「うおおおおおっ!」
鉄哲が身体を金属にして突っ込んで来る。
……が、その後ろから峰田がモギモギを使って跳び出す準備をしているのを察し、俺は片手で鉄哲の突撃を受け止め……そのまま力の流れを変える事により、吹き飛ばす。
「うおっ!」
鉄哲が吹っ飛んでいったのは、硬化した切島のいる場所。
まぁ、模擬戦とはいえ鉄哲の身体をぶつけられると、その時はダメージが大きいしな。
リカバリーガールがいるとはいえ、治療には体力を消耗するし、何よりもリカバリーガールに怒られてしまう。
その為、鉄哲を投げる方向は決まっていた。
そうして鉄哲がいなくなると、峰田がモギモギでこちらに突っ込もうとしているのを察知し……それに気が付いた峰田は、焦った表情を浮かべつつ、何とか跳ぶ方向を変える。
あのまま一直線に俺に向かってくると、その時はこちらの攻撃を回避出来ないと判断したらしい。
俺と模擬戦をやる回数が多いだけに、峰田もこの辺りの判断力は相応に高い。
俺が峰田を見た隙を突くように、ダークシャドウがやって来る。
常闇の個性のダークシャドウは、単純に個性として極めて強力だ。
具体的にどのくらい強力かと言えば、常闇本人はそこまで高い身体能力を持っている訳ではないのに、このダークシャドウの能力だけで体育祭の表彰式に出られるくらいには強力だ。
何しろ、基本的には攻撃無効だ。
いや、実際にはダメージはあるのかもしれないが、攻撃でダークシャドウをどうにかするというのは、恐らく難しい。
……精神コマンドの直撃を使えばダメージを与えられると思うが、まさか俺の奥の手の精神コマンドをここで使う訳にもいかないし、あるいは白炎を使ってダメージを与えるのは……今のところ、混沌精霊の個性は増強系と思われているのもあって、これもまたここで使おうとは思わない。
そもそもこれは模擬戦なのだから、本当にダメージを与えるのはどうかと思うし。
そんな訳で、俺はダークシャドウの攻撃を回避しつつ、常闇に向かって走り出す。
「サセナイ!」
それに気が付いたダークシャドウがこちらを追ってくるが……その速度は、瞬動程ではない。
「な……」
一瞬にして目の前に姿を現した俺を見て、驚きの声を上げる常闇。
鳥の顔でも驚いているというのがはっきり分かるのは、嬉しいな。
そして軽くデコピンをし……
「ぐはっ!」
その一撃で常闇が吹き飛ぶ。
デコピンだし、威力も出来る限り抑えての一撃なので、痛みや衝撃はあっても怪我は……軽い打撲くらいだろう。
そんな常闇にダークシャドウが駆けつけているのを見ながら……すっと数歩後退る。
次の瞬間、そこを取蔭の分離した右手と、耳郎のイヤホンが通りすぎていった。
タイミングを合わせての一撃ではあったが……
「タイミングを合わせるのはいいが、そちらにばかり意識が向かっては意味がない」
タイミングを合わせるのだけに集中した結果、イヤホンの速度は遅くなり、取蔭の右手もこっちに飛んでくる直前に耳郎に合わせるように動きが遅くなった。
そうして、模擬戦が続き……
「アクセルに勝てる訳がねえだろおおおおおおおおおっ!」
峰田が絶叫する。
まるで駄々っ子のように、地面で横になって手足をバタバタさせていた。
峰田の場合は身長が身長だし、そういうのが似合うな。
「ケロ。峰田ちゃん、今は勝つのが無理でも、私達が成長すればいつか勝てるわ」
「……梅雨ちゃん、本当にそう思うか? あのアクセルだぜ?」
「……」
峰田の言葉に、梅雨ちゃんは少し考えてからそっと視線を逸らす。
「アクセル君、蹴り技について少し聞きたいのだが」
そう声を掛けてきたのは、先程まで轟と1対1の模擬戦をやっていた飯田だ。
「俺に聞かれてもな。俺が教えられるのは、あくまでも俺が使える蹴り……蹴り……蹴りか。飯田、カポエラって知ってるか?」
「カポエラ?」
首を傾げる飯田の様子を見ると、どうやら知らないらしい。
このヒロアカ世界では、個性の存在によって格闘技とか武術とか、そういうのは廃れているしな。
格闘技としてはメジャーな空手やボクシング、柔道なんかも、今ではかなりマイナーになっているらしいし。
そんな中で、カポエラなんて武術について知らないのはそうおかしな事ではない。
そもそもネギま世界やペルソナ世界なんかでも、カポエラは存在するものの、それはあくまでもショーとしてのカポエラだ。
いやまぁ、単純に俺が知らないだけで、武術としてのカポエラを使えるような者もいるのかもしれないが……生憎と、俺は分からない。
ただ、動画をアップ出来るサイトとかそういうのはあるし、本とかもあるだろうから、調べようと思えば調べられると思う。
それにそこまで珍しい格闘技というのは、使われる方にしても初めて経験するのだから、初見殺しとして大きな効果を発揮するだろう。
「ああ、カポエラだ。元々はアフリカの奴隷が手に鎖を付けられている中で編み出した、蹴りを主体とする格闘技だ」
実際にはカポエラは蹴りだけではなく、普通に手を使って攻撃するような方法もあるらしいのだが……まぁ、その辺については飯田が調べる中で知っていくだろう。
それに手も使うとはいえ、それでもやはりメインが蹴り技なのは変わらないし。
「奴隷の……少し興味深いな」
「喜んで貰えて何よりだよ。……ちなみに、飯田はリズム感はどうだ?」
「……は?」
予想外の事を聞かれたといった様子で、動きが固まる飯田。
「その、アクセル君。そのカポエラを使うのに、リズム感がどう関係してくるんだ?」
「そこまで詳しい事は分からないが、カポエラで必要なのはリズム感だと聞いた事がある」
「……少し、厳しいかもしれない」
そう言ってくる。
「リズム感には自信がないのか?」
「自慢ではないが、僕にリズム感はない。その手のものはこう……苦手なんだ」
どうやら冗談でも何でもなく、飯田は本気でそんな風に言ってるらしい。
まぁ、この手のリズム感は人それぞれによって違うし、ない者はとことんない。
そういう意味では、飯田はカポエラには向いていなかったのだろう。
これが例えばシェリルだったら、歌手をやっているだけあってリズム感はお手の物だろう。
もしくは美砂や円もでこぴんロケットというバンドをやっていたこともあってか、リズム感がある。
他にも、シャドウミラーの面々は生身の戦闘においてリズム感というのは大きな要素となる事もあってか、何だかんだとその辺が得意な者は多かった。
「そうなると……ちょっと難しいな。どういう格闘技もそうだが、リズム感というのは相応に大事なものだ。それを無視したりすれば、当然ながらどこかに無理が出てくる」
「……では、僕に格闘技は向いていないと?」
真剣な表情で聞いてくる飯田。
無理もないか。飯田にしてみれば、自分がプロヒーローとしてやっていけるかどうかの瀬戸際といったところだろうし。
とはいえ、今回の一件については俺もアドバイスするのは難しいな。
「向いていないとまでは言わない。リズム感がないなら、ないなりに我流でどうにかするといった方法があるしな。我流でやるとなると、どういう風に蹴りを放てばいいか、そこからどう動くか……他にも色々と考えることはあるだろうが、それを自分で考えていく必要があるから、かなり難しいと思う」
「……そうか」
俺の言葉に真剣な、それでいてがっかりした様子で飯田が答える。
あ、これはちょっとミスったな。
今の一言は飯田にとって決して喜ばしいものではなかったのだろう。
実際、クラスNo.1……いや、ヒーロー科1年でもNo.1なのだろう俺の言葉には、俺が予想した以上に大きな意味を持つ。
であれば……
「ただ、我流が全て駄目という訳でもないぞ? いや、これは慰めとかそういうのじゃなくて、本気で」
「……どういう事だ?」
「格闘技とかなら、例えば決まった型や流れがある。こう来たら次はこう、あるいはこうといった具合でな。それは格闘技を習っている奴なら当然のように知っている」
このヒロアカ世界では個性のせいで格闘技は廃れたが、それでも廃れたのであって、完全に絶えた訳ではない。それこそネットで調べればある程度は格闘技の理論とかそういうのを知る事も出来るし、ネットとかにも人気はないが格闘技の解説動画とかそういうのがあったりする。
なので、調べようと思えば調べられる。……実際にそれをやる奴がどれくらいいるのかは分からないが。
「けど、そういう者達にしてみれば、我流……型も何もなく、自分でやりやすいようにと考えた攻撃となると、それに格闘技の型や流れで対抗するのは難しい」
「それは……そうなのか?」
「ああ」
飯田の言葉に頷くものの、実はこれには欠点が1つ……どころではないくらいにあったりする。
具体的には、ネットとかスマホとかが存在するこの世界であるが故に、もし飯田が我流で格闘技を作り上げたとしても、その動画がネットとかにアップされれば、あっさりと広まってしまう。
これが例えばそういうのがない……戦国時代だったり、江戸時代だったり、あるいは明治維新とかの時代だったりすれば、情報の拡散という意味ではそこまで問題ないのだが、このヒロアカ世界は現代だしな。
いや、この現代というのも定義が曖昧だったりするが……取りあえず、俺の知っている現代に近いという意味では間違いない。
そんな訳で、情報の拡散についてはもうどうしようもない。
実際、このヒロアカのマスゴミもネットで初めてその情報を知ってニュースにしたり、あるいは投稿された動画をニュースで使ってもいいのかといったようにしているくらいなのだから。
そんな訳で、もしかしたら飯田が必死になって我流の戦闘スタイルを磨いても、それがネットに流れる事によって、ヴィラン……それもその手の情報に詳しいヴィランは、もしかしたら戦う前から飯田の戦闘スタイルを理解し、対処してくるかもしれない。
もっとも、それについては実際にプロヒーローになってからの話だし、1年の今で考えなくてもいい。
プロヒーローになるまではまだ結構な時間があるのだから、それまでにしっかりと鍛えて、対処されてもそれに対して更に対処出来るようになればいいし。
……そう思うが、うん。脳無やヴィラン連合、ステインの件もあって、既に原作が始まっており、そうなると緑谷のクラスメイト、それも親友と呼んでも間違いない飯田は、これからも何らかのトラブルに巻き込まれるのは間違いないんだよな。
そういう意味では、恐らく原作ヒロインであろう麗日と一緒にしっかりと鍛えておいた方がいいのは間違いなかった。
「我流というのは、それはつまり今のままの自分の戦い方を伸ばしていくという考えでいいのか?」
「まぁ、端的に言えばそういう事だ」
「……なるほど。そうなると、僕がアクセル君に相談した意味がないような気もするが」
「取りあえずカポエラを始めとして、リズム感が重要な格闘技は飯田に向いていないというのが分かっただけでもよくないか?」
「……そう思っておくよ」
不承不承といった感じではあったが、飯田が俺の言葉に頷く。
無理もないか。
結局のところ、今まで通りに鍛えればいいと言っただけなのだから。
飯田にしてみれば、相談した意味がないと思ってもおかしくはない。
とはいえ、カポエラをやる前に自分に向いていないと分かったのだから、それは悪くないと思う。
もっとも、普通に考えればこのヒロアカ世界でカポエラをやろうと考えるのは……絶対にないとは言わないが、それも可能性はかなり低いだろう。
個人的にはエンジンの個性で蹴りを得意とする飯田のカポエラとかも見たかったが、飯田に向いていない以上は仕方がない。
「ちなみに……アクセル君の戦闘はどんなスタイルなんだ?」
ふと、飯田がそう聞いてくる。
……だが、聞いてきたのは飯田だったが、周囲にいる者達も何人もが俺に視線を向けている。
自分で言うのもなんだが、俺はヒーロー科1年最強だ。
そんな人物の戦闘スタイルを知りたいと思うのは当然だろう。
とはいえ……
「俺の場合は我流だな。飯田に勧めた奴だ」
そう、言っておく。
とはいえ、これは別に決して嘘ではない。
勿論ベースになっているのは、士官学校の時に習った軍隊格闘技だが……その軍隊格闘技は当然ながら魔力や気とか、ましてや混沌精霊とかが使うのを想定している訳ではない。
ましてや、俺が士官学校を卒業してから潜り抜けてきた戦乱を思えば……うん、多分俺と一緒の士官学校に通っていた者も……それこそ、ユーリア何かが見ても、既に自分達が習った軍隊格闘技の面影もないと言うだろう。
……ユーリア、か。久しぶりに思い出した名前だな。
「アクセル君?」
「ん? ああ、悪い。とにかく俺の戦闘スタイルは我流だ。もっとも、個性によって普通の我流とは到底言えなくなってるけどな」
そう、誤魔化すように言うのだった。