見ていない方は、前話、前々話からどうぞ。
終業式も終わり、無事に夏休みに入る。
……正直なところ、夏休みに入る前にシラタキやヴィラン連合によるちょっかいがあるかもしれないと思ったのだが、どうやらそういうことはなかったらしい。
そんな訳で、俺は部屋でゆっくりとしていた。
夏休み後半には林間合宿があり、もう数日したらI・アイランドに行く。
つまり、夏休みではあるが本当にゆっくり出来る時間はそうない訳で……
「うーん、あれはどうなんだ? 上手くいってるのか?」
ソファで横になりながら、とある方に視線を向ける。
俺の視線の先にあるのは、ロボット掃除機とスーツケース。
どちらもAI搭載型の最高グレードの奴だ。
同じAI搭載型なので、種族を越えた……うん? これは種族とはちょっと違うか?
掃除機とスーツケースという違いはあるが、どちらもAIを搭載しているのを考えると、種族というか人種が違うのか?
とにかくそんな感じになっており、そんな2つが上手くやれるかどうか。
AI同士で友情とかそういうのが生まれるのかどうか。
そんな風に思いながら見ているのだが、掃除機もスーツケースも特に動く様子はない。
あるいはデータのやり取りでもしてるのかもしれないが。
そんな風に思っていると、不意にスマホが着信を知らせる。
LINではなく、電話の方だ。
掃除機とスーツケースから目を離さないようにしながらスマホを手に取ると……
『もしもし、アクセル? その……ちょっと聞きたいんだけど、今日は暇?』
電話を掛けてきたのは、拳藤だった。
いやまぁ、電話に出る前に拳藤の名前がスマホに表示されていたので、最初から気が付いてはいたのだが。
「暇かどうかと言われると……そうだな。今はロボット掃除機とスーツケースの間に友情が生まれるかどうか眺めているところだ」
『……は? えっと、その……もしかして、暑さでやられたのか? エアコンはきちんとつけてるんだよな?』
俺の言葉の意味が理解出来なかったらしく、そんな風に言ってくる。
無理もないか。
俺も何も知らない状態で今のような事を言われたら、恐らく拳藤と同じように反応するだろうし。
「安心しろ、部屋の中は快適だよ」
そう言い、温度計でリビングの気温を確認すると、24℃。
外は午前9時でもう30℃をオーバーの真夏日なので、外に比べると大分涼しい。
……ぶっちゃけ、混沌精霊の俺にとっては温度とか関係ないんだが、暑すぎると家電とかにも悪影響を与えかねないしな。
『じゃあ、今のは……?』
「木椰区のショッピングモールでAI搭載型のスーツケースを買っただろう?」
『ああ、買ってたな』
拳藤はあの時俺と一緒に行動していたので、スーツケースについても十分に知っていた。
それ以前に、移動する時からAI搭載型のスーツケースを購入したいと言っていたので、それを覚えていたんだろうが。
「で、俺の家には拳藤も知ってると思うが、ロボット掃除機がある。AIを搭載したその2つを側に置いておけば、もしかしたらAI同士で仲良くなるんじゃないかと思って見ていたんだよ」
『えー……それは、ちょっと無理じゃないか?』
どうやら拳藤は俺の話を聞いた限りでは俺が想像しているような事にはならないと判断したらしい。
とはいえ、俺も絶対にそうなるとは思っていない。
あくまでもそうなるといいなと、そのように思っているだけだ。
「かもしれないけど、物事に絶対はないだろ?」
『そう言われればそうだけど……うーん……』
俺の言葉を聞いて完全に納得した様子ではなかったが、それでもそれ以上突っ込んでくるような事はなかった。
「まぁ、これは暇潰しだしな。それで、電話をしてきたのは何でだ?」
『あ、そうだ。忘れていた。ほら、ショッピングモールでは十分に買い物が出来なかっただろう? それにI・アイランドに行く時の準備もあるし。それで木椰区のショッピングモールとまではいかないけど、近くにある店で色々と買い物しないか? と思って電話したんだ』
ああ、なるほど。
木椰区のショッピングモールはシラタキの件で結局購入予定だった物を全て買うといった事は出来なかった。
勿論、どのくらい買うのかというのは人によって違う。
元からある程度揃っていれば、最低限の物だけで十分だろう。
まさか、林間合宿に持っていく全てを購入するといった事は、とてもではないが出来ないのだから。
……ああ、いや。ヤオモモとかなら、やろうと思えばその辺は出来るか。
ともあれ、それは例外としても拳藤は色々と買いたい物があるんだろう。
「それで俺に連絡を?」
『う……だって、アクセルも結局殆ど買えなかっただろう? なら、一緒に買おうと思って』
「あー、なるほど」
元々拳藤は面倒見がいい。
それこそB組では姐御と呼ばれたりもしているらしいしな。
そんな拳藤だからこそ、I・アイランドに一緒に行く俺が何か買い忘れがないかとか、そんな風に思ったのだろう。
I・アイランドは色々な国から人がやって来るらしいので、コンビニとかそういう……何か必要だった場合、売っている店とかはありそうだけど。
ただ、I・アイランドとかそういう観光名所となると、料金が高くなったりするんだよな。
これが例えば山の上で食べ物や飲み物が高いというのは、運搬の事を思えば納得出来る。
だが、観光地料金というのはちょっと納得出来ない。
いやまぁ、観光地料金で購入するのが嫌なら、そこに行く前に購入していけばいいだけの話なのだが。
『どうする? アクセルの方で何か買うのがあるのなら、一緒に行かないか?』
「分かった。暇をしていたところだったし、幾つか欲しいと思っていた物もあるから、一緒に行くよ」
『そ、そうか! じゃあ……待ち合わせはどうする?』
「別に俺が拳藤の部屋に迎えに行ってもいいけど?」
『い、いや。やっぱりここは待ち合わせがいい』
拳藤の部屋がある場所は以前教えて貰ったが、実際に拳藤の部屋に上がった事はないんだよな。
1人暮らししている女にしてみれば、そんな場所に俺を上げるのは……と思ってもおかしくはないが。
拳藤は自覚があるのかどうかは分からないが、凜々しい系の美人だ。
もしくは姐御系美人か。
年下の同性にお姉様と呼ばれ、慕われるタイプ。
いや、場合によっては年上からでもお姉様と呼ばれたりしてもおかしくはない。
ともあれそんな感じで美人である以上、今まで男に言い寄られた事もかなりある筈だ。
であれば、自分がモテるというのは知っているだろうし、そんな拳藤が部屋に俺を上げるというのは……うん。俺は何かをするつもりはないが、もし俺がその気になれば、学年No.1だけに、拳藤では対処が難しい。
その辺りを警戒して、今のように言ってきてもおかしくはなかった。
「分かった。じゃあ……いつも通りに駅前で待ち合わせはどうだ?」
人通りの多い駅前が発展し、様々な店があるというのは当然の事だ。
実際、俺や拳藤の住んでいる場所でも駅前が一番店が多いしな。
勿論離れた場所にもそれなりに店はあったりするし、場合によってはそっちにしか売ってない物があったりもするので、駅前に行けば何でも揃うという訳ではないが。
『分かった。じゃあ、それで。時間は……10時でいいか?』
「問題ない。適当に買い物して、昼食を食べて午後からも買い物をして……って感じか?」
『……何だかそう言われると、デートみたいだな』
「客観的に見れば、デート以外のなにものでもないと思うけどな」
『ばぁっ! ……アクセル、お前そのうち刺されても知らないぞ?』
驚きの声を上げた拳藤だったが、最終的にはそう言って電話を切る。
えっと……いや、何がどうなってそうなった?
まぁ、個性を使わないで、それこそステインのようにただの刃物で攻撃してくるのなら、刺しても俺には無意味だけど。
ただ、拳藤が言っていたのはそういう事じゃないだろうしな。
なので、その件については後で聞いてみるとして……
「ん?」
電話を切ってふと視線を向けると、ロボット掃除機とスーツケースが先程よりも移動しているように見える。
そう、ロボット掃除機はともかく、AI搭載型のスーツケースも自分で移動出来たりするんだよな。
勿論、これが最高グレードだからこそ一度主人として認識し俺がついてこいと言えば、スーツケースを持って移動しなくても、普通についてくる。
また、そうして俺を追っている時に何者かに盗まれそうになった場合、大きな音を立てると同時に、軽い電気ショックを与えるくらいの攻撃性能はある。
なので、起動している今、先程あった場所から動くくらいは普通にあるんだが。
ただ、それでAI同士の友情が深まったのかどうかは、また別の話だった。
「アクセル!」
約束の時間にいつもの場所に行くと、そこには拳藤の姿があった。
通学の時も大抵は拳藤の方が早く来ているんだよな。
これは俺ももう少し早く来るべきか?
そうも思ったが、実際には今は約束の時間の午前10時数分前で、別に遅刻してきた訳じゃないんだよな。
「待たせたか?」
「ううん、私もさっききたばかりだし」
今のやり取りもデートっぽいな。
とはいえ、それを言えば、恐らくはまた拳藤に刺されるとか言われそうなので黙っておく。
ちなみに夏という事もあってか、拳藤の今日の服装は薄い赤のワンピースだ。
サイドポニーの反対側には麦わら帽子を被っており、とてもではないがヒーロー科の生徒のようには思えない。
避暑地に来たお嬢様といったイメージか?
いつもは動きやすい格好を好む拳藤だけに、こういうのを着てくるのはちょっと意外だ。
「……な、何? じっと見て」
「いや、今日の拳藤の服装はいつもとちょっとイメージが違うと思ってな」
「え? もしかして、その……似合ってないか?」
慌てたように、そう言ってくる。
「いや、似合ってると思う。それこそ、避暑地に来たどこかのお嬢さんかと思ったくらいだ」
「ばっ! ……アクセル、本当にそういうところだぞ、全く」
俺の言葉に頬を赤く染めながら、拳藤がそう言ってくる。
夏の暑さによって顔が赤くなっている……のではないんだろうな、これは。
「いや、変かどうかって聞いたから、俺は素直に答えただけなんだが。……とにかく、いつまでも外にいるのも何だし、どこかの店に行こう」
混沌精霊の俺は気にしないが、真夏日といった感じでかなり暑い。
ここに来る途中にあった電光掲示板に温度が表示されていたんだが、33℃だったし。
10時でこれなら、昼すぎには35℃を越える猛暑日となってもおかしくはない。
「……何だか誤魔化された気がするけど、そうだね。このままだと熱中症になりそうだし」
完全に納得した様子ではなかったが、それでも俺の言葉に素直に頷く拳藤。
そうして2人でまず向かったのは、服屋だった。
何で服屋? と思ったが、拳藤が言うには着ていく服の選択肢は多ければ多い程にいいらしい。
いや、そうして選択肢が多くなりすぎると、今度はどれを着るかで迷ってしまうと思うんだが。
というか、服を買うのなら俺が来る必要ってあったか?
そう思いつつも、拳藤が服を選ぶのを離れて見ている。
……いっそ拳藤の近くに行こうかとも思ったのだが、そうなるとこの服はどうかとか、そういう意見を色々と聞かれそうなんだよな。
ファッションについてはそこまで詳しくないし、ましてやこのヒロアカ世界でどんな服が流行なのかというのも俺は知らない。
であれば、どういう服がいいとか聞かれても困る。
あるいは単純に自分好みの服を選べばいいのかもしれないが、そうなると……まぁ、うん。
「大変だよね、お互い」
拳藤にはどんな服が似合うのか。
そんな風に思っていると、不意に声を掛けられる。
何だ? と声のした方に視線を向けると、そこには今の俺よりも少し年上……高3、あるいは大学生といった感じの男の姿があった。
少し頼りなさそうではあるが、こうして見ず知らずの俺に声を掛けてくるんだから、外見通りの性格ではないのかもしれないな。
とはいえ、その言葉の内容から、俺と同じ立場にいるのは間違いないだろう。
「ああ、こうして待っている時間はどうにもな」
「そうなんだよね。かといって、僕がいなくなると不満を言われるし」
「まぁ、恋人ならそうかもしれないな」
「うん? アクセル君は彼女と付き合ってないのかい?」
「……自己紹介はした覚えがないけど。いやまぁ、それは今更か」
「あはは、そうだね。雄英の体育祭は僕もTVで見たよ。それにネットにある、ヒーロー殺しを倒したのも君なんだろう?」
うわぁ、やっぱり情報はかなり広まっているみたいだな。
いやまぁ、オリンピックに代わる雄英の体育祭と、かなり有名なヒーロー殺しのステインを倒した俺の件はかなり知られていてもおかしくはない。
そんな訳で、俺は拳藤を待っている間、同じ立場の男と話をするのだった。