「じゃあ、アクセル君。僕達は行くから……頑張ってね」
そう緑谷が言うと、この場にいた俺以外の全員と共に走り去る。
そしてここに残されたのは、俺だけ。
「さて、じゃあ……まずは、敵の狙いを探るか」
オールマイトを助けに行くのはそう難しい話ではない。
いや、見回りをしているヴィランの兵士を倒す必要があるので、そのような相手を見つけるのが少し大変ではあるが、俺の場合はやろうと思えばすぐにでも出来る。
だが……そうしてオールマイトをすぐに助けるような事をすれば、それこそ緑谷達に実戦経験を積ませるという俺の狙いがご破算になりかねない。
最善なのはオールマイトが到着した時は既に緑谷達だけでタワーを占拠したヴィラン達を鎮圧している事だが……多分これは無理だろう。
そうなると、次善の策としては緑谷達がヴィラン達に……それも幹部級とかボス級? そういうヴィランを相手にして苦戦し、負けそうになっている時にオールマイトを解放し、そちらに向かわせる事だ。
ヒーローの登場シーンは味方がピンチな時と決まってるしな。
もっとも、そこまで上手くいくかどうかは……どうだろうな。
このI・アイランドの一件が原作でどのような扱いをされていたのかは、俺にも分からない。
だが、A組の大半の戦力が揃っていて、しかもそこには拳藤と茨という、恐らく……これは本当に恐らくだが、原作ではいなかった可能性が高い2人もいる。
また、放課後の自主訓練によって俺がしっかりと鍛えているのもあって、実戦経験はともかく、純粋な能力では原作よりも上……だといいなぁ。
ともあれそんな訳で戦力的には恐らく問題ない筈なので、その辺りについて考えると、タワーの方はそれなりにいい感じに対処出来ると思う。
となると……そうだな。エキスポで展示されるサポートアイテムを奪ってくるか?
正確にはヴィラン達が奪ったサポートアイテムを奪い返すって感じになるが……いや、これは難しいな。
何しろI・アイランドはタルタロス並の警備システムだ。
監視カメラとかそういうのもある……ああ、いや。ヴィランの兵士から服装を奪えばどうにかなるか?
ただ、当然ながら軍隊的な性質を持つヴィラン達だと考えると、それこそ定期的に点呼の類をしていてもおかしくはないし、何らかの暗号とかそういうのがあってもおかしくはない。
それで兵士が俺に襲われたとヴィランのボスが知れば、警戒してそう簡単に移動する者はいなくなるだろう。
であれば、やはりここは……諦めた方がいいな。
俺がやるべきは、ある程度の時間が経過するまではどこかに潜んで、スライムを使って情報収集をするくらいか。
そうして方針を決めると、まずはどこかの空き部屋に向かう。
……勿論、当然ながらその時は普通に歩いて空き部屋に向かう訳ではく、監視カメラとかがないような場所まで移動して影のゲートを使うのだが。
それにしても不思議だったのは、この辺りに監視カメラの類がなかった事だろう。
ホールという、普段ならそれなり以上に人通りの多い場所である以上、本来なら防犯目的で監視カメラの類があってもいい筈なんだが。
しかもここはI・アイランドで、タルタロス級の警備装置が自慢なのだから。
何らかの理由があるのかもしれないが……まぁ、俺達にとっては便利だったのは間違いない。
そんな訳で、俺はその狭い場所、絶対に監視カメラのない場所まで移動し、影のゲートを使ってホテルの一室まで移動する。
それも客室のような場所ではなく、シーツとかそういうのが収納されている部屋だ。
この手の部屋に、まさか隠れているとはヴィラン達も思わないだろう。
いや、あるいはヴィラン達が大々的にI・アイランドを占拠したというのを表沙汰にしたのなら話は別だが、警備システムを有するタワーを占拠した事によって、I・アイランドの多くの者達はこの騒動については知らず、ヴィランによって爆弾が仕掛けられたのが影響していると、そのように認識している筈だ。
であれば、警報の為に外は自由に出歩く事は出来ないものの、自分が泊まる部屋ではゆっくりと遊ぶことが出来ていてもおかしくはない。
そんな訳で、一般人がどこかに隠れているかとか、そういうのを探す必要はヴィランにはない。
勿論、レセプションパーティの会場のある場所では違うのだろうが。
そんな訳で、俺はこの部屋……リネン室だったか? そこに隠れ、空間倉庫からスライムを出す。
目に見えない程に細い……それこそその手の個性を持っている者であっても容易に見つける事が出来ない程の細さのスライムを空調用のダクトを通して伸ばしていく。
このホテルはレセプションパーティの会場のある場所ではないが、そこまで離れている訳でもない。
なので、スライムを伸ばし続ける事によって、やがてレセプションパーティの会場近くまで届く。
……もう少しレセプションパーティの会場近くのホテルに隠れればよかったな。
そんな風に思いつつ、俺はスライムを通して重要そうな情報を集めていく。
『ねぇ、明日にはこの警報解除されるかな? でないと、折角I・アイランドに来たのにずっとホテルにいる事になるよ』
『そう言ってもな。今のこの状況で外に出たら警備ロボに捕まるんだぞ?』
何だ、恋人の旅行か次だ次……と思ったのだが……
『折角あの人に友達と旅行に行くって言って、友達に口裏を合わせるようにってお願いしてきたのよ? なのに、こんな風になるなんて……』
『全く、とんでもない人妻だなお前は』
あー……うん。不倫旅行に来ているカップルだったらしい。
このまま聞いていれば、それはそれでドロドロの人間関係を知る事も出来そうな気がするが、その辺りは俺の趣味でもないので止めておく。
『レセプションパーティって、オールマイトも来てるんだろ? うわぁ、行きたかったなぁ』
『無理を言うなよ、無理を。レセプションパーティに参加するには、チケットが必要らしいんだぜ? もしくは招待されるとか。俺達はエキスポをやる時期にI・アイランドに来られただけでラッキーだったと思っておかないと』
どうやらこっちは男同士でI・アイランドに来た宿泊客らしい。
レセプションパーティに参加出来なかった事を残念そうにしていたが、実際に起きている事態を考えれば、ラッキーだったと思うんだが。
今何が起きているのか分からない者達にしてみれば、レセプションパーティに参加出来ないのは残念だったのだろう。
次だ次。
見えない程に細くしたスライムが、次から次に……周辺一帯に伸びていく。
とはいえ、万が一にでも個性やら何やらに見つからないようにする必要があるので、細心の注意を払いながらだが。
『なぁ、エキスポの方も人を出さなくてもいいのかよ? お宝が嫌って程あるんだろ?』
『ウォルフラムさんがそっちはいらないって言ってただろ。お前、欲に負けて勝手な事をしたら、ウォルフラムさんに殺されるぞ』
『いや、だってよぉ……』
お、当たりか?
スライムを通して聞こえてきた声は、明らかに今回の一件の関係者……それもヴィラン側の者だろう会話だった。
この会話の流れからすると、話に出て来たウォルフラムとかいうのがヴィランの親玉っぽいな。
しかも会話の内容からすると、部下にもかなり恐れられている。
いやまぁ、ヴィランを纏め上げるのだから、恐怖で縛るなり、カリスマ性を発揮するなり、もしくは利益で縛るなりする必要があるのは間違いない。
そして話を聞く限りだと、ウォルフラムは恐怖で縛るタイプらしい。
サポートアイテムを奪おうと言っている奴はともかく、それを止めた奴の言葉には間違いなく恐怖が宿っていた。
この様子からすると、ヴィランの兵士達の統制はそれなりに取れていると思うべきか。
残念だったな。
展示されているサポートアイテムを盗みに行くと言っていた奴がそれを実行したら、それこそそいつを襲って最新鋭のサポートアイテムを入手していたのに。
もっとも、当然ながらそのような手段で入手したサポートアイテムは普通に使える筈もない。
そうなるとそのサポートアイテムはホワイトスターと繋がった時に技術班に対する土産という扱いになるだろう。
もっとも、ヒロアカ世界の最新鋭のサポートアイテムである以上、技術班はかなり喜ぶだろうけど。
ともあれ、レセプションパーティの会場からそう離れていない場所にいるヴィランの兵士達だ。
声からすると2人で見回りをしているといった感じか?
これで時間的に問題がなければ、こいつらから制服とかを奪おうと思えるのだが……まだ、緑谷達と別行動をしてからそんなに時間は経っていない。
であれば、今はまだ兵士を襲って向こうを警戒させたくはなかった。
『おい。あの女ヒーロー……何だかミルコに似てないか? もっとも、ミルコ程に筋肉がないけどよ』
『あ? ……ああ、なるほどな。あー、くそ。ウォルフラムさんの命令がなきゃ、美味しく頂くってのに。ああいう気の強そうな女をヒィヒィ言わせるのが楽しいのによ』
『ウォルフラムさんもなぁ……俺達はヴィランなんだから、このくらいなら……』
聞こえてきた会話の内容からすると、どうやらスライムがレセプションパーティの中に入ったらしい。
……聞こえてくる話の内容は胸糞悪くなるようなものだが。
いっそ、このままスライムで殺してやろうか。
そうも思ったが、今のこの状況でそのような事をすればヴィランを……ウォルフラムとやらを警戒させてしまうだけだ。
この連中はオールマイトを助けた時に殴っておけばいいだろう。
……ヒーロー科の生徒という事になっているので、骨を折る程度の一撃ならともかく、殺すような事はまず出来ないが。
スライムでなら、どうとでも対処出来るんだけどな。
そう思いつつ、他に何か情報がないのかを探す。
スライムを伸ばし、伸ばし、伸ばし、伸ばし……
『まさか、こんなに都合のいい事が起きるとは、予想外だった。……誰だか知らんが、この様子からするとI・アイランドの占拠に成功したと思ってもいい、なら、ここで俺の夢を……』
不意に聞こえてきた内容……恐らくは誰かに話しているのではなく独り言なのだろうが、その独り言の内容が危険すぎる。
恐らくはこのヴィラン……なのだろう男も、I・アイランドにおいて何かを企んでいたのだろう。
もっとも、具体的にそれがどのような内容なのかまでは分からなかったが。
とはいえ、このヴィランはウォルフラム達とは別口なのは間違いないし、今の混乱に乗じて何らかの騒動を起こそうとしているのも間違いない。
であれば、さすがに今の状態で放っておく訳にもいかなかった。
殺す……のは、止めておいた方がいいか。
ウォルフラムの一派ではないので、殺しても構わないとは思う。
ただ、ここでヴィランの1人が死んでいるのが見つかれば、後で騒動になる可能性がある。
心臓発作とかそういうのに見せ掛けられるのなら構わないのだが……個性という存在を考えると、何が起きてもおかしくはない。
その辺りについて考えると、ここはやはり殺さないで気絶させた方がいい。
ヴィランの部屋に伸びているスライムを太くする。
何しろ人の目に見えない程の細さで首を絞めると、気絶させるどころか首を切断してしまう可能性もあるのだから。
そうならないように、しっかりとやる必要がある。
そうしてスライムの太さを増し、ヴィランに見つからないように首に巻き付け……キュッとする。
『ぐげっ!』
いきなり何かに首を絞められ、妙な声を出すヴィラン。
一体何が起きたのか分からない様子で違和感があるのだろう首に手を伸ばすものの、細いとはいえ指でどうにか出来る訳ではない。
そのまま首を押さえつつ……次の瞬間、ヴィランは気絶して意識を失う。
取りあえずこれで問題ないな。
とはいえ、このまま気絶した状態では、意識を取り戻した時にまた何かを企まないとも限らない。
であれば、今の状況でやるべきなのはただ気絶させるだけではなく、このヴィランが目覚めた時にすぐに何らかの行動が出来ないようにする必要がある。
意識を失ったヴィランがそのまま床に倒れ込む。
それを見て……いや、聞くと、スライムを使ってヴィランの手足を縛っていく。
幸い、部屋の中にはシーツとかそういうのもあったので、スライムを使えば結ぶのは可能だ。
……もっとも、このヴィランがどのような個性を持っているのか分からない以上、気絶から目覚めると縛られた状態から個性を使ってあっさりと対処がされる可能性はあった。
ましてや、この男はヴィランだ。
つまり、攻撃的な個性を持っている可能性が高い。
そう考えるともう少しこう……何らかの手段でどうにかした方がいいか。
スライムを使って部屋の中を探索するとペンらしき物を見つけ、この男はヴィランなので注意するようにと、そう部屋にメッセージを残し、それから俺は情報収集を続けるのだった。