「何を油を売っているんだ! バイトを引き受けた以上、労働に励みたまえぇっ!」
紅茶やケーキといった注文した諸々を持ってきた峰田と上鳴だったが、すぐに店に戻るのではなく、その場に留まっていた。
……言うまでもなく、この2人の狙いはメリッサだろう。
というか、他の面々は大半がA組の女達だし。
拳藤と茨のようにB組の女もいるが、この2人は放課後にやっている自主訓練に参加しているのもあって、峰田や上鳴がどのような者達なのかを知っている。
……特に茨は潔癖な性格をしているだけに、峰田や上鳴のような女好きは受け入れるのは難しい。
それを言うのなら、俺はどうなんだと思わないでもないが……まぁ、その辺については、今のところは明らかになっていないからというのが大きいのだろう。
つまり、俺に恋人が20人程もいると知られたらどうなるのかは……うん、取りあえず今は気にしないでおこう。
いや、あるいはそれを早めに知らせる事で、茨が何をどう思ってか俺に心酔している状況を変える事も出来るか?
そうも思ったが、茨は俺に身も心も捧げると断言するくらいには俺に心酔している。
それこそ俺が抱かせろと言えば、茨は嫌がる様子もなく……寧ろ嬉々として俺に抱かれるだろう。
茨が俺に好意を持ってるのは間違いないが、その好意は男女間の好意じゃなくて、宗教的な意味での好意なんだよな。
さすがにそういう相手を抱こうとは思えなかった。
まぁ、俺と茨の件はともかく、峰田と上鳴が何とかメリッサを口説こうとし、メリッサをいいなと思っている瀬呂であったり、峰田や上鳴の毒牙に掛けてなるものかと、女達も峰田や上鳴の邪魔をしていたところで、不意に聞こえてきた声。
そちらに視線を向ければ……予想通り、こちらに向かってくる飯田の姿があった。
というか、飯田も来てたのか。
しかも今の言葉を聞く限りだと、どうやら飯田もこの喫茶店でバイトをしに来たらしい。
……とはいえ、峰田と上鳴は一緒に行動しているのはよく見るけど、そこに飯田が入っているというのはちょっと珍しいな。
真面目だが視野が狭く、杓子定規的な性格の飯田と、女好きの峰田と上鳴。
これ、飯田に悪影響があったりしないよな?
夏休みが終わった時……いや、林間合宿が始まった時、飯田がウェイっていたりしたら、洒落にならないぞ?
「上鳴、飯田に変な影響を与えるなよ」
「ちょっ、おい!? いきなり何を言うんだよ!?」
上鳴はまさか自分がそのようなことを言われるとは思っていなかったのか、慌てたようにそう叫ぶ。
「いや、だって峰田や上鳴と飯田だぞ? 峰田はさすがにないにしても……」
「おい、アクセル。オイラを甘く……ぐぇえ」
俺の言葉を聞いた峰田が何かを言おうとしたものの、言い終えるよりも前に茨の個性によって伸ばされた棘つきの蔦……というか、茨の髪が峰田を捕らえ、締め上げる。
「いつも思っていましたが、アクセルさんに対して失礼でしょう」
そう茨が言うと、蔦は峰田を完全に覆ってしまう。
それこそ何かの繭の如く。
少し不思議だったのは、蔦の繭で覆われた峰田が何も反応しない事か。
てっきり中で暴れたりするかとも思ったんだが、特に暴れる様子はない。
何故? と疑問に思ったのだが、すぐにその理由に思い当たる。
茨の蔦に包まれているという事は、当然ながら蔦の棘も峰田を覆っている訳で、そう考えれば峰田も暴れられないだろうと。
もしここで峰田が暴れたりしようものなら、それこそ峰田の身体は傷つくだろうし。
……あれ? これ、対峰田としてはかなりいいんじゃないか?
もっとも、峰田の個性のモギモギは防具的な扱いも出来ない訳ではない。
そういう意味では峰田もある程度この蔦の繭を防げるのかもしれないが……モギモギだって無尽蔵に生み出せる訳ではない。
使いすぎると血が出て来るって以前峰田が言っていたのを覚えている。
そうなると、あの繭の中身……今どうなっているのか、微妙に気になるな。
「お、おい、ちょっとアクセル……峰田、本当に大丈夫なのか?」
上鳴もまた自分の相棒が気になったらしくし、そう聞いてくる。
「心配するな。峰田だから大丈夫だろ」
「いや、お前……峰田だからって、何でも大丈夫って訳じゃないんだぞ?」
「夏休みが終わったら……いや、林間合宿の時に飯田がウェイっていたりしたら、困るだろ?」
「こいつ、無理矢理話を元に戻しやがった!?」
「ぶふっ!」
上鳴と俺のやり取りを聞いて噴き出したのは、耳郎。
どうやら今のやり取りが耳郎的には面白かったらしい。
もっとも、耳郎は以前から上鳴のウェイるのについては思わず噴き出したりする事が多かったのを思えば、自然な事かもしれないが。
「あははは、面白い人達ね」
予想外な事に、メリッサまでもが今の一連のやり取りが面白かったらしく噴き出す。
「……でしょう? いやぁ、俺達ってば面白いんですよ」
そんなメリッサを見た上鳴が、即座に峰田を切り捨てるとそう言ってくる。
いやまぁ……上鳴らしいといえばらしいんだが。
あ、今の上鳴の声が聞こえたのか、茨の蔦の繭の中で峰田が暴れてるっぽい。
峰田にしてみれば、蔦で自分の身体が雁字搦めにされて動けば怪我をするという状態よりも、自分の相棒の上鳴が自分をネタにして金髪美人のメリッサを口説こうとしてるのが我慢出来なかったらしい。
というか、蔦の繭の外のやり取りが中にいる峰田にも聞こえてるんだな。
「とにかく、今は……」
どんっ、と。
俺の言葉を遮るようにして、不意に爆発音と思しきものが聞こえてくる。
それが聞こえた瞬間、皆がピタリと動きを止めた。
もしかして、ヴィランによる襲撃か?
そうも思ったのだが、どうやら違ったらしい。
実際オープンテラスの喫茶店の近くを歩いている他の通行人は、音のした方に視線を向けはしたものの、その程度で普通に歩いていたし。
これであるい悲鳴を上げている者とかがいた場合に、また少し違ったかもしれないのだが。
「何だ!? ちょっと行って見てくるね! お金はここに置いておくから!」
しかし、そんな中でも黙っていられないのは、緑谷。
あるいはこれが原作主人公の影響力なのか。
緑谷が向かうと、メリッサと麗日がそれを追い、そうなると他の面々もそれを追う。
そうなると俺だけがここに残っているのかもどうかと思い……というか、もしかしたらI・アイランドで起きる何らかの騒動が早速始まったのか? と思ったのもあり、俺も金をその場に置くと、緑谷を追う。
そして俺が行動するのなら俺の従者という自認を持つ茨も、峰田を封じていた蔦の繭を解除して俺を追ってくる。
そうして移動をした先にあったのは……
『クリアタイム33秒、第8位です!』
その言葉と共に空中に浮かぶ映像スクリーンに映し出されたのは、個性を使った切島の姿だった。
「切島君!?」
『おおおおおお!』
映像モニタを見た緑谷が思わずといった様子で切島の名前を呼び、同時に8位という結果に観客と思しき者達の口から歓声やどよめきが上がる。
「デク君、あの人も?」
「はい、クラスメイトです」
メリッサの言葉に緑谷がそう返す。
まぁ……峰田達がI・アイランドにいたんだから、切島がI・アイランドにいても不思議じゃないよな。
というか、余計にI・アイランドで何らかの騒動が起きるのが確実となってしまったような気がする。
『さぁ、次なるチャレンジャーは……』
司会の言葉にアトラクションの舞台に姿を現したのは……
「かっ、かっちゃん!?」
思わずといった様子で口にする緑谷の言葉を聞けば分かるように、爆豪だった。
まぁ、切島や上鳴、峰田、飯田といった面々が来ているんだから、それを思えば緑谷のライバル的な存在である爆豪がI・アイランドに来ていない筈はないよな。
となると、他の面子……例えば轟とかもI・アイランドにいてもおかしくはないんだが。
『それでヴィランアタック……スタート!』
その言葉と共に爆豪は跳躍し、個性の爆発を推進力にしてロボット……司会の名称からすると、仮想ヴィランなのだろう存在を次々と倒していく。
そして、最後の1機に向かい……
「死ねぇっ!」
そう叫びながら、個性を叩き込み、撃破した。
「死ね?」
「……私が言うのもなんだけど、本当に爆豪ってアレだね」
爆豪の叫びに思わずといった様子で緑谷が呟くと、それを聞いていた拳藤がそう呟く。
B組の委員長として、B組のアレな奴である物間を相手にしてるだけに、その言葉には不思議なまでの説得力がある。
……A組の委員長のヤオモモが、そんな拳藤の言葉に微妙に恥ずかしそうにしていたが。
『これは凄い。クリアタイム15秒、トップです!』
自分がトップという言葉が嬉しかったのか、満足した様子で歩く爆豪。
……まぁ、うん。雄英ではいつも俺に負けているし、同じくクラスNo.2の轟を相手にしても勝ったり負けたりといったところだ。
こうしてトップの座を取るのは、爆豪にとってそれだけ嬉しいのだろう。
そんな風に思っていると、爆豪の前にヴィランアタックとやらに挑戦した切島が観客席にいる俺達の姿に気が付き、近付いてくる。
「アクセル、緑谷、他にも……」
大勢いるな。
恐らく切島はそう言おうとしたのだろうが、そう言い切るよりも前に爆豪が個性を使い、観客席まで突っ込んで来る。
それでも直接観客席に中に突っ込んで来るのではなく、転落防止用の柵に掴まって動きを止めたのは、爆豪なりに考えての事だったのか。
「ヒモ野郎、何でてめえがここにいるんだああぁぁんっ!」
巻き舌……ってのはこういうのを言うのか?
これでもかと言わんばかりに不満そうな、不愉快そうな様子で叫ぶ爆豪。
爆豪にしてみれば、俺は越えるべき壁で、これでもかとライバル視している。
それこそ原作的な意味で爆豪のライバルは緑谷なのだろうが、俺が介入したせいか、爆豪のライバル心は完全に俺に向いている。……いや、自分の同じくクラスNo.2といった扱いの轟にもか。
原作での緑谷と爆豪の関係がどうだったのかは分からないが、爆豪が緑谷に取っている態度がそのまま原作でも同じだとすれば、イジメ……とまではいかないが、威圧されるような事が多かったのだろう。
そういう意味では、爆豪のライバル心の大半が俺に向けられているのは緑谷にとって悪くない事……かもしれないな。
「何でと言われても、俺と拳藤は体育祭で優勝した賞品だな」
そう言うと、拳藤が微妙に頬を赤く染める。
え? 何でこの流れが頬を染めるんだ?
「けっ、やっぱりてめえはヒモ野郎だな。よくもまぁ、次から次に女を取っ替え引っ替え……あん?」
言葉の途中で爆豪が茨に視線を向ける。
その理由は、こっそりと足下から忍び寄っていた茨の蔦を見たからだろう。
あー……そうか、そう言えば茨と爆豪がこうして直接顔を合わせるのは、これが初めてだったか?
俺に心酔している茨と、俺を越えるべき壁と認識している爆豪。
いや、それだけならそこまで相性が悪くないのだが、潔癖な性格……身も心も俺に捧げると言っている茨が潔癖なのか? という疑問はあるが、とにかく俺が関わらない範囲なら潔癖なのは間違いない茨と、俺をライバル視するのはともかく、言動がヴィラン染みている爆豪。
この2人の相性が良いかと言われれば、当然ながらそんな訳はなく……
「アクセルさんに向かってのその態度……許せません」
「ああん? 何だ、てめえもヒモ野郎の女か」
「誰がヒモ野郎ですか! アクセルさんに対してそのような言葉を……」
「ふんっ、俺はヒモ野郎としか言ってねえ。アクセルがヒモ野郎だって思ったのはお前だろうが。つまり、お前はアクセルをヒモ野郎と認識してるんだよ!」
「な……」
茨が爆豪の言葉にショックを受けた様子を見せる。
……いやまぁ、俺達の今グループいる男は、俺、瀬呂、緑谷の3人だけで、他は全部女だ。
ここに峰田達もいればよかったのだが、峰田達はバイトをする為にI・アイランドに来ている訳で、そうである以上、当然ながらバイトを放り投げて俺達と一緒に行動する事が出来る筈もない。
「で、切島達は一体どうやってI・アイランドに?」
言葉に詰まった茨だったが、それでも復活して爆豪とやり取りをしてるが、それについてはスルーして切島に尋ねる。
「漢だな……ああ、いや。この前夏休みに爆豪と一緒に買い物に行ったんだけどよ」
何が漢なのかについては、こちらも取りあえずスルーする事にして。
爆豪と買い物に行くというのは、ちょっと驚きだった。
いや、切島はA組の中で間違いなく爆豪と仲の良い人物だけど……それでも爆豪を買い物に誘い出せるというのは意外だった。
「で、買い物をしたら福引き券を貰って、爆豪が福引きで特賞を当てて、その賞品がI・アイランドのチケットだった」
何という剛運……というか、ご都合主義?
ともあれ、切島と爆豪がI・アイランドに来ている理由に納得すると……
「おいこら、ヒモ野郎! お前もあれ、やってみやがれ!」
茨と何やら言い争っていた爆豪が、俺に向かってそう叫ぶのだった。