「つまり、お前についての話を聞こうと思えば、公安を通せという事か?」
「そうなりますね。相澤先生も知ってると思いますが、俺は公安からの推薦があって雄英に入学してますから。それに、自分で言うのもどうかと思いますが、俺は色々と訳ありですし」
「……その色々というのを、聞きたいんだがな」
相澤が息を吐きながらそう言ってくる。
相澤にしてみれば、それだけ俺という存在に疑問を抱いているのだろう。
それでも幸運なのは、相澤が俺の存在に疑問を抱いてはいるものの、それでもヴィランのスパイだとか、何らかの悪意でこうして雄英にいるとは思っていないらしいという事か。
……もっとも、それはあくまでも俺が見てからそのように思っているだけであって、もしかしたら相澤の心の中では俺をヴィランの手の者と思っておりそれを表情に出していないだけなのかもしれないが。
「相澤先生には悪いと思いますが、俺からは公安を通して聞いて下さいとしか言えませんね」
そう言うが、もし相澤が公安に俺についての詳細な情報を聞き出そうとしても、恐らく公安が俺の情報を流す事はないと思える。
何しろ公安にしてみれば、俺は異世界から来た存在だ。
そんな俺の詳細について話すとなれば……それこそ雄英をシャドウミラーとの交渉とか、そういうのに巻き込むとかしないといけないだろう。
ただ、原作的な事を考えれば、それはそれで決して悪くない事ではあるんだよな。
雄英は原作の舞台となるのは間違いない。
つまりそれだけ雄英にいる人材は有能だという事を意味している。
だからこそ、シャドウミラーとヒロアカ世界の交渉に巻き込むというのは悪くない選択肢だと俺には思える。
もっとも、公安にしてみればシャドウミラーという異世界の存在については、今のところ自分達だけが知っている内容だ。
あるいは上に、政治家にも知らせている可能性があるが……ただ、このヒロアカ世界の政治家もそれなりに汚職に塗れているし、政治家ではなく政治屋が相応にいる。
だとすれば、もし公安から異世界から来た俺の存在を聞いていれば、何らかのちょっかいを出してきてもおかしくはないが、今のところそんな様子はない。
だとすれば、俺の件は公安で止められているか、あるいは政治家に知らされていても、少数のしっかりとした政治家にしか知らされていない可能性があった。
とにかく今の状態は俺としては決して悪くない訳だ。
そこに雄英の優秀な人材が絡んでくるのは、俺としても決して悪い事ではないと思う。
……とはいえ、この件についてはあくまでも判断するのは公安だ。
余程の事があれば、あるいは俺から雄英に話を通すかもしれないが、今はまだその時ではない。
原作が進めば、雄英がピンチになる可能性は十分にあるので、そうなったら話は別だが。
「そうか。……なら、お前が隠しているだろう力については、取りあえず今は置いておく」
それは本気でそう言ってる訳ではないだろう。
ただ、それでもこうして言ってきたのは、俺にとっては悪くない事だった。
「だが、アクセルが使った白い炎の獣……炎獣だったか? それについては聞かせて貰えるな?」
なるほど、相澤にしてみれば俺がまだ色々と隠しているのだろうと予想は出来ているが、それについては俺とのやり取りから公安と何か関係があって話せない。その上で除籍とかそういうので脅しても、俺の後ろに公安がいる以上は無意味だと判断し、今はまず俺が見せた、つまりは説明してもいい能力について聞こうとした訳か。
……実際には気配遮断もスキルの1つなんだが、そっちについては個性とかそういうのじゃなくて技術の1つだと説明してるから、炎獣について聞いている訳か。
「そうですね。炎獣についてなら構いませんよ」
この状況で炎獣についても説明を断ったら、相澤の様子からして公安と揉めるくらいは普通にしそうだし。
それに俺も炎獣についてはそろそろ見せてもいいと判断したから、演習試験の時に使ったんだしな。
「なら、話してくれ。さっきは話が途中で他に移ってしまったしな」
「炎獣。その名の通り、炎で出来た獣です」
「……炎で出来たという話だが、映像を確認したところ炎の色が変だったようだが?」
ああ、やっぱりそこで突っ込んでくるか。
普通に考えれば、炎というのは赤だ。
だが、俺のは白炎という名称通り白で、とてもではないが普通の炎の色には見えない。
そこを相澤が不思議に思っても仕方がない。
……そもそも俺自身ですら何故白炎なのかというのは分からないのだが。
俺の特質とか、そういう感じだとは思うが。
「その辺については俺も何とも。恐らくは俺の特性によってあんな感じになってるんだろうと思いますけど」
そう言うと、相澤の俺の見る視線に若干呆れの色が混じったように思える。
当然だろう。
俺だってもしこれが自分の事でなければ、恐らく相澤と同じように思っていただろうし。
白というのは、一般的に正義とか光とかそういうのをイメージさせる。
そんな白い炎……白炎を使う俺が、そんな風に思えるかどうかは……うん、無理だ。
これが、それこそ俺を象徴する色である赤なら、まだ納得出来るのだが。
黒も……厨二っぽい感じではるが、それでも白よりはマシだ。
「……まぁ、個人の資質というのは分かった」
そう言う相澤だったが、それは俺の説明に必ずしも納得しているようには思えない。
話を先に進める為に、納得した事にしておくといった方がこの場合は正しいと思う。
俺も別に、どうしても納得して貰いたい訳じゃないから、それは別に構わないけどな。
「それで、炎獣だったか。どういう能力を持つ個性なんだ?」
「そうですね。簡単に言えば……炎で生み出した疑似生命体ってところですね」
「……疑似生命体? 生きてるのか?」
「疑似って言ったでしょう? あくまでも疑似であって、本当の生命体って訳じゃないですよ。ただ、疑似生命体だけあって、ある程度自分で判断して行動したりは出来ますが。さっき俺がオールマイトと戦っている時に、ミルコの相手をさせていた時のように」
「……なるほど。数はどのくらい作れる?」
「それなりに、としか。その日の体調によっても違いますし、炎獣の大きさによっても違いますから」
「炎獣とやらの体積の問題か?」
「そんな感じです。見てみます?」
「いいのか? 今まで隠していた能力だろう?」
「別に隠していたとか、そんなつもりじゃなくて、単純に炎獣を使わなくてもどうとでもなったってだけですけどね」
そう言い、パチンと指を鳴らして右手を白炎に、そこから炎獣を生み出す。
別に戦う訳でもないので、戦闘用という訳ではなく……子猫の炎獣を。
「をぅ」
何か、相澤の口から変な声が出た。
「えっと、相澤先生?」
テーブルの上で愛くるしく転がっている子猫の炎獣をじっと見ている相澤に、そう声を掛ける。
「……っ!? な、何だ? どうした?」
俺の声で我に返った相澤が、慌てたようにそう言ってくる。
あれ? この様子を見る限りだと……もしかして相澤って、猫好きなのか? あるいは可愛いもの好き?
相澤のイメージ的に合わないとは思うが、それを言うのなら白炎を使う俺だってそんな感じだしな。
「えっと、つまりこれが炎獣です」
「そ、そうか。……これが炎獣……疑似生命体」
呟きなら、相澤の視線は再び子猫の炎獣に向けられる。
その視線を感じたのか、寝転がった……腹を上に向けた、俗に言うヘソ天? とかいう体勢の子猫が、前足を相澤に猫パンチのように振るう。
「……炎獣、だと?」
改めて猫の炎獣を見た相澤がそう聞いてくる。
目の前にいるのが本当に炎獣だと、疑似生命体だとは思えなかったのだろう。
とはいえ、実際にこうして炎獣が存在しているのだから、俺の言葉を否定は出来ないだろうが。
「そうですね、炎獣です」
「……ちなみに聞くが、この炎獣というのはどのくらいこうして存在していられる?」
相澤の問いに、どう答えればいいのか迷う。
いやまぁ、以前X世界でティファの護衛として炎獣を用意した時の事から考えると、俺が魔力を供給すればかなり長い間……それこそ、具体的にどのくらいまで存在していられるのかは分からないが、とにかくかなり長期間存在し続ける事は出来る。
出来るが、魔力については何も話していない以上、その辺を上手く誤魔化す必要があるんだよな。
となると、個性……個性因子とかを補給するとか、そんな感じに説明するか?
いや、明確に個性因子のように限定すると、後でちょっと困る事になるな。
「ある程度としか。ただ、俺が生み出した炎獣なので、俺が触れる事で何らかのエネルギーっぽい感じの奴が補充されるらしくて、そう考えればそれなりにずっと……といった感じですね」
「そうか」
そう言う相澤の視線は、完全に子猫の炎獣に向けられていた。
「えっと、その……もしよければ、この子猫の炎獣、相澤先生が連れていきますか?」
「いいのか?」
俺の言葉に相澤が反応したのは、それこそ即座や反射的にといった表現が相応しい感じのものだった。
一応といったつもりで聞いたんだが、正直なところまさかここまで食いついてくるとは思わなかった。
いやまぁ、俺としてはそれはそれで嬉しいんだけど。
「一日か二日くらいは持ちますし、俺が触れれば存在し続ける為の力を補充出来るので」
「……分かった。炎獣についても色々と調べる必要があるからな、この子猫は俺が預かろう」
炎獣について調べるというのは、明らかに相澤の言い訳のように思えるが……まぁ、その辺については突っ込まないでやる方がいいのだろう。
ここで俺が何を言ったところで、相澤が子猫好き、可愛いもの好きというのを素直に認めるとは思えないだろうし。
「ああ、それと……少し遅くなったが、これを渡しておく」
子猫の炎獣から視線を逸らし、俺に何かの紙……というか、チケット? を2枚渡してくる。
「えっと、これは?」
「I・アイランドに行く為のチケットだ。サポートアイテムの展示会をやっている」
そもそも、I・アイランドとは?
そう思ったのが分かったのだろう。
相澤はI・アイランドについての説明をする。
世界中のヒーロー企業が出資し、個性の研究やサポートアイテムの開発をしているらしい。
研究成果や発明品を狙うヴィランから科学者やその家族を守る為に自由に移動可能な人工島になっており、その警備システムは凶悪なヴィランを収容する刑務所……通称タルタロスと同レベルで、実際に今までヴィランによる犯罪が起こった事はないらしい。
そう聞くと、明らかにフラグ以外のなにものでもないように思えるんだが。
「話は分かりましたけど、何でそのチケットを俺に? しかも2枚」
「体育祭の優勝賞品だ」
「……なるほど」
相澤の言葉が真実なのかどうかは、俺には分からない。
あるいは本当に賞品として用意されていたのかもしれないし、もしくは何らかの理由で俺をそのI・アイランドという場所に行かせたくて、無理矢理賞品という流れにしたのかもしれない。
ともあれ、相澤からの説明を聞いた限りだとI・アイランドはこの世界においてもかなり重要そうな場所なのは間違いない。
であれば、俺としてもそこに行く機会があるのなら行ってみるのも悪くないだろう。
……もっとも、このようなチケットがなくても、俺の場合は影のゲートを使えば普通にI・アイランドに行く事は出来るのだが。
タルタロス級の警備システムらしいが、それはあくまでも個性に対応した警備システムで、転移魔法については対処出来ないだろうし。
あ、でもヴィラン連合の黒霧のように転移系の個性を持つヴィランを想定しての警備システムにもなってる筈で、そうなるともしかしたら影のゲートを使っても察知される可能性があったりするのか?
個性の転移と魔法の転移だと違うから、多分大丈夫だとは思うけど……その辺を確認してみたいような、したくないような。
「それで、チケットが2枚ありますけど?」
「1人で行くのもどうかと思うし、誰かと一緒に行くといい」
「誰かと言われても……」
まぁ、行きたいって奴は大勢いるだろうし、誘う相手には困らないか。
寧ろこの場合、行きたい奴が大勢いて……いや、そうだな。いつもの面子に聞いてみるか。
多分その中で行きたいと言う者がいるだろうし、それでいなければクラスの面々を誘ってもいいし。
「取りあえず、行ける奴を誘ってみます」
「そうしろ。プロヒーローを目指す上で、I・アイランドに行ってみるというのは、重要な経験だからな」
いや、別に俺はプロヒーローを目指すつもりはないんだけど。
そう思ったが、その辺りについては相澤に言わない方がいいだろうと判断し、止めておく。
その後にも色々と話したのだが、相澤の注意がかなり子猫の炎獣に向かっていたのもあって……まぁ、俺としては悪くない事はあったが、とにかくそんな感じで相澤との話は終わるのだった。