ファウンデーションが占拠したアルテミス。
そのアルテミスにいるラクスを助ける為に、明日菜が量産型Wやコバッタと共に侵入し、ラクスを助けたのだが……それが何をどうしたのか、ファウンデーションのトップ2人、女王のアウラと宰相のオルフェを捕らえたのだ。
ファウンデーションにしてみれば、この状況は完全に予想外だっただろう。
……そもそも、俺だってこの展開は予想外だったし。
ともあれ、明日菜からのオープンチャンネルによってアウラとオルフェが捕らえられたこの状況は、どのように動けばいいのか、多くの者が分からない。
分からないが……とはいえ、これはちょっと危ないな。
「システムXN、起動。転移座標入力……OK、転移フィールド生成開始」
ニーズヘッグの姿が光の繭のような転移フィールドに覆われる。
普通に移動してもいいんだが、ニーズヘッグが通常の移動をすると、どうしても目立つ。
そうなると、ファウンデーションの部隊がこちらの動きに気が付くだろう。
もっとも、転移フィールドは光の繭なので、そういう意味では目立つだろう。
ファウンデーションの兵士は多くが明日菜からのオープンチャンネルを見ているせいかなのか、動く様子はない。
転移と普通の移動のどちらが有効なのかは、正直なところ分からない。
その辺については、それこそ運次第だろう。
ただ、機体が直接移動するのと転移では、転移の方が速い。
そう判断し……
「転移フィールド生成完了。……転移」
システムXNを使い、転移する。
転移した先は、アルテミスの前。
正確には、アルテミスとファウンデーションの部隊を遮るような形だ。
ファウンデーションの部隊……軍艦の方は分からないが、MSの動きは間違いなく動揺したのが分かった。
それを確認してから、俺はオープンチャンネルで話す。
「ファウンデーションの者達は降伏しろ。お前達の女王と宰相が捕らわれた以上、もうどうしようもない筈だ。大人しく武装解除しなければ、ここでお前達を殲滅する事になる」
本来なら、ここで敵が何か怪しい動きを見せたら……もっと具体的には、この状況でも戦いを諦めないのならオルフェとアウラを殺せと明日菜に言いたいところなのだが、明日菜の性格を思えばそれは出来ないだろう。
これで明日菜が実働班の人間なら、いざという時は冷静に……冷酷に行動したりしてもおかしくはないのだが、残念ながら明日菜が所属しているのはあくまでも生活班だ。
シャドウミラーの人員という事で一応戦闘訓練は行っているし、咸卦法を使えば本気ではないにしろエヴァともある程度は戦えるだけの実力を持ってはいるものの、それでも生活班の所属だ。
オルフェを含めてアウラ以外の者達にしたように気絶させるのはともかく、殺すといった事は出来ないと思う。
……あるいは、本当にあるいはの話だが、もしアウラやオルフェが生身でも非常に強力な戦闘能力を持っており、咸卦法を使った明日菜と互角に戦えるのなら、もしかして戦いの流れの中で殺してしまうといった事もないとは言えないが。
ただ、この世界の人間――コーディネイターやアコード含む――が明日菜に、それも咸卦法を使った明日菜に勝てるとは到底思えない。
つまり、戦いの流れの中で明日菜が敵を殺すといった事はまず起きない。
だが……ファウンデーションの部隊の連中がそれを知れば、明日菜が殺さないからこそ、戦いを続けてもおかしくはない。
ブラックナイツを始めとして、ファウンデーションの戦力は決して無能という訳ではないのだから。
……まぁ、俺に精神干渉をした結果発狂した奴もいたが、その辺については俺という存在を知らなかったのだから仕方がない事ではあるだろう。
そんな訳で、今俺がファウンデーションとアルテミスの間に立ち塞がるのは、自然な成り行きではあった。
『お主……何者だ?』
ふと、そんな風に尋ねられる。
誰が尋ねたのかは、考えるまでもない。
映像モニタを通して尋ねてきたのだから、アウラだろう。
……あ、いつの間にかさっきの明日菜のオープンチャンネルの通信がニーズヘッグに対する直通の通信になっている。
アウラがやったのか?
まぁ、それはどうでもいい。
「言っても、お前達には分からないし、聞いても無駄だと思うぞ?」
実際、アウラが幾ら有能であっても……いや、有能だからこそ、まさか異世界から俺達がやって来たとか、そう考えたりはしないだろう。
『……』
しかし、アウラは俺の言葉に何も言わず、無言で視線を向けてくる。
それは俺が何を言っても信じる……というのではなく、何があっても俺から話を聞かないと納得しない、出来ないという事なのだろう。
まぁ、その気持ちは分からないでもない。
アウラに……というか、ファウンデーションにしてみれば、今回の一連の騒動は長い時間を掛けて準備をしてきた筈だ。
何しろ自分達の国に核ミサイルを撃ち込んですらいるのだから。
そこまでして今回の騒動を起こしたのに、俺の、俺達の……シャドウミラーの存在によって、あっさりとその企みは潰えた。
それも惜しいところまでいったとかではなく、どうしようもない状態で。
だからこそ、アウラにしてみれば一体何故そうなったのか、その原因となった俺達の存在について知りたいのだろう。
まぁ、別に絶対に話せないって訳じゃないし……いいか。
それを信じるかどうかはともかく、説明くらいはしてやろう。
「俺達はシャドウミラー。お前達から見れば、こことは異なる世界、比喩でも何でもなく、文字通りの意味で異世界、あるいは並行世界やパラレルワールドといった場所から来た国だ」
『……へ?』
アウラの口から出たとは思えない、間抜けな声。
いや、幼女のアウラの口から出たと思えば、ある意味では似合っていると言ってもいいのかもしれないな。
とはいえ、このアウラもファウンデーションの女王である以上は見た目通りの年齢ではないのだろうが。
この世界は、外見と年齢が見合っていない者が多い。
コーディネイターだから……というのは違うだろう。
エザリア……この世界のエザリアをちょっと見たが、時の指輪の受信機を持っているシャドウミラーのエザリアと比べてもそう違いがあるようには見えない。
エリカも俺が知っているエリカとそう違いがあるようには思えないし、マリューもそうだ。
マリュー以外がそうであれば、あるいはコーディネイターの特性だからという事で納得も出来るのだが、ナチュラルのマリューもそうだしな。
もっとも、この世界のマリューにはマリューで色々と思うところがあるらしく、シャドウミラーのマリューと何か色々と話していたりするのを何度か見た事があったが。
……ラクスやルナマリア、メイリン、カガリといった面々は以前俺が見た時と比べると大人っぽくなっているので、成長しないって訳じゃないんだろうが。
つまり、この世界特有の現象なんだろう。
そんな訳で、アウラが外見通りの年齢ではなくても、特に驚いたりはしない。
特に俺の場合は、魔法とかそういうのも普通に使っていたりするから余計に。
「異世界、だ。ちょっとしたミスでこの世界に来た時、丁度お前達のせいでキラが暴走しているあの現場だったんだよな。そこからはまぁ……成り行きだ」
そう言うと、アウラの表情が先程の間の抜けた声を発した時のものから、引き攣っていく。
無理もないか。
偶然で自分達の企みを打ち砕かれたと、そう言われたのだから。
あるいは俺達がSEED世界について知らなければ、もしかしたらコンパスではなくファウンデーション側に協力した未来もあったかもしれない。
だが、アウラにとっては不幸な事に、既に俺はSEED世界を知っている。
『成り行き……成り行きで……』
俺のその一言が、アウラの心を完全にへし折ってしまったらしい。
アウラはがくりと、腰を抜かしたかのように床に座り、ブツブツと呟くのだった。
その光景は、ある意味で丁度いい。
通信をオープンチャンネルにし、今のアウラの様子を見せる。
……ついでに明日菜に頼み、首の後ろを掴んだままのオルフェの姿も改めてオープンチャンネルに映し出す。
オルフェはコーディネイター……じゃなくて、アコードだったか。そのアコードだけあって、非常に整った顔立ちをしている。
しているのだが、気絶して白目を剥き、口からは涎が、鼻からは鼻水が垂れ流しになっている今のオルフェは、哀れとしか……道化としか言いようがない。
なまじ顔立ちが整っている為に、今の顔は間抜けとしか言いようがない様子だった。
こうして晒されている本人にしてみればふざけるなと言いたくなるかもしれないが、腰を抜かしたかのようなアウラの様子と共に、ファウンデーションの敗北を象徴する光景として広がり……やがて、もうどうしようもないと判断したのだろう。
ファウンデーションの部隊は、一人、また一人と降伏を受け入れていく。
『あー……その、何だ。こっちの被害がなかったのは嬉しいけど、何かこう……』
映像モニタに表示されたカガリが、微妙な表情でそう言ってくる。
シャドウミラーの戦力を知っているカガリにしてみれば、ある意味でこれは予想出来た内容ではあったのだろう。
特にオーブやコンパスに1人も怪我人も死人も出なかったのは、カガリにとっては非常に嬉しい出来事だった筈だ。
だが……そう、だが。
それでもやはり、自分達が何もしないうちに戦いが終わるとは思っていなかったのだろう。
とはいえ、その件については俺にも言いたいことはある。
まさかラクスを助けに行った明日菜が、オルフェやアウラを倒すとは思わなかったのだから。
いやまぁ、アウラは倒された訳じゃないし、その心をへし折ったのは俺だったりするのだが。
ともあれ、こっちにシャドウミラーの戦力があっても、本来ならもう少し戦いらしい戦い――それでも蹂躙になった可能性が高いが――になった筈だ。
それが全て台無しになったのだから、良い意味で予想外の結果ではあるのだろう。
「被害が出なかったんだから、問題ないだろ? とにかく、折角向こうが降伏したんだし、出来るだけ早く武装解除をして拘束した方がいいんじゃないか? 今はまだ何も出来ない状態でこっちにとっても問題はないが、このままにしておくと、もしかしたら破れかぶれになって攻撃したりしてくるかもしれないぞ」
世の中には、どこにでも自分達の負けを納得出来ない者がいる。
ファウンデーションの中にも当然ながらそのような者はいる筈で、だからこそ出来るだけ早く武装解除して兵士達を拘束した方がいいのは間違いなかった。
『ああ。そうさせて貰う。……それとプラントで起こった反乱だが、無事に鎮圧出来たらしい。アクセルが送った戦力が、大きな活躍をしたという事だ』
「だろうな」
カガリのその言葉には、特に驚くような事はない。
原作の流れを考えると、まさかここで反乱が成功するとは思えない。
恐らく原作でも反乱は鎮圧されていたと思うし、そこにイザーク達を送ったのだから、原作よりも戦力が増したのは間違いない。
普通なら戦いにおいてエースが数人増えたところで、有利にはなるかもしれないが、戦局を決めるといったことまでにはならない。
だが……そこはシャドウミラーの実働班だ。
実働班に所属しているのは、全員が全員トップエース並の実力を誇る。
この世界で例えるのなら……そうだな、キラ以上の実力を持つエースが数人、それもこの世界のMSとは比べものにならない高性能な機体で参加したと言えば分かりやすいだろう。
……反乱を起こした者達にしてみれば、まさに最悪の報告であり、地獄でしかない。
なので、カガリのその説明については特に驚いたりはしない。
カガリは俺が驚かない様子を見て不思議というか、不満というか、疑問というか、そんな複雑な表情を浮かべていたが、シャドウミラーの戦力については転移してきたのを自分の目で直接見て知っていても、実働班に所属する者達の技量については分からないんだから、仕方がないか。
カガリもそこそこの操縦技術は持っているが、MSパイロットではなくオーブを率いる立場にいるものだしな。
『随分とあっさりとしてるんだな』
「イザーク……俺達の世界のイザークの能力については、十分に信頼しているからな。それにイザークだけじゃなくて、他にも送っている。反乱軍でどうにか出来るとは思っていなかったよ」
あるいはこれが、反乱ではなくザフト……いや、プラント全体がファウンデーションに味方をするといったようなことにでもなれば、戦力は足りなかったかもしれない。
だが、今回反乱を起こしたのはあくまでもザフトの一部だ。
……まぁ、ザフトを率いる国防委員長がその反乱の首謀者というのがちょっとアレだが……それでもザフトの一部だという事は、つまりザラ派の国防委員長の人望は決して高くなかったという事なのだろう。
そんな風に思いながら、この騒動も終わりだなとしみじみと思うのだった。