転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4463話

『スタート!』

 

 オールマイトの声が運動場γに響き渡り、最終レースがスタートする。

 オールマイトがどこにいるのかは、これまで通り発煙筒が上がっているのですぐに分かる。

 それに向かい、地面を蹴る。

 瞬動を使って空中に上がり、そのまま虚空瞬動を使ってゴールを目指す。

 最初の瞬動の速度を使ったことによって、虚空瞬動の最初の発動までの時間が短くなる。

 虚空瞬動によって、見る間に近付いて来るゴール。

 これ……ぶっちゃけ、外側にオールマイトがいるという時点で俺に取っては有利だよな。

 もしこれでオールマイトがどこかの建物の中にいるのなら、虚空瞬動を使うのは不可能……ではないが、使いにくいのは間違いない。

 だが、外にいるのなら、虚空瞬動は存分に使える。

 もっとも、救助災害レースという名称通り、これはあくまでもこの運動場γの密集工業地帯において何らかの事故、もしくは事件に巻き込まれた一般人がそれから逃げるように建物の屋上まで移動したという設定であるのを考えると、外に出ているというのは設定的におかしくはなかったが。

 俺を最後のレースに回した時点で、俺がかなり有利だというのはオールマイトにも分かっていた筈なんだが……もしくはこれでお互いの妨害ありなら、もしかしたら俺が負ける――その場合勝つのが誰なのかはちょっと分からないが――という可能性もあったかもしれない。

 だが、このレースは妨害なしだ。

 つまり、もしこれが賭けだった場合、俺は1.1倍とか、そんな感じの……いわゆる鉄板レースになるのは間違いなかった。

 そんな風に思いながら周囲の様子に視線を向けると、まず真っ先に目についたのは轟。

 氷の道を作っているので、どうしても目立つ。

 それ以外だと、瀬呂が個性のテープを使って空中を移動しており、その姿をしっかりと確認出来た。

 また、爆豪も爆破の個性を使って空中を飛んで……いや、跳んでいた。

 唯一常闇が見えないが……どうやら建物の隙間をダークシャドウを使って移動しているのだろう。

 こうなると、真っ先に脱落するのは常闇だな。

 ダークシャドウを使った移動は素早く便利だが、この面子の中では地上を移動している分だけ、どうしても遅くなってしまう。

 そして次に負けるのは轟だな。

 氷の道を作れるというのは素直に凄いと思うが、オールマイトのいる場所までとなると、どうしても上り坂の道になってしまう。

 炎の個性を使うなり、あるいは道を延ばしてでも角度を緩くするなりしなければ、ちょっとオールマイトのいる場所まで行けない。

 こうして、残りは瀬呂と爆豪という、俺と同じく空を跳ぶ者達だけが残る訳だ。

 そしてその2人も俺より遅れており……結局特に何かるのかもしれないと思ったのだが、そんなトラブルだったりサプライズの類もないいまま、俺は無事にオールマイトのいる場所に到着するのだった。

 

「ゴール! 1着はアクセル少年!」

 

 オールマイトが周囲に聞こえるようにそう宣言する。

 

「あちゃあ、やっぱりアクセルには勝てなかったか。始まってからは、もしかしたらとも思ったんだけどな」

 

 瀬呂が着地し、残念そうに言ってくる。

 レースが始まる前は俺と戦うってことで緊張していたし、怯えてもいたんだが……今のこの状況を考えると、実際にレースが始まってからは妨害なしというルールもあってか、やる気になっていたらしい。

 

「くそがぁっ!」

 

 そして3着の爆豪が到着すると、いつものように俺を睨み付け……あれ? 俺じゃなくて瀬呂を睨んでるな。

 

「ヒモ野郎だけならまだしも、醤油顔にも負けるだと……?」

「うおっ! ちょっ、おい、爆豪。それくらいはしょうがねえだろ!? このレースは俺が得意な形式だったんだからよ!」

 

 慌てた様子で、瀬呂が爆豪に向かって叫ぶ。

 とはいえ、そこまで怯えた様子がないのは……こういう時、爆豪は睨み付けたり怒鳴ったりはするものの、直接手を出したりはしないと知ってるからだろう。

 この辺り、ヴィランかと思うような反応をしつつも、手を出したりはしないんだよな。

 ……まぁ、緑谷が相手の時は手を出したりするのだが。

 そうしたやり取りをしていると、やがて常闇と轟もやってくる。

 轟が最後だったのは、少し意外だったが。

 ただ、あくまでもこのレースは特殊な状況でのものだ。

 実際にオールマイトも最初にお遊び要素を入れると言っていたしな。

 

「負けた、か」

「俺も4位だったので、勝利したとは言えんな。もう少しダークシャドウを使いこなせればどうにかなったのだろうが……要修行か」

 

 轟と常闇がそれぞれ感想を口にする。

 実際、常闇のダークシャドウは非常に便利な個性だし、個性を鍛える事によってかなり強力になると思うんだけどな。

 

「では、アクセル少年の優勝という事で、今日の授業は終わりだ。皆、着替えて教室に戻るように」

 

 そうオールマイトが言い、少し早いがヒーロー基礎学の授業は終わるのだった。

 

 

 

 

 

「久々の授業、汗掻いちゃった。アクセルはどう……って、全く汗を掻いてるように見えないね。それが君の個性の秘密かな?」

 

 更衣室の中、俺の近くで着替えていた青山がそう声を掛けてくる。

 ちなみに青山は爆豪と同じ組み分けでのレースだったのだが、レーザーを出してオールマイトのところに行こうとしたものの、飛距離が足りなくて途中で落ちていた。

 そういえば、入学してすぐ……というか、入学式を無視して行った個性把握テストの時にやった100m走でも青山は腹からレーザーを出してその反動でゴールしようとしたが、結局途中で力つきて三奈にも抜かれていたしな。

 そう考えると、今回の結果も当然のことなのだろう。

 

「元々汗を掻きにくい体質ってのもあるけど、そもそも俺が動いたのは最後のレースだけだしな。それもそこまで本気を……あー……うん。とにかくそんな訳で、あまり動いていないし」

 

 本気を出していないといったところで爆豪が露骨に睨み付けてきたので、適当に話を終わらせる。

 爆豪にしてみれば、本気を出していない俺に負けたのが面白くなかったのだろう。

 だが、爆豪が俺に負けるのはこれまで何度もあり……言ってみれば、負け慣れしている。

 勿論だからといって爆豪がそれに納得している訳でもなく、それこそ俺に隙があれば首を喰い千切ってやろうと思ってるような目で睨み付けてくる辺り、負けん気は強い。

 とはいえ、それも当然か。

 元々爆豪はその才能から、特に苦労せずとも中学校までは勉強やスポーツ、他にも色々な面でトップだった。

 ……道徳の授業とかそういうのがあった場合は、その言動から最下位でもおかしくはないと思うが、小学校はともかく中学校に道徳の授業とかはないしな。

 ともあれそうして常にトップだった爆豪だが、雄英に入学してからは違う。

 とはいえ、これはよく聞く話でもある。

 勉強にしろスポーツにしろ、中学校ではトップクラスの生徒が高校に行くと、そこには同じくらいの実力の者が多くいて、中学ではトップだったのに高校では平均的な成績なり実力なりになってしまうという。

 勿論爆豪は才能マンなので、雄英のヒーロー科1年の中でもトップクラスの実力を持つ。

 持つのだが……それはトップクラスであって、トップではない。

 氷と炎の個性を持つ轟や、創造というとんでもない個性を持つヤオモモ、原作主人公として個性が使えるようになったばかりだというのに、一気に伸びた緑谷。

 これはあくまでもA組だけの話なので、B組にもそれぞれ強力な個性を持っている者が多い。

 そんな中でもトップクラスなのは素直に凄いとは思う。

 凄いとは思うのだが、爆豪にしてみればトップでなければ意味がないのだろう。

 とはいえ、俺もわざと負けるといったようなことをしたいとは思わないし、何より俺は公安からの依頼で生徒達に対する壁としての存在を期待されている。

 だからこそ、俺としても爆豪を相手にあっさり負けたりは出来ない。

 そうして着替えていると……

 

「おい、アクセル、上鳴! 凄い物を発見した! ちょっと来い!」

 

 不意に峰田がそんな風に叫ぶ。

 ……その声には驚きもそうだが喜びも含まれている。

 峰田がそうした喜びを込めているという時点で、俺にとっては微妙に嫌な予感がするんだが。

 そもそもの話、峰田の相棒的な存在たる上鳴はともかく、今日も朝には拳藤や茨と一緒に登校したという事で血涙を流して睨み付けられた俺を、一体何故呼ぶのか。

 そうも思ったが、多分職場体験で一緒に行動したのが影響してるのだろう。

 なら、血の涙は流すなと思わないでもないが、それが峰田だと言われれば、素直に受け入れるしかないのも事実。

 そんな訳で、とにかく上鳴と共に峰田の側まで移動する。

 

「どうしたんだ? 何かあったのか? 峰田がそこまで喜んでるって事は……エロ本とまではいかないが、アイドルの写真集か何かでもあったのか?」

 

 ここは男子更衣室である以上、その手の物が持ち込まれてもおかしくはないし、着替えの時に急いでいて忘れていったりしてもおかしくはない。

 そう思って峰田に声を掛けたのだが、峰田が指さす先にあったのは……剥がれそうになっている張り紙?

 

「その張り紙がどうしたんだ?」

「見ろよ、この穴! ショーシャンク! 恐らく諸先輩達が頑張ったんだろう!」

 

 ショーシャンク?

 まぁ、それはともかく……なるほど、峰田が喜んでいる理由は理解出来た。

 何しろここは男子更衣室。そして隣は……

 

「隣は、そうさ! 分かるだろう!? 女子更衣室!」

 

 峰田のその言葉は、当然ながら近くにいた俺と上鳴だけではなく、他の面々にも聞こえる。

 

「峰田君、止めたまえ! 覗きは立派な犯罪行為だ!」

「オイラのリトル峰田は、もう立派な万歳行為なんだよぉっ!」

 

 興奮しすぎていて、峰田はもう自分で何を言ってるのか分かっていないのだろう。

 覗き穴があるという事で、まだ着替えている何人かの者達も反応していた。

 とはいえ……

 

「峰田、お前そういうところだぞ? そうしてがっついているから、女にモテないって分からないか?」

「アクセル、お前は見たくないのかよ!?」

「見たいか見たくないかと言われれば、勿論見たいと思う」

「だろ!?」

「アクセル君、君まで!?」

 

 飯田が俺に向かって叫ぶが、俺は手を伸ばして飯田の言葉を一度止める。

 

「男である以上、女の……それも魅力的な女の身体を見たいと思うのは、当然だ。だが、それはこうして覗くという行為で見るんじゃなくて、正面から堂々と見せて欲しいと頼んで見せて貰うべきだろ」

「アクセル、そんな綺麗事なんかいいんだよ! お前も女の裸を見たいだろ!?」

「……あのな、綺麗事ってのは重要なんだぞ?」

「だから、アクセルも見たいだろ!」

 

 これは……一旦、落ち着かせる必要があるな。

 

「さっきも言ったが、見たいと思っている。ヤオモモの大人顔負けの肉感的なボディライン、三奈の清潔な色気を醸し出す身体、葉隠の見えないけどしっかりと女らしい身体。耳郎のスレンダーでいながら、綺麗な肌。俺と親しい面々だけでもこうだし、あまり俺と接する機会がない麗日や梅雨ちゃんだって、魅力的な女なのは間違いない」

「……お、おう。……そうだな」

 

 俺の言葉を聞いた峰田は、俺の言葉に何を感じたのか、急に黙る。

 あれ? 峰田を落ち着かせようとして言ったんだが、俺が予想した以上に効果があったみたいだな。

 よく見れば、更衣室にいた多くの男達が俺を驚きの視線で見ている。

 何か変な事を言ったか?

 

「アクセルが爆豪にヒモ野郎って言われる理由……何となく分かった気がする」

 

 上鳴のその言葉に、話を聞いていた者達の多くが同意するように頷く。

 それを見て、少しやりすぎたか? と思ったが……

 

「アクセルのように、持てる……モテる者には、持たざる者の気持ちなんか分からねえんだよ!」

 

 落ち着かせようと思った峰田が、壁の穴に目を付けようとし……

 

「ぎゃああああっ!」

 

 その瞬間、峰田が悲鳴を上げ、目を押さえながら床を転げ回る。

 何だ? と思って壁を……穴のある場所を見てみれば、そこには耳郎のイヤホンが伸びていた。

 ……まぁ、うん。だよな。

 覗き穴になっている場所なんだから、当然ながらその穴で女子更衣室と男子更衣室は繋がっている訳で、峰田が覗くといったように宣言したのは決して小さな声ではなかった。

 その後も当然のように大きい……という訳ではないが、普通の声で話をしていたのだから、その会話が女子更衣室に聞こえるのは当然の事だった。

 ……あ、でもそうなると、もしかして俺が峰田に言った件についても聞こえていたのか?

 いやまぁ、聞かれて困るような事を言った訳じゃないので、そういう意味では問題はないのだが。

 ただ、それを込みで考えても、今のこの状況を思えば少し妙な展開になりそうな感じがする。

 

「峰田君の事はさておき、そろそろ着替えよう! 次の授業までそう時間もないんだからな!」

 

 飯田のその言葉に、俺は取りあえず今の出来事は忘れて素直に着替えるのだった。

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