「遅い!」
待ち合わせの時間になっても、緑谷や爆豪、切島、他の女達が姿を現さない事に、飯田が不満そうに言う。
杓子定規の飯田の性格を思えば、待ち合わせの時間になったのにまだ来ないというのは、不満しかないのだろう。
……とはいえ、飯田の性格を思えば待ち合わせの時間に遅刻すればこうして怒るものの、同時に待ち合わせの相手が来るまでいつまでも待っていそうではあったが。
「まぁ、ほら。女は着替えに時間が掛かるんだし」
「アクセル君の言いたい事も分かるが、それなら緑谷君、爆豪君、切島君はどうなるんだ!」
「……そっちについては、俺としてもあまり反論出来ないな」
女の場合はドレスを選んだり、化粧をしたりといった事で時間が掛かるのは分かるものの、緑谷達の場合は……
「あれ? ちょっと待った。もしかして爆豪達って何かトラブルに巻き込まれたりしてないか?」
不意に瀬呂がそう言う。
まさか……と言おうかと思ったのだが、爆豪の性格を考えれば、それこそ何らかのトラブルに巻き込まれてもおかしくはない。
また、爆豪ではなく緑谷もこの世界の原作主人公であるという事を考えると、何らかのトラブルに巻き込まれてもおかしくはない。
そして何より、ここがI・アイランドという舞台であることを考えれば……
俺は元々ここでは何らかの騒動があるのはほぼ間違いないと思っていた。
そんな中、このタイミングで緑谷と爆豪といった原作の主要人物だろう者達がいないのを思えば……ちなみに切島は爆豪と一緒に行動していたので、普通にそれに巻き込まれたといった感じか?
とにかくそんな事になってもおかしくはない……
「何をしている、緑谷君! 集合時間はとっくにすぎているぞ!」
そう思っていたところで、不意に飯田のそんな声……というか、怒声が聞こえてくる。
どうやらあの様子だと、緑谷が何らかのトラブルに巻き込まれているというのは考えすぎだったらしい。
……とはいえ、それでもやはりI・アイランドにおいて何らかの騒動が起きると考えれば、これから行われる……あるいはもう始まっているのかもしれないが、とにかくこのレセプションパーティが舞台となる可能性は高い。
「緑谷君はすぐに準備をしてくるそうだ」
飯田の言葉に、その場にいた多くの者達……俺を含めた他の者達も、その言葉に納得する。
「爆豪と切島はどうなんだ?」
轟のその問いに、飯田が電話を掛けるも……
「出ないな。全く、緑谷君もそうだが、あの2人は一体何をやってるんだ」
「そもそも、爆豪の性格を考えればレセプションパーティに参加するとは思えないんだが」
「アクセル君の言う事も分かるが、その辺は切島君がしっかりと準備をすると言っていた」
なるほど、どうやら切島がいれば爆豪もある程度は言う事を聞くらしい。
爆豪の性格を考えれば、何でも切島の言うように出来るとは思えないが、レセプションパーティに参加するくらいの事は出来るのだろう。
ただ、そんな切島が連絡に出ないって事は……
「もしかして、切島……爆豪もだけど、スマホを部屋に忘れていったとかじゃないか?」
「む、それは……有り得るな。着替えた時にそのまま忘れてしまったという可能性は十分にある」
「アクセルと飯田の言いたい事も分かるけどよ、どっちか1人ならともかく、2人揃って忘れるとはオイラは思えないんだけど」
その辺はどうなのか、正直なところは分からない。
あるいは、それこそ緑谷達はまだでも、爆豪達だけが何らかの理由でトラブルに巻き込まれている……そんな可能性もあるのだから。
「何をどうするにしろ、連絡が出来ない以上は待つしかないだろ。それともアクセル達は爆豪や切島の泊まっているホテルは分かるのか?」
こうして何人も前にいても、そこまで恥ずかしそうにしなくなった拳藤がそう言ってくるが……まぁ、言われてみれば爆豪達がどこに泊まっているのかは分からないな。
聞いた話だと、商店街の懸賞か何かで当てたって話だったが、そういうのってどの辺りのホテルに泊まれるんだろうな。
I・アイランドのホテルは色々とある。
俺達が泊まっているようなちょっと高級なホテルから、それこそI・アイランドに出資している会社の社長やら会長やら、あるいは政治家とかそういう人達が泊まるような高級ホテル、もしくは金があまりない者達でも泊まれる安いホテルといった具合に。
商店街の懸賞か何かでの賞品と考えれば……その商店街がどのくらい流行ってる商店街かで泊まれるホテルは違ってくる。
かなり賑わっている商店街なら、そこそこ高級なホテルでもおかしくはないし、寂れた商店街が少しでも客を呼ぼうとして用意した賞品なら……いや、この場合でも頑張って高級ホテルの部屋を用意出来るか?
ともあれ、爆豪達がどこのホテルに泊まっているのか分からない以上、こちらが出来るのは爆豪達がここに来るのを待つだけだった。
「とにかく、緑谷はすぐに来るんだろ? どういう服装で来るのかはちょっと分からないけど」
「いや、俺達と同じようなスーツじゃないか?」
上鳴がそう言うものの……うん、原作主人公であるという事を考えれば、多分緑谷は違うスーツだと思う。
それに緑谷がレセプションパーティに参加する……あ、でも緑谷はオールマイトと一緒に来たんだし、そう考えれば最初からレセプションパーティに参加するつもりで、パーティ用のスーツを持ってきていてもおかしくはないのか?
あるいはそういうのを持ってきてなくても、レセプションパーティに招待したメリッサは緑谷とは何らかの関係があるようだったし、それを考えればメリッサが緑谷だけは特別なスーツを用意していてもおかしくはない。
「俺は違うスーツだと思うけどな」
そうして会話をしていると、やがて近くにあったエレベータの扉が開き、緑谷が姿を現した。
「ごめん、遅くなって」
そう言う緑谷が着ているのは、濃い茶色のスーツだった。
……なるほど。上鳴達が着ているような黒いスーツとは違うものの、緑谷の地味さに似合うような色のスーツだな。
緑谷が自分で用意したのか、それともメリッサが自分で用意したのか。
その辺りは俺にも分からなかったが、緑谷に似合っているスーツであるのは間違いない。
「あれ……他の皆は?」
こちらにやって来た緑谷は、待ち合わせ予定の面々がまだ半分くらいしか集まっていない事に、戸惑った様子で言う。
「まだ来てない。団体行動を何だと思ってるんだ」
そう言いつつ、飯田の手がこう……何か妙な動きをする。
飯田にしてみれば、自然と出た行動ではあったのだろうが……ある意味、飯田らしい動作ではあった。
すると、そんな飯田の言葉に反応するかのようにまた近くにあった別のエレベータの扉が開き……
「ごめん、遅刻してもうた」
そう言い、姿を現したのは……麗日。
桃色の、何というかアイドルっぽい衣装? そう、分かりやすい例で言えば、マクロス世界のランカ・リーが着るようなのを身に纏った麗日だった。
峰田と上鳴が、そんな麗日の姿を見て歓声を上げている。
まぁ……実際。これは悪くないと思う。
麗日はヤオモモのような綺麗系でなければ、拳藤のような凜々しい系、もしくは三奈のようなスポーツ系ではなく、可愛い系だ。
そういう意味では自分の姿に相応しいドレスを選んだのだ。
そして麗日の次に、ヤオモモと茨、葉隠、耳郎、梅雨ちゃんが姿を現す。
「申し訳ありません、耳郎さんが……」
ヤオモモは胸元が開いた大人っぽいドレスで、その後ろにはどこか照れたというか、怯えた? 感じの耳郎の姿がある。
『Oh、Yes、Yes!』
興奮が最高潮になった峰田と上鳴。
まぁ、ヤオモモのドレス姿はかなり印象が強いし、耳郎は……耳郎は……いやまぁ、何でこのドレスを選んだのかは分からないが、似合ってはいる。
ちなみに耳郎のドレスは、麗日が着ているような可愛い系のドレスだ。
俺からすれば、耳郎はそういうのじゃなくて、それこそ拳藤が着ているようなチャイナドレスとか、そういうのの方が似合うと思うんだが。
で、茨は緑の……清楚系らしく胸元とかが露出していないパーティドレス。
葉隠と三奈は青系の胸元が大きく露出してるタイプのパーティドレス。
……もっとも、三奈の方はヤオモモに次ぐ大きさの胸なのでしっかりと雰囲気が出ているものの、葉隠は透明なのであくまでも見えるのはドレスだけだったりするのだが。
最後の梅雨ちゃんは、麗日や耳郎と同じく可愛い系の黄色いドレス。
そんな女達の色とりどりの姿を見て、峰田と上鳴の興奮は最高潮を突破してとんでもない事になっていた。
拳藤と茨以外は同級生で、毎日のように会ってはいるんだが……それでもこうして着飾ると、受けるイメージが違うのだろう。
「うち、その……こういう衣装は何というか……」
ヤオモモに押し出され、俺達の前に立った耳郎が照れ臭そうに言う。
「馬子にも衣装だな」
「女の殺し屋みてえ」
『あがががががががががが』
先程までは興奮が限界を突破していた峰田と上鳴だったが、耳郎のその言葉にそう返し……次の瞬間、イヤホンが2人の耳に入ってお仕置きが行われ、悲鳴が上がる。
「えっとその……アクセルはどう思う?」
まだ峰田と上鳴が悲鳴を上げている中で、耳郎が俺に聞いてくる。
いや、何故俺に? と思ったが、自分で言うのも何だがクラスの中で俺は耳郎とそれなりに親しい。
もっとも、耳郎はサバサバとした性格をしているので、他の男達とも気楽に接している。
そういう意味では、俺が仲が良いのは間違いないが、突出して仲が良いという分けでもない。
多分、峰田や上鳴の感想があまりにもアレだったので、自分がどのように見えるのか聞いてきたのだろう。
「そうだな……」
一言置き、どう答えるべきか考える。
個人的には、耳郎のドレスはあまり似合っているとは言えない。
いや、全然似合ってない訳じゃないが、何故そっち方面のドレスを? と疑問に思ってしまう。
もっとこう……チャイナドレスのような、シンプルなドレスの方が似合うと思うんだが。
とはいえ、俺もこういう時にどのように言えばいいのかは分かっている。
このような場で、耳郎が必死に選んだのだろうドレスを否定するような事は言える筈がない。
「似合ってるとは思う。ただ、耳郎の良さを出すにはもっとシンプルな……拳藤が着ているチャイナドレスの方が……うおっ! ちょっ、待て! 何で攻撃してくる!?」
俺の言葉にジト目を向けた耳郎が、数秒前までは峰田と上鳴を攻撃していたイヤホンをこちらに向けて伸ばしてくる。
「……」
無言でイヤホンが空中を動き、俺に襲い掛かってくる。
それはまるで、UC世界の1年戦争でジオングが使っていた有線ビーム砲の如く。
もしくは、ブラウ・ブロの有線ビーム砲でもいい。
とにかく耳郎の意のままに動き、俺を襲ってくる。
何故と聞いても、耳郎は無言のまま。
ただ、ジト目を俺に向けて来るだけだ。
……それでも数十秒もしないうちに、俺にイヤホンを当てる事は不可能だと判断したのか、やがてイヤホンは耳郎の耳に戻る。
「えっと……?」
「ウチがチャイナドレスを着たら、比べられる」
小さく呟くその声に、あー……と納得する。
まぁ、うん。チャイナドレスを着ている拳藤は、かなり深い部分までスリットが入っており、白い太股がチラつく。
それが一番目立つ部位であるのは間違いないのだが、同時にチャイナドレスは身体のラインを強調するといった効果もあり、拳藤のそれなりに豊かな双丘もチャイナドレスの生地を下からしっかりと盛り上げていた。
そして耳郎は……良く言えばスレンダー、悪く言えば貧相な身体付きをしているので、もし耳郎がチャイナドレスを着れば、どうしても優雅な曲線を描く拳藤のチャイナドレスと比べられてしまうだろう。
「あー……その、だな」
ごめん。
そう言おうとしたが、不意に念動力が反応する。
もしここで謝った場合、耳郎は耳郎さんになってしまうと。
そうならないようにするには、謝るんじゃなくて……そう考えた時、以前千鶴から聞いた話を思い出す。
「洋風のドレスじゃなくて、和風の着物とかがよかったんじゃないか?」
その言葉に、耳郎は意表を突かれたように動きを止める。
「えっと、その……ウチに着物って似合うと思う?」
「ああ、俺はそう思う」
「そっか。……えへへ」
どうやら今の一言が正解だったらしい。
……言えないな。
以前千鶴から、胸が大きいと着物とかは不格好になるって話を聞いて、つまり胸が大きくなければ着物が似合うというのを知っていたから、耳郎には着物が似合うと言ったなんて事は、絶対に言えない。
それこそ墓まで持っていくべき秘密だ。
いやまぁ、混沌精霊で不老の俺がいつ死ぬのかは分からないが。
ともあれ、一生ものの秘密を作ってしまった事と裏腹に、耳郎の機嫌は直るのだった。