「ここだな」
パーティ会場の様子を見にきた、俺と緑谷、耳郎の3人がやって来たのは、パーティ会場の上にある通路だった。
パーティ会場の上の階……と表現すればいいのか? そこは吹き抜けのようになっていて、パーティ会場の様子を見渡せる。
予想通りというか、オールマイトは光るワイヤー? ロープ? とにかくそのようなもので縛られ、動きを封じられている。
また、そのようにして動きを封じられているのはオールマイトだけではなく、パーティ会場にいた他のプロヒーロー達も同様だ。
レセプションパーティに招待された、プロヒーロー以外の一般人……例えばどこぞの企業のお偉いさんとか、あるいは政治家とか、そんな面々は特に拘束されてはいない。
ただし、パーティ会場には銃……それも拳銃とかではなく突撃銃とかそっち系の本格的な銃を手にしたヴィランが多数いて、一般人を警戒していた。
やっぱり、単独のヴィランではなくある程度の数がいるヴィランだったな。
この辺りは俺の予想が当たったのだが、そのヴィラン達はUSJで遭遇したヴィラン連合ではないのが、予想外だった。
原作的な流れからして、てっきりここでまたヴィラン連合が出てくるかと思ったんだが。
ちなみにヴィラン連合ではないと判断したのは、銃を持ったヴィラン達は鉄仮面……というか、マスク? そんな感じの物をつけていたからだ。
俺が知ってる限りだと、ヴィラン連合の者達はそういうのをつけてはいなかった。
もっとも、俺が知ってる限りと言っても、俺がヴィラン連合と遭遇したのはUSJだけだ。
保須市では脳無とは遭遇したけど、シラタキとかには会ってないし。
ショッピングモールでは、シラタキがこちらに接触してきたものの、その対象は俺じゃなくて緑谷だったしな。
そんな訳で、USJの一件からある程度時間が経っているので、その間にヴィラン連合のコスチュームとかが作られていてもおかしくはない。
……おかしくはないが、それを込みで考えてもパーティ会場にいるヴィラン達はヴィラン連合とは質が違うように思えた。
俺が知ってる限りだと、ヴィラン連合というのはその名称通りにヴィランが集まった者達で、それぞれが好き勝手に動くといった感じだ。
だが、I・アイランドを襲った連中は……ヴィランはヴィランでも、傭兵的な、もしくは軍隊的な者達のように思える。
多分……というか、間違いなく雑魚の能力的にはヴィラン連合よりもこっちの方が上だな。
もっとも、ヴィラン連合の雑魚は別にヴィラン連合で訓練をしたとかそういうのではなく、街中にいる適当なヴィランを集めてきた、文字通りの意味で使い捨てだ。
そんな連中の、見た限りでは一定の訓練をされている連中を一緒にするのは不味いな。
「さて、後はどうやってオールマイトと連絡を取るかだな」
「アクセル君、これを使えば」
そう言い、緑谷がスマホを取り出す。
スマホで? もしかしてオールマイトに電話でも掛けるのか?
そう思ったが……なるほど、緑谷の説明に納得する。
カメラのフラッシュを使い、オールマイトに俺達の存在を気が付かせようというらしい。
「任せる。俺は周囲を警戒してるから」
オールマイトとの接触は緑谷に任せ、俺は周囲の様子を警戒する。
何しろこの場所はパーティ会場の上だ。
それも吹き抜けになっており、ここから跳躍すれば、そのままパーティ会場に下りる事が出来る。
また、パーティ会場の大部分を見渡せるのだから、ヴィラン達がここに誰かを配置してもおかしくはない。
……なのにこうして見ると、ヴィランの姿は1人もない。
あるいは監視カメラの類でもあるのかと思ったが、そういうのも今のところはない。
とはいえ、ヒロアカ世界の技術力……それもI・アイランドという、ヒロアカ世界の中でも最高峰の技術の集まる場である以上、一見してカメラに見えないようになっている可能性も十分にあったが。
ただ、もしそのような監視カメラがあったら、当然ながら既に俺達の姿は確認出来ている筈で、下にいるヴィランが何人かこっちに来ていてもおかしくはない。
しかし、今のところそのような事はない訳で……それが逆説的に、俺達のいる場所に監視カメラの類がない事をしめしていた。
……監視カメラの類もないのに、何でここにヴィランは来ないんだ?
別にここは隠し通路って訳でもないんだから、人が来るのなら来てもおかしくはないと思うんだが。
その辺だけは、ご都合主義的な感じか?
とはいえ……監視カメラか。
パーティ会場で拘束されているオールマイトを助ける方法として、俺は気配遮断を使おうと思っていた。
この状況でオールマイトを助ける方法……というのは、それこそ俺の手札なら幾らでもある。
だが同時に、俺が混沌精霊の個性として見せている中で使える能力となると、そこまで多くはない。
増強系の個性という事にしている身体能力でどうにかするのは……無理ではないが、間違いなく発覚してしまう。
炎獣は、白炎で身体を構成されている以上、どうしても目立ってしまう。
だからこそ、気配遮断。
気配遮断は、USJの時にも活躍したスキルだが、その難点としてはカメラとか望遠鏡とか、そういうのを通すと普通に見えてしまうことになる。
ここには監視カメラの類はないが、パーティ会場であれば万が一何か起きた時の事を考えて、監視カメラがあってもおかしくはない。
つまり、気配遮断を使ってパーティ会場を移動していれば、パーティ会場にいる者達は俺の存在に気が付かないだろうが、もし監視カメラでパーティ会場に異常がないのか見張っている者がいたら、即座におかしいと判断されてしまう。
そしてオールマイトという、ヴィランにとっての最大の危険要素がパーティ会場にいる以上、パーティ会場を監視していない筈がない。
……さて、どうしたものか。
そんな風に悩んでいると、ふと思いつく。
確かに俺が気配遮断を使ってパーティ会場を移動するのは問題があるが、それなら問題がないようにして移動すればいいのではないか、と。
簡単に言えば、ヴィランの制服……というか、軍服? それを奪えばいい。
また、マスクとか仮面の類があるのも、こちらの顔を隠すという意味では大きい。
これまでの経験――他の世界での経験だが――からすると、この手の手段は部隊としてしっかりと動いている可能性があるので、マスク越しとはいえ顔をしっかりと確認されると『誰だこれ?』といったように思われるかもしれないが、その辺は気配遮断を使えばいい。
つまり、パーティ会場にいるヴィラン達に対しては気配遮断で、監視カメラでパーティ会場を監視しているのだろう者に対しては、奪った服装で誤魔化す。
俺がこのまま……純白のスーツでパーティ会場を歩き回っていればどうしても目立つ。
だが、ヴィランの格好をしていれば、俺の存在が目立つような事はない。
うん、これだな。
とはいえ、そうなるとどうやってヴィランの服装やマスクを奪うかという事か。
ヴィランが個人で動いてくれるとありがたいんだが、部隊として動いており、1人で動くような者がいるかとなると……微妙だろう。
そうなると、2人のヴィランを倒して服やマスクを奪う必要がある。
それくらいなら問題はない。
このヒロアカ世界では生身での戦闘がメインだ。
UC世界を始めとして、MSのような人型機動兵器を使った戦闘のある世界ではないので、生身での戦闘……それも個性を使った戦闘がメインになる。
とはいえ、それでも気配であったり殺気であったりといったものを察知出来る者は少ないので、どうとでも対処出来る。
「アクセル君!」
オールマイトを助ける方法について考えていると、オールマイトからの情報交換を終えた緑谷が小声で、それでいて俺に聞こえるように声を掛けてくる。
「で、どうなった?」
「予想通り、ヴィランがタワーを……I・アイランドの警備システムを統括している場所を占拠したみたい。それによってこの島の人々が全員人質になってしまったらしいんだ。オールマイトを含めたヒーロー達も全員が捕らえられてしまっているって。僕達にはすぐにここから逃げるようにって」
「……なるほど、大体予想通りの展開だな」
緑谷から聞いた情報は、予想通りのものではある。
ただ……逃げろと言われるとは、ちょっと予想外だった。
いや、オールマイトの性格を考えれば、そんなにおかしくはないのか?
けど俺の認識では緑谷はこの世界の原作の主人公で、オールマイトはその緑谷の師匠的な存在の筈。
であれば、ここは緑谷に事件を解決しろと……いや、オールマイトの認識では、もしかしたら緑谷はまだそこまで育っていないのか?
とはいえ、緑谷は仮にもステインを倒してはいる。
勿論、緑谷以外にも轟や峰田の協力があってのものなのは間違いないし、最終的に……最後の最後で倒したのは俺だったりするが。
とはいえ、オールマイトの立場ならその辺の諸々についても事情は分かっているだろう。
オールマイトの知り合いのグラントリノとか現場にいたし。
だというのに、脱出しろというのは……それはつまり、緑谷では手に終えないと判断したのか?
考えられる可能性があるとすれば……今回のヴィランはステインと違って軍隊のように組織だっているからとか?
あ、でもステインも脳無を使って……いや、あれはステインが脳無を使った訳じゃなくて、ヴィラン連合が黒霧の個性を使ってステインの騒動に便乗したといった形なのか。
つまり、ステインとヴィラン連合は手を組んでいた訳ではない。
それと比べると、今回のI・アイランドはきちんと組織だって動いているので、オールマイトの立場としては緑谷にまだ任せる訳にはいかないと判断したとしてもおかしくはない。
もしくは、単純に教師として生徒に危ない事をさせる訳にはいかないと判断したのか。
「分かった。ともあれ一旦戻ろう。これからどうするのか、話を決める必要があるしな」
「え? でもアクセル、オールマイト先生は逃げろって……」
俺の言葉に、耳郎がそう言ってくる。
その様子から、耳郎はI・アイランドから逃げた方がいいと判断しているのだろう。
……耳郎じゃなくて、耳郎さんならヴィランを皆殺しにしろとか、殲滅しろとか、虐殺しろとか、そんな風に言ってもおかしくはないと思うんだが。
「そもそも警備システムを完全に制圧されて、I・アイランドの住人全員が人質になってる状態で、逃げ出せるかという問題もある」
「それは……」
「そうだね、アクセル君の言う通りだと僕は思う。I・アイランドはタルタロス級の警備システムがあるんだ。勿論I・アイランドはタルタロスじゃないから、本当に同じくらいって訳じゃないと思う。ただ、I・アイランドにしてみれば、もしヴィランに最新のサポートアイテムを盗まれたりした場合、それを逃がさないように警備システムが用意されていてもおかしくはない。そうなると、そもそもI・アイランドから逃げるという行為そのものが難しくなる訳で……」
ブツブツブツブツと、緑谷が呟き続ける。
……ヒーローについて聞かれた時にこういう風になるのはともかく、まさかI・アイランドについての話でこういう風になるというのは予想外だったな。
とはいえ、緑谷のこの豊富な知識は非常に助かる。
助かるのだが……
バチン、と軽く緑谷の頭を叩いて我に返す。
「緑谷、お前の知識はありがたいけど、ここでブツブツされても困る。その辺りの知識を披露するのなら、一度皆の場所に戻ってからだ」
「あ、ごめん。つい……それにI・アイランドの知識なら、僕よりもメリッサさんの方が詳しいと思うよ」
そうか?
そう突っ込みたくなったものの、取りあえず黙っておく。
もしここで何かを言った場合、緑谷がそれに対してまた何か言ってきて、それによって余計に時間が掛かるかもしれないと思っただから。
実際、オールマイトの相棒にして、サポートアイテムの第一人者である人物の娘のメリッサなら、緑谷が言うようにI・アイランドについて詳しいのは間違いないだろうし。
「そうだな。じゃあ、戻って話を聞こう。……とはいえ、緑谷ならもしかしたらメリッサが知らないような情報を知っていてもおかしくはないけどな」
「え? そんな、僕なんて別に……」
照れた様子を見せる緑谷だったが、実際俺の言葉はそこまで大袈裟なものではない。
体育祭が終わった後の職場体験の時、緑谷は何人かのクラスメイトから色々と相談されていた。
それこそネットとかで調べるよりも、緑谷に話を聞いた方が詳細な情報を入手出来ると、皆が理解していたからだろう。
そう考えれば、I・アイランドに住んでいるメリッサだからこそ知らないような事を、緑谷が知っていても限らない訳で……
「ほら、2人とも行くよ」
耳郎の言葉に、俺と緑谷はすぐにその場を離れるのだった。