何だかんだと時間が経過していく。
自主訓練をやったり、部屋に遊びに来た優や龍子、ねじれと料理をしたり、もしくは拳藤と休日に遊びに行ったり……といった感じで学生生活を楽しんでいた。
そんなある日の事……
「えー……そろそろ夏休みも近いが、勿論君らが30日間、1ヶ月休める道理もない」
朝のSHRで相澤がそう言う。
そんな相澤の言葉を聞き、教室にいる面々がざわめく。
「まさか……」
そんな中でそう口にしたのは、誰だったか。
とにかくクラスの多くの者達から期待の視線を向けられた相澤は、そんな視線を向けられているのを特に気にした様子もなく、口を開く。
「夏休み、林間合宿するぞ」
そう相澤が言った瞬間、多くの者達が歓声を上げる。
「知ってたよー! やったー!」
「よっしゃ、林間学校だぁっ!」
「いや、合宿。林間合宿だってば!」
「同じようなものだって」
そんなやり取りが教室の中に満ちる。
このクラスにいる者の多くは、こうしたイベントが好きなんだよな。
とはいえ、それは高校生としては当然の事かもしれないが。
世の中にはそれこそ、こういうイベントそのものを嫌ってる奴とかもいるが……こうして見た感じだと、A組にそういう奴はいない。
というか、そういうのに興味がなさそうな爆豪ですら、微かに唇の端が弧を描いてるように見えるしな。
……とはいえ、これが普通の学校なら林間合宿じゃなくて林間学校で、そういう名目であろうともキャンプだったり、自分達で食事を作ったり、もしくは花火や川遊び、肝試し……といった具合に楽しいとは思う。
だが、これはあくまでも雄英の……それも相澤が企画した――もしかしたら他の教師の企画かもしれないが――林間合宿だ。
そうなると、当然ながらレクリエーションの為とか、あるいはクラスの絆を固めるとか、そういうのを目的にした林間学校ではなく、ヒーロー科として鍛える為の林間合宿となるだろう。
「肝試そー!」
「風呂」
「花火!」
「風呂!」
「カレーだな」
「行水!」
おい、そこは風呂じゃないのか。
他の面々が林間合宿に期待する事を口にすると、それに被せるように峰田が風呂、風呂と口にしていたのに、何故か最後は行水となった。
……いやまぁ、峰田の考えは分からないでもないけどな。
ただ、そうして自分の欲望を隠しもせずに堂々と口にするから、女達に呆れや冷たい視線を向けられるのだ。
とはいえ、何度か忠告しているから、峰田もそれは理解している筈だ。
理解しているのに、こうして口に出しているのは、自分の全てを曝け出した上で、自分を受け入れてくれる相手を捜している……という事らしい。
いやまぁ、言ってる事は立派だとは思う。
思うのだが、だからといって女に対する欲望を隠しもしないというのは、それはそれで不味いだろう。
正直なところ、馬鹿だろとしか思えない。
もっともそれが峰田の信念だと言われれば、それに対して反論するのは難しいのだが。
何しろ俺がここで何かを言っても、それで曲げるようなら信念とは言えないのだから。
もっとも、信念を持っているからといって女にモテるかと言えば、それは否だ。
実際、クラスの女も……あ、でも梅雨ちゃんはそれなりに峰田の相手をしているのを見るな。
ただし、俺が見たところ梅雨ちゃんは峰田を男として意識しているのではなく、弟のような存在と認識している。
これで峰田が今のような小柄な身体ではなく、普通の体格だったらあるいは違ったのかもしれないが……まぁ、その辺については俺がここでどうこうといったように思う事ではないか。
この先、梅雨ちゃんと峰田の関係が変わるのか、それとも今のままなのか。
その辺りは俺が考える事ではなく、2人の事なのだから。
とはいえ、出来ればあの2人は上手くいって欲しいとは思っているが。
後は……原作主人公の緑谷と、原作ヒロインの麗日もか。
林間合宿で仲が縮まればいいんだけどな。
もっとも、そう簡単にいくとは思えないが。
そんな風に思っている間にも、教室中では皆が林間合宿についての話をしている。
どういう事をやるのかとか、具体的にどこに行きたいというのかとか。
……ちなみに峰田は懲りずに風呂、行水、湯浴み云々としつこく言っていたが、やがて梅雨ちゃんの舌の一撃によって沈黙させられる。
「ただし」
小さい……決して大きくはない声で、相澤が呟く。
それを聞いた瞬間、教室の中が静まり返る。
この辺り、相澤の教育が行き届いているよな。
そうして静まり返った中、相澤が言葉を続ける。
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は……学校で補習地獄だ」
「皆、頑張ろーぜ!」
相澤の言葉に、切島が叫ぶ。
切島のこういうところがクラスでも信頼を集める理由なんだろうな。
もっとも、爆豪はつまらなさそうな様子で切島の言葉を聞いていたが。
爆豪はテストの成績でもクラスでトップクラスだ。
ましてやあの性格なのを思えば、切島の言葉を聞いてもああいう態度なのは理解出来た。
「ああ、知ってるよ。B組でも今日話があったから」
いつものように放課後の自主訓練を終え、買い食いを終えると家に帰る途中、電車の中で拳藤と林間合宿についての話をする。
「B組でも今日の発表だったのか。……どうだった?」
「え? うーん、そうだね。やっぱり全員楽しみにしているよ。物間もそうだし」
「あー……アレな奴か」
物間はB組筆頭のアレな奴だ。
体育祭の騎馬戦で、爆豪を煽りに煽って、その結果としてハチマキを奪われてトーナメントに残る事が出来なかった。
そういう意味では、爆豪よりも実力は低い。
……まぁ、爆豪は原作主人公である緑谷のライバル的な存在だし、それを思えば爆豪と物間では実力が違っても仕方がない。
とはいえ、話を聞く限り物間の個性は他人の個性のコピーだ。
客観的に考えれば、物間の個性は極めて強力な個性だとは思うけど。
それこそ、ゲームではラスボス……とまではいかないが、四天王とかそういう位置にいそうな個性の持ち主だし。
ただ、問題なのはその性格だろう。
爆豪を煽ったのを見れば分かるように、色々と問題のある性格をしているし。
「大変だな」
「それを言うのなら、アクセル……というか、ヤオモモの方が大変だと思うけどね」
「……まぁ、そうだな」
A組には爆豪と峰田というアレな奴が2人いる。
その2人の面倒を見るというか、後始末をするというか、学級委員長としてヤオモモが大変なのは分からないではない。
とはいえ、爆豪も最近は爆発しなくなってきた……訳ではないが、A組でもそれなりに慣れてきた。
峰田については、梅雨ちゃんが対応してくれている。
そう考えると、ヤオモモの仕事はそこまで大変ではないと思う。
もっとも、それを言うのならB組も物間の言動に慣れてきた頃合いではあると思うが。
「とにかく、夏休みになったら林間合宿があるから、楽しみだね」
「そうなるな。もっとも、夏休み前となると、当然ながら期末テストがあるけど。……拳藤なら大丈夫か」
「あはは、それなりに勉強はしてるから大丈夫だとは思うけど、B組には他にも頭の良い奴が多いしね。A組はどうなの?」
「中間テストの事から考えると……三奈辺りは危ない感じがするな」
高1の1学期の中間テストというのは、ぶっちゃけ内容的には中学校のものが多い。
そうなると、雄英に入学した者達ならかなりの点数を取っていてもおかしくはないと思うのだが……三奈の中間テストの順位は……うん。
寧ろ、よく雄英に合格出来たなと思ってしまう程だ。
入試の筆記試験の時、俺は三奈のすぐ近くの席だっただけに、余計にそう思う。
とはいえ、それでも雄英に入学出来たんだから、平均よりも頭が良いのは間違いないと思うけど。
「うわぁ……三奈か。それっぽいのを聞いた事があるな」
心配そうな様子で拳藤が呟く。
入学前……受験の時からの付き合いだけに、心配なのだろう。
「ちなみに三奈だけじゃなくて、葉隠も結構成績的に危ないけどな」
三奈は中間試験でもクラスの中でのドベに近い20位だったが、葉隠は17位と決して安心出来る順位ではない。
ちなみにクラス最下位は上鳴だった。
「うげ、透もか!?」
「そうなんだよな。ちなみに瀬呂も同様で、葉隠よりも1個下の18位」
「……おいおい」
拳藤が思わずといった様子で顔を覆う気持ちも分かる。
これはつまり、受験の時に仲良くなった面々のうち、俺と拳藤以外の全員が成績が悪いという事を意味してるのだから。
ちなみに、なんでクラスの順位だけなのかは疑問だ。
いや、普通科、サポート科、経営科といった他の科なら習っている内容も違う――中間は中学の復習が主だが――ので分からないでもないが、ヒーロー科のA組とB組なら合同で順位を出してもいいと思うんだが。
ただ、それが雄英の規則なのか、それとも相澤の合理性からなのか、とにかくクラスだけの順位となる。
ちなみに俺は僅差でヤオモモに勝ち、1位だった。
ただ、ヤオモモの幾つかのケアレスミスがなければ、あるいは俺とヤオモモの間では立場が逆転していたかもしれないな。
あくまでも予想であって、絶対にそうなるかどうかは……うん、取りあえず壁としてのトップの座を守る事には成功したのでよしとしておく。
ただ、ヤオモモもそうだが飯田も何気にかなり頭がいいんだよな。
メガネキャラだからと言われれば、そうかもしれないとは思うが。
「どうする? 期末試験に向けて勉強するか?」
「いざとなったら頼むと思う。……教えるという意味では俺よりも拳藤の方が上だと思うし」
「な、何だよ。急に褒めてどうしたんだ?」
まさかそんな風に言われるとは思わなかったのか、拳藤は焦った様子で俺を見てくる。
だが、別に俺は褒めるとかそういうつもりはなく、素直に自分の思った事を言っただけだ。
自分で言うのもなんだが、俺はどちらかと言えば天才肌の人間――混沌精霊だが――だ。
だからこそ、大体のものは何となくでどうにか出来るのだが……だからこそ、人に教えるというのはかなり苦手だった。
あるいは俺が教える相手も俺と同じような感覚を持っていたりすれば話は別だったが、そんな相手は絶対にいない……とは断言出来ないものの、それでもかなり少ないだろう。
だからこそ、俺が教えても、寧ろそれが理由で分からなくなったとか、そういう感じになってもおかしくはない。
それと比べると、拳藤は教えるのが上手い。
ちなみに何故クラスの違う拳藤が教えるのが上手いのを知ってるかと言えば、茨から色々と話を聞いている為だ。
B組の中で勉強が得意ではない相手とかに、勉強を教えたりしているらしい。
実際、茨も何度か教えて貰った事があるらしいが、分かりやすいという話だったし。
「俺は自分で思った事を素直に話しただけだよ」
「……そ、そうか」
俺の言葉に納得しているのか、いないのか。
とにかく俺から顔を逸らし、電車の窓の外を見ながら拳藤がそう言ってくる。
何故かそこからは沈黙が続き、俺と拳藤が使っている駅に電車が到着し、下りたところで拳藤が口を開く。
「そういえば、アクセル。知ってるか? 期末テストの学科試験じゃなくて、演習試験についてだけど」
「ん? どうしたんだ?」
「その演習試験の内容って知ってる?」
「いや、知らないな。……まぁ、もう少ししたら誰かが聞いてくるかもしれないし、それがなかったら俺の方で調べようとは思ってるけど」
ぶっちゃけ、俺にはねじれという雄英ビッグ3の1人が知り合いにいる。
であれば、そのねじれから演習試験についての内容を聞くといった方法が一番手っ取り早いだろう。
もっとも、ねじれが1年の時に経験した1学期の期末テストの演習試験と、今年俺達が挑戦する1学期の期末テストの演習試験が全く同じという事はないだろう。
そもそも、俺達の担任が相澤という時点で、ねじれの時の演習試験とは大きく違う……合理性を重視したものになってもおかしくはないのだから。
ただ、演習試験の内容は別に相澤だけで決める訳ではない。
B組の担任も当然ながら口を出すので、それを思えば相澤の思惑100%といった演習試験にはならないと思う。
もっとも、B組の担任もヒーロー科の担任を任されるだけの実力と実績はあるのだ。
であれば、方向性は違っても瀬呂達が簡単にクリア出来るような演習試験を用意するとは思えない。
であれば、やはり今回の一件については難易度が高くなってもおかしくはない。
だからといって俺にしてみれば、何があっても俺だけならどうにか出来るとは思うが。
「ふーん、じゃあ演習試験の内容、教えようか?」
「いいのか? っていうか、知ってるのか?」
「ちょっとしたコネでね。……卑怯だと思う?」
「いや、情報収集能力というのはヒーローの条件の1つだろ?」
それに、俺も最終的にはねじれから聞くつもりだったし……とは言わないでおく。
いやまぁ、俺と龍子が知り合いである以上、龍子の事務所にいるねじれと俺が知り合いであっても拳藤は驚かないとは思うが。
「アクセルならそう言ってくれると思ったよ。演習試験の内容だけど、入試や体育祭で出てきたロボットとの戦闘だってさ」
「あー……なるほど」
拳藤の言葉に納得すると同時に、原作の流れを考えるとそのままって事はないんだろうなと思うのだった。