「あ、アクセル。相澤先生とどんな話をしてきたの?」
相澤との話が終わり、俺が向かったのは教室。
どうやら既に全員がさっきの部屋から、教室に戻っていたらしい。
そんな訳で、そのまま教室に戻ったのだが……そこでは休み時間的な感じでそれぞれが自由にしていた。
相澤が来れば話は別なのだが、その相澤は今頃炎獣について教師同士で情報供給をしているか……それとも、子猫の炎獣を愛でているかのどちらかだろう。
そんな訳で暫く相澤が戻ってくる様子もないので、今はこうして自由にしている訳だ。
そんな中、俺が教室に戻ってきたのに真っ先に気が付いたのは、席が近い三奈だった
「炎獣についてちょっと説明をな」
「炎獣……それって、ミルコに使った奴だよね? アクセルはああいうのも出来たんだ」
「まぁ、そんな感じだ」
「奥の手って奴?」
そう聞いてくる三奈に頷くと……ふと、教室にいる何人かの視線が俺に集まっているのを感じる。
轟、爆豪、緑谷……そして、青山?
え? 何で青山?
炎獣について、青山が俺に興味を持つ理由があるか?
轟は炎の個性があり、それについて複雑な思いを抱いているので、炎獣を使う俺に注意を向けるのは分かる。
爆豪は俺に勝つのを目標としているので、俺が炎獣という新たな力を持つのが気になるというのも分かる。
緑谷は個性について研究するのが癖となっているので、俺の新しい個性について興味を持つのも分かる。
だが……青山は、一体何でだ?
俺の炎獣は、青山のビームとは特に個性で重なるような部分はないし、青山が俺に勝つ為に見ているとは思えないし、興味を持っているとも思えない。
ともあれ、そんな視線を感じつつも、俺は三奈との話を続ける。
「そうだな。もっとも、こうして多くの者達の前で見せた以上、もう奥の手とは言えないが」
「ねぇ、アクセル。もしよければ、ちょっと見せてくれる?」
耳郎が近付いてきてそう言ってくる。
すると、他の女達も俺の側にやって来て……あ、口田もいるな。
俺と口田はあまり触れあいがない。
口田は戦いを好まない優しい性格をしている事もあり、そういう意味で他の生徒達の壁として前に立ち塞がる……つまり、戦う俺との相性はあまり良くないしな。
勿論、口田もヒーロー科にいる以上、戦闘訓練もしっかりと行っている訳で、戦えないという訳ではない。
ただ、口田の個性は動物を操るといったものなので、炎獣にも興味があるのだろう。
……ちなみに近付いてきたのは女達や口田といった面々だが、教室にいる他の生徒達も俺が炎獣を使うかも? といった様子で好奇心の視線を向けられる。
「そうだな。まぁ、教室だからそこまで大きな炎獣は出せないけど……」
パチン、と指を鳴らすと右手が白炎となり、炎獣が生み出される。
今も口にしたように、そこまで大きな炎獣ではない。
相澤の前では子猫の炎獣を生み出したので、今度は犬の炎獣を生み出す。
ただし、子犬ではなく普通の犬……大きさとしては柴犬くらいの大きさの炎獣。
『きゃあああああっ!』
うおっ!
犬の炎獣を見た女達から悲鳴が上がる。
とはいえ、それは怖がっての悲鳴ではなく、いわゆる黄色い悲鳴といった感じの悲鳴だ。
それだけ驚き、そして可愛らしいと思ったのだろう。
……子猫の炎獣と違って普通の犬と同じ大きさの炎獣だし、そこまで黄色い悲鳴を上げるようなものではないと思うんだが。
それはあくまでも俺の判断であり、実際に見ている面々にしてみれば、また反応も違うのかもしれないが。
「アクセル。この子、ちょっと撫でてもいい? 炎獣? とかいうのなんでしょ? 火傷したりしない?」
真っ先にそう聞いてきたのが耳郎だったのは、俺にとって少し驚きだった。
いやまぁ、耳郎がそういうのに興味がなさそうなように見えつつも、実際には結構可愛いもの好きなのは知っていたけど。
ある意味、相澤と同じような感じなのだろう。
「別に構わないぞ。火傷もしないから安心して撫でてもいい。ただ、炎獣もある程度の意識というか、自我に近いものがあるから、炎獣が嫌がるような事をしたら、噛みつかれたりもするかもしれないから気を付けろよ」
「え? 大丈夫なの?」
俺の言葉に、少し心配そうに耳郎が聞いてくる。
耳郎にしてみれば、炎獣に噛みつかれたりしたら大変だと思ったのだろう。
「あくまでも、炎獣が……というか、犬が嫌がるような事をしなければいいんだよ。普通の犬と接するようにしていれば問題ない」
そう言うと、耳郎は安堵した様子でそっと炎獣に手を伸ばし……
「わ、暖かい……」
感動した様子でそう呟く。
そんな様子を見ながら、そういえば保須市の警察署の署長も頭部は犬だったなと、何となく思い出す。
犬繋がりで思い出したんだが、ステインの取り調べとかその辺はどうなってるんだろうな。
多分、タルタロスに……I・アイランド並の警備システムを持っているタルタロス――逆も然り――で収監される事になると思うが。
そんな事を考えている間に、女達や口田は炎獣の周りに集まっており、他にも何人か興味深そうに近付いて来ている者がいるのだが……あれ? 普段はこういう時に真っ先に……とまではいかないが、やって来る瀬呂がいないな。
その瀬呂は? と見回してみると、何やら自分の席で落ち込んだ様子を見せていた。
何だ?
「瀬呂、どうしたんだ? そう言えば、さっき俺の演習試験が終わった時も、何だか落ち込んでいた様子だったけど」
そう聞くと、犬の炎獣を撫でていた葉隠がこっちを見る。
正確にはその個性で顔だけこっちを向いても分からないのだが、身体ごとこっちを向いたので、こっちを向いたというのが分かった形だ。
「何でも、演習試験で失敗したんだって」
「失敗?」
演習試験の内容は、瀬呂の個性と相性が良かった筈だ。
重りを付けた教師に手錠を掛けるか、あるいはその場から逃げ出すどちらか。
演習試験に参加している全教師+αとしてミルコがサプライズ参加した俺と似たようなものだろう。
そうなると、瀬呂はテープの個性があるので相手を捕らえるといった事も出来るし、あるいは脱出はもっと簡単だろう。
で、瀬呂は……峰田と組んでミッドナイトが相手だったか?
であれば、捕らえるのは近付けば眠らされるかもしれないから厳しいが、脱出するのはテープを使えばどうにかなったのでは?
そう思ったのだが、葉隠から話を聞く限りだと、どうやらかなり苦戦し、何とか脱出したもの、瀬呂はミッドナイトの個性で眠ってしまい、峰田に連れられて脱出に成功したのか。
なるほど、瀬呂にしてみれば自分の失態……自分が何もしていないのに脱出に成功してしまった事に、思うところがあるらしい。
「うーん、それはまた……」
一応脱出には成功したものの、教師側がそれをどう判断するのかが問題だな。
脱出には成功したので演習試験も合格と判断するのか、それとも内容を吟味した結果赤点扱いになるのか。
……相澤が採点するとなると、赤点の可能性が高いんだろうな。
そんな風に話をしていると、やがて相澤がやって来る。
それぞれが素早く自分の席に戻ったのを確認すると、相澤が口を開く。
「帰りのHRを始めるぞ」
てっきり自分の席に戻るのが遅いと叱られるかと思ったんだが、特にその辺については何も言われなかった。
演習試験が終わったばかりで開放的な気分になっているからと判断したのか、それともこのくらいでは怒る必要はないと判断したのか、もしくは俺の炎獣の件で教師達の間で話をしていたので、それで疲れるなりなんなりして、注意する気がなかったのか。
その辺りは俺にも分からないが、とにかくそうして帰りのHRが始まる。
「今日の演習試験で、期末テストも終わった。だが、気を抜いて馬鹿な真似はするなよ」
そう言う相澤の視線は、峰田に向いていた。
まぁ……うん。まだ1学期だけとはいえ、相澤も担任として峰田を見てきた事もあり、峰田なら何か……具体的に言えば性犯罪を犯すのではないかと、心配したのだろう。
……峰田の性格を考えると、普通にやりかねないのが怖いところなんだよな。
いっそ、優に……マウントレディに預けるというのはありかもしれないな。
そうなれば、峰田もまた女怖い状態に戻るかもしれないし。
とはいえ、峰田の性格を考えると、エロくなくなるとそれはそれで個性を上手い具合に発揮出来なかったりしそうなんだよな。
そうなると、峰田がヒーロー科の生徒として活動するのは難しくなりそうだ。
良くも悪くも、峰田にとってはエロい事が力の源になっているという事なのだろう。
そんな風に考えている間にも相澤の話は進んでいく。
無駄が嫌いな相澤なので、話の内容そのものはそこまで細かいものではない。
だが、その中で1つだけ残念なのは……
「それと、アクセル。今日は自主訓練は禁止だ」
そう、相澤が俺に言ってくる。
とはいえ、これについては予想出来ていたので、特に不満を抱く事なく頷く。
「分かりました」
何しろ今日の演習試験についての採点を、教師達は行わないといけない。
これが筆記試験なら、答えが正解か不正解かの判断だけでいいんだが、演習試験ともなれば試験を受けた生徒の1つ1つの行動に意味があるのかどうか、そういうのを確認したりする必要もある。
それらを考えると、自主訓練の監督をする為に教師を……これまでのパターンからするとミッドナイトなのだが、とにかく教師を1人こっちで独占するというのは、教師側としては止めて欲しいだろう。
だからこそ、こうして相澤が前もって言ってきた訳だ。
そして俺もその辺りの理由については理解出来ているので、こうして素直に受け止め……やがて帰りのHRが終わるのだった。
「なぁ、アクセル。ちょっといいか? 期末テストが終わった打ち上げをしようと思うんだけど、アクセルはどうする?」
HRが終わって放課後になると、上鳴からそう声を掛けられる。
「打ち上げ? まぁ、やるのならやるでいいけど……どこでやるんだ?」
「実は少し前に駅からちょっと離れた場所にカラオケボックスが出来たらしいんだけど、そこでどうだ? 何でも最新の機械が揃っていて、料理も結構美味いって話だぜ? その分、ちょっと高めらしいけど……打ち上げに使うにはいいんじゃないか?」
上鳴の言葉に、なるほどと頷く。
個人的には、歌はあまり得意ではないし、そこまで興味もないが、他人が歌っているのを見るのはそれなりに好きだったりする。
俺の恋人にはシェリルというプロの歌手もいるし、美砂や円もそれなりに歌は得意だ。
……ただ、俺が歌うとなると……うん、あまり歌える歌がないんだよな。
「俺は歌はあまり得意じゃないけど……ただ、料理が美味いってのは興味があるな」
昔はカラオケボックスの料理というのは、そこまでのレベルではなかった。
しかし、このヒロアカ世界もそうだが、他の世界でもカラオケボックスの数が増えると、客を呼び込む為の一手として料理に力を入れる店は多い。
勿論、カラオケの機械を最新の物にしたり、あるいは部屋の装飾に拘ったり、中には何を思ったのかメイドや執事のいるカラオケボックスとかもあったりする。
とにかくそんな訳で、料理については下手な料理屋よりも美味いカラオケボックスというのもあったりするらしい。
今日行くカラオケボックスがそういう場所なのかどうかは分からないが、少し高めという上鳴の言葉を聞く限り、極端な外れという事はないと思う。
「じゃあ、アクセルも参加でいいよな?」
「ああ、それでいい」
「よっしゃぁっ!」
上鳴が何故か嬉しそうに叫ぶ。
いや、俺が打ち上げに参加するってだけで、何でそんなに喜ぶんだ?
これが例えば、俺ではなくヤオモモを始めとした女達が打ち上げに参加するのなら、峰田とかが喜んでも不思議はない。
けど、俺が参加するのを上鳴が喜ぶというのは、素直に疑問でしかない。
いや、上鳴も一応峰田程ではないが女好きなんだし、そう考えれば不思議でもないのか?
……まぁ、こうして参加すると言って、それが喜ばれるというのは悪くないとは思うけど。
ともあれ、上鳴は教室に残っている他の面々にも声を掛けていく。
ただ、そこには『アクセルが……』とか『挑戦……』とか『部屋が……』とか、そんな言葉が聞こえてくる。
そうして声を掛けられた者達は驚きや納得の表情を浮かべつつも、話を受け入れていく。
「ねぇ、アクセル。あんた本気? いや、アクセルなら何とかなりそうだけど」
打ち上げに行くのは決まったので帰る準備をしていると、耳郎が近付いて来てそう聞いてくる。
「何がだ?」
何となく上鳴の件について言ってるのだろうとは思ったが、それが具体的に何についてなのかというのはちょっと分からない。
分からないので、耳郎に聞いたのだが……
「あのね……まぁ、アクセルなら問題ないからいいでしょ」
「おい、耳郎?」
結局耳郎は何も言わず、俺の前から立ち去るのだった。