「うわ……これは凄いね」
三奈の言葉に、俺を含めてヤオモモ主催の勉強会に参加する面子がそれぞれ頷く。
日曜の今日、この前の約束通りにヤオモモの家で勉強会が行われる事になり、こうしてやって来たのだが……そこにあるのは、まさに豪邸と呼ぶのが相応しい建物だった。
それこそ、あの広い雄英の敷地内と同じくらいあるのではないかと思える程に広いのだから、素直に凄いと思う。
ホワイトスターにある俺の家もそれなりの屋敷ではあるが、ヤオモモの家には確実に負けていた。
「ねぇ、アクセル君。アクセル君はそんなに驚いているように見えないけど……何で?」
葉隠が不思議そうに尋ねてくる。
「いや、驚いてない訳じゃないぞ? ただ、その驚きが表情に出ていないだけだ」
実際に俺も驚いているのは間違いのない事実だ。
だが、それでも他の面々みたいにこの規模の豪邸を初めて見るって訳じゃないし。
例えば、W世界で俺が敵対していたOZ……というか、ロームフェラ財団のトップだったデルマイユの屋敷とかは、本邸ではなくてもこれくらいの広さはあったしな。
そんな訳で、俺にしてみればこの規模の豪邸は見れば驚くが、だからといって空前絶後といったような訳じゃない。
そんな風に思いつつ、俺は他の面々の様子を見る。
今日のヤオモモが主催した勉強会に参加してるのは、俺、三奈、葉隠、耳郎、瀬呂、尾白、上鳴の合計7人となる。
正直なところ、クラスで成績の悪い面々が多い。
もっとも、ヤオモモにしてみれば学級委員長としてクラスの中でも成績の悪い奴を優先して勉強を教えるという意味で、この面子になったのだが。
少し意外だったのは、峰田が来なかったことだろう。
性格はともかく、単純に頭が良いという意味では峰田も十分この状況で教える側に入るだけの成績はある。
また、ヤオモモや三奈、葉隠、耳郎といったようにクラスの女達も多く参加している。
だというのに、峰田は用事があると言って断ってきたのだ。
……一体どんな用事なのやら。
女に関する事なのは間違いないと思うが。
グラビアアイドルの写真集とか、サイン会とか、そういうのか?
それとも夏という事もあるので、街中に行ってナンパとか。
とはいえ、もし峰田がナンパをするのなら、それこそ相棒の上鳴とかも一緒に行くだろうけど……その上鳴は今日、勉強会に来ているしな。
「ねぇ、アクセル。私の服装変じゃないかな?」
何故か不意に耳郎がそんな風に聞いてくる。
何でそこで俺に聞く? というか、何でわざわざそんな事を聞くんだ?
そんな風に思いながらも、耳郎の服装を見る。
耳郎が着ているのは、夏らしく涼しげな服装。
ただ、女っぽい服かと言うと、そうでもない。
どちらかと言うと、女でも男でも、どっちが着ていてもおかしくはないような服装だ。
中性的……といった表現の方がいいのか?
耳郎の事だから、こう……パンクでロックな服装とか、そういうのになるのかもしれないと思っていたんだが、良い意味でこちらの予想が外れてしまったらしい。
「うん、おかしなところはないと思うぞ。耳郎らしくて似合ってる」
「……あ、うん」
あれ? 何でそこで数秒置く?
「アクセル、お前そういうところだぞ」
「何がだ?」
何故か尾白に呆れられたように言われる。
今の一連のやり取りで、何か妙なところがあったか?
そう疑問に思ったが、離れた場所では三奈と葉隠の2人が耳郎と一緒に何かを話していた。
聞こうと思えば恐らく聞けるのだろうが、恐らくは止めておいた方がいいだろうと考え、尾白達と話をしていると……
「ねぇ、アクセル君。私の服装はどうかな?」
何故か葉隠がそんな風に聞いてくる。
いや、透明な葉隠の服装と言われても……
「夏らしい服装でいいと思うぞ」
葉隠が着ているのは、ワンピース……と呼ぶべきなのか? とにかくそんな感じの服だ。
初夏……というか、既にもう夏真っ盛りといった季節なので、そういう意味では涼しげな服装だと思う。
「えっと、その……ありがとう、アクセル君」
照れた様子で、それでいながら上機嫌といった様子で葉隠が言うと、その葉隠と入れ替わるように三奈が前に出る。
「アクセル、私の服装はその……どうかな?」
「うん、刺激的だな。葉隠とは別の意味で夏らしいとは思う」
三奈が着ているのは……なんだろうな。俺は女の服装にそこまで詳しい訳でもないので何とも言えないが、スタイリッシュな服装とでも言えばいいのか?
特徴的なのは、三奈が着ているヒーローコスチュームのように胸元が大きく開いている事だろう。
三奈は自分が女だというのを強烈に主張している……訳ではなく、単純に動きやすい服装とか、涼しい服装とか、好きな服装とか、そういうのを着ているんだと思う。
「えへへ」
何だか三奈らしくない嬉しそうな笑いが漏れたぞ、今。
そんな風に正門の前でわちゃわちゃしていると……
「皆さん、一体何故家の前まで来たのに、そこで止まってるんですか?」
門の向こう側から、ヤオモモが姿を現す。
ちなみにヤオモモは……これもまた何と言っていいのか分からないが、肩が剥き出しになっているタイプのワンピースっぽい感じの服だった。
胸元が盛り上がっているのを見る限りだと、凄いとしか言えない。
実際、上鳴はヤオモモの胸元をガン見しているし。
男のチラ見は女のガン見というのはよく聞くけど、上鳴のこのガン見は……まぁ、うん。特に突っ込まない方がいいような気がする。
幸いな事に、ヤオモモも上鳴の視線には気が付いていないようだったし。
「あ、ごめんねヤオモモ。ちょっとこう……予想していたよりも家が大きくて」
耳郎がヤオモモに向かってそう言う。
そんな耳郎の言葉に、ヤオモモは不思議そうに首を傾げていた。
無理もないか。
ヤオモモにしてみれば、この屋敷は自分が生まれ育った場所だ。
だからこそ、普通に自分の家として認識し、特別な何かがあるとも思っていないのだろう。
これは、あれだな。観光地とかによくある現象だ。
地元の者にしてみればそこにあって当たり前の光景だが、それを見る為に遠くから観光客がやってきて、一体何故わざわざこういうのを見に来るのか分からないと疑問に思うような。
まぁ、屋敷と観光地を一緒にするのはどうかと思わないでもないが。
「取りあえず、中に入って下さい。勉強をするお部屋の準備は出来ていますわ」
耳郎の言葉については、取りあえず気にしないようにしたらしくヤオモモが何かを操作すると、門が開く。
ちなみにヤオモモと俺達が門越しに話をしてはいたが、それは門が金属ではあっても、こう……隙間のある感じの門だからだ。
少し表現は悪いが、牢屋的な感じの作りになっている。
もっとも、実は一般的に想像するような牢屋……鉄格子とかそういう感じの牢屋ってのは、あまり多くないんだけどな。
いや、このヒロアカ世界ではどうなのか分からないが。
ともあれ扉が開いたので、俺達はヤオモモに案内されて屋敷の中に入ったのだが……
「うわ、ここで勉強するの!?」
三奈の驚きの声が漏れる。
当然だろう。俺はてっきりリビングや居間……もしくはヤオモモの部屋とか、そういう場所で勉強をすると思っていたのだが、ヤオモモに案内されたのはこう……何だろうな。
大学の講義を行う部屋?
それっぽい感じの階段状というか、段々畑状というか、そんな感じの部屋だった。
ぶっちゃけ、ヤオモモの屋敷にあるこの部屋が具体的にどういう時に使うのかがちょっと分からない。
まさか、こうして勉強会をする為の部屋なのか、それともヤオモモの家で何らかの講師を呼んだりして授業をして貰うのか。
ともあれ、そんな部屋での勉強になった訳だが……
なるほど、あるいはこれを見越していたのかもしれないな。
講義室の中だからというのもあるかもしれないが、上鳴や三奈を始めとした成績下位陣が遊ぶ様子もなく、真面目に勉強している。
「アクセル、ちょっとここを教えてくれ」
尾白にそう言われ、俺も勉強する手を一度止め、そちらを見る。
尾白はクラスの中でもそこまで成績が悪い訳ではない……三奈や上鳴といった面々とは比べものにならないくらいには頭が良いので、教えるのもそこまで大変ではない。
これが三奈や上鳴とかだと、説明下手な俺ではどうしようもないんだが。
なので、そちらについてはヤオモモがつきっきりで教えている。
上鳴も珍しく勉強に必死になっているのは……それだけ期末テストでの赤点が嫌なのだろう。
より正確には、赤点を取って林間合宿に行けなくなるのが嫌だといったところか。
なので、いつもなら近くに来たヤオモモの胸に目を奪われたりするのを、何とかして我慢し、こうして勉強に集中しているといったところか。
もっとも……それでも何度かチラチラと自分に勉強を教えているヤオモモの胸に視線が向いてしまうようだったが。
上鳴も女に興味がある年齢だし、そういう風にしてもおかしくはないか。
峰田の相棒だしな。
「で、つまりこの文章が登場人物の気持ちを表している訳だ」
「……ああ、なるほど」
尾白が俺の言葉に納得し、再び問題集に挑戦する。
その様子を眺めつつ、取りあえず今はもう大丈夫だろうと判断し、自分の勉強に戻り……それから少し時間が経ったところで、ヤオモモが口を開く。
「皆さん、そろそろ休憩にしませんか? とっておきの紅茶のゴールドティップスインペリアルティーを用意しましたので、楽しみにしていて下さいね」
そう言い、嬉しそうに講義室を出ていくヤオモモ。
にしても……
「ゴールドティップスインペリアルティーってなんだ?」
「さぁ?」
俺の側に座っている耳郎が、首を傾げる。
どうやら耳郎も……そして他の面々も、ゴールドティップスインペリアルティーというのは知らないらしい。
まぁ、紅茶とヤオモモが口にしていたし、何よりティーと名称にもあることを思えば、かなり高級な茶葉といったところか?
インペリアルとか名前に入っているし。
こういう時、ネギとかなら名称だけでどういう紅茶なのか分かるんだろうな。
俺は紅茶派ではあるが、それはあくまでもそこまで深くはない……それこそ本物の紅茶派では絶対に許せないという缶紅茶であっても普通に美味いと思えるし。
もしネギ辺りがゴールドティップスインペリアルティーというのを飲んだら、どのように反応するのか……ちょっと気になるな。
「多分、美味しい紅茶なんでしょ。ヤオモモが用意してくれた紅茶、それもしっかりと淹れてくれるんだから、美味しい紅茶を待ってればいいんじゃない?」
三奈のその言葉に、他の面々も勉強を一度止めて休憩となる。
「ウェイエウェイ」
「ちょっと、上鳴が個性を使ってないのにウェイってるよ」
勉強をしている時はそれなりに真面目にやっていた上鳴だったが、休憩に入って一段落すると、耳郎が言うように個性を使ってないのにウェイっている。
今まで上鳴がウェイっていたのは、あくまでも個性を使いすぎての事だ。
しかし、今は特に個性を使っている訳でもないのに、間違いなくウェイっている。
今のこの様子から考えると、午後からの勉強においても間違いなくウェイるだろう。
「上鳴にしてみれば、勉強はそれだけ厳しかったんだろうな。……ちなみに三奈の方は問題ないのか?」
「え? 私? うん、問題ないけど……あ」
上鳴のウェイっているのを見た俺が、何故自分に問題ないのか聞いたのか、思うところがあったのだろう。
三奈は俺に向かってジト目を向けてくる。
とはいえ、三奈が上鳴に次いで成績の悪い……ワースト2だというのは間違いない。
「そういう心配をされたくないのなら、今度からきちんと毎日の復習はするんだな」
予習までやれとは言わない。
だが、復習くらいならそれなりに出来てもおかしくはないだろう。
そして復習をすれば知識の定着がしっかりと行われ……取りあえず赤点の心配はいらなくなると思う。
とはいえ、まさにこれは言うは易しって奴なんだよな。
やらないといけないと思っても、いざやという時になると何となくやりたくなくなる。
あるいは普段は気にならないところが気になったりする。
テスト勉強を家とかでしている時に、何故か急に部屋を片付けたくなるのとかと同じような感じだ。
それでいて、片付けの最中で漫画を見つけて、何故かそれを読み直したくなって1巻から読み直す的な。
ましてや、それが3巻や5巻で終わるような漫画ならともかく、20巻、30巻と続くような大作だったら……うん。
続きが気になって、どうしても最後まで読みたくなったりするんだよな。
なので、テスト勉強をやる時は自分の部屋じゃなくて図書館とか、そういう場所でやるのがいい。
そんな風に思っていると、ショートケーキと紅茶の乗ったワゴンを手に、ヤオモモが講義室まで戻ってくる。
「さぁ、休憩しましょう」
そんなヤオモモに促され、俺は休日をヤオモモの家で勉強し、あるいは他の面々と話したりしてすごすのだった。