俺が目的地に到着したのをどうやって把握していたのかは分からないが、とにかく密集工業地帯となっている運動場γの中央付近……具体的には、以前レースをやった時にオールマイトがいた場所の近くだな。
そこまで到着して少ししてから、試験開始の合図がされる。
『yeah! 試験開始だぜ!』
聞こえてきたのは、プレゼント・マイクの声。
……なるほど、これなら俺にもしっかりと聞こえるな。
とはいえこうして声を出せば、俺用の演習試験の点数が加算されるプレゼント・マイクがどこにいるのか丸分かりだが。
もっとも、プレゼント・マイクもその辺については十分に理解しているだろうから、今の開始の合図をしたところで即座に移動しただろうが。
ともあれ、こうして試験が開始された以上……行くか。
虚空瞬動を使って最短距離でゴールまで向かうというのは、今回はやらない。
正直なところ、最初はそのつもりだった。
しかし、そうなるとこの試験に参加している教師達との戦闘において、各個撃破は難しくなってしまう。
虚空瞬動をしている俺を攻撃出来るのは、恐らくオールマイトとスナイプ……いや、13号のブラックホールでも何とか出来たりするか? セメントスがコンクリートで壁を作って行く手を遮るといった事も出来るな。
相澤は……いや、虚空瞬動は個性ではなく技術だと言ってあるので、問題ないか。
技術でそういうのが出来るのか? といったように突っ込まれてもおかしくはないが、それを言うのなら相澤の捕縛布だって同じようなものだろうし。
ともあれ、そんな諸々の事情から虚空瞬動を使わない。
そもそもこの演習試験においては気配遮断を使って1人ずつ倒し、パーフェクトで終わらせようと思っているしな。
最短で終わらせるのなら虚空瞬動でもいいのだが、相澤から聞く限りだと制限時間は決められているものの、短時間でゴールに辿り着いたからといって加点はされないらしいし。
そんな訳で、誰に見られているのかは分からないので誰にも見られない場所……周囲の殆どが建物に囲まれている場所まで移動し、気配遮断を使う。
建物に囲まれている場所から出ると、そのまま歩き始める。
向かうのは、当然ながらゴールのある場所だが……その前に、教師達を手錠で捕らえておきたいところだ。
後は、スナイプに見つからないように注意すればいいか。
そんな風に思いつつ、俺は狭い道を進み始める。
レースの時のように配管とかそういうのを蹴って移動するのではなく、あくまでも周囲を気にしていないといった様子で歩いてだ。
気配遮断を使っているので、俺は他の者から見えない……というか、認識されないって表現の方が正しいか?
とにかくそんな状況な訳だが、その効果範囲はあくまでも俺だけだ。
例えば俺が配管を蹴ったりした場合、その音や……場合によっては、配管に触れている者がいた場合、その衝撃は普通に聞こえるし、感じることが出来る。
だからこそ、こうして歩いている訳だが……
「いた」
そうして歩き始めて数分。
気配を察知し、そちらに向かって歩き始める。
そうして気配のある方に向かって移動する、
気配は……3つ? 最初にしては多いな。
しかもその1つは覚えのある気配だ。
そちらに向かうと……そこにはいたのは、覚えのある気配の主、ミッドナイトと、パワーローダーにセメントスの3人。
その中の1人、パワーローダーはパワードスーツ……と表現してもいいのか? とにかくそんなのを着ている。
なるほど、パワードスーツを着ているパワーローダーが前衛を務めつつ、セメントスがコンクリートの壁で防御、あるいは俺をコンクリートの壁で閉じ込めてミッドナイトの個性で眠らせるといったところか?
一応ミッドナイトも鞭を持っているから前衛が出来ない訳ではないだろうけど。
いや、鞭の攻撃範囲を思えば、前衛じゃなくて中衛といったところか?
ともあれ、この中で一番危険なのはミッドナイトだろう。
仲間を巻き添えにしても構わないと判断すれば、この状況でも個性を使う可能性は十分にあるのだから。
もっとも、個性を使う時にはその身体を覆っている薄いタイツを引き裂く必要があるので……まぁ、うん。A組の生徒達が俺の演習試験を見ているという事を考えると、峰田や上鳴はミッドナイトに個性を使えと叫んでいてもおかしくはないが。
どういう風にして俺の姿を見ているのかは分からないが。
多分、色々な場所にカメラの類が設置してあるのだろうとは思うけど。
とにかく、あの3人の中で一番厄介なのはミッドナイトだ。
ただ……パワーローダーももしかしたら危険かもしれないな。
具体的には、気配遮断を使っている俺の姿を確認出来るという意味で。
パワーローダーのヒーローコスチュームは、仮面というか、ショベルカーの先端みたいな部分がマスクというか、兜というか、ヘルメットになっている。
つまり、あの内部は何らかの映像モニタになっていて外の様子を確認している可能性があるという訳で……そうなると、気配遮断は効果がない。
こっちが見えているかどうかは分からないというのは痛いな。
……まぁ、その辺については見抜かれると仮定して行動した方がいか。
「来ないわね。真っ直ぐゴールに向かうのなら、そろそろこの辺りを通ってもよさそうなんだけど」
「ケケケ、実は俺達のいない場所を通ってるんじゃないか?」
ミッドナイトの言葉にパワーローダーがそう返し、その近くではセメントスが同意するように頷いていた。
……よし。
パワーローダーがミッドナイトと話している、つまり俺の方に背中を向けているのを確認すると、そちらに向かって歩き始める。
パワーローダーの映像モニタ――あればの話だが――が背後の様子もしっかりとカバーしていれば、俺の姿に気が付くかもしれない。
だが、その場合は即座に瞬動で近付いて手錠を掛ければいい。
そうなれば攻撃をしたという判定になって気配遮断の効果は切れるので、そこからはまさに時間との勝負だ。
パワーローダーを捕らえ、ミッドナイトを捕らえ、最後にセメントス。
捕らえる順番を考えつつ、パワーローダーに後ろから近付いていくが……どうやら俺に運があるらしいな。
パワーローダーに映像モニタがあるのかどうかは分からないが、もしあったとしても背後については範囲外らしい。
そうして近付いていくと……パワーローダーの両手が後ろに回った瞬間、手錠を掛ける。
「んなっ!?」
「っ!?」
「こちらに!」
手錠を掛けるという行動をした事によって気配遮断の効果が切れ、俺の姿を認識出来るようになる。
素早くミッドナイトがセメントスのいる方に跳び、それを確認したセメントスはコンクリートを使った壁を作るが……
「残念」
壁が出来たと判断した瞬間、斜め前に跳ぶ。
同時に最初に生み出された壁を全面に、俺のいた場所を覆うように壁が生み出されるが、その時既に俺の姿はコンクリートの壁……の外にある。
地面を蹴って素早くミッドナイトの後ろに回り込み……その身体を覆っているタイツを破こうとする手を強引に後ろに回して手錠を掛ける。
これで2人目。
「まさか、こんなに……」
ミッドナイトにしてみれば、まさか自分がこうも簡単に捕まえるとは思わなかったのだろう。
……これで俺が本物のヴィランなら、それこそミッドナイトを弄ぶとかそういう事をしてもおかしくはないのだが、生憎と俺はヴィランではない。
というか、演習試験の設定的にヴィランは教師達の方か。
そんな訳で、手錠を嵌めたミッドナイトをその場に残して最後のセメントスを……と思ったところで、再びセメントスによって俺の周囲がコンクリートの壁に囲まれる。
当然ながら、そのコンクリートの壁の中にセメントスの姿はない。
どうやら俺がミッドナイトに手錠を嵌めた一瞬で後ろに下がり、個性を使って俺をコンクリートの壁に押し込めたらしい。
その判断自体は悪くない。
コンクリートの壁を見た感じ、俺とミッドナイトを閉じ込めた壁は急速に厚くなっている。
俺に壊されないようにという考えからの行動なのだろうが……
「スマッシュ!」
その言葉と共に振るわれた拳は、容易にコンクリートの壁を破壊する。
破片となったコンクリートを見てみると、どうやら50cm程にまで厚くなっていたらしいが、生憎とこの程度の厚さは俺にしてみればどうという事はない。
「なっ!?」
だが、セメントスにしてみれば、この厚さのコンクリートの壁をこうも容易に破壊されるとは思っていなかったらしく、驚愕の表情を浮かべていた。
ちなみに視界の隅では、ミッドナイトも信じられないといった表情でこっちを見ている。
これで俺がオールマイトのような筋骨隆々であればともかく、今の俺はそんな体格ではないしな。
そもそも20代の姿になっても、俺の外見は筋骨隆々といった訳ではない。
そんな風に考えつつも、俺の身体は止まることなく動き続ける。
コンクリートの壁の穴から外に出て、セメントスとの間合いを詰める。
セメントスは再びコンクリートで壁を作って防壁にしようとしたが、既に俺はセメントスの前にいた。
そのまま足を引っ掛け地面に倒し、腕に手錠を掛ける。
重りがなければ、あるいはセメントスとミッドナイトはもう少し俺に対抗出来たかもしれないな。
パワーローダーは……まぁ、うん。気配遮断を使った俺の姿に気が付いていなかった事もあり、手を後ろに回した瞬間に手錠を掛けられたので、重りがどうこうといった問題ではなかったが。
「さて、じゃあ……手錠をした以上はこのまま行ってもいいんですよね?」
「ええ、それで問題ないわ。……それにしても、凄いのね」
ミッドナイトがそう声を掛けてくるが……ミッドナイトがそういう風に言うと、18禁ヒーローというのもあってか、妙にエロく聞こえるな。
勿論ミッドナイトにそのつもりはないのだろうが。
……いや、ミッドナイトの性格なら、それも青くてOKとかいいそうだけど。
「ミッドナイト先生に褒めて貰って何よりですよ。……じゃあ、俺は行くので」
そう言い、その場を後にする。
さて、後は6人。……もしくは、演習試験の前に顔を出していた教師達以外に1人追加されていて、相澤から受け取った10個の手錠通りの数がいるのなら、後は7人か。
どちらにせよ、さっさと行動してしまった方がいいのは間違いないな。
ミッドナイト達のいる場所から離れると、最初と同じように周囲を壁で他から見えないような場所まで移動し、再度気配遮断を使う。
このヒロアカ世界において、気配遮断って便利だよな。
そうして歩いていると……不意に視界の隅に映るものがあった。
あれは……エクトプラズムか?
エクトプラズムという教師とは、あまり関わりがない。
いやまぁ、それを言うのならパワーローダーやセメントスだって似たようなものだが。
ただ、エクトプラズムは色々な意味で個性的な存在なので、どうしても目立つ。
例えば、その個性。
自分の分身を大量に生み出す事が出来るというもので、実際に俺が見たエクトプラズムも、分身体だろう。
実際、よく見ればエクトプラズムが結構な数周囲をうろついているし。
……多分、さっきの戦闘音を捉えて、それで分身を生み出したのだろう。
だが、幸いにもこの分身にも気配遮断は効果があるようで、向こうは俺の存在に気が付いた様子はない。
とはいえ……問題なのは、どこに本物がいるかだよな。
エクトプラズムが何体分身を作り出せるのかは分からないが、その中から本物を見つけ出すのは……いや、無理じゃないか。
幸いにもエクトプラズムの分身は教師がつけている重りを身に付けていない。
それがエクトプラズムの個性の限界なのか、それとも演習試験なので本物の見分けがつくようにしてるのか。
その辺りは分からないが、とにかく分身体にはない重りを身に付けている個体を探せばいい。
それに……エクトプラズムはプロヒーローだが、この分身こそが本領であり、つまり本人の強さはそこまででもない……筈だ。
いやまぁ、それでも相応の実力は持っていると思って間違いないだろうけど。
ただ、さすがにさっきの3人よりも……とは思わない。
そう考えると、エクトプラズムを守る為の護衛がどこかにいる可能性もあるな。
誰かと考えると……取りあえずオールマイトはないだろう。
最強の門番――という表現は正しくないのかもしれないが――として、ゴールの前にいると思っていい。
それにスナイプも狙撃がメインだけに護衛として残る事はないだろう。
そうなると、相澤、プレゼント・マイク、校長の誰か。
だが、校長は……とてもではないが前線で戦うようには思えない。
もっとも、人というのは野生の犬や猫を相手にしても本気で襲い掛かられると負けるという。
実際には勝てる者もいるのかもしれないが……
そう考えると、意外と校長も護衛になったりするのか?
まぁ、その可能性は限りなく低いと思うけど。
となると、残るのは……そう思いながら進む俺の視線に、重りを装備したエクトプラズムと、護衛なのだろう相澤の姿を発見するのだった。