転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4479話

 ミルコの蹴りは素早く、キレもある。

 A組の中で蹴りをメインにする戦い方となると飯田、あるいは拳を壊さないように蹴りを主体にするようになった緑谷か。

 そんな2人だが、ミルコの蹴りはそんな2人の蹴りとは明らかにレベルが違う。

 芸術的……といった表現が蹴りに相応しいのかどうかは分からないが、とにかく見る者の目を奪うかのような、蹴りが俺を襲う。

 ……だからといって、素直にその蹴りを受けるつもりはなかったが。

 スウェーで回避し、その蹴りに続いて放たれたもう1発の蹴りも屈んで回避し……すると俺の頭の上を通りすぎたかと思った足がピタリと止まり、そのまま踵落としとなって振ってくる。

 その一撃を1歩前方に……斜め前に進む事で回避し、それによって俺とミルコの距離はほぼなくなる、いわゆるゼロ距離となった。

 蹴りを主体にしているミルコにとっては、苦手な距離。

 もっとも、蹴りの中にもこの距離で放つ事が出来るものはある。

 ムエタイとかの膝蹴りなんかがそうだな。

 当然蹴りを主体としているミルコもそれは知っており、素早く膝蹴りを……それも俺の鳩尾を狙って放ってくる。

 おいおい、俺だからいいが、もしこれが戦闘が得意じゃない奴の場合、悶絶……どころか、肋骨を何本も折るような大怪我をしてもおかしくないぞ?

 そう思いながら、右手を伸ばしてミルコの褐色の太股に触れ、膝蹴りが出来ないように押さえる。

 ……なるほど、随分と鍛えられている足だ。

 そう思いながら、左手をミルコの腹部に掌底の状態で当て……

 

「はっ!」

 

 踏み込みと共に一撃を放つ。

 身体の捻りを使い、ゼロ距離からでも十分に威力のある一撃を放つ事が可能だった。

 

「ぐふっ!」

 

 ミルコのヒーローコスチュームの上からの一撃だから、ダメージはあるが致命傷ではない筈だ。

 ヒーロービルボードチャートでトップ10に入るプロヒーローだけに、そのヒーローコスチュームはかなり高性能なのは間違いないだろうし。

 ……ただ、流行の為か、それともヒーローコスチュームの技術的な問題なのか、ピッチリとした……峰田辺りなら喜び、ムッツリ系なら思わず視線を逸らすくらいには、ボディラインが強調されているのが多いんだよな。

 男ならともかく、女のプロヒーローでこういうのって、ぶっちゃけ危ない気がするんだけどな。

 もしヴィランとの戦いで負けた場合、こういうヒーローコスチュームを着ている女がどういう目に遭うのかは、考えるまでもないだろう。

 ミルコや龍子、優のようにプロヒーローとしても強者であれば、また話は違ってくるだろうけど。

 ともあれ、ゼロ距離からの掌底……いわゆる発勁を食らったミルコは吹き飛んでいく。

 ちなみにこの発勁……誤解している奴もいると思うか、正確には2種類あるが、気を使った一撃も発勁と言われているし、今俺がやったように気を使う訳ではなく、身体の動きを使って力を効率的に使い、数cm程度の隙間があれば十分に威力のある一撃を放つといった攻撃も発勁と呼ばれている。

 吹き飛ばされたミルコは、空中で身体を捻りつつ、地面に着地した。

 

「ペッ」

 

 血が混じった唾を吐き捨てたミルコは、立ち上がって俺を見てくる。

 その視線には、先程までと同じような強烈な闘気が宿っており、今の一撃は間違いなくダメージがあっただろうが、それでもまだやる気は十分にあるらしい。

 

「行くぞぉっ!」

 

 その言葉と共に俺との間合いを詰めてくるミルコ。

 だが、オールマイトとの戦いの経験を思えば、ミルコの速度は蚊が止まる程……とまではいかないが、それでも十分に対処出来る速度だった。

 頭部を狙う蹴り……いわゆるハイキック。

 しかし次の瞬間、その足の軌道が変わる。

 いわゆる、ブラジリアンキックと呼ばれる類の蹴り。

 しかし、その蹴りを見てから反応出来るのが、俺にとって有利なところだ。

 手を伸ばし、ミルコの蹴りを止め……その動きを受け流す。

 エヴァから習った、柔術の投げ。

 だが、ミルコは俺が想定した以上の勢いで離れていく。

 これは俺の投げが見事に決まった……訳ではない。

 俺の投げの勢いを利用し、自分から飛んだ形だ。

 その結果として俺の想像以上の勢いで空中を飛んでいったのだ。

 このまま地面に、あるいは離れた場所にある工場の壁とかにぶつかれば、それは致命的ですらあるだろう。

 しかし、それはあくまでもぶつかった場合だ。

 ミルコは当然のように空中で身体を動かし、それによって無事に地面に着地する。

 

「ふぅ、まさかこんな投げ技を持ってるとは思わなかったな。面白れえ……面白れえな、お前!」

 

 投げられたのが余程面白かった、あるいは予想外で驚いたのか、とにかくミルコは獰猛な笑みを浮かべて俺に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。

 個性の兎を最大限に利用した、とんでもない瞬発力で。

 兎ってイメージは、普通なら愛らしい動物だろう。

 それこそ、寂しいと死ぬとか、そんな感じの。

 もっともこれはあくまでも噂……というか、都市伝説みたいなものであって、実際には寂しくて死んだりはしないらしいが。

 ともあれ、兎はそういう愛らしい生物だというのに、このミルコは兎は兎でも肉食の獰猛な兎だ。

 それこそ兎という名の何か別の生物……といったように思える。

 俺との間合いを詰め、先程よりも若干素早い蹴りを放つミルコ。

 どうやらさっきのが最速の蹴りといった訳ではなかったらしい。

 その事に驚き、同時に納得もする。

 そもそもミルコの様子からそうは見えないが、あくまでもミルコの参戦は俺の演習試験についてだ。

 であれば、ここで俺を相手に最初から全力の、そして全速の蹴りを放ったりはしないだろう。

 とはいえ……

 

「俺を相手に蹴りは無駄だけどな」

 

 そう言いながら、俺の腕……というか、肩を狙って放たれた蹴りを掌底で防ぐ。

 いや、正確には掌底の一撃で蹴りを弾いて強引に軌道を変えたといった方が正しいか。

 

「ちぃっ!」

 

 だが、さすがミルコ。

 強引に蹴りの軌道を変えられても、身体でバランスを取りながらもう片方の足で蹴りを放つ。

 足というのは、手の3倍の力があるとよく言われる。

 実際には個人差があるのが、それは大まかには間違っていない。

 そういう意味でも、パンチよりキック、拳より蹴りの方が威力が上なのは間違いない。

 ないのだが、手と足ではどうしても攻撃の種類が違ってくる。

 分かりやすいのでは、拳での攻撃はフラッシュやジャブといった、威力はそこまでではないが、速度という意味ではあらゆる攻撃で最高峰のものがある。

 それと比べると、蹴りはどんなに素早い蹴りであっても、フラッシュやジャブには及ばない。

 それでいながら、足というのは地面についている以上、どうしても蹴りを放つとバランスが崩れる。

 そういう意味で、個人的に蹴りというのは威力は高いものの、速度や安定性といった意味では拳に劣る。

 もっとも緑谷の例を見れば分かると思うが、身体能力が高すぎて拳がそれに耐えられず、蹴りを主体にする戦闘スタイルを持っている者もいるし、それこそミルコのように蹴り1本でやってきて、ヒーロービルボードチャートのトップ10に入っている者もいるので、この考えは絶対ではない。

 あくまでも俺の考えしかない。

 ……まぁ、ミルコの場合はその美貌もあって、我々の世界ではご褒美ですと喜んで蹴られに行くような特殊な趣味の持ち主がいてもおかしくはないが。

 そんな風に考えつつ、後ろに1歩下がる。

 次の瞬間、俺の目の前をミルコの足が通りすぎていく。

 これ、やっぱり重りが予想以上にミルコの行動を阻害しているんだと思う。

 とはいえ、これは俺だからこそそのように思うだけで、もし他のA組の生徒なら、ほぼ何も出来ないままにミルコの一撃を食らって吹き飛んでもおかしくはないのだが。

 

「くぅっ、やるなぁっ! けど、何でそっちからは積極的に攻撃してこないんだよ!?」

 

 蹴りが回避された事により、一度後ろに跳んで俺を距離を取りながら、そう叫ぶ。

 最初は嬉しそうに、だが最後は不満そうな様子で。

 ミルコにしてみれば、俺と正面から戦い、その上で勝ちたいと思っているらしい。

 けど……いや、そうだな。

 ミルコにしてみれば、今ここで俺が本気で相手をしていないのが不満なのだろう。

 なら……

 

「じゃあ、次はこっちからいくぞ」

 

 そう言うと、地面を蹴って一瞬でミルコの前まで移動する。

 だが、さすが速度特化型のミルコだけあって、俺の姿を見失ったりはしていない。

 とはいえ、ミルコに近付いた動きを利用して放つ膝蹴りを回避することは出来なかった。

 ミルコに出来たのは、その場で踏ん張るのではなく素早く膝の力を抜き、俺の膝蹴りのダメージを可能な限り殺し、吹き飛ぶことだった。

 

「へぇ」

 

 ミルコの咄嗟の動きに感心する。

 まさか、あのタイミングでこうして今の一撃を回避するとは思えなかったのだ。

 だが……だからといってそのままミルコの自由にはさせない。

 再び地を蹴り、吹き飛んだ……というか、後ろに跳んだミルコを追う。

 後ろに跳んだミルコと、瞬動を使った訳ではないが前方に向かう俺。

 再度間合いがゼロ距離になろうとしたところで、ミルコはその場で回転する。

 それも横の回転ではなく、縦の回転……サマーソルト……いや、踵落としを俺に向かって放ってきたのを思えば、逆サマーソルトの回転?

 とにかくそんな感じの一撃を放ってきた。

 空中にいる状態で蹴りを放っても、この距離だと万全の威力は出せない。

 だからこそ、ここで俺に強力な一撃を放つ為には何らかの方法で蹴りの威力を増す必要があり、それが今の逆サマーソルトとも呼ぶべき行動だったのだろう。

 しかし、そんな派手な動きをすれば当然ながら隙も大きくなる。

 素早く回転はしたが、その時俺は地面に足を突き、行動を止めていた。

 つまり、急停止したのだ。

 その動きはミルコにとっても予想外だったのだろう。

 俺の目の前をミルコの足が上から下に叩きつけられる……というか、砕く? 斬り裂く? とにかくそんな形で通りすぎていった。

 ミルコにとってこれは予想外の展開だったらしく、目を大きく見開くが……遅い。

 俺に攻撃が回避されたと判断したミルコが咄嗟に身体を捻ろうとしたものの、再び前に出た俺がその胴体を……鳩尾を押す。

 掌底とかそういうのではなく、純粋に押したのだが、そこは俺の力だ。

 その場で倒れるのではなく、ミルコの身体が吹き飛んでいく。

 ミルコはいきなりの行動に何とか体勢を立て直そうとするが、既に俺は再び前に出て、無防備に晒されるミルコの胴体に蹴りを放つ。

 ボグッ、と。

 そんな音を立てて、ミルコの脇腹……正確にはそこを覆っているヒーローコスチュームを蹴る。

 それなりに加減はしているし、ミルコのヒーローコスチュームは薄着だが高価な素材を使っているのもあって、結構な防御力を持っている……と思う。

 まさか、最初のヒーロー基礎学の時に緑谷が着ていたような、母親の手作りのヒーローコスチュームなんてものではないだろうし。

 緑谷のあれは、今更だけどちょっとどうかと思う。

 母親思いなのは分かるが、ヒーローコスチュームというのは機能性も非常に重要だ。

 あの時の緑谷の服装は、正直なところヒーローコスチュームというよりも、仮装といった感じだろう。

 実際、爆豪との戦いでボロボロになっていたし。

 もっとも緑谷もその時の戦いで思い知ったのか、今はしっかりとしたヒーローコスチュームを着ているが。

 ともあれ、吹き飛んだミルコは今度はさっきのように空中で身体を捻って体勢を整える事も出来ず、そのまま地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。

 ちょっと力を込めすぎたか?

 少しだけそう心配になりながらも、吹き飛んだミルコを追う。

 何度かバウンドして動きが止まったところで追いつき……立ち上がろうとしたミルコの手に手錠を掛ける。

 オールマイトから聞くまでは知らなかったのだが、この手錠は両手ではなく片手だけで問題ないらしい。

 他のA組の面々も同じ条件なのか、それとも演習試験に参加した教師全員に、ミルコというサプライズゲストもいる俺だから特例処置なのか、その辺は分からないが。

 

「……ふん」

 

 手錠を掛けられたのを見て、不満そうに鼻を鳴らすミルコ。

 ミルコにしてみれば、重りをつけてはいても、まさか俺に負けることになるとは思っていなかったのだろう。

 

「取りあえずこれで全員無事に捕縛、と」

 

 相澤に渡された手錠が全てなくなったのを確認し、ゴールに向かう。

 あれ? でもこれって教師達を全員捕まえたんだが、それでもゴールする必要があるのか?

 そんな疑問を抱くも、教師とミルコの全員を捕らえても特に何かのアナウンスが流れたりしないのを考えると、多分ゴールに到着しないと駄目なのだろうと判断し、そちらに向かう。

 もしかしたら、ミルコを捕らえた後でも何らかのサプライズがあるのかと思ったが、それ以降は特に何もないまま、俺は無事にゴールするのだった。

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