「うおおおおおおおおっ! アクセル、お前すげえよ!」
俺の演習試験が終了し、A組の面々と合流する。
控え室……といか、教室? そんな場所にA組の面々は集まっており、教室には巨大な映像モニタが用意されていて、見た感じではどうやらそれで俺の演習試験の様子を見ていたらしい。
……この巨大モニタ、一体どうやって用意したんだ?
寧ろこういうのを用意するのなら、プロジェクタとかそういうのを用意した方がよかったと思うんだが。
まぁ、その辺については俺がどうこうと考えるような事じゃない。
そもそも雄英は、日本における最高のヒーロー科を持つ学校だ。
当然ながら資金にも余裕があり、こういう巨大な映像モニタを用意するくらいは問題なく出来るのだろう。
ともあれ、俺は興奮してこちらに向かってくる……突っ込んできた切島の相手をする。
「まぁ、クラスNo.1の実力を発揮出来たのは嬉しいな」
「そのような問題ではありませんわ、アクセルさん。先生達はハンデの重りを身に付けていたとはいえ、その数は9人。……いえ、それだけではなく、プロヒーロー……それもヒーロービルボードチャートにおいてトップ10に入っているミルコを含めて合計10人を相手にしての完全勝利。……正直なところ、アクセルさんは今この時からでもプロヒーローとして……それもトップクラスの実力の持ち主としてやっていけるのは間違いありませんわ」
そう断言するヤオモモ。
少し大袈裟では? と思わないでもなかったが、客観的に俺がやった事を考えると、ヤオモモの言ってる事は決して大袈裟ではないのだろう。
ましてや、No.1ヒーローのオールマイトすら倒しての勝利なのだから。
もっとも、オールマイトも緑谷と爆豪と戦った後なので、決して万全の状態ではなかった筈だが。
いや、それはオールマイトだけではないか。
オールマイト以外の教師も、それこそサプライズとしてやって来たミルコ以外は全員が既に俺以外の面々と戦った後だと考えれば、ミルコ以外は万全の状態ではなかった事になる。
……もっとも、プロヒーローとして活動する上でヴィランとの戦いが連続して行われるというのは、そう珍しい事ではない。
龍子から話を聞いた限りだと、そんな感じらしいし。
そういう意味では、教師陣も万全の状態ではないからといって俺に負けたのは、言い訳出来ないだろう。
「ヤオモモに褒められると、嬉しいな」
「ちょっと、アクセル。別にアクセルの応援をしていたのはヤオモモだけじゃないんだけど?」
「そうそう、私達だってアクセル君の応援をしっかりとしていたんだからね」
三奈と葉隠が、ヤオモモに続いてそう言ってくる。
2人とも不満そうな様子を見せているのは……別に今のやり取りでそこまで不満になる要素があったか?
そう思うが、そこで俺が何かを言うよりも前に爆豪が俺の前に来る。
「……」
俺の前に来た爆豪は、無言で俺を見てくる。
……そう、いつもなら睨むとか突っ掛かってくるとかそんな感じだというのに、今は何故かそういうのではなく、じっと俺を見ているのだ。
そんな爆豪の様子は、周囲にいる者達にとっても異様に思えたのだろう。
A組の面々も、特に何を言うでもなく黙って俺と爆豪のやり取りを見守っていた。
「……おい、ヒモ野郎」
たっぷり1分程は経った頃か、爆豪が俺に向かってそう声を掛けてくる。
相変わらずヒモ野郎呼ばわりだったが、爆豪の言葉だけにもう慣れた。
あるいはこれが悪意からの言葉であれば話は別だったが、基本的に爆豪が俺を呼ぶ時には悪意はないんだよな。
緑谷の場合は例外だが、その辺に関しては原作主人公の緑谷とそのライバルの爆豪と考えれば、そうおかしな事ではないのだろう。
その口の悪さや目つきの悪さから、ヒーロー科の生徒ではなくヴィランだと、あるいはヴィラン予備軍だと言われれば、もの凄く納得することしか出来なかったりするのだが。
もっとも、その辺はもう今更……というか、何だかんだと爆豪とも数ヶ月の付き合いなので、慣れてしまったが。
俺以外もそうだし、今となってはクラスの中でも爆豪がからかわれているのを見る事もある。
……もっとも、やりすぎると爆豪がブチ切れて襲い掛かったりするが。
「どうした?」
「……映像を見ている限り、お前は無傷でオールマイトに勝ったように見えたが、本当にどこにも怪我をしてないのか?」
「そうだな。まぁ、怪我らしい怪我はしていない」
「……なら、お前がミルコに使った奴は何だ?」
そう爆豪が言うと、俺の周囲に集まってきた面々も興味深そうな視線を向けてくる。
特に轟は、興味深そうでいて、それでいながらなんと言えばいいのか分からないといったような、そんな視線を向けてきてる。
まぁ、無理もないか。
ステインの時もそうだが、今となっては轟も普通に炎を使うようになっているとはいえ、それでもまだ轟にとって炎というのは……あの父親に対する複雑な感情と共にそこにある。
であれば、炎を……白炎を使う俺を見て、色々と思うところがあっても不思議ではない。
幸か不幸か、A組の中には轟以外に炎を使う個性を持つ者はいなかったし。
その中で敢えて炎の近い個性をと考えると、爆発の個性を持つ爆豪と、創造の個性で炎に関する物を生み出せるヤオモモか?
「あれについては……そうだな、俺の個性……」
「待て、アクセル」
爆豪の言葉に俺が応えようとしたところで、不意にそんな風に声を掛けられる。
それが誰の声なのかは、考えるまでもなく明らかだ。
声のした方に視線を向けると、そこには予想通り相澤の姿がある。
どうやら俺に嵌められた手錠については、もう外したらしい。
まぁ、あの手錠そのものが相澤から……教師から貰った奴だと考えれば、俺の演習試験が終わったらすぐに外されてもおかしくはないけど。
「相澤先生、何か?」
「分かっているだろう。お前が話していた事だ。少し話を聞かせて貰おう。いいな?」
いいな? と聞いてはいるが、ここで嫌だと言っても、この様子だと分かったとは言わないだろう。
それこそ相澤の得意技である除籍をチラつかせてくる可能性もある。
……もっとも、俺が雄英のヒーロー科にいるのは公安からの依頼によるもので、その公安はプロヒーローを統率する機関だ。
そうなると、相澤の判断で俺を除籍にするといった事は……どうなんだろうな。
絶対に出来ないという訳ではないだろうが、かなり難しいと思うのも事実。
とはいえ、俺個人としては相澤の態度はともかく、生徒思いでいざという時は自分の身を盾にするような性格であると知っているので、相澤は気に入っている。
そんな相澤を困らせるのもどうかと思い、素直に頷く。
「分かりました。……じゃあ、そういう訳でこの話は一度お預けだ。爆豪もそれでいいな?」
「ふんっ」
俺の言葉に、爆豪は不愉快そうに鼻を鳴らす。
爆豪にとっては自分が聞いた内容をそのまま相澤に奪われる形になったのだから、不満に思うなという方が無理だろう。
とはいえ、爆豪もここで自分が何を言ったところで、それで相澤が俺を連れていくのを止めるとは思っていないらしく、不機嫌そうに鼻を鳴らしたものの、それ以外は何も言わなかったが。
「ほら、アクセル。行くぞ」
相澤はそう言い、俺も他の面々に軽く手を振ってから相澤と一緒にこの場を立ち去るのだった。
「さて、何でここに連れて来たのかは、言わなくても分かるな?」
そう相澤が言う。
現在俺がいるのは、雄英の校舎にある会議室の1つ。
そこでには俺と相澤だけがいた。
へぇ、てっきりプレゼント・マイクとか、ミッドナイトとか、他の教師達もいるのかと思ったんだが、そういう訳ではなかったらしい。
相澤にしてみれば、1対1の方が俺が喋りやすいと思ってのものなのだろう。
「炎獣ですよね?」
「そうだ。俺は今まで、お前の持つ混沌精霊という個性は純粋な増強系だと思っていた。実際、今までお前は意図的にだろうが、今日のような炎……あの白いのを炎と呼んでいいのかどうか分からないが、とにかく使っていなかったしな」
「純粋に、使う必要がなかったから使わなかっただけなんですけどね」
USJの一件しかり、ステインの一件しかり。
あるいは個性把握テストや体育祭しかり。
そのどれもが、白炎や炎獣といった能力を使わなくても、普通に身体能力だけでどうとでもなった。
ぶっちゃけ、今日のオールマイトとミルコとの戦いの時も無理をすれば炎獣を使わず、身体能力だけでどうにかなっただろう。
オールマイトが万全な状態で、ミルコ共々重りを付けていなければ、また話は違ったかもしれないが。
それにこれまでの経験から増強系以外の能力もそろそろ見せておいた方がいいと思ったのもある。
何しろ増強系なのに、個性名が混沌精霊って何だ? と、そんな風に思われたりしてもおかしくはないのだから。
そうならないようにするには、やはり一度はこうしてしっかりと白炎を、炎獣を見せておいた方がいい。
「そんな言い訳で納得すると思うのか?」
「そう言われても、実際オールマイトとミルコと戦うまでは、炎獣を使わなくても何とかなりましたし」
「……」
そう言うと、相澤も沈黙する。
俺と戦うまでに他の相手と戦ったとはいえ、演習試験に参加した教師全員が炎獣を使わない俺に負けた……それも俺に一撃も与える事が出来なかったのは間違いないのだから。
「それについては、俺からは何も言えん。だが……分かっているか? お前は色々な意味で怪しい存在だという事を」
相澤の言葉に、だろうなと思う。
実際、自分で言うのも何だが俺の実力でこうして生徒の立場にいるのは、おかしい。
雄英の教師というのは、基本的にプロヒーローだ。
ハンデの重りがあるとはいえ、そのプロヒーロー9人に追加でミルコを相手にしても、俺はその全てを倒したのだ。
……まぁ、あくまでもこれは演習試験で、本当の意味で殺すか殺されるかといった試験ではないので、そういう意味では少し違うかもしれないが……それでも俺が圧倒的な実力を見せたのは事実。
だからこそ、高1になってからまだ数ヶ月の俺がそんな実力を持っているのが怪しいと、そう相澤は思ったのだろう。
「俺がヴィラン……あるいはヴィラン連合の手の者だと?」
「そこまでは言ってない。実際、USJでの一件を見ればアクセルがヴィラン連合の一員だとは到底思えないしな」
甘い。
いやまぁ、実際にUSJで俺はシラタキや黒霧といったヴィラン連合の重要人物をボコボコにして、捕らえた。
脳無も捕らえたが……ステインの時、同じような奴が複数出てきたのを思えば、脳無はUSJの時の奴だけじゃなくて、多数いる……使い捨てに出来る戦力なのは間違いないらしいし。
とはいえ、シラタキの言葉を思えばあの脳無は対オールマイト用という事だったし、そういう意味では特別な脳無だったのは間違いないらしいが。
とにかくヴィラン連合の幹部と思しき相手を俺が倒して捕らえたのは間違いないものの、実はそれすらブラフであり、相澤達に俺を信頼させる為の行動……といった可能性も十分にあったのだ。
もっとも、実際には違う訳だ。
とはいえ、相澤にしてみれば俺の存在を疑問に思っても仕方がない。
「でしょうね。そもそも俺は公安からの推薦で雄英を受験した訳ですし。……まぁ、公安も以前は色々と酷かったらしいので、怪しいと言われればそうかもしれませんけど」
今の公安委員長は、目良の様子を見る限りではかなりまともな人物の様子だ。
とはいえ、先代の公安委員長はかなり酷い人物だったらしい。
私利私欲で組織を動かし、自分の利益になるように動いていたとか。
もっとも、その結果が今の公安の体制だと思えば、自業自得なのだろうが。
そんな訳で、以前までの件があるので公安という組織そのものは多くの者に友好的に見られてはいない。
だが同時に、今の公安委員長になってから公安の改革が行われ、公安という組織もまともになったので、見る目が変わってきたのも事実。
特に雄英は日本最高のヒーロー科を持つという事で、公安との繋がりも他のヒーロー科を持つ高校よりも大きい。
そういう意味では、相澤も公安については色々と思うところがあってもおかしくはない。
実際、相澤の性格を思えば以前の公安と何らかのトラブルとかがあってもおかしくはない訳だし。
「……公安か」
やはり公安という存在に思うところがあるのだろう。
相澤の呟きには、色々な感情が入り交じった複雑な様子だった。
あれ? これ……俺が思った以上に公安との間で以前に何かあったりしたのか?
相澤の性格を思えば、公安と揉めていたとしてもおかしくはない。
だからといって、具体的に何があったのかというのは、俺には分からないのだが。
俺は相澤とそんなやり取りを続けるのだった。