『あんた……誰だ?』
そう言いながらも、シンはジャスティス系列っぽいMSで敵の未知のMSと戦っている。
こうして通信を送りながらもそのような事が出来るのは、シンがかなりの操縦技術を持っているからというのもそうだが、やはり敵のMSの動きが明らかに鈍いからだろう。
とはいえ、シンが俺を知らない?
いやまぁ、シンとは最近合ってなかったが、だからといって俺を忘れるか? と思えば疑問でしかない。
キラの様子もそうだし、アギュイエウスを使った転移実験を行ってからもそうだが、やはり何か違和感がある。
一体何がどうなってそうなったのかは分からないが……
「俺を忘れたのか、シン?」
『俺の名前を!? 一体あんた誰だよ! ファウンデーションの連中じゃないのはブラックナイツと戦った事からも分かったけど』
なるほど、どうやらあの未知のMSはファウンデーションという組織のMSで、ブラックナイツというのはMS部隊の名称か?
それは分かったが、やはりシンの様子を見る限りだと俺とは完全に初対面といった様子だ。
これは……一体、何がどうなっている?
「以前オーブで会ったんだけどな」
『は? オーブ?』
あれ? 何でか分からないが、完全に理解出来ないといった様子だな。
それこそ自分はオーブにいないと言いたいような……
「っと、だから駄目だって。少し大人しくしていろ」
俺がシンと話していると、それを隙と見たのか、それとも単純にそこまで深く考えてはいないのか、とにかくキラがこの場から離れようとするので、それを止める。
『どけぇっ!』
その言葉と共に腰からビームサーベルを引き抜き、こちらに向かって振るってくる。
普段のキラなら……俺の知っているキラなら、絶対にやらないだろう行動。
精神干渉を受けた影響なのか、それとも……
その辺のMSパイロットなら、とてもではないが回避出来ないだろう鋭い一撃だったが、それはあくまでもその辺のMSパイロットならの話だ。
俺の操縦するニーズヘッグはT-LINKシステムによって、通常では考えられない程の反応速度を持つ。
こちらに向かって振るわれる一撃を回避し、ビームサーベルを持っているキラのMSの手首をヒュドラの先端から伸びたビームサーベルで切断する。
「おい、シン。キラが半ば錯乱してるんだが、どうする? 止めるにはMSを破壊するしかないんだが」
『お前……一体……いや、でもキラさんを傷つけるような真似は……』
俺がキラのMSの手首を切断したのが予想外だったのか、シンの顔が驚愕に浮かぶ。
その様子からすると、シンはキラの操縦技術を尊敬しているのだろう。
「安心しろ。俺の得意技を忘れたか? ……ああ、いや。シンの前では見せた事はなかったかもしれないな。ようは手足と頭部を切断して胴体だけにしてしまえばいいだけだろ」
もっとも、胴体……というか腰にレールガンと思しき武器もあるので、胴体だけにしたからといって安心は出来ない。
このレールガン以外にも、胴体に何らかの隠し武器があってもおかしくはない。
ニーズヘッグも隠し武器ではないが、胴体に拡散ビーム砲を装備しているし。
まぁ、その辺はこっちでどうにかすればいいだろ。
『……分かった。じゃあ……頼む。俺はルナを助けにいかないと』
何かに耐えるようにしながら、シンがそう言ってくる。
だが……ルナ? 誰だ?
そういえば以前プラントに行った時、ルナマリアとかいう女とちょっと会った事があったけど……まさかな。
そもそもルナとルナマリアでは名前が違うし、それにルナというのはよくある名前だ。
ともあれ、シンから見て俺はキラを……今のキラなら止める事が出来ると判断したらしい。
あるいはキラが精神干渉によって実力を発揮出来ない状況ではなく、素の状態ならまだ少し分からなかったかもしれないが。
「取りあえず俺はまだ事情を色々と理解出来ていないしな。だから、まぁ……直撃」
シンと話をしながら精神コマンドの直撃を使い、ヒュドラのビーム砲を撃つ。
放たれたビームは、未知のMS……ブラックナイツのMSのコックピットをあっさりと貫く。
精神干渉の影響で動きが鈍くなっている事もあり、シンと戦っていたMSは爆発する。
「ほら、行け。取りあえずキラについては俺が対処しておくから」
『……頼む!』
そう言うと、シンの乗っているジャスティス系列のMSは俺の前から飛び去る。
『どいてくれよ、誰なんだ君は! ミケール大佐を見つけたんだ!』
シンがいなくなると、キラがそう言ってくる。
明らかに焦っているその様子は、精神干渉によるものではあるのは多分間違いない。
とはいえ、だからといってこのままキラを好き勝手にさせるような事が出来る筈もない。
「落ち着け。お前に自覚があるかどうかは分からないが、今のお前は普通じゃないんだから」
『君がどかないのなら……無理にでも!』
切断されていない方の手で、もう一本のビームサーベルを腰から引き抜き、こちらに向かって攻撃してくる。
だが……さっきもそうだったが、精神汚染によるもので操縦技術は劣っているのは間違いない。
その一撃を回避しつつ、T-LINKシステムを使ってヒュドラを動かし、ビームサーベルでまず両腕を、そして頭部と足を一瞬にして切断する。
ガジャッ、と。
そんな音と共にキラのMSは胴体だけとなって地面に落ちる。
続いてヒュドラのビームサーベルを更に振るい、左右の腰に装備されているレールガンについても破壊する。
その上で、コックピットから出ないようにニーズヘッグの足で胴体を踏んでいると……不意にニーズヘッグのレーダーに反応がある。
そちらに視線を向けると……
「ギャン?」
そう、それは俺にとってはお馴染み……UC世界において、ルナ・ジオン軍の中でもエースや指揮官が使うMSである白いギャンの姿があった。
もっともルナ・ジオン軍で使われているギャンは普通のギャンではなく、ギャンの上位機種であるギャン・クリーガーなのだが。
ともあれ、そのギャンが……ビームアックスか? それを構えながらこっちに近付いてくる。
このギャンは、敵か味方か?
そう思ったが、武器を構えてこちらに来ているのを見れば味方とは思えない。
もしくは単純にキラの乗っているMSの四肢と頭部を切断し、腰のレールガンも破壊した上でコックピットが開かないようにニーズヘッグの足で押さえているのだから、それを思えば、俺をキラの敵だと認識しても……っておい?
ギャンが装備したビームアックスを振るってくる。
ただし、それは俺ではなく、俺が踏んでいるキラのMSに命中するような軌跡だ。
つまり……敵か。
T-LINKシステムを使い、尻尾を伸ばしてギャンの身体を搦め捕る。
十分に近付いたのもあるし、元々ニーズヘッグの尻尾はかなり長い。
そして搦め捕り……どうするべきか迷う。
このギャンが明確に敵なのは間違いない。
間違いないが、ザクやグフをザフトが使っていたのを思えば、このギャンもザフトが開発したMSの可能性が高い。
勿論、ギャンを開発したのがザフトであっても、乗っているパイロットがザフトとは限らない。
それこそ、ファウンデーションだったか? そこのブラックナイツとかいうMS部隊がMSを奪っている可能性は十分にある。
そういう意味では、こちらを攻撃してきたという理由もあるので、ニーズヘッグの尻尾の備わっている機能のうち、最強の攻撃力を持つ輻射波動で『弾けろギャン!』とやってしまってもいんだが……今のSEED世界は色々な意味で不可解な場所だ。
であれば、少しでも情報を入手する為に……あるいはこちらの味方となるかもしれないキラやシンといった面子がこのパイロットの知り合いだったりした事を考えると、このまま殺してしまうのは不味い。
普通なら攻撃して来たら敵なのだが、知り合いが敵にいるというのは、このSEED世界において珍しい事ではない。
俺が最初にSEED世界に転移した時に、ヘリオポリスでキラとアスランがそうだったようにな。
それにもし違っていても、キラやシンの勢力と合流しようとしているのを考えると、そちらに襲ってきた敵は捕らえる事が出来ればパイロットから情報収集も可能となる。
そんな訳で、輻射波動ではなく電撃を流してギャンの電子装置を破壊し、同時にパイロットも気絶させる。
……まぁ、生け捕りにするというのなら、電撃で相手をショック死させてしまったらどうするのかという話もあるが、そうなったらそうなったで仕方がない。
ギャンのパイロットだって、戦場に出る以上は相手を一方的に攻撃するのではなく、自分が攻撃される可能性が……場合によっては死ぬかもしれないと覚悟の上で、やってきているんだし。
そんな訳で、俺はニーズヘッグの片足でキラのMSの胴体を踏んで出られないようにし、尻尾で機能停止したギャンを搦め捕っているという、微妙な状況になる。
……こうして見た感じだと、既にこの行われている戦闘も終わりそうになって……うん?
そんな風にしていると、かなり離れた場所を通りすぎていくミサイルを見つける。
なんだ? まだ戦闘は終わってないのか?
そんな風に思っていると、レーダーに反応がある。
何だ?
またこのギャンと同じく敵か?
そう思い、ミサイルからそちらを映像モニタに映し出すと……
「え? マジ?」
ギャンが現れた時にも驚いたのだが、今こちらに向かって急速に近付いてきているのは、ズゴック。
グフやギャンも空を飛んでいたのを思えば、このSEED世界のズゴックが空を飛んでいてもおかしくはないと思う。
思うのだが……そのズゴックは、赤かった。
おい、まさかシャアがいたりしないような?
俺のパーソナルカラーも赤なので何とも言えないが、思わずそんな風に疑問を抱く。
もっともズゴックという事は、これもまたファウンデーションではなくザフトのMSなのだろうから……ギャンみたいに攻撃を仕掛けて来るのでなければ、話をしたいところだ。
そう思っていると、まるで俺の考えを読んだかのようにそのズゴックから通信が入る。
『そこのMS! お前はどこの所属だ!?』
通信が繋がるや否やそう詰問されるが、俺はそれに答えるよりも、そこに映し出された顔に驚く。
「アスラン!?」
『俺を知ってるのか?』
今のやり取りで理解する。
このアスランはシンと同じく俺を知らないのだと。
だが……これがシンであれば、実際に俺がシンと会った事があるのはそう長い間ではないので、もしかしたら……本当にもしかしたら、コーディネイターであるにも関わらず俺を忘れていてもおかしくはない。
だが、アスランとは……俺が直接会う事は少なくなったが、シャドウミラーとして接触する機会はそれなりにあった。
であれば、シャドウミラーを率いる俺の顔を忘れているといったりはしないと思うんだが。
「知っているも何も、シャドウミラーとオーブの関係を思えば、俺がお前を忘れる筈がないだろ? お前達がヘリオポリスで連合のガンダムを奪った時に初めて会ったんだし」
『……何、だと?』
あれ?
俺の言葉に、アスランが理解出来ないといった様子でそう呟くのが聞こえてきた。
「おい?」
『俺は、お前を知らない。……いや。今はそれはいい。まず聞きたいのは、お前が俺の敵なのかどうかという事だ』
戸惑いというか混乱した様子を見せたアスランだったが、今はそれどころではないと判断したのか、そう聞いてくる。
にしても……俺が自分でも言うのも何だが、SEED世界においてシャドウミラーというのは非常に大きな意味を持つ。
何しろ、国力という意味ではプラントや連合と比べると圧倒的に小さなオーブを、SEED世界の覇者という立場に導いた組織なのだから。
そんな俺を、知らない?
……そこまで考え、ふと思いつく。
俺が今ここにいるのは、ニーズヘッグのシステムXN、アギュイエウスを改修したテストだ。
そしてアギュイエウスというのは、同一世界間は勿論、異世界にも転移出来る。
実際、アギュイエウスのテストでSEED世界に転移する事にしたのも、それが理由だ。
いやまぁ、何でSEED世界なのかというのは、生憎と俺にも分からないが。
その辺はSEED世界を指定したレモンにしか分からないだろう。
ともあれ、そんな前提条件を考えた場合……もしかしてここはSEED世界であっても、俺の知っている、シャドウミラーが関与したSEED世界じゃなかったりするのか?
俺の知っているSEED世界とは別物のSEED世界。
つまり、多分……本当に多分だが、原作通りに進んだSEED世界。
「ああ、敵じゃない。いやまぁ、もしかしたら場合によっては敵になるかもしれないが、このMS……キラをここまで一方的に倒した俺の実力を考えれば、もし敵対するつもりならこうした手間を掛けないで、もう殺していると思わないか? キラを殺そうとしたこのギャンのパイロットも、気絶はしているが生け捕りにしているし」
そう言う俺の言葉に、アスランは今まで以上に眉を顰めるのだった。