「そんな……」
キラが思わずといった様子で呟く。
驚きの言葉を口にしたのはキラだけだったが、コンパスの主要な面々は声も出さずに驚きの表情を浮かべている。
それもただの驚きではなく、驚愕といった表情が正しいのだろう驚きだ。
無理もない。恐らくコンパスの中で、アスランは生身での戦闘においてもトップクラスの実力を持つ。
あ、いや。違うな。
アスランは現在ターミナルに出向中の身だから、コンパスに所属という訳ではないのか。
ともあれ、アスランの実力を知っている者にしてみれば一体何がどうなっているのか理解出来ない状態なのは間違いない。
自分達の中では最強……とまではいかないが、それでもそれに近い実力を持っているアスランが、明日菜のような一見すると戦闘に向いているようには見えない女に手も足も出ずに負けたのだから。
現在俺達がいるのは、先程の会議室ではなく格納庫。
ファウンデーションに捕らわれたラクスを取り返すのを明日菜に頼んだのだが、それを聞いたアスランが危険だと主張し、しかしそんなアスランの意見をイザークが否定した。
だが、アスランは当然のようにそれでは納得が出来ず、結局こうして模擬戦を行う事になった訳だが……うん、この世界の住人に明日菜が勝利するのを予想しろという方が無理だったよな。
アスランは、この世界……俺が介入していない原作通りのSEED世界においては、生身でも間違いなく最強クラスの1人だろう。
だが、それはあくまでも魔力や気の存在しないこの世界においての話だ。
そして明日菜は魔力と気の両方が必要な咸卦法の使い手。
発動すれば、肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・耐毒等の作用が働く究極技法と呼ばれる技術だ。
これについては訓練もそうだが、生まれ持った才能がものをいう。
事実、シャドウミラーにおいても明日菜以外に咸卦法を使える者はいない。
……もっとも、それはあくまでも咸卦法を使えないというだけで、エヴァや俺を始めとして、咸卦法を使った明日菜に勝てる人員がいないのかと言われれば、それは否なのだが。
「さて、理解して貰えたと思うが、この明日菜なら生身でコーディネイターの兵士を数人、十数人、数十人相手にしても勝つ事が出来る」
そう言うと、実際にアスランが何も出来ずに負けたのを見ていただけに、俺の言葉に反論する者はいない。
「ちなみに咸卦法が使われていれば、生身で銃弾も防ぐ事が出来る」
その言葉にこの世界の者達がざわめくが……
「ちょっと、アクセル。勝手な事を言わないでよね! 銃弾に当たったら、痛いんだから!」
俺の言葉を聞いた明日菜が、そう叫ぶ。
すると再びそれを聞いていた者達がざわめく。
「え? ちょっ、何よ? 何でいきなりこんな感じになるの?」
周辺の様子に戸惑った様子の明日菜だったが……それも当然だろう。
明日菜は銃弾が当たれば痛いのかもしれない。
だがそれはつまり、銃弾が当たっても痛いといった程度の被害しかないのだ。
普通なら銃弾が当たれば、悪ければ即死、そこまでいかなくても重傷になる。
だが、明日菜の場合はせいぜいが痛い……打撲とか、そんな感じか?
ラクスを助け出す戦力としては、この上ないものがあるだろう。
……まぁ、もっと本気で助け出すのなら、それこそエヴァを連れてくるなりなんなりすればいいんだが。
ただ、エヴァの場合は余程の事がない限り、こちらの要望を受け入れはしないだろう。
これがまだ鬼滅世界のようにエヴァに興味のある世界であればまだしも、この世界は……個人的には色々と興味深いものがあるんだが、それはあくまでも俺が興味深いだけであって、エヴァにはそうでもないしな。
エヴァは一応形式的にはシャドウミラーに所属しているものの、実際にはそこまでしっかりと本人にそういう意識はない。
どちらかといえば……そう、相談役のような感じといった表現が分かりやすいと思う。
勿論、生身での戦闘訓練をしていたり、あるいは魔法について相談に乗って貰ったりもする。
凛なんかは魔術師だが、エヴァの知見を頼ったりもしているしな。
「普通なら銃弾が命中したら、痛い程度じゃないからだよ。……良い意味でも悪い意味でも、明日菜はシャドウミラーに染まってるな」
「ちょっ、何よいきなり、私がアクセルに染められてるって、いきなりこんな所で何をいうのよ!?」
は? えっと……いきなり何を?
何故かいきなり照れ出す明日菜。
そして他の面々は……それこそ先程の銃弾の説明を聞いた時にはざわめいていたこの世界の者達も、何故か俺や明日菜に向けて生暖かい……生温い? そんな視線を向けてくる。
「取りあえず、明日菜はラクスの救出。後は戦力だけど……シャドウミラーから戦力を出すにしても、そうなるとコンパスがそんな戦力を持っていたって事になると思うけど、どうする?」
「あ、誤魔化した」
この世界のムウが何か言ってくるものの、次の瞬間にはこの世界のマリューに一睨みされ、黙り込む。
そんなムウとマリューの光景に、シャドウミラー勢は珍しいものでも見るような視線を向けている。
……スティングとアウルはゲラゲラと笑っていたが。
この世界の者達にとって、これはそう珍しい光景という訳ではないのだろう。
だがシャドウミラー側の者達にしてみれば、マリューは俺の恋人だし、ムウはナタルの恋人という認識となっている。
だからこそ、今の目の前の光景は新鮮だったのだろう。
何だかナタルのジト目がこちらのムウに向けられているが、気にしないようにする。
「で、戦力についてはどうする? SEED世界ならオーブが世界の覇者として存在しているし、シャドウミラーとの関係も公になっているからシャドウミラーの戦力を存分に出しても問題はないけど、この世界だとシャドウミラーという存在は誰も知らない。シャドウミラーの戦力を出すと、それがコンパスの戦力として、過剰な戦力を持っていたと後で非難される可能性がある」
何しろ、文字通り世界そのものを戦える戦力だ。
いや、この場合は戦えるではなく、世界を滅ぼす事が出来る戦力といった表現の方が正しいか。
そんな戦力がコンパスという……国でもない組織の戦力として出てくれば、他の国から不満が出るのは間違いない。
そうなると、ファウンデーションの一件が片付いた後で、最悪コンパス対他の国々となってもおかしくはない。
それが分かっているので、マリューも俺の言葉に難しい表情を浮かべるのだろう。
あるいはここにラクスがいれば、何かアイディアを出したかもしれない。
今は半ば成り行きでマリューがコンパスの指示をしているものの、あくまでもコンパスのトップはラクスなのだから。
「では、オーブが後ろ盾になろう」
倒れたアスランの介抱をしていたカガリが、不意にそう言う。
「本気か?」
「ああ、正直なところオーブとしても色々と問題になるだろうが、コンパスが隠していた戦力とされるよりは、オーブの戦力とした方がいい。……それに、お前達はもう1つの世界では、お父様を助けてくれたのだろう? なら、私にとっても恩人なのは間違いない」
うわぁ……このカガリ、うわぁ……
本当にこれ、カガリか?
俺がSEED世界で始めて遭遇したカガリの将来の人物がこのカガリだとは、とてもではないが信じられない。
まぁ、人間というのは誰しも成長するものだ。
そう考えれば、カガリがこうして成長してるのはそうおかしな話じゃないのかもしれないな。
「分かった。俺達はそれでもいい。……マリュー、コンパスはそれでいいか?」
俺に呼ばれたマリューは少し微妙な表情を浮かべる。
これは多分、俺が恋人のマリューに呼び掛けるような感じで呼んだからだな。
実際、年増のマリュー……というムウの自爆はともかく、俺の恋人のマリューとこの世界のマリューは同じ人物ではあっても色々と違いがある。
年齢の件はともかく、肌の艶とか……多分だが、身体のサイズも色々と違うだろう。
その辺は、毎晩のように俺や他の恋人達と熱い夜を楽しんでいるのも影響してるのだろうが。
実際、さっきの部屋……交流会? とでも呼ぶべきものをしていた部屋では、こっちの世界のマリューが俺の恋人のマリューに美容関係について色々と聞いたりしていたしな。
「ええ。正直色々と思うところや不安はあるけど、今はそれどころじゃないでしょうし。私も異論はないわ」
そんな訳で、カガリの英断という……俺が初めてSEED世界に介入した時から考えると、とてもではないが信じられないよう事によって、シャドウミラーはオーブの戦力という扱いで動く事になった。
今回のファウンデーションの一件が終わった後、改めてシャドウミラーという異世界の組織とオーブは友好関係を結んだと発表するのか、それともあくまでもシャドウミラーの存在は隠し通すのか。
その辺がどうなるのかは、生憎と俺にも分からないが……今回の一件、シャドウミラーの戦力をかなり出す事になるので、多分隠し通すのは無理じゃないかなと思う。
もっとも、それはあくまでも俺がそう思っているだけであって、カガリがどう考えているのかは分からないけど。
ともあれ、そうして話が決まるのだった。
「は? マジか?」
ゲートから次々とシャドウミラーの戦力が出てくるのを眺めていると、とんでもない事態になった。
何でもファウンデーションの者達は宇宙に脱出した後で、月の裏側にあるダイダロス基地を占拠すると同時に、演説。
その演説の内容は、ファウンデーションにおいてはデスティニープランが採用されており、アコードというコーディネイターの上位種の存在の暴露。
そして全世界にディスティニープランの採用を求め、同時にファウンデーションに核ミサイルを撃ち込んだ報復としてユーラシア連邦の首都であるモスクワをレクイエムという兵器を使い破壊。
それをデモンストレーションにして、デスティニープランを受け入れない国はレクイエムで攻撃すると明言した。
ここまで一気に事態が動くというのは、さすがに予想外。
というか、まさかデスティニープランがここでも影響してくるとは。
もしかして、デュランダルがデスティニープランを使った会社を作っていると話したのが、何らかのフラグになってしまったのか?
そうも思ったが、もう起こってしまった事は仕方がない。
「アクセル、すぐに宇宙に上がって戦力を整えるわよ」
色々と情報を調べていると、レモンがやって来て俺にそう告げる。
とはいえ、その事については特に驚きはない。
相手が宇宙にいる以上、こちらもまた宇宙に上がる必要があるのだから。
宇宙に上がる事そのものは、当初の予想通りではある。
……とはいえ、それでも予定が若干早まったのは間違いないのだが。
普通なら、シャドウミラー程の戦力を宇宙に上げるとなると、かなりの手間だ。
だが、それはあくまでも普通ならの話で、システムXNを有するシャドウミラーにしてみれば、地上から宇宙に転移するのは容易だ。
それどころか、月のダイダロス基地に直接転移して攻撃するといったことも可能だ。
個人的にはそうした方が手っ取り早いとは思うんだが、オーブ側、コンパス側の事情もあってそれは禁止されたんだよな。
なので、システムXNを使って転移をするのはあくまでも地球から宇宙まで転移するだけに留める事になっていた。
「分かった。けど、まさかファウンデーションがここまで大きく動くとはな。……まぁ、自国に核ミサイルを撃ち込むといった事をする時点で、これ以上なく大きく動いているんだけどな」
「そうね。アクセルがこの世界に介入した事で、マシになったとは思うわよ」
「それは否定しない」
実際、俺が転移した時に戦いが行われており、その戦闘に介入した事でファウンデーションの最精鋭部隊であるブラックナイツを何人か殺しているし、生き残りのブラックナイツも、俺に精神干渉をしようとした奴は発狂したりと、ブラックナイツの被害は決して小さくない。
そういう意味では、俺がこの世界に介入したのは間違いなくプラスに、メリットになっている。
……もっとも、ファウンデーション側にしてみればいきなり出て来た俺の影響で当初の予定よりも大きな被害を受けたのは間違いない。
そういう意味では、ファウンデーション側にとって俺という存在は疫病神のようなものだろう。
俺が今オーブにいると知れば、それこそすぐにでもレクイエムを撃ってきてもおかしくはないと思える程に。
「でしょう? だから、今はまずファウンデーションを倒す事を優先しましょう。それが終わった後で、面倒は片付ければいいのよ。……最悪、ゲートを撤去してこの世界から去るといった方法もあるんだし」
「そうなると、カガリがもの凄いブチ切れそうだな」
カガリの性格を考えれば、それこそ何をしてもおかしくはない。
とはいえ、それも全てはファウンデーションを倒してからの事になるだろうが。
そんな風に思いつつ、俺はゲートから出てくるシャドウミラーの戦力を眺めるのだった。