「あ……おはよう、アクセル」
微妙に緊張した様子で、待ち合わせの場所で拳藤が俺に声を掛けてくる。
今日は、I・アイランドに行く日。
I・アイランドに行けば、向こうでヤオモモ、三奈、葉隠、瀬呂……後は何故かというか、当然のように参加していた茨と合流する事になっていた。
ただ、それでもI・アイランドまでは俺と拳藤だけなのもあって……何より、やっぱりI・アイランドに行くのが初めてという事で、拳藤も緊張しているんだろう。
「おはよう。……さて、じゃあ飛行機の時間もあるし、さっさと行くか。一応聞くけど、拳藤は何か忘れ物があったりしないよな?」
「ああ、大丈夫。何度か確認したし。……けど、アクセルのそのスーツケース、便利そうだな」
そう言いながら拳藤の視線の先にあるのは、木椰区のショッピングモールで購入した、AI搭載のスーツケース。
俺が手で持って運ばなくても、自動的に俺を追ってくる優れ物だ。
しかも盗もうとする奴がいた場合は、反撃出来る機能付き。
とにかく何も持たないで自由に移動出来るというのは、ありがたい。
……あ、でもこのスーツケースはあくまでも木椰区のショッピングモールで買った奴だから、I・アイランドにはもしかしたらこれよりも高性能なAI搭載スーツケースが売ってるかもしれないな。
もっとも、もしそれが売っていても俺は購入するつもりはないのだが。
何しろ、このスーツケースはロボット掃除機と友情で結ばれた……結ばれた……うん、多分だけど、そんな感じで結ばれたしな。
最初はロボット掃除機のAIと本当に仲良くやっていけるのか分からなかったのだが、今ではそれなりに仲良くなっているように見えないでもない。
であれば、わざわざ新しいスーツケースを購入するつもりはない、
「だろう? 買って良かったと思う。ヤオモモには感謝だな」
ヤオモモがあの店に案内してくれたからこそ、このスーツケースを購入出来たのだ。
また、前日にAIを搭載しているスーツケースのカタログとかも送ってきてくれたし。
……まぁ、調べようと思えばネットで普通に調べられたんだろうけど。
そうして俺と拳藤は話をしながら電車に乗る。
とはいえ、電車で向かうのはいつもとは違う方向だ。
雄英に行くのではなく、I・アイランドに行くのだから、空港に向かうのは当然だった。
もっとも、雄英であれば敷地内に空港があっても驚きはしないけど。
とはいえ、もし雄英の敷地内に空港があっても俺が使える訳じゃない。
「I・アイランドか。……ねぇ、アクセル。どういう場所を見て回るの?」
「やっぱりサポートアイテムの展覧会とかそういうのを見ておきたいところだな」
電車の中で拳藤とそんな会話をする。
I・アイランドの技術力は、このヒロアカ世界でもトップクラスだ。
それだけに、そこで開発されたサポートアイテムはかなり高性能な、そして最先端なものとなる。
俺にとっては是非とも見ておきたい。
それに、I・アイランドにはヒーローコスチュームも持ち込みが可能となっている。
俺のスーツケースの中に入っているので、もしかしたらI・アイランドの技術でヒーローコスチュームを強化出来るかもしれないしな。
「I・アイアンドのサポートアイテムか。興味深いね」
「だろう? もっとも、購入出来るのは少ないらしいが」
一応、I・アイランドで売られているサポートアイテムというのもある。
あるのだが、本当の意味で最新鋭のサポートアイテムは購入出来ないんだよな。
……いっそ、悪徳企業があったら、その企業とか研究所とかに忍び込んで、そこにあるサポートアイテムを盗み出すか?
そうも思ったが、どうしても欲しい訳じゃないしな。
それに個性というのは、多種多様な個性がある。
中には過去視といったような個性がある可能性も否定は出来ない。
それによって俺が盗んでいる光景を誰かに見られるというのは避けたかった。
……となると、ハッキングプログラムを使うか?
技術班の作ったハッキングプログラムは、I・アイランドのセキュリティを突破してデータを盗み出すといった事は出来るかもしれないな。
「私達には、ちょっと購入するのは難しいか」
拳藤が残念そうに言う。
とはいえ、俺の場合は公安のクレジットカード、それもブラックカードがある。
サポートアイテムがそれなりに高額であっても、このクレジットカードを使えば普通に購入出来る。
これで購入して空間倉庫に収納しておけば、ゲートを設置してホワイトスターに戻れるようになれば、技術班も喜ぶだろう。
「まぁ、観光客用のお得なサポートアイテムとか、そういうのもあるかもしれないから、それを楽しみにしよう」
「……アクセルが言うと、本当にそういう風にありそうなんだよね」
そうして会話をしながら移動し、やがて空港に到着してI・アイランド行きの飛行機に乗る。
ファーストクラス……とかではないのは、やはりこのチケットが体育祭の優勝賞品だからだろう。
高校生の体育祭の優勝賞品である以上、ファーストクラスは豪華すぎるという判断かもしれない。
……とはいえ、雄英の体育祭はオリンピックの代わりだ。
その体育祭で優勝したという事は、それはつまり本来ならオリンピックで金メダルを取ったという事になる。
それもオリンピックではかなりの数の種目があるのに対して、体育祭の1位というのは、1年、2年、3年の各学年でそれぞれ1人ずつな訳で、そういう意味ではオリンピックの金メダルよりも希少性は高い。
だとすれば、飛行機のファーストクラスのチケットくらいはおかしくないと思うんだが。
「いよいよね」
「何だ、緊張してるのか?」
「当然でしょ。I・アイランドに行くのは今日が初めてなんだもの。それで緊張するなって方が無理」
「……なるほど。言われてみれば……うん?」
飛び立った飛行機の中で拳藤と話をしていたのだが、ふと気が付く。
窓の外……まだかなり遠くではあるが、丸い……というか人工都市I・アイランドが見えてきたのだ。
「拳藤、ほらあれ。……見えるか?」
「え? ……わぁ」
遠くに見えるI・アイランドを示すと、拳藤の口からそんな声が上がる。
拳藤も初めて見る……いや、TVとかそういうので見た事はあるかもしれないが、こうして自分の目で直接見るのは初めてなのだろう、I・アイランドの姿がそこにはあった。
「あれが……I・アイランド」
「ああ、そうらしい。ヤオモモ達は先に到着して俺達を待っているらしい」
昨日LINで聞いた限りだと、ヤオモモの家のプライベートジェットで向かうという話だったしな。
ただ、時間の関係で俺達よりも早く到着する事になっている。
そんな訳で、俺達を空港で待っているって話だったが……ヤオモモはともかく、三奈や葉隠辺りはI・アイランドの中を喜んで見て回っていそうな気がする。
瀬呂は赤点の件でまだ完全には立ち直っていないし、茨の性格を考えれば俺が来るまで待っている筈だ。
ただ、ちょっとしたサプライズがあるって話だったが……何なんだろうな?
そんな風に疑問に思っていると、やがて飛行機が空港に到着して着陸する。
「さて……じゃあ、行くか。いよいよI・アイランドに上陸だ」
「そうだね。いよいよI・アイランドに……うわ、どうしよう。何だかもの凄く楽しみになってきた」
「もうI・アイランドに到着したんだから、後は飛行機から降りるだけだ。今からそこまで緊張する必要はないと思うけどな」
「だって、I・アイランドだよ? 寧ろ、なんでアクセルはそこまで平気な顔をしてるのさ」
理解出来ないといった様子で拳藤が言ってくる。
それに対して、俺は何と反応すればいいのか迷う。
いやまぁ、このI・アイランドがヒロアカ世界にとって重要な意味を持つ場所だというのは、俺も理解している。
その重要性を考えれば、恐らくだがこのI・アイランドでも原作的な意味で何らかのトラブルはあるんだろうとは思っているし。
特に今回は俺が行く影響もあるんだろうが、結構な数のA組の面々がI・アイランドにやって来ている。
また、拳藤や茨というB組の面子もいるのを思えば、I・アイランドで何らかの騒動があっても不思議ではない。
……となると、当然ながら原作主人公の緑谷も何らかの理由でI・アイランドに来てもおかしくはない訳か。
いや、おかしくないとかではなく、こうなると確実に緑谷もいると考えた方がいいだろう。
「さて、じゃあ下りるか。まずは緑谷達を捜さないとな」
「は? えっと……緑谷もI・アイランドに来てるのか?」
あ、しまった。つい緑谷の名前を出してしまったな。
拳藤にしてみれば。何故緑谷がI・アイランドにいるのかといった事を疑問に思ったのだろう。
体育祭の優勝賞品になっているのを見れば分かるように、I・アイランドは来ようと思ってすぐに行けるような場所ではない。
……いやまぁ、ヤオモモの家くらいになれば、今回のようにある程度はどうとでもなるのかもしれないが。
ただ、緑谷の家は一般家庭でヤオモモの家のような資産家ではない。
であれば、緑谷がI・アイランドに来るのは難しい。
そう拳藤が思っても不思議ではない。
実際、俺も緑谷がこの世界の原作主人公であると知らなければ、そんな風に思ったし。
となると、緑谷がこのI・アイランドに来るのは……一番可能性がありそうなのは、やっぱりオールマイトか?
緑谷とオールマイトには間違いなく何らかの繋がりがある。
でなければ、まさかNo.1ヒーローのオールマイトが雄英で教師をしたりはしないだろう。
そしてNo.1ヒーローだけに、オールマイトは金もかなり貯め込んでいるだろうし、コネもある筈だ。
であれば、緑谷をI・アイランドに連れてくるのはそう難しい事ではないだろう。
「何となくそんな感じがしただけだよ。もしかしたらこれも俺の個性の一つかもしれないな」
そう言い、意外とこの言い訳は便利かも? と思う。
この世界が原作のある世界で、緑谷がその原作主人公。
原作知識はないものの、それが分かっているだけで大雑把に予想出来たりもする。
……まぁ、保須市でのステインの一件のように、緑谷が関わりない筈だと思っていたところで、何故か緑谷がやって来るといったような、予想外の展開もあったりするので、完全には油断出来ないが。
「ふーん。……まぁ、アクセルの個性は色々と謎が多いしな。単純な増強系かと思っていたら、炎獣だっけ? そういうのもあるらしいし」
拳藤が炎獣について知っているのは、当然ながら以前LINで話題になった事があった為だ。
そんな訳で、今まで俺の混沌精霊という個性は純粋な増強系と思われていたところで、炎獣という……どう見ても増強系とは方向性の違う個性を持っていると知られた訳だ。
であれば、そこに……そうだな、直感とかそういう個性があっておかしくはないと思う。
個性について詳しい者がそれを知れば、一体その個性は何なんだと混乱してもおかしくはなかったが。
「まぁ、そんな風に思っておいてくれ。……さて、じゃあ行くか」
飛行機から降りて荷物を受け取り、拳藤と一緒に空港を出る。
すると……・
「あ、来たよヤオモモ、アクセル君だ!」
そんな声が聞こえ……
「なるほど、これがサプライズか」
今の声は葉隠のもの。
いつもと違って私服だが……透明なのもあって、その服装が似合ってるかどうかはちょっと分からない。
そこにヤオモモ、三奈、茨、瀬呂がいるのは、予想通り。
だが、耳郎、梅雨ちゃん、麗日の3人がいるのは、ちょっと予想外だった。
つまり、これがサプライズなのだろう。
「拳藤、知ってたか?」
具体的に何を知っていたのかといった事は口にしなかったが、拳藤も向こうにいる耳郎達を見て、俺が何を言いたいのか分かったのだろう。
首を横に振る。
「私も知らなかったな」
それが事実なのかどうかは、生憎と分からない。
ただ、拳藤の様子を見る限りだと、恐らく本当だろうと思う。
「そうか。……まぁ、耳郎達だけがI・アイランドに来られないよりは、来た方がいいだろうし、ヤオモモの方で問題がなければ構わないか」
それに俺の予想ではI・アイランドでは何らかの騒動がある筈だ。
であれば、偵察向きの個性を持つ耳郎や梅雨ちゃん、一度でも相手に触れられれば勝利確定の麗日は、十分戦力として期待出来るだろう。
そういう意味では、耳郎達がここにいるのは特に問題ではない。
いや、寧ろ俺にとっては有益ですらあるだろう。
……ただ、この戦いにおいて俺がちょっかいを出してもいいのかどうか、少し迷うな。
何しろ、緑谷は俺の介入によってどうしても実戦経験が減っている。
USJ、保須市と。
勿論、ただ実戦経験が減っているだけではない。
実戦経験が足りない代わりに、自主訓練でかなり厳しい訓練をしているので、多分だが純粋な強さという点では原作よりも上だろう。
だが……実戦経験というのは、時に実力差を引っ繰り返す。
そうなると、ここで起きる騒動に俺は出来る限り手を出さない方がいいのかもしれないと、そう思うのだった。