こちらは4489話となります。
結局、木椰区のショッピングモールでの買い物は中途半端な形で終わることになった。
それでも不幸中の幸いだったのは、このショッピングモールでないと売ってないような物はほぼ購入しており、他の者は住んでいる場所の近くとかで普通に売っているという事だろう。
最初はヴィラン1人現れただけで大袈裟なとも思ったんだが、現れたヴィランがヴィラン連合のシラタキ……もとい、死柄木となれば話は違ってくる。
ヴィラン連合という多数のヴィランを率いている組織の、恐らくは幹部と見なされている男。
しかもその個性は指で触れた者と、あるいは物を崩壊させるという非常に凶悪な個性だ。
……ちなみに今更の話だが、あの崩壊の個性って自分でオン。オフが出来るんだろうか?
いや、出来なければ指で触れただけで何でも崩壊するという事になるので、そうなるととてもではないが日常生活は出来ない。
そう考えると、やっぱりオン・オフが出来るのだろう。
ともあれ、そんな風にオン・オフが出来るとしても、そんな個性を持つヴィランが休日の、それも静岡で最大規模のショッピングモールという人が大量にいる場所に現れたとなれば、警報を鳴らすのはおかしくない。
今回は緑谷がシラタキと接触し、その結果特に客に被害らしい被害はなかったようだが。
この辺は、さすが原作主人公といったところか。
シラタキの性格を考えると、それこそUSJでボコボコにした俺に攻撃してくるのかと思ったんだが、どうやら俺に対する恨みよりも原作的な流れの方が強かったらしい。
とはいえ、出来れば緑谷にはシラタキをその場で捕らえるなりなんなりして欲しかったところなんだが……そこまでは原作の流れがあっても無理だったらしい。
いやまぁ、原作において今回のような一件があるのかどうかは分からない。
もしかしたら原作でも木椰区のショッピングモールでシラタキと遭遇はしても、逃がしてしまっていた可能性は十分にある。
また、今回の件が影響しており、林間合宿はやるものの、当初の予定とは違う場所になったらしい。
この辺はUSJでの一件を考えると仕方がない事ではあるのだろう。
で、それはそれとして……
「それで、俺に用件ってのは?」
俺は目の前の緑谷に声を掛ける。
木椰区のショッピングモールでの一件が終わり、休日の残りもその件で半ば潰れ、今日はいつも通りに学校にやってきた。
とはいえ、もう数日で1学期も終わるので、今日の授業も普段よりは軽い……まぁ、それでも雄英のヒーロー科の授業だけあって相応に厳しいものがあったが、とにかくそれが終わり、いつもの自主練も終わったところで、俺は緑谷に声を掛けられたのだ。
いつもなら自主練に参加した面々で何か買い食いをしたりといった事をするのだが、今日はこうして緑谷に呼ばれた結果、ハンバーガーのチェーン店に入っている。
俺が頼んだのは、セットメニュー……を3つ。
普通なら1人でそれくらい頼むと変な目で見られたりもするんだが、ヒロアカ世界においては個性によって大量のカロリーを消費する者もいたりするので、そこまでおかしな目で見られたりはしない。
実際、俺の身近でもヤオモモはカロリーを消費して創造の個性を使ったりしてるしな。
ちなみに緑谷はセットメニューが1つだ。
そんなセットメニューのうち、フライドポテトに手を伸ばしながら緑谷が口を開く。
「うん、その……これはアクセル君に言った方がいいと思ったから言うんだけど」
そう言いながらも、緑谷は微妙に言いにくそうにしている。
何だ?
そう思ったが、木椰区のショッピングモールの一件があってすぐだというのを考えると、恐らくシラタキに関係する事で何かがあったのだろう。
それが具体的に何なのかは、今こうしているだけでは何も分からないが。
「ショッピングモールで遭遇したシラタキが何か言ってたか? 俺に伝言でも残したとか」
「え? シラタキ?」
一体何を言われているのか分からないといった表情の緑谷。
だが、すぐにシラタキというのが誰を示しているのかを理解したらしく、頷く。
「うん。その……シラタキじゃなくて死柄木だけど」
「いいんだよ、あんな奴はシラタキで。死柄木なんてご大層な名前でわざわざ呼んでやる必要はない」
「えっと……その、アクセル君らしいと言えばらしいね」
何だか無理に話を誤魔化してそう言ってるように思えるな。
緑谷の性格を考えれば、それはそれでおかしくないのか?
「無理に緑谷もシラタキと呼べとは言わないから、安心しろ。……それで、シラタキと遭遇して、俺に言っておきたいことがあったんだろう? あの件については、警察から話を止められていたりすると思うんだが……それでも」
木椰区のショッピングモールにある靴屋で麗日からLINで連絡を貰った俺達は、すぐに緑谷のいる場所に向かった。
だが、俺達が来た時は既に警察官やプロヒーローも集まっており、取りあえず緑谷の無事を確認出来ただけで、すぐに事情聴取の為に緑谷は警察に連れていかれたので、それが終わった後でLINを使って無事だというのは聞いていた。
であれば、当然ながらシラタキが何を言っていたのかとか、そういうのは話さないようにと恐らくは言われていたのだろうが、それでもこうして俺を……俺だけを呼び出して話そうとするという事は、俺に関して何かあったのは間違いない。
「うん」
緑谷が真剣な表情で俺の言葉に頷く。
これを見ただけで、ちょっとした話をしたいとかそういうのじゃなくて、シラタキについての何か重要な件があるのは間違いない。
「で? シラタキは何を言ってきたんだ?」
「……その、色々と話したんだ。オールマイトの事とか」
「だろうな」
USJの時もオールマイトを殺すとか、あるいは対オールマイト用の脳無とか、そういうのを連れて来ていた。
そう考えれば、シラタキがオールマイトに対して色々と思うところがあるのは間違いない。
とはいえ、何故緑谷とオールマイトについて話したのかという事までは分からないが。
いやまぁ、俺は緑谷がこの世界の原作主人公であるというのを知っているので、No.1ヒーローのオールマイトと何らかの関係があるというのは知っているが、それはあくまでもこの世界に原作があると知っている俺だからこそだ。
シラタキにしてみれば、当然緑谷とオールマイトの関係など分かる筈もない。
あるいは俺がいなければ……つまり原作の流れならUSJでシラタキや黒霧、脳無を相手に奮戦したり、あるいは体育祭で優勝したり、保須市でステインと戦って倒したり……といったように活躍した可能性も十分にある。
だが、俺が関与した結果、何だかんだと俺が活躍した結果、緑谷はそこまで目立っていない。
いやまぁ、体育祭では相応に目立ったりしていたが。
特に個性を発揮した結果、指の骨が折れたりとか、そういうのを全国放送で流したりしたので、そういう意味ではかなり目立ってるんだよな。
「で、オールマイトの件については……まぁ、緑谷だし、色々と語ったんだろう? それも早口で」
緑谷はA組なら誰もが知るオールマイトファンだ。
それも軽いファンではなく、ディープな。
元々緑谷はプロヒーロー全般について詳しい。
実際、職場体験の時も何人かが緑谷に誰の事務所に行くのかといった事を相談していたくらいなのだから。
プロヒーロー関係について分からない事があれば、取りあえず緑谷に聞いてみる。
これがA組での常識……というのは少し違うかもしれないが、とにかくそんな感じになっている。
勿論、爆豪のように緑谷に思うところがある者は絶対に聞いたりはしないが。
「さ、さすがにそんな暇はなかったよ」
そう言いつつ、緑谷は無意識なのだろうが、自分の首を手で撫でる。
「首、どうかしたのか?」
「あ、えっと……その、死柄木に触られたんだ」
「うわぁ……それはまた」
死柄木の崩壊という個性を考えると、緑谷にしてみれば致命的な事に思えただろう。
何しろ死柄木がその気になれば、緑谷は死んでいたのだ。
これが手や足なら、崩壊しかけているところでそこを切断するといった荒技も可能だろう。
だが、首となるとそのような事も出来ない。
いや、技術のある者ならあるいはどうにかなるのかもしれないが。
「あはは。でも麗日さんのお陰で無事だったから」
「……らしいな」
靴屋にいた俺達にLINで連絡をしてきたのが麗日だ。
であれば、当然ながら麗日はシラタキと一緒にいる緑谷……それも緑谷の話を聞く限りだと、崩壊の個性がいつでも発動出来るようにして首に触れられている緑谷を見た訳で。
麗日はUSJの時、シラタキを直接見た訳ではない。
しかし、それでもシラタキがどういう個性を持っているのか、そういうのを見ていた梅雨ちゃん辺りから話を聞いたりして、情報は仕入れていた筈だ。
そんな麗日が……原作においてはヒロインなのだろう麗日が、緑谷の絶体絶命の様子を見れば、一体どれだけ心配するのかは予想するのも難しくはない。
「後で麗日のフォローはしておけよ」
「えっと……気にしないようにって言っておいたけど、それだけだと駄目なの?」
「駄目だな。心配を掛けたんだから、それを癒やす為にデートにでも誘え」
「デ、デデデデデデデデデ、デート!?」
「おい、叫ぶな。何だってデートくらいで……ああ、いや。仕方がないか」
緑谷は中学校の時は爆豪やその仲間に苛められていたらしい。
まだ、緑谷の性格的に女に言い寄るとか、口説くとか、そういうのは出来ないだろう。
それだけ女慣れしていない以上、下手をしたら女と話すのにすら緊張してもおかしくはない。
もっとも、今は麗日と――飯田も一緒にだが――昼食を食べるようになっていたりするし、爆豪も緑谷を苛めるといった事はしていないのもあって、クラスでも緑谷は中心的な人物の1人となっている。
この辺が原作主人公の実力発揮といったところか。
とはいえ、そんな緑谷でもデートに誘うというのは難しいのだろう。
「だって、その、アクセル君。僕なんかが誘ったら麗日さんには迷惑だろうし……」
こいつ、本当に自己評価低いよな。
いやまぁ、個性が発現するまで無個性だったんだし、そう考えるとそれは仕方がないのかもしれないが。
それに俺が見たところ、麗日は緑谷に好意を持っている。
勿論それはまだ男女間の好意ではなく友人に対しての好意なのかもしれないが、それでも緑谷がデートに誘えば、何か用事がない限り断ったりはしないだろうと思えるくらいには好意を持っている筈だ。
「あー……まぁ、あくまでも俺のはアドバイスだ。絶対に聞かないといけないって訳じゃないから、もし緑谷がそのつもりがないのなら、誘わなくてもいいと思うぞ? ただ、デートには誘わなくてもいいけど、さっきも言ったフォローについては絶対にしておけ」
「……うん、分かった」
「そう言えばクラスで結構I・アイランドに行く奴がいるらしいけど、どうせなら麗日を誘ってみたらどうだ?」
「ば、ばばばばば、いきなり何を言ってるのさ、アクセル君! 泊まり掛けでなんて……」
ああ、そう言えばそうなるか。
ただのデートですら誘うことが出来ていないのだから、泊まり掛けでデート……というか、旅行に誘うのは無理があるな。
もっとも、それを言うのなら俺は拳藤をI・アイランドに誘っている。
とはいえ、俺達の場合は別に2人での旅行という訳ではなく、I・アイランドでヤオモモ達と合流する事になっている。
旅行は旅行でも、グループ旅行的な感じだな。
それでも緑谷にしてみれば、女と一緒に旅行するというのは信じられない事なのだろう。
「あー……まぁ、麗日の件はその辺にしておくとして、それでシラタキの件に話を戻すけど、俺にこうして話があるって事は、シラタキが俺について何か言っていたんだろう?」
「あ、え? は? あ……う、うん」
感情が爆発したかのように戸惑った様子を見せた緑谷だったが、それでも俺の言葉で我に返ってそう返事をする。
そして自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をしてから、やがて口を開く。
「死柄木は、アクセル君を恨んでる。それもちょっとやそっとの恨みじゃなくて、憎悪という表現が相応しいくらいに」
「あー……まぁ、だろうな」
シラタキに俺が恨まれているというのは、USJの件を思えば容易に予想出来た。
それこそあの襲撃は俺1人に潰されたようなものなのだから。
……もっとも、オールマイトがやって来たタイミングを考えると、俺がどうにかしなくてもオールマイトがどうにかしていたんだとは思うけど。
というか、多分だけど原作だとオールマイトがどうにかしたんだと思う。
ともあれ、それでもシラタキにしてみれば俺を憎悪するというのは分かる訳で……
「緑谷じゃなくて、俺のいるところに来れば、即座に捕らえていたんだけどな」
そう言うと、緑谷は困った様子で笑み浮かべるのだった。