「あ、あわわわわわ……麗日さん!?」
金髪美人と話していた緑谷は、満面の笑みを浮かべながら近付いてくる麗日を見ると、足を震わせる。
まぁ、笑みを浮かべているのに目は笑っていないっぽいし。
そう考えると緑谷がああいう態度になるのも分からなくはない。
いや、あるいは……それこそ本当にあるいはの話だが、緑谷以外にああいう笑っていない笑顔とでも呼ぶべきものを向けられたら、今の緑谷と同じような状態になってもおかしくはないと思う。
「あわわ、あわわわ……えっと、えっとその、な、なんで麗日さんがI・アイランドに!?」
緑谷は何とか話を逸らそうと、そう尋ねる。
とはいえ、緑谷は金髪美人と話していただけだ。
これが例えばハニートラップを仕掛けられている最中だったり、あるいはまずないだろうが金髪美人を口説いているのを麗日に見つかったとかなら、緑谷が焦ってもおかしくはないと思うんだが。
ただ話していただけなのだから、ああして焦らなくてもいいだろうに。
それでこうして焦ったりしていると、それこそ何か見られては困るような事をしていたといったように思ってもおかしくはない。
とはいえ、麗日も何だかんだと緑谷とは受験の時からの付き合いだけに、緑谷にああいう金髪美人を口説く勇気や度胸がない事は知っててもよさそうなものだが。
あるいはその辺りについて知っていて、それでも麗日的には許せないのか。
……ただ、麗日本人に実感はないが、ぶっちゃけ今の麗日と緑谷はただの友人でしかない。
お互いに好意を持っているのは間違いないだろうが、麗日はそれを自分で認めたくないような感じだし、緑谷にいたってはその好意そのものに気が付いた様子すらない。
であれば、別に恋人同士という訳でもないんだから、緑谷があの金髪美人と話しているのを見たからといって、麗日が怒るというのはおかしい。
もっとも、そうした理屈でどうこうといったように考えることが出来ないからこそ、恋愛というのは面白いのかもしれないが。
そんな風に考えていると、緑谷の様子を面白そうに、それでいながらどう口を挟めばいいのか迷っていたようなオールマイトが、こちらに気が付く。
いや、オールマイトの能力を考えれば、当然ながら俺達の存在には気が付いただろう。
それでも特に何かを言ってこなかったのは、今は生徒達に任せておいた方がいいと思ったからか。
「アクセル少年は体育祭の賞品かい?」
「俺と拳藤はそうですね。他の面子はヤオモモの方で手を回してくれたので」
「ほう、さすが八百万少女だね。I・アイランドは……特に今は混み合っている時期だから、そう簡単にチケットは取れないのだが」
「あら、そうですの。お父様に頼んだらすぐどうにか出来ましたけど」
「んんん、資本主義ぃっ!」
ヤオモモの言葉に、何故か数秒の溜めと共にそう叫ぶオールマイト。
その気持ちは分からないではないけどな。
ヤオモモの家ってもしかしたら俺が思っている以上に金持ちなのかもしれないな。
具体的には……ネギま世界の那波重工とか雪広財閥的な感じで。
もしくは、もっとか?
「本当は誰と一緒に行くかと話していたんですけど、気が付いたら全員で行く事になってました」
「マイトおじさま、こちらの方達は? 緑谷君の同級生?」
「そうだよ、メリッサ。この子達は緑谷少年と同じく、雄英の生徒達だ」
「……おじさま?」
メリッサと呼ばれた金髪美人は、間違いなくオールマイトを『おじさま』と呼んだ。
そこに少しインモラルな雰囲気を感じたのは、俺の気のせいだろうか?
いや、峰田や上鳴がここにいれば、間違いなく俺と同じ反応をしていたように思える。
「アクセル……あんたねぇ……」
拳藤が呆れたように俺に視線を向けてくる。
俺と一緒にいる時間が多いだけに、呟きを聞いただけで俺が何を考えたのか、何となく理解したのだろう。
そんな俺達のやり取りを気にした様子もなく――本当に聞こえていないのか、スルーしただけなのかは分からないが――オールマイトは今度はこちらに向かって口を開く。
「皆、彼女はメリッサ。私がアメリカにいた時の友人の娘だ」
……ああ、そうか。
オールマイトの友人ということは……もし同年代だとすれば、50代か60代といったところで、娘がいても……いや、寧ろ場合によっては孫がいてもおかしくはない年齢なのか?
オールマイトの外見は、それこそ俺がネットで調べた限り昔からあまり変わっていないように思える。
勿論全く変わっていない訳ではないが。
ただ、もしかしたらオールマイトの個性はただの増強系というだけではなく、不老……とまではいかないが、若さを保つとか、そんな効果もあるのかもしれないな。
あくまでも俺の予想で、実際にどうなのかというのは分からないが。
まぁ、メリッサの件については単純に、晩婚だったのか、子供が出来るのか遅かったとか、そういう理由があるのかもしれないが。
「皆、マイトおじさまの生徒なのね。私はメリッサ・シールド。マイトおじさまの友人……というか、相棒だったデヴィット・シールドの娘と言えば分かりやすいかしら」
「デヴィット・シールド? それってどこかで聞いた覚えが……」
メリッサの言葉に、三奈が首を傾げてそう言う。
おい、デヴィット・シールドというのは、俺でも知ってる名前だぞ。
プロヒーローが使うサポートアイテム、その第一人者と呼ばれている男だ。
なるほど。オールマイトのアメリカ時代の相棒という話だが、納得出来る話だな。
「さて、僕と緑谷少年は少しデヴィットに会いに行ってくる。メリッサはその為に私達を迎えに来たんだ。君達はどうする? 一緒に来るかい?」
「興味はありますが……旧友と会うのを邪魔しようとは思いません。それでいいですわよね?」
ヤオモモのその言葉に、俺を含めた面々が頷く。
正直なところ、サポートアイテムの第一人者と呼ばれる人物には非常に興味がある。
このヒロアカ世界の技術力は、基本的には俺の知っている普通の世界……シャドウミラーが行ける世界で考えると、ネギま世界やペルソナ世界とそう違いはない。
勿論世界が違えば年代も微妙に違う訳で、全く同じという訳ではなく、微妙な違いはある。
だがそれでも、全体的に見た限りではそう大きな違いがないのも事実。
しかし、そんな中でヒロアカ世界が突出しているのはプロヒーローが使うサポートアイテムだ。
これについては、ペルソナ世界やネギま世界も及ばない。
まぁ、それを言うのならペルソナ世界はアイギスのように機械に自我が芽生えていたり、ネギま世界のように魔法があったりと、それぞれに特徴的な技術はあったりするのだが。
ともあれ、そういう意味でこのヒロアカ世界におけるサポートアイテムの技術は非常に高く、それだけにそのサポートアイテムの第一人者と言われるデヴィット・シールドに俺が興味を持つのは当然の事だった。
とはいえ、当然ながらそのような人物には会おうと思って会える訳ではない。
……いや、俺の場合は影のゲートや気配遮断があるので、無理に会おうと思えば普通に会えるんだが。
ただ、今の時点ではそこまでして無理に会う必要があるかと言われれば……正直、微妙なところだろう。
これでゲートが設置されており、ホワイトスターと自由に行き来出来るようになっていれば、デヴィット・シールドともしっかり接触しようという気持ちになるのかもしれないが。
「では、私達は失礼するよ。八百万少女達は、I・アイランドを十分に楽しんでくれ」
そう言い、オールマイトは緑谷とメリッサと共に立ち去る。
何だか少し急いでいるように見えたんだが……気のせいか?
期末テストの演習試験の時も、俺に負けるとオールマイトはすぐに立ち去ったが、あの時と似たような感じが……気のせいか?
そんな風にオールマイトについて考えていると、残された俺達はどこに行くのかということで話が進んでいた。
「アトラクションだよ、アトラクション。I・アイランドの技術を使ったアトラクションなんて、ここじゃなきゃ楽しめないって」
そう三奈が主張する。
それもいいかもしれないと思ったところで、葉隠が口を開く。
「アトラクションもいいけど、I・アイランド限定のクレープがあるらしいから、それも食べたいな」
クレープ……それも限定クレープという言葉に、アトラクションを希望した三奈までもが興味を抱く。
この場にいる男は俺と瀬呂だけである以上、スィーツを前にした女達に逆らう事など出来ない。
別に俺もクレープとかが嫌いな訳じゃないので、無理に反対するつもりはなかったが。
ただ……うん、少しだけ心配なのは、まさかいつものゴーヤクレープじゃないだろうなというものだろう。
まだゲートが設置されておらず、ホワイトスターと自由に行き来したりも出来ないので、それを思えばまさかゴーヤクレープがヒロアカ世界に進出――もしくは侵食――したりはしていないだろうと思うが、それでも俺の予想外の事をやってのけるのが、ゴーヤクレープだ。
もしかして……本当にもしかしてと、そのように心配してしまうのは仕方がない。
「じゃあ、限定クレープを食べに行くという事で構いませんわね?」
ヤオモモがそう言うと誰も反対しない。
少し意外だったのは、俺に心酔……というか、信仰している茨ですらもクレープの魅力に抗えなかった事だろう。
勿論、それを食べるよりも前に何かしなければいなけい事があるとか、そんな理由があれば茨も……いや、茨に限らず他の面々もクレープを我慢出来るだろうが、今は別にそのような状況ではない。
近いうち……俺達がI・アイランドに滞在するのは数日なので、その数日の間に原作的に何かが起こるのは間違いないだろうが、今は特にそのような様子はない。
というか、多分だけどこのI・アイランドで起きるのだろう何らかの騒動は、デヴィット・シールドに関係してるんだろうな。
何しろオールマイトのアメリカ時代の相棒という人物が出て来たのだから、それが原作に関わらない筈がない。
なので、いずれ数日中……早ければ今夜にでも騒動が起きるのだろうから、今のうちにリラックスしておくのは悪い話じゃないだろう。
そんな訳で、俺達はクレープ屋に向かったんだが……
「これは……まぁ、I・アイランド限定と言われれば、そうかもしれないな」
手にしたクレープを前に、そう言う。
他の面々も俺と同じように驚きの表情を浮かべていた。
それはまぁ、そうだろう。
普通クレープといったら、小麦粉で作った薄い生地に生クリームやチョコクリームスポンジケーキ、各種果実といったようなものが一般的だ。
ちょっと変わったところでは、ハムとチーズとかのスイーツじゃなくてサンドイッチのような軽食のようなタイプがあったり、ゲテモノとしてゴーヤがあったりする。
ただ、現在俺の手に握られているクレープは……まず、生地は普通だ。
小麦粉を水に溶き、牛乳や砂糖、他にも何か入れて薄く焼いた生地で、普通のクレープとそう違いはないように思える。
だが、その中身が……うん。蛍光色の生クリーム。
入っているのはそれだけで、スポンジケーキや果実の類も何もない、そんなクレープだ。
気のせいか、蛍光色の生クリームが輝いているようにすら見える。
「……あ、美味しい」
「え? ちょっ、透!? 大丈夫なの!?」
誰もがあまりに異形のクレープに躊躇していたのだが、葉隠が躊躇なくクレープを食べたのだ。
あるいは躊躇していたのかもしれないが、個性で透明な葉隠だけに、それは分からない。
耳郎が慌てた様子で葉隠に尋ねるが、葉隠はそんな耳郎に頷く。……着ている服の動きから、恐らく頷いたのだろうと思っているのだが。
「うん、美味しいよ。この蛍光色の生クリーム、イチゴとブドウ、後はバナナとキウイ……かな? その味がする」
この蛍光色の生クリームにそんな複雑な味があるのか。
I・アイランドの技術を使って作った生クリームとか、そんな感じか?
ともあれ、葉隠がこうして美味いと言ってるので、他の面々も……俺も含めて全員がクレープを食べる。
最初に口の中に広がったのは、生地の優しい味。
続けて、蛍光色の生クリームの味が口の中に広がってくる。
なるほど、葉隠が言うようにこの生クリームには様々な果実の味があるな。
驚きなのは、こうして多数の味が一緒になっているのに、それぞれの味がしっかりとする事だろう。
普通ならこういうのは多数の味がゴチャゴチャになって味がぼやけるのだが……この蛍光色の生クリーム、一体どうやって作ったんだろうな?
そう不思議に思いつつも、美味いのは美味いので限定品のクレープをしっかりと味わう。
ちなみに俺はこっそりと追加で購入し、I・アイランド限定クレープを空間倉庫に収納するのだった。