『……』
沈黙が部屋の中に満ちる。
その沈黙の理由は、当然ながら驚きというか……うん。まぁ、そんな感じによるものだ。
現在この部屋にいるのは、シャドウミラー側からは俺とレモンと明日菜、それ以外はSEED世界出身者達。
……ちなみに何故俺とレモン以外に明日菜がいるのかは、ステラが半ば強引に明日菜を連れてきた為だ。
明日菜とステラ、一緒に仕事をしている事もあって、何だかんだと仲が良いんだよな。
というか、懐いているといった表現の方が正しいのか?
そんな訳で、この世界に来る際には明日菜も一緒じゃないと嫌だと駄々をこね……幸い、明日菜ももう1つのSEED世界と呼ぶべきこの世界には興味があったらしく、今日はもうそこまで緊急の仕事もないという事で、こうして来ている訳だ。
「ほら、このまま黙っていても話は進まないでしょう? お互いに会いたい面々もいたんでしょうし、話をしてみたら?」
レモンが促すように言うと、真っ先に口を開いたのはムウだった。
「じゃあ、その……若いマリューに聞きたいんだけど……」
「あら、向こうの私が若い私なら、ここにいるのは年増の私なのかしら?」
呼び掛けたムウの隣にいたこっちの世界のマリューが、笑みを浮かべつつも決して目は笑っていない、そんな笑顔でムウに向かって言う。
ギギッ、と。
マリューのそんな言葉にムウは動きを止める。……いや、より正確には動けなくなったといった方が正しいか。
「うわ、この世界の俺情けねえ」
「ムウ。貴方もこちらの世界のムウの事を言えないと思いますよ?」
この世界の自分に呆れの視線で見ていたムウだったが、そんなムウに対し隣のナタルがそう小言を口にする。
とはいえ、狙っていたのか、それとも偶然だったのか、その辺は分からないが今のやり取りで完全にではないしろ、この世界とシャドウミラー側にあった微妙な雰囲気は消えたらしい。
「ナタル……なのよね?」
「はい。その、こちらの世界の私は死んだと聞きましたが……私も、ムウがアクセルに私を助けるように言っていなければ、同じ運命だったでしょう」
この世界のマリューとシャドウミラーのナタルがぎこちないながらも、話をし……
「スティング、アウル、ステラ……お前達、向こうの世界では無事だったんだな。本当によかった」
「ちょっ、何だよこっちの世界のムウは!」
3人纏めて抱きしめられた中で、アウルが真っ先にそんな悲鳴を上げる。
スティングは仕方がないといった大人な対応をしており、ステラは小首を傾げている。
「ちょっ、アクセル? こっちの世界のムウさん、本当に大丈夫なんでしょうね?」
自分に懐いているステラがムウに抱きしめられているのを見て、明日菜が聞いてくる。
「安心しろ。ムウにそういうつもりはないから」
実際、ムウの表情にあるのは親愛とかそういうのだ。
敢えてその感情に名前を付けるのなら……父性、だろうか?
「うー……まぁ、いいけど。それより、SEED世界に対してこの世界があったのなら、私達の世界にもアクセルが介入していない世界とか、そういうのがあると思う?」
ステラの件は明日菜もそこまで本気で言ってる訳ではなかったのだろう。
そうしてネギま世界について聞いてくるが……
「まぁ、あるかないかで言えば、あると思うぞ」
この世界は俺が介入していないSEED世界だ。
であれば、ネギま世界でも……いや、ネギま世界に限らず、他の世界でも同じように俺が介入していない世界の……原作通りに進んだ世界があってもいい筈だ。
とはいえ、俺が介入していないネギま世界がどうなっているのか、予想は出来ないけど。
「レイ、まさか生きてるなんて……その、身体の方はもういいのか?」
「私達がレイより年上ってのは、ちょっと違和感あるわよね」
「ちょっと、お姉ちゃん、そういうのは言っても意味がないでしょ」
「あ、ああ。その……すまない。お前達は俺を知ってるのかもしれないが、俺はお前達を知らないんだ」
レイは戸惑った様子でシン達に言う。
まぁ、無理もないか。
オーブが勝利者となった時、諸々があってレイはシャドウミラーに来てムウの養子になった
つまり、原作では親交があったのだろうシン達とは会っていない。
……あ、でもシャドウミラーの人員として、SEED世界に行く機会はあったんだし、そこでならシンと会ったりしても……いや、この様子を見るとそういうのもなかったっぽいな。
とにかくレイにとっては初対面なのに、シン達は気安く接してくるのでレイは戸惑ってしまい……
「痛っ!」
不意にそんな声がシンの口から上がる。
何だ? とそちらに視線を向けると、数秒前までレイと話していたシンが、ルナマリアに抓られていた。
「あのね、レイを見れば分かるでしょ。あの子もシンの知ってる女の子かもしれないけど、別人なのよ」
「分かってるってば」
その言葉で、何となく何について話しているのかは理解出来た。
この世界において、シンがステラと何らかの関係があったのは俺も知っている。
それだけに、レイと話をしながらもシンはステラに視線を向け、それを恋人のルナマリアに咎められたといったところなのだろう。
「イザークは……やっぱりイザークなんだな」
「何だそれは。全く……それを言うのなら、アスランもアスランだな。それで、この世界の俺はどうなっている?」
「今もザフトで働いているよ。白服でな」
「ふんっ」
「それより、その……恋人が出来たと聞いたけど、本当なのか?」
「アクセル、貴様ぁっ!」
恋人といった単語が出た瞬間、イザークが俺を睨み付けてくる。
どうやらその辺はアスランに知られたくなかったらしい。
ちなみにそのイザークの母親のエザリアは、イザークとアスランの、そしてムウとスティング達3人のやり取りを見て、嬉しそうに微笑みながら用意されたお茶を飲んでいた。
「こうして見ると……本当に若いわね」
「時の指輪というマジックアイテムのお陰ね。他にもホワイトスターには美容に良い魔力泉の温泉もあるから、そういうのも影響してるのかしら」
こちらでは、ナタルを含めて2人のマリューが会話をしていた。
そんなやり取りを眺めつつ、俺はレモンに尋ねる。
「それで、レモン。アギュイエウスの方はどうするんだ?」
「残念だけど、元に戻すわ。当初の予定とは違う結果を生み出したんだもの。そう考えると、このままアギュイエウスに手を入れるのは不味いでしょ。もう少し……そうね、技術力が高くなったらまた挑戦してみたいとは思ってるけど」
俺がこの原作の世界に来たのは、レモンにとってもかなり予想外の結果ではあったらしい。
とはいえ、それが悪かったかと言われると、決してそうでもないんだが。
実際にこの世界に来たお陰で、再びSEED世界の未知の技術を入手出来るようになったのだから。
そういう意味では、寧ろ利益の方が大きい。
もっとも、それはあくまでもファウンデーションが企んだ今回の騒動を解決してからの話だが。
「こっちの戦力は?」
「万全よ。コーネリアもやる気満々だし」
「……2人の話を聞いていると、そのファウンデーション? とかいう国がもの凄く可哀想になってくるんだけど」
俺とレモンの会話を聞いていた明日菜が、目に哀れみを込めながらそう言ってくる。
勿論その哀れみは、俺やレモンではなくファウンデーションに向けられているのだろうが。
「まぁ、否定はしない。とはいえ、俺達が介入しなくても結局ファウンデーションが負けていたのは事実だと思うし。そういう意味では、俺達が介入した結果戦争……紛争? それが早く終わるから、結果的に死人の数は減るんだよな」
この世界もまた、原作……俺が介入したSEED世界ではなくなった、続編とかそういう感じの世界なのは間違いない。
つまり、原作のある世界である以上、最終的にはキラ達が勝利するのだろう。
「それにしても、恋人が組織のトップか。何だか聞いた覚えがあるような設定ね」
明日菜がジト目を向けてくる。
まぁ、シャドウミラーを率いる俺には恋人達が20人以上いるしな。
そう考えれば、俺とキラの立場は若干違うが、似たようなものなのだろう。
ちなみにそのキラは、2人のマリューやナタルと話をしている。
キラにとって、ナタルというのは決して仲の良い相手ではなかった筈だ。
アークエンジェルに乗っていた時のナタルは、他人にも自分にも厳しく、それでいて杓子定規なところがあったしな。
幸いなことに、今となってはそういうのはなくったけど。
……シャドウミラーにいれば、杓子定規とかそういうのはまず無理だしな。
「まぁ、キラとラクスは俺達が介入したSEED世界でも付き合っていたしな。フレイがいないのは違うけど」
「私達の世界に来る前に、SEED世界にいたんだったわよね?」
「そうなるな」
SEED世界で起きていた戦争を終わらせたところで、ブルーコスモスだったと思うが、とにかくテロを行った結果、俺はネギま世界に転移したんだよな。
そこで色々とあって……結果として、俺は人ではなく混沌精霊になった。
「そう考えると、私とこの世界も不思議な縁があるのかもしれないわね」
「なら、今度この世界で行われる戦いに参加するか?」
「やめてよね。私はそういうのが出来ないから、実働班じゃなくて生活班で働いているんだから」
「……もし人を殺すとか、そういう事じゃなくて、人質の救出とかだったらどうだ?」
現在、この世界のラクスは行方不明となっている。
今どこにいるのか、正確には分からないが、ファウンデーションに捕らわれているのはほぼ間違いないだろう。
であれば、当然ながらこちらとしては捕らえられているラクスの救出を行いたい。
明日菜はラクスを助ける戦力としては非常に期待出来る。
何しろ咸卦法を使える明日菜は、人を殺す事なく相手を鎮圧するのに向いている。
シャドウミラーから人を出してもいいんだが、その時は普通にファウンデーションの兵士達を殺すといった事になるだろう。
殺さなくてもいいのなら殺さないだろうが……それでもやっぱり兵士とかは殺しても、そちらの方が確実なのは間違いないし。
「少し、考えさせてちょうだい」
明日菜は俺の言葉にそう言ってくる。
明日菜にとっては、ラクスの救出に参加したいという思いがあるのだろう。
元々明日菜はそれなりに好戦的な性格をしている。
エヴァとの戦闘訓練とかにも、かなり参加しているし。
それだけに、この世界の人を相手にして戦った場合、かなり有利に戦える。
もっとも、それはあくまでも生身での戦闘に限るもので、相手がMSとかを出してきたら……うーん、どうだろうな。
意外と明日菜なら何とかなるかも?
何となくそう思う。
「ああ、頼む、……ちなみに助ける対象はキラ……あそこにいる男の恋人だ」
「……ここでそういう事を言うのは卑怯だと思うんだけど」
不満そうな様子で言う明日菜だったが、別に俺は嘘を言っている訳ではない。
実際にラクスがキラの恋人ではあるのは間違いないのだから。
「参考にしてくれ」
そう言うも、明日菜の顔はまだ不満そうな色のままだ。
こういうのが明日菜の良いところだよな。
そんな風に思っていると、先程までイザークと話をしていたアスランがこちらに向かってくる。
「アスラン? どうしたんだ? イザークの相手はもういいのか?」
「……いや、ラクスを助けにそちらの女性を使うと聞こえたんだが、本気なのか?」
「む。ちょっと、何よ」
アスランの言葉は別に明日菜の実力を否定するようなものではなかったのだが、明日菜にしてみればアスランから実力を否定されたように感じたらしい。
不満そうな……ただし、俺に向けていたのとはまたちょっと違う不満そうな様子で、アスランを見る。
だが、アスランはそんな明日菜の様子は気にせず、俺に視線を向けてくる。
「どうなんだ?」
「俺としてはそのつもりだ」
「……ファウンデーションの上層部は、恐らく全員がコーディネイターだ。この女性にどうにか出来る相手ではない」
「アスラン、その辺にしておけ」
そう言ったのは、俺……ではなく、こちらもまた先程までアスランと話していたイザーク。
「イザーク! お前もどういうつもりだ!? この女性にラクスの救出を任せるというのは……死にに行くようなものだぞ!?」
「どういうつもりだというのは俺の言葉だ。アスラン、お前はアクセルの戦闘力を見たんだろう? なら、そのアクセルが連れてきた女を何故信じられん? ……正直な事を言おう。MS……俺が今乗っているのはPTだが、お前にはMSといった表現の方が分かりやすいからそう言わせて貰うが、MSに乗っての戦いであれば俺は明日菜に負けるつもりは一切ない。だが、生身での戦いとなると……負けるとは言いたくないが、勝率は2割……いや、どう頑張っても3割といったところだ」
「……は?」
イザークの口から出た言葉に、アスランは間の抜けた声を出すのだった。