「ちょ……ちょっと待ってくれ。それは一体どういう事なんだ?」
俺がヘリオポリスの一件に介入したという話を聞き、ムウは理解出来ないといった様子で聞いてくる。
いや、他の面々も同じか。
特に実際にあの時、ヘリオポリスにいたマリュー、キラ、アスランは理解出来ないといった表情を浮かべている。
「マリューなら、分かってもおかしくはないと思うんだがな」
「え? 私? 何でかしら?」
「マリューは艦長としても能力が高いが、その本質は研究者だろう? PS装甲を開発したのもマリュー……正確にはマリュー個人じゃなくて、マリューを含めたチームだったって話だし」
「……私の事に随分と詳しいようね」
警戒の視線を向けてくるマリュー。
マリューにしてみれば、自分の事を知られているのが不気味に思えるのだろう。
もっとも、SEED世界においてPS装甲というのはかなり大きな発明だ。
それを発明した上で、これだけの美人であれば、理系女子……というのはちょっと違うか? とにかくそんな感じで有名になってもおかしくはないだろう。
「今も言っただろう? 俺はヘリオポリスの事件に遭遇したと。色々と事情があるんだが……端的に言えば、俺もキラやその仲間達と一緒にアークエンジェルに乗って、クルーゼ隊と戦っていたんだよ。その関係でマリューとも話す機会は多かった」
実際には恋人関係になったのだが……この世界のマリューはムウとくっついているみたいだし、それを思えば微妙に言いにくいな。
「いや、ちょっと待ってくれ。あんた……アクセルがアークエンジェルに乗って戦ったって、MSはどうしたんだ? それとも、メビウスでも乗ったのか?」
戸惑うようなムウの声。
ああ、なるほど。俺がいたからあの時はニコルを倒してブリッツをアークエンジェルの戦力とする事が出来たが、この世界では俺がいなかったので当然ながらブリッツはそのままザフトの手に渡ったのか。
「俺が転移したのがブリッツの側でな。ニコルを倒して俺がブリッツを奪った。だから、俺が介入した世界において、アークエンジェルはキラのストライク、ムウのメビウス・ゼロ、そして俺のブリッツが戦力としてあった訳だ」
「羨ましいな、おい」
ポツリとムウが呟くと、マリューとキラがそれぞれ頷く。
実際、俺の操縦するブリッツがいなかったこの世界においては、戦力はキラのストライクとムウのメビウス・ゼロしかなかった訳で、それでプラスして俺が乗っていたブリッツもこの世界ではクルーゼ隊の戦力となっていた訳だし、この反応は当然だろう。
当時ザフト側だったアスランは、俺の話を聞いて微妙な表情を浮かべているが。
「まぁ、それでアルテミスに行ったり、デブリ帯でキラがラクスを助けたり、ハルバートンと合流して地球に下りたらアフリカに下りたり、バルトフェルドと戦ったり、何故かゲリラと行動を共にしていたカガリの暴走で手を焼かされたり、アフリカを脱出した後はオーブに行ったり……そんな感じだな」
俺が一気に説明すると、それを聞いた面々がそれぞれ微妙な表情を浮かべる。
「アクセルの話を聞く限りだと、詳細は色々と違うんだろうが、大雑把には俺達が経験した事と同じ流れなのか?」
確認するようなムウの言葉だったが……
「いや、俺はこの世界に来たばかりで、まだこの世界の歴史がどうなったのかは分からないしな。取りあえず……まぁ、最終的には俺の関与した世界ではオーブが世界の覇権を握っている」
『ちょっと待て』
俺の言葉に、思わずといった様子で何人もから突っ込みが入る。
これを見る限り、多分この世界でオーブは俺の知っているのとは違う道を歩んだんだろうな。
もっとも、俺の介入した世界でも連合軍がオーブに攻めて来た時に、シャドウミラーが協力していなければ恐らくこの世界と同じ歴史を辿ったのだろうとは思うが。
「言いたい事は分かる。多分分岐点は、オーブが連合軍に襲われた時だな。この世界では、多分連合軍の物量にやられたんだろう?」
そう言えば、話を聞いている面々が何度も頷く。
言葉にしないで頷くだけなのは、それだけ俺の口から出た言葉が予想外だったのだろう。
「シャドウミラーは高い技術力を持っていて、無人機を主戦力としている。……ちなみにその時に使われた無人機はメギロートという名前で、それによってオーブが守られた事から、オーブでは人形も作られたくらいだ。こういうのな」
そう言い、俺は空間倉庫からめぎろーと君を取り出す。
だが、今度はそこまで大きな反応はない。
いやまぁ、さっきのオーブが覇権を握ったというのが、それだけ驚きの内容だったんだろうけど。
「ちなみにだが、そんな風にこの世界の状況と色々と違っているからか、当然ながら人間関係とかそういうのも大きく違うぞ」
「……ちょっと聞くのが怖いけど、そうだな。じゃあ、キラはどんな感じなんだ?」
「ちょっ、ムウさん!? 何で僕から……」
ムウの言葉にキラが慌てたように言う。
とはいえ、ムウならこう聞いてくるのだろう事は、容易に想像出来ていた。
キラはブラックナイツの精神干渉によってやらかしてしまったのを気にしているのは間違いなく、だからこそ多少の気分転換をさせようと思ったのだろう。
「キラか? キラは現在オーブに住んでいて、フレイと同棲してるな。たまにラクスも泊まりに来ていて、近いうちに重婚が可能なホワイトスター……俺達シャドウミラーの本拠地だが、そこに移住をしようと考えているらしい」
「……え? フレイ?」
ムウの言葉に戸惑っていたキラだったが、俺の言葉を聞いてピタリと動きを止める。
「ああ、フレイ。フレイ・アルスターだ」
「生きて……?」
キラのその様子から考えると、恐らくこの世界でフレイは死んでしまったのだろう。
戸惑い、動揺し……ツ、とキラの目から一筋の涙が零れ落ちる。
「ああ、生きている。さっきも言ったが、キラのハーレム……というには2人しかいないが、とにかくそんな感じだな」
「……ハーレム……」
先程涙が零れ落ちたのが嘘のように、呆然とした表情で呟くキラ。
まぁ、キラの性格を考えれば、ハーレムとかは似合わなさそうだしな。
「キラがハーレム? ……わははは、すげえなこりゃ」
ムウが心の底から面白そうに笑う。
今だけは、ファウンデーションとかそういうのを関係なく、気分転換の意味も込めて笑っているのだろうが……
「あのな、ムウ。お前も他人事じゃないぞ?」
「……え? 俺も?」
ピキリと俺の言葉に動きを止めるムウ。
そんなムウを、隣のマリューはジト目で見ている。
「ああ、まず……その、今のお前にとっては信じられないかもしれないけど、お前とくっついたのはマリューじゃなくてナタルだ」
『え!?』
マリュー、ムウ、キラが揃って驚きの声を上げる。
驚きの中に一瞬辛そうな表情があるのを考えると、フレイと同じくナタルもこの世界では死んでいるのだろう。
実際、俺が介入した世界においても、ナタルはアークエンジェル級2番艦のドミニオンに乗っていた。
もしムウに頼まれて助けていなければ、恐らく俺達の世界でもナタルは死んでいただろう。
「で、ムウは最終的にオーブじゃなくてシャドウミラーに所属する事になったんだが……」
「……ファントムペインじゃないのか」
小さく呟くムウ。
ファントムペイン? というのに疑問を抱いたが、ブルーコスモスの私兵的な感じの部隊としてそういうのがあったと……あれ? じゃあ、ちょっと待てよ?
「スティング、アウル、ステラ」
『っ!?』
俺の言葉に、ムウは激しい動きでこちらを見てくる。
いや、ムウだけではない。何故かシンまでもが俺に強烈な視線を向けていた。
何でシンが?
そう思ったが、考えてみれば分からないでもない。
俺が介入した世界では、オーブが勝利した後でブルーコスモスを根絶する為に動いて、スティング達を保護出来た。
だが、この世界ではそれが出来ず……そうなると、スティング達はブルーコスモスの私兵として、つまり何故そうなったのかは分からないがファントムペインにいたムウがその3人を部下としていたのだろう。
シンは……何だろうな?
この世界ではオーブが連合軍に占領されたから、コーディネイターのシンはプラントに避難し、その流れでザフトに所属してスティング達と戦ったってところか?
「ちなみにその3人はエザリア・ジュールの養子になって、イザークの義弟や義妹になってるな」
「へあっ!?」
そんな妙な声を発したのは、アスラン。
いやまぁ、それは分かる。
アスランとイザークは戦友なのだから。
「話は逸れたが、ムウはナタルと付き合っていて……あれ? 結婚したんだったか? そんな感じだ。それでシャドウミラーはこの世界に来たように色々な世界に行く訳で、そんな中にはファンタジーの世界もあって、そこに住んでいたエルフが諸々の事情によってシャドウミラーに所属する事になって、そのエルフの1人がムウに迫っている」
「それは……この場合、どう反応すればいいんだ?」
「エルフですって。良かったわね」
「いや、マリュー。別に俺の話じゃないだろ? これは、あくまでもこの世界とは別の世界の話だろ」
慌てて言い訳をするムウに、追撃の一撃という訳でもないが言葉を続ける。
「ちなみにスティング達がエザリアの養子になったように、ムウとナタルも養子を取っている。……誰だと思う?」
「……スティング達の仲間か?」
「いや、レイだ。クルーゼと同じく、お前の父親のクローンの」
「レイがっ!?」
この言葉に反応したのは、ムウ……ではなく、シン。
ルナマリアとメイリンも声には出さないが、その表情には驚愕の色がある。
……ちなみに当然ながら、ムウの表情は複雑なものとなっている。
無理もないか。
レイはムウにとって宿命のライバルと呼べるクルーゼと同じく、ムウの父親のクローンなのだから。
ムウにしてみれば、遺伝子上の父親を養子にしたという複雑な状況になるのだから、
「ああ、そうだ。ちなみにレイが負っていた遺伝子的な欠陥については、シャドウミラーの技術力で治療が終わっている」
とはいえ、レイの遺伝子的な欠陥というのは急速な老化だ。
……時の指輪の受信機を身に付けていた場合、遺伝子欠陥があっても問題はないのか、それとも遺伝子欠陥は話が別なのか、その辺は少し気になるんだよな。
もっとも、既に遺伝子欠陥の治療は完了してるので、その辺を気にする必要はないんだが。
「その、アクセルさん。ちょっといいか? 今の話を聞いてる限りだと、俺があんたと会っている理由が分からないんだけど。キラさん達については分かったけど」
シンが恐る恐るといった様子で聞いてくる。
まぁ、今の話の流れからして、俺とシンがいつどこで会ったのかというのは分からなくても仕方がないか。
「アークエンジェルがオーブに来た時だったか? 取りあえずシンの妹のマユはめぎろーと君が好きで、シンに頼んでコーディネイターの身体能力を使って買っていたのを覚えてるな」
「……え?」
俺の言葉を聞いたシンが、愕然とした様子を見せる。
あれ? てっきりもっと違う反応をするのかと思っていたんだが……ちょっと予想と違うな。
「マユが……生きてる?」
呆然とそう呟くシン。
……なるほど、シンの様子を見る限りだと、どうやらこの世界においてシンの妹のマユは死んでいるらしい。
何でだ? と思ったが、すぐに納得する。
俺が介入した世界においては、連合軍がオーブに攻めて来た時、シャドウミラーの戦力があったからこそ対処出来た。
だが、俺が介入していない原作の世界においては、シャドウミラーが存在しない以上、当然ながら俺達の戦力なしで連合軍と戦う必要がある。
そうなればオーブが連合軍に占領されるのは間違いないし、恐らくはその時の戦闘に巻き込まれて、マユは……場合によっては、両親も死んでしまったのだろう。
「ああ、俺達の世界では生きている。今は……ちょっと何をしているのかは分からないが。シンやその家族とはそこまで付き合いがあった訳じゃないし」
「家族……父さんや母さんも……」
「シン……」
ルナマリアが、シンの手を握る。
「なるほど、この世界ではシンとルナマリアはそういう関係か」
「え? 私も知ってるんですか? ……あ、そうか、レイを知っていたから、その関係からですか?」
「あー……いや、それとは違うな。どんな理由だったのかはちょっと忘れたけど、プラントに行った時にルナマリアとメイリンの2人に会って……シミュレータをやったんだったか? うん、確かそうだ。その時はグフイグナイテッドを使った覚えがある」
グフイグナイテッドは、遠距離用の武装がないのがちょっと難点だったが、中距離と近距離では強かった。
ギャン、ゲルググ、ズゴックとかを思えば、何でUC世界のMSの影響がこっちに出てるんだろうな?
いやまぁ、これが俺の知っているSEED世界なら、異世界間貿易で分からないでもないんだが……この世界は……
そんな疑問を抱きつつ、俺はマリューに視線を向けるのだった。