「お、アクセル戻ってきたな。相澤先生、何だって?」
相澤との話が終わった後、俺は病室に戻ってくる。
「取りあえず、これは土産だ」
そう言い、俺は持っていた缶の紅茶を部屋の中にいる面々に渡す。
ちなみにこの缶紅茶は自販機で買った奴だ。
ただ、その金を払ったのは相澤だったが。
話の切っ掛けにでもなればいいと思っての行動だったのだろう。
何気に相澤はこういうところ、気が回るよな。
そんな訳で、紅茶を皆に配っていく。
個人的にはミルクティーとかも好きだったのだが、その辺りは好き嫌いが分かれるしな。
レモンティーとかもそうだから、普通の紅茶を買ってきた。
「お、悪いな」
「え? 僕にも?」
峰田に続いて緑谷に……そして他の面々に対しても缶紅茶を渡していく。
それが全員に行き渡り、飲み始めたところで口を開く。
「まず最初に言っておく。これから言うのは、それなりに面倒な事だ。聞きたくないのなら、聞かなくてもいい。……どうせ明日になればしっかりと話を聞く事になるだろうしな」
「このタイミングでそういう風に言われると、オイラ、何だか嫌な予感しかしないんだけど。本人も面倒って言ってるし」
「聞きたくないのなら、今も言ったように聞かなくても構わない。……どうする?」
そう聞いてみるが、峰田、緑谷、轟、飯田の全員が俺の言葉に否とは言わなかった。
「じゃあ、全員が話を聞くという事でいいな。……取りあえず問題になったのは、お前達が個性の使用許可を貰っていないのに個性を使ってヒーロー殺しと戦った件だ」
「ちょっ、オイラは……」
「分かってる。取りあえず問題はないようにして貰ったから、まずは最後まで話を聞け」
峰田の言葉を途中で遮り、そう言う。
……まぁ、峰田は俺が強引に連れてヒーロー殺しのいる場所に向かったんだから、それでそんな風に言われても……といったように思うのは当然だろう。
俺が相澤に呼ばれる前にもその辺りの話をしていたから、余計にそう思う気持ちも強いのかもしれないが。
それでもまずは問題ないようにしたという言葉で、峰田もある程度落ち着いた様子を見せる。
「端的に言えば、ヒーロー殺しはリューキュウから個性の使用許可を貰っていた俺が倒したという事にするらしい」
「アクセル君が!? けど、あの場にはプロヒーローがいたし……」
緑谷のその言葉に、轟や飯田も同意するように頷く。
「そうだな。俺も相澤にはそう聞いた。実際、相澤や他のプロヒーローの間でもそういう話の流れになっていたらしいが……俺が峰田を連れていったのを見た一般人が、スマホで動画をネットにアップしながら俺達を追ってきたらしい」
うわぁ……と、俺の言葉を聞いた全員がそんな表情を浮かべる。
まぁ……うん。普通に考えれば、そういう風に思ってもおかしくはないよな。
そもそも保須市では多数の脳無が暴れていたというのに、そんな中でわざわざネットに動画をアップさせる為に俺を追ってくるというのは、普通じゃない。
しかも、SNSでそれなりにフォロワーを持っている、結構な有名人。いわゆる、インフルエンサー的な存在だったのも、こっちにとっては面倒な事だった。
これが例えば、そこまで影響力がないのなら、警察なりヒーロー関係という事で公安とかから映像の削除要請とかでどうにかなったんだろうけど、そういう影響力の強い奴だった事で既に映像は拡散してしまっており、削除も不可能な状態になっている。
「不幸中の幸いだったのは、さすがにSNSでバズるのを目的にしてはいたけど、俺達が戦っていた場所までは来られなかったって事だろうな」
ヒーロー殺しと戦ったのは、建物と建物の隙間だ。
かなり狭いし、そこの映像を撮るとなれば、当然ながら近付かなければならない。
……その辺の危機察知能力はあったらしい。
ある意味で悪運が強いよな。
「なので、動画にあるのは俺と峰田がヒーロー殺しのいる場所に突っ込んでいったのと、そこで緑谷達がヒーロー殺しを倒して大通りに戻って、プロヒーローと合流し、脳無が襲ってきてそれをヒーロー殺しが倒して、エンデヴァーがやってきて、そこでヒーロー殺しの演説があり、その中で俺がヒーロー殺しを倒したところだな。これで動画がアップされてなければ、エンデヴァーにヒーロー殺しを倒した役割を任せるといった方法もあったんだけど」
この映像のせいでそれも無理になり、結果として実際に最後の最後でヒーロー殺しを倒し、その上で個性の使用許可を貰っていた俺が矢面に立つ事になった訳だ。
「実際にヒーロー殺しと戦ったお前達の手柄を横取りする事になる訳だが……」
「何だ、そんな事か。僕は問題ないよ」
「俺もだ」
「元々は僕が暴走した結果だ。それを治めて貰ったのだから、断る必要はない」
「オイラは……えっと……でも、ヒーロー殺しを倒したとなれば、モテるんじゃないか?」
「峰田にはマウントレディがいるだろ?」
そう言うと、唯一渋っていた峰田は、それは絶対にごめんだといった様子で激しく首を振り、俺の提案を受け入れる。
うーん……本当に峰田と優の間には何があったんだろうな? 興味があるけど、聞けばそれはそれで後悔しそうだし。
「その辺については、明日警察から人が派遣されてきて、もう少し詳細な話も聞かせてくれる筈だから、今はともかく、改めて考えた上で、明日問題なかったらOKとしてくれ」
本来なら、この件は緑谷達にとって非常に大きな意味を持つ。
何しろ、ヒーロー殺しというネームドのヴィランを、まだヒーロー科に入学してからそんなに経っていない1年が倒したのだ。
これからプロヒーローを目指す上で、この件は非常に大きな手柄となる。
プロヒーローのいる場所に集まっても、『あのヒーロー殺しを倒した者』として、一目も二目も置かれるようになる。
そんな利益を捨てさせるというのだから、本来ならそう簡単に受け入れられるようなものではないのだが……幸いなことに、ここにいるのはそういうのはそこまで気にしないタイプだ。
唯一峰田だけが、モテるかもしれないという事で若干渋ってはいたが、優の名前を出すと落ち着いたしな。
とはいえ……峰田には色々と貧乏クジを引かせているとは思っているしな。
後で何らかのフォローを……フォローを……峰田のフォローとなると、やっぱり女を紹介する事か。
とはいえ、このヒロアカ世界では特に紹介出来る相手もいないし。
まさか、龍子やねじれを紹介する訳にもいかないしな。
というか、紹介以前に既に顔見知りである以上、紹介は出来ないか。
これがホワイトスターと行き来が出来るなら、例えばエルフ達を紹介……いや、エルフ達は駄目だな。
露骨に態度には出さないようにしているものの、エルフ達にとって俺は神だ。
そうである以上、俺が紹介をしたら峰田と付き合うのを断るといった選択肢がなくなってしまう。
となると……ああ、B組の誰か?
茨や取蔭か?
いや、茨は駄目だな。
茨もまたエルフと同じく、俺に深い忠誠心を……いや、信仰心か? とにかく心酔している。
一体何がどうなってそうなったのか、未だによく分からないのだが。
ともあれそんな茨だけに、峰田に紹介しようものなら……あ、でも茨なら、あるいは峰田の女好きを矯正しようとするか?
とはいえ、女好きでなくなったら、峰田は峰田じゃないしな。
まぁ……取りあえず、峰田についてはいずれ機会があったらという事にしておこう。
俺がいつまで雄英のヒーロー科の学生としてやっていけるかは分からないが、もし誰かを紹介出来るのなら紹介してもいいだろう。
「僕は今の時点でもう別にアクセル君の案に乗っても問題ないと思うんだけど」
緑谷の言葉に、轟と飯田がそれぞれ同意するように頷く。
「気持ちは分かるけど、とにかくしっかりと考えてくれ。今ここで決めた後で、少し時間が経ってから、やっぱりあの時……といったように思ったりしたら、面倒だしな。それに俺の案に乗ってくれるのなら、明日素直にそう言ってくれればいいし」
そう言うと、話を聞いた面々も納得したように頷く。
唯一峰田だけが、難しい表情を浮かべていたが。
峰田にしてみれば、今回の一件は受けた方が問題は少ないと、そう理解はしているんだろうけど。
「あ、そういえば……アクセル、LINの方で結構話題になってるぞ。他の事務所に行ってる連中も、多分アクセルが言っている動画を見たんだと思う」
峰田の言葉にLINを確認すると……なるほど、クラスのグループの方で俺達が結構な話題になっているのが分かった。
それでも緑谷達が既に全員無事だと書き込んでいるので、そこまで極端に心配はされていないようだったが……
俺もまた無事だと書き込むと、多くの者達から返事がくる。
それと一応、親しい者達……三奈、葉隠、ヤオモモ、拳藤、瀬呂といった面々とのグループの方にも、特に問題はなかったと書き込んでおく。
……あ、どうやらB組の方でも保須市の一件では話題になっていたらしく、茨から大丈夫かと何度も聞かれたという拳藤の書き込みもある。
茨もなぁ……決して悪い奴だとか、そういう奴じゃ全くないんだが。
ただ、その辺りを込みで考えても……良く言えば一途、悪く言えば他に目がいかないといったような感じなんだよな。
「取りあえず返事をしておいたから、問題はないと思う」
そう言っておく。
その後は、ちょうどこうして何人もが集まったという事で、それぞれが職場体験で感じた事を話す。
ヒーロー殺しの一件では、そんな事を話している余裕はなかったしな。
そんな中で話題になったのは、グラントリノだ。
「俺はそこまでヒーローに詳しい訳じゃないから、グラントリノって知らなかったんだが、有名なのか?」
「え? えっと……うん、昔は有名だったみたいだけど、年齢が年齢だから今はもう大々的に行動はしていないんだ。僕は……その……ちょっとした伝手があって」
緑谷の様から、その伝手について何となく理解する。
原作主人公の緑谷だけに、オールマイトとの繋がりがある。
恐らくグラントリノというのは、オールマイトの知り合いなのだろう。
とはいえ、オールマイトもそれなりの年齢の筈だが、グラントリノはそれ以上の年齢の筈だ。
だとすると、単純にオールマイトの仲間とかそういう感じじゃないか?
勿論、年齢が離れているからといって仲間になれないという訳じゃないから、俺の考えすぎというか、見当違いなのかもしれないが。
「そうか。まぁ、優秀な人物なのは間違いないんだろうな」
緑谷がヒーロー殺しと戦った時の動きを見れば、その辺は明らかだ。
それこそ俺の目から見ても、職場体験前と比べると緑谷の動きは明らかに鋭くなっていた。
蹴りを主体とした攻撃方法であったり、個性をそれなりに使いこなせるようになっているのを見れば、グラントリノが優秀なのは間違いない。
自主訓練の時に緑谷に色々とアドバイスをしたりしたが、その時以上に緑谷は伸びていた。
いやまぁ、それは別におかしくはない。おかしくはないんだが……それでもこう……俺が教えた時以上に緑谷の実力が伸びるのは、そちら方面で俺がまだまだ未熟だって事なんだろうなと思ってしまう。
とはいえ、自分で言うのもなんだが俺には多種多様な才能がある。
その上でステータスをPPで強化したり、転生特典であったり、数え切れない程の修羅場を潜り抜けてきたりと、こう言ってはなんだが緑谷との前提条件が違う。
ましてや、俺はいわゆる感覚派で、人に教えるのは決して得意ではない。
……そう考えると、寧ろ緑谷は俺との自主訓練であそこまで伸びたのが凄いのかもしれないな。
ただ、それ以上に伸びていたのを思えば、グラントリノはプロヒーローとして1流なのは間違いないのだろう。
「俺は……正直なところ、親父をまだ認めた訳じゃねえ。だが、プロヒーローとしてエンデヴァーは、No.2ヒーローだけの事はあると思った」
轟がしみじみと呟く。
轟にしてみれば、複雑な心境なのだろう。
とはいえ、オールマイトには及ばずとも、エンデヴァーは不動のNo.2と呼ぶに相応しい存在なのは事実。
轟は今まで父親を嫌ってきたので、エンデヴァーという存在を認めたくなかったのだろうが、今回の職場体験がそれを認める切っ掛けになったって事か。
「女怖い、女怖い、女怖い」
そして峰田は、何を思いだしたのか震えながらそう呟く。
「アクセル君、彼は一体どうしたんだ?」
飯田がそう聞いてくるし、緑谷と轟も興味深そうに俺を見てくるが……
「保須市に来てから別行動してたしな。何があったのかは俺には分からない。ただ、マウントレディと一緒にいてこうなったって事は……」
最後まで言わずとも、皆が俺が何を言いたいのか理解したらしい。
気になっている様子は見せていたものの、結局それ以上聞いてくる事はなかった。