エクトプラズムの護衛に付いているのは、相澤。
それを確認すると、どう攻撃するべきか迷う。
いや、この場合はやっぱり相澤を先にするべきか?
相澤の捕縛布を使った戦い方は、戦う方にしてみればかなり厄介だ。
それと比べると、エクトプラズムは分身の数こそ厄介ではあったが、本人の実力は……決して弱いという事はないが、それでも余裕をもって対処出来る感じだと思う。
ここに一緒にプレゼント・マイクがいるとやりにくかったんだが……まぁ、相澤とプレゼント・マイクはともかく、エクトプラズムとプレゼント・マイクは戦闘的な意味での相性が決して良い訳でもないしな。
プレゼント・マイクの個性を使った結果、エクトプラズムの分身が纏めてやられるなんて事になったりしてもおかしくはないし。
であれば、校長と組んでるのか?
もしくはスナイプ?
オールマイトはまずないと思うが。
とにかく、教師の数は出来るだけ早く減らした方がいい。
俺がどういう風に動いていて、どういう狙いを持っているのか……その辺りは、出来るだけヴィラン役の教師達に知られたくはないしな。
そんな訳で、先程同様に気配遮断を使いながら、この場合の最優先目標である相澤に近付いていく。
「エクトプラズム、まだアクセルは見つからないか?」
「ミツカラン」
「……そうか。厄介だな」
「技術トイウ奴カ?」
「そうだ。これだけエクトプラズムの分身で見て回っているというのに、未だにアクセルが見つからないという事は、恐らくUSJで俺が見た技術を使っているのだろう」
その会話に感心する。
……いや、感心するまでもないか。
教師として、俺の能力について他の教師達と情報共有をするのは当然の事だろう。
特に俺の場合、公安からの推薦で雄英の受験を受けるという、普通ではちょっと考えられないような成り行きだ。
俺の担任である相澤は勿論、他の教師達と情報共有をするのはおかしな事ではない。
ましてや、瞬動や虚空瞬動、気配遮断は個性によるものではなく、あくまでも技術であると、そう明言してるのだから。
これはつまり、自分の持つ個性の他にもう1つ、後付けの個性を使えるようになるようなものだ。
いやまぁ、実際には色々と違うのだろうが……どのみち個性を持っていない俺にしてみれば、同じようなものだ。
そんな訳で、教師達の間でその辺りが話題になってもおかしくはない……というか、体育祭でも普通に瞬動とか使っていたので、掲示板とかそういうのでかなり話題になってたっぽいしな。
生徒達は勿論、プロヒーローにとっても瞬動や虚空瞬動といったものはかなり興味深い存在だったらしい。
分からないでもないけど。
とにかく相澤とエクトプラズムの会話を聞きつつ、行動に移る。
特に緊張する事もなく……それでいながら、もし相澤が何らかの手段、本当に俺にも理解出来ないような手段で俺の存在に気が付いた時は即座に対応出来るようにしながら、相澤の後ろに向かう。
とはいえ、パワーローダーのように気軽に両手を後ろに回すといった事をする様子はない。
となると、こっちでさっさと手錠を掛けるか。
どのみち相澤を捕らえてしまえば、エクトプラズムにも見つかるのだから。
そんな訳で、相澤の腕を掴むと同時に片手に手錠を掛け……
「なっ!?」
驚きの声を上げる相澤を、エヴァ譲りの投げ技を使って地面に倒し、もう片方の手にも手錠を掛ける。
そんな相澤の声を聞いたのだろう。
エクトプラズムは素早くこちらと距離を取る。
……その動きが微妙に鈍い……という程ではないが、若干、本当に若干ズレのようなものを感じるのは、エクトプラズムが義足をつけているからか。
俺が近接戦闘でエクトプラズムをそこまで問題にしないと感じたのも、その辺りが理由だったりするし。
そんな訳で、俺は確保されて地面に倒れている相澤をそのままに、真っ直ぐエクトプラズムとの距離を詰める。
そんな俺に対応し、エクトプラズムの近くにいた分身が俺に殺到してくる。
この様子だと、恐らく他の場所にいる分身もこちらに呼び寄せられているのだろう。
もしかしたら、エクトプラズムが分身を呼び寄せるには実際に声を発したりしないと駄目で、考えるだけでどうにかなる可能性もあるが、こちらにとって有利な可能性は、取りあえず今は考えないようにしておく。
分身がこっちにやって来るにしても、その前にエクトプラズムの本体に手錠をすれば、それでいいだけだし。
そんな訳で、こちらに向かってくるエクトプラズムの分身の攻撃を回避しながら、本体のエクトプラズムとの間合いを詰める。
やはりというか、分身のエクトプラズムは決して強くはない。
それこそ1対1なら爆豪や轟、緑谷といった者達でも勝利出来るだろう。
……まぁ、あの3人は色々な意味で特別だしな。
そんな風に考え、エクトプラズムとの間合いを詰め……
「ハァッ!」
鋭い呼気と共に、エクトプラズムの拳が振るわれる。
なかなかに強力な一撃なのは間違いなかったが……
「残念」
俺の目にはエクトプラズムの一撃はしっかりと見えていた。
その一撃を回避しつつ、こちらも相澤の時と同じく投げる。
……エヴァに教えて貰ったこの手の投げ技、何気に便利だよな。
これが本当のヴィランなら、相手が死なない程度に殴るといった事も出来るんだが、この状況でそのような事をする訳にもいかないし。
そんな訳で、この投げ技は重宝していた。
オールマイトとか、そういう相手には多分効果はないだろうけど。
とにかく、地面に倒したエクトプラズムの両手にも手錠を掛け……
「これでOKっと。じゃあ、俺の演習試験が終わるまで、ここで待っていて下さいね」
「待て」
その場を立ち去ろうとした俺の背に、相澤が声を掛けてくる。
「何です?」
「……いや、何でもない。行け」
振り返るも、相澤は結局何も聞いたりせず、そう言う。
まぁ、多分気配遮断についてとか聞きたかったんだろうな。
あるいは、まさかこうもあっさりと自分が捕らえられるとは思っていなかったのか。
ともあれ、これで厄介な相澤を脱落させる事が出来た。
もっともこの場合の厄介というのは、純粋な戦闘力という意味ではなく、相澤の個性である抹消の心配をしなくてもいいという事だ。
俺の個性はあくまでもそう見せ掛けているだけなので、抹消を使われても意味はない。
しかし、その意味がないというのが色々と不味い理由となる。
何しろ抹消で個性が使えない状態であるにも関わらず、俺は普通に個性を使っている――実際には素の身体能力なのだが――のだから、それを不思議に思うなという方が無理だろう。
そんな心配がなくなったのは、俺にとっても決して悪くはない事だった。
相澤とエクトプラズムをその場に残し、先程同様に誰も見えない場所で気配遮断を使用する。
そうして再び他の教師を探して歩き始め、5分程経過したところで……
「っと」
こちらに向かって飛んできた何かを咄嗟に掴む。
いや、何かというか……これは考えるまでもなくスナイプの狙撃だろう。
狙撃銃のスコープ越しなのもあって、どうやら俺の気配遮断の効果がなかったらしい。
……今更、本当に今更の話だが、双眼鏡とか狙撃銃のスコープとかで気配遮断を使っていても俺を認識することが出来るのに、眼鏡とかサングラスとか、そういうのには普通に気配遮断の効果があるのは、何でだ?
まぁ、考えても仕方がないし、多分魔法……というか、魔術的な理由でそういう風になっているんだろうと思っておく。
ともあれ、スナイプに見つかってしまった以上は、こちらとしても気配遮断はもう使えない。
いや、あるいは銃弾の飛んできた方向からスナイプがどこにいるのかは分かっているので、そこから見えない場所、狙撃銃で狙われない場所に移動して、気配遮断を使うのもありかもしれないが。
そう思っていると、メキベキバギドガグシャン、と。そんな音が聞こえてくる。
何だ? と思って音の聞こえてきた方に視線を向けると……
「うわぁ……マジか」
そこには……何て言えばいいんだ? 巨大な鉄球をぶら下げた車、工事用特殊車両といった感じの車があって、鉄球を振るっては運動場γにある工場を破壊している。
勿論、ただ破壊している訳ではなく、破壊した瓦礫がこっちに飛んでくるように動き、しかもそうしながらも俺のいる方に向かって車両そのものも進んでいた。
明らかにあれに乗っているのは教師なのだろうけど、問題なのは一体誰が乗っているのかという事だろう。
現在残っているのは、オールマイト、スナイプ、プレゼント・マイク、校長の4人。
あるいは手錠が10個あったので、俺が知らない追加の教師が1人いる可能性もあるが……こっちについては、取りあえず今は考えないようにしておこう。
オールマイトは最後の関門としているだろうからな。
スナイプは殺気の狙撃の方向が鉄球の工事車両が来たのとは別の方向だったので、これもない。
となると、残るのはプレゼント・マイクと校長だけだが……どっちだろうな?
そんな疑問を抱くも……
「校長か」
視線の先、工場の屋根の上に立っているプレゼント・マイクの姿を見つけ、同時にプレゼント・マイクも俺の姿を見つけた事により、鉄球の工事車両に乗っているのが校長であると判明する。
『YEAAAAHHHHH!』
俺を見つけた瞬間、プレゼント・マイクは大声で叫ぶ。
当然ながらそれはただ叫んだだけではなく、プレゼント・マイクの個性を使った攻撃だ。
大声が物理的な破壊力を伴い、プレゼント・マイクと俺のいる場所を物理的に破壊していく。
「っと、またか」
声に紛れて飛んできたスナイプの放った狙撃銃の弾丸を、指で摘まんで止める。
プレゼント・マイクの攻撃は、スナイプの狙撃とは違ってどうしようもない……いや、白炎を使えば声そのものを焼いたり出来るとは思うけど、今のところ個性という事になっている混沌精霊は、あくまでも増強系と思われているので、白炎は使えない。
いや、勿論使おうと思えば使えるのだが、何となく今まで隠してきたこともあって、使おうとは思わない。
使わなければどうしようもないなら使うだろうが、そこまで追い詰められている訳じゃないしな。
にしても、遠距離のスナイプと中距離のプレゼント・マイク、それと……恐らくは校長が乗っているのだろう鉄球の工事車両も遠距離か?
かなり考えられた組み合わせだな。
しかもそれぞれが別方向にいるのもあって、誰か1人を倒しにいけば、その相手が持ち堪えている間に他の2人が俺に攻撃を仕掛けて来る訳か。
やりにくい……と、普通なら思うだろう。
だが、それはあくまでも普通の場合だ。
何よりこの陣形は考えられているものの、それでも穴はある。
……いや、これは普通ならとてもではないが穴と呼べないだろう。
だが、俺にしてみれば間違いなく穴であり……
「その穴は、しっかりと突かせて貰う!」
瞬動を使って跳躍し、虚空瞬動をしてスナイプのいる方に向かう。
先程からの狙撃で、スナイプがどこにいるのかは分かっていた。
狙撃の長所を存分に活かす為、俺を包囲したプレゼント・マイクと校長と比べても、明らかに遠い場所。
スナイプにしてみれば、俺を狙撃するという意味で離れた場所にいるのは当然だろう。
そして俺はプレゼント・マイクと校長の相手をするのが精一杯で、狙撃をした後で移動するといった事はせず、同じ場所にいた。
もし俺が普通なら、それこそただのヒーロー科の生徒であれば、スナイプの狙撃に出来る対処は、回避が防御くらいだろう。
だが、俺は違う。
そもそも狙撃に使われた銃弾を指で摘まみ取る事が出来るし、そして何より虚空瞬動を使い、高速で空を移動出来る。
結果として、俺は真っ直ぐスナイプのいる方向に向かうのだが……当然のように、スナイプはそれに驚き、俺を近づけさせまいと連続して狙撃してきた。
それが余計に自分のいる場所を俺に教えているようなものなのだが。
スナイプにしてみれば、まさか虚空瞬動などという方法で空を真っ直ぐ自分に近付いてくるとは思わなかったのだろう。
あそこか。
スナイプがいるのは、運動場γの中でも比較的大きな工場の屋上。
そこに向かい、俺は真っ直ぐ向かう。
途中で何度か狙撃されたものの、それは全て指で、あるいは掌で受け止めていた。
ある程度の距離まで近付いたところで、再度虚空瞬動を使用。
一気に速度が増し、真っ直ぐスナイプ目掛けて突っ込み……それを見たスナイプが、狙撃銃を放り投げ、拳銃を手にするが、遅い。
スナイプの前で再度虚空瞬動を使い、斜めに跳び、そこでも更に虚空瞬動を使ってスナイプの後ろに回り込むと足を蹴って転ばせ、続けてスナイプの持っている拳銃を蹴り飛ばし、その手に手錠を嵌め……こうしてスナイプの確保が完了するのだった。