、エンデヴァーの息子である轟と、ヒーロー殺しに襲撃されたインゲニウムの弟の飯田がいるというのも、事態を面倒にしている理由の1つだった。
「まぁ、その……皆、殆ど怪我がなくてよかったね」
ベッドの上に座っている緑谷が、そう言う。
ちなみに普通なら病院の部屋というのは4人部屋だ。
勿論場合によっては6人部屋だったりする事もあるし、より高い料金を支払えるのなら個室というのもあるが……まぁ、一般的には4人部屋となる。
だが、今この病室は特殊な状況ということもあってか、ベッドが追加で1つ運び込まれ、5人部屋となっていた。
1人だけ別の部屋に入れるとか、あるいは3人部屋と2人部屋に分けるとか、そういうのを嫌ったのだろう。
誰が嫌ったのかは……まぁ、プロヒーローの面々とかだろうけど。
とにかく面倒な者達は1つの部屋に放り込んでおけという事で、今の俺達はこのような状況になっていた訳だ。
「そうだな。ヒーロー殺しと戦ってその程度の怪我ですんだのは、運が良かったな。いや、この場合は実力か?」
実際、ここにいる面々は俺が放課後に行っている訓練に参加している者が大半だ。
兄の件があってから飯田が訓練に出る事は少なくなったし、轟が訓練に参加するようになったのは体育祭が終わった後で、つまり最初から最後までしっかりと訓練に参加していたのは緑谷と峰田の2人だけだが。
緑谷は原作主人公という事で、そして峰田はモギモギの有用性から俺がかなり強引に引っ張っていったからこそだが。
もっとも、峰田はともかく緑谷は向上心が高いので、強引にというか、誘えば普通に来ていたが。
また、峰田も最初は嫌々だったが、ミッドナイト目当てにやる気を出していたし。
とにかくそうして放課後に訓練を重ねていたからこそ、実力も上がり、ヒーロー殺しと戦っても軽傷はともかく、重傷は負わなかった……と思いたいところだな。
「俺達だけだと、多分ここまで上手くはいかなかったな。ヒーロー殺しの奴、常にアクセルに意識を割いていたし」
轟のその言葉は、間違ってはいない。
最初に俺がヒーロー殺しと戦った時、その実力を見せつけたのもあってか、ヒーロー殺しは俺を強敵と認識していた。
なので、緑谷達と戦っている間も常に俺に対して一定の意識を割いていたのは事実だ。
もし俺があそこにいなければ、ヒーロー殺しは全力で緑谷達と戦っていただろう。
それでも……まぁ、この世界の原作主人公である緑谷がいて、恐らくは俺の影響でヒーロー殺しとの戦いに巻き込まれた峰田がいたのを思えば、それでも最終的には勝利をしただろうが。
「けど、それなら最初からアクセルが戦ってくれればよかったのによ。……飯田もそう思わないか?」
「私情で動いた僕が、今回の件で何も言うべき事はない」
峰田の言葉に飯田がそう返す。
飯田にしてみれば、今回は兄の仇討ちといった感じでヒーロー殺しと戦ったのだ。
普段が真面目な……生真面目なだけに、戦いが終わった今となっては色々と思うところもあるのだろう。
「飯田君……でも、結果として皆無事だったんだし。……ね?」
緑谷の言葉に、飯田は複雑な表情を浮かべる。
飯田は生真面目な性格をしているだけに、騒動が終わった今となって、色々と思うところもあるのだろう。
ヒーロー殺しを捜している時、あるいは戦っている時はその事に集中してるので余計な事を考える必要はなかったが、戦い終わった今は別といったところか。
個人的には復讐というのは決して否定されるべきものじゃないと思うけどな。
ただ、これはあくまでも俺の認識だし、プロヒーローやそれを目指すヒーロー科の生徒となると、話は違ってくる。
自分の中でどのように思っていても、プロヒーローやそれを目指す者として、復讐を容認は出来ない。
……綺麗事をとは思うが、プロヒーローである以上は仕方がないか。
そんな風に話していると……コンコンと、病室の扉がノックされる。
「こんな時間に……誰だ?」
「えっと、はーい」
轟が訝しげな様子で呟き、緑谷がそう口にする。
緑谷が言ってから数秒、扉が開くと……
「無事だったようだな」
「相澤先生!?」
緑谷が、そして他の面々も……気配から察していた俺以外の面々が驚きの声を発する。
「ふむ」
だが、俺以外の生徒達から驚きの視線を向けられつつも、相澤は特に気にした様子もなく、俺に向かって口を開く。
「アクセル、ちょっと来い」
あ、やっぱりか。
相澤が俺を呼ぶのは、その視線から予想は出来ていた。
ただ、予想していたよりも大分早かったが。
てっきり明日になるかと思っていたけど、これは効率を重視する相澤だからか?
いや、今日ここに来て俺に話を聞くのが効率がいいとは言えないような。
ともあれ、こうして俺が呼ばれているのだから、ここで行かないといった選択肢はない。
「分かりました」
「あ、ちょっと待って下さい、相澤先生! その、アクセル君は別に僕達を見殺しにしたとか、そういうのじゃなく……」
何故ここに相澤が来たのかを理解したのだろう。
緑谷が相澤に向かって何かを言おうとするが、相澤はそれを聞いても特に表情を変えずに口を開く。
「分かってる。だが、状況が状況だ。話を聞かなければならないのも事実なんだよ。……アクセル」
再度促されると、俺はベッドから下りる。
緑谷と飯田、轟は多少なりとも怪我をしているが、俺は怪我をしていないので、ただベッドに座っていただけだ。
なので、ベッドから下りても特に痛みの類はない。
……ちなみに、無傷というのは峰田もそうだったりする。
何しろ基本的にはヒーロー殺しに向けて距離を取ってモギモギを投擲していただけだしな。
そしてヒーロー殺しは基本的に近接戦闘を主体としている。
いや、一応ナイフを投擲したりとかそういう攻撃手段はあったのだが、緑谷や轟の相手をしながら、しかも俺に幾らか意識を割きながら、峰田に攻撃するといった事は出来なかったらしい。
そんな訳で、峰田も無傷ではあった。
……ヒーロー殺しとの戦いや、それに続いて現れてた脳無。そして最後の最後でヒーロー殺しの放った気迫によって、精神的に消耗はしていたが。
ともあれ、この中で一番健康な状態なのは俺で間違いない訳だ。
「じゃあ、行ってくる」
「あ、その……アクセル君……」
「心配するなって、別に取って食べられる訳でもないんだし」
心配そうに声を掛けてくる緑谷にそう言い返し、俺は部屋を出るのだった。
「さて、気楽にしてくれ」
俺が相澤に連れてこられたのは、恐らくは医者や看護師達が何らかの会議を行う為の会議室。
最初は自販機とかがある休憩所に向かおうとしたのだが、今は夜……それもヒーロー殺しや脳無の件で怪我をした者の多くが、あるいはその怪我人の付き添いとして家族や友人、恋人といった者達が来ていて、休憩所はそのような者達で埋まっていた。
相澤もそれを知っていたから、この会議室を使えるようにしたのだろう。
俺が椅子に座ると、わざわざ椅子を持ってきて机を挟んで向かいに相澤が座る。
……まぁ、横並びで話をするというのも、ちょっと変だしな。
「それで、俺に用件って何ですか?」
「思い当たる事はないか?」
「個性を使った件なら、リューキュウから許可を貰いましたけど」
「……違う。いや、あの連中にはその辺りについて注意する必要があるだろうが」
どうやらやっぱり、その件についても微妙に問題になってるっぽいな。
「じゃあ、ヒーロー殺しとの戦闘の件ですか?」
「そうだ。俺が聞いた話によると、お前はヒーロー殺しとの戦闘に参加していなかったらしいな。何でだ?」
もうその件について知っているのは……ああ、そうか。
あの場にはさっきの病室にいた面々以外にも、ヒーロー殺しに襲われたプロヒーローが1人いたな。
そっちから話を聞いたといったところか。
にしても……さて、何て答えるべきか。
いや、ここで迂闊に聞こえのいい言葉、表向きの発言をしても、それで相澤が納得するとは思えない。
なら、ある程度きちんと話をしておいた方がいいだろう。
「体育祭の時の選手宣誓の時に言った通り、俺は他のヒーロー科の生徒達にとって壁です。それはつまり、他の生徒達を強くするのを目的としている訳で、そういう意味ではヒーロー殺しは緑谷達に実戦経験を積ませるのに丁度いい相手でした」
「……本気で言ってるのか? ヒーロー殺しは、その辺のチンピラヴィランじゃない。いわゆる、ネームドに分類されるヴィランだぞ?」
「そうですね。だからこそ、強敵との戦いによって、緑谷に……他の面々にも濃厚な実戦経験の時間を作ることが出来ました」
「前から思っていたが、何でお前はそこまで緑谷を気にする? 同じ増強系だからか?」
表情を変えず、そう相澤が聞いてくる。
……なるほど。相澤にしてみれば、緑谷は増強系ではあるものの、落ちこぼれ……というのは少し大袈裟かもしれないが、決して優秀という訳ではない。
体育祭では最初の競技の障害物競走でも2位になったし、騎馬戦でも上位になり、最終種目のトーナメントにおいても2回戦で轟に負けたとはいえ、1回戦の心操には勝っている。
それを見れば、既に緑谷は決して落ちこぼれとは言えないだろう。
それどころか、A組の中でも間違いなく上位に位置する筈だ。
雄英に入学した時は間違いなく落ちこぼれだったのだが、この短期間で信じられない程に伸びている。
この辺り、俺にしてみれば原作主人公だからという事で納得出来るが、まさかこの世界が原作……アニメ、漫画、ゲーム、小説、どれかは分からないが、とにかく何らかの物語の世界であるというのは、まさか想像も出来ないだろう。
つまり、それ以外の理由で何かを用意しないといけない訳だ。
だが、そうなるとそれはそれで難しい。
これで例えば素質のある者と言えば、それこそ轟や爆豪といったA組のNo.2の2人では駄目なのかとなると、ヤオモモのように強さではなく万能性で強者となるといったような者もいる。
そんな諸々について考えれば、緑谷の素質と……いや、待てよ。ヒントは相澤が口にしたな。
「そうですね、同じ増強系というのもあります。それに俺の目から見れば緑谷の素質はかなりのものですから。具体的には、入試の時まで個性が目覚めておらず、個性が使えるようになってすぐ……それが入試の時なのか、入試前なのかは分かりませんけど、とにかく普通ならとてもじゃないですけど個性を使えなかったのに、それを使って入試の実技試験で0Pを倒してますし」
そう言うと、相澤は難しい表情で黙り込む。
恐らく俺の言葉がどこまで真実なのかどうか、その辺りについて考えているのだろう。
同じ増強系という意味では、A組だと砂藤もいる。
だが、砂藤の場合は甘いものを食べることによって身体能力を増すといった個性だ。
それそのものは悪くないが、増強系の……例えばどれだけ素の身体能力以上の身体能力を増強系の個性によって使えるかと考えれば、その倍率は砂藤よりも緑谷の方が上だ。
それもちょっとやそっとじゃなく……それこそ、身体がある程度個性に耐えられるようになるまで個性が使えなかった事からも分かるように、緑谷の個性は圧倒的だ。
これは砂藤の個性が弱いのではなく、単純に緑谷の個性が圧倒的すぎるのだ。
……まぁ、本人は無個性として育ってきたのもあってか、内向的な性格でその個性と釣り合ってはいないように思えるが。
原作主人公というのも影響しているのだろうが、緑谷の個性は特別な増強系なのは間違いない。
「で、俺は他の生徒に対する壁という存在になる為に雄英のヒーロー科に入学した以上、見込みのある……それでいてまだまだ伸びる余地がある緑谷を気にするのは当然だと思いませんか?」
相澤が黙っている中でそう口にした俺の言葉に、相澤はふと何かに気が付いたようにこちらをじっと見てくる。
……あれ? 何かミスったか?