スライムを使って色々と情報を集めていたのだが、タワーの方が色々とうるさくなってきた。
それは多分、タワーに向かった緑谷達が暴れ始めたのだろう。
そうなると、俺もそろそろ行動に移した方がいいか。
……それにしても、I・アイランドが混乱しているこの機会に騒動を起こそうとするヴィランが1人や2人ではなく5人もいたのにはちょっと驚いた。
全員スライムを使って気絶させたから問題はないが、当然ながらI・アイランドの広さを考えると、全てを網羅している訳ではない。
そうなると、もしかしたら俺が気絶させた者達以外にもヴィランがいる可能性が高いんだが……その辺については、俺がどうこうする必要はない筈だ。
そもそも現在I・アイランドの警備ロボが街中を動き回っていて、見つかれば捕らえられるらしいので、もしヴィランが何かをやらかそうとしても、警備ロボに捕まる筈だ。
もっとも、ヴィランである以上は高い攻撃力を持つ個性とか、そういうのを持っている可能性も否定は出来ないので、警備ロボを破壊しながら自分の目論見を果たそうとしたりしてもおかしくはなかったが。
けど、そうなれば他の警備ロボが応援に駆けつけるだろうし……取りあえず俺の捜索範囲外にいるヴィランについては気にしなくてもいいか。
緑谷達がタワーで暴れたのもあってか、レセプションパーティの会場にいるヴィランの兵士達……それと、兵士達の指揮を執っている、他の連中よりも少しゴツいヴィランも、動き始めている。
俺にとって幸いな事は、レセプションパーティの周辺の見回りが厳しくなった……つまり、頻繁に行われるようになった事だろう。
俺が緑谷や耳郎と一緒にオールマイトと連絡をとった、2階になっている場所にも今では何人かのヴィランの兵士の姿がある。
さて、どのヴィランの兵士を倒すべきか。
そう考えていると……ラッキー。
ヴィランの幹部らしき男が、レセプションパーティの会場から出ていった。
どうやらタワーの方にいる面々だけで緑谷達をどうにか出来なくなったらしい。
苛立たしげにその幹部がレセプションパーティの会場から消えると、その反動なのだろう。ヴィランの兵士達が微妙に安堵した様子を見せ始める。
この様子を見る限りだと、あのヴィランの幹部は兵士達に好かれていないのだろう。
……まぁ、幹部とはいえヴィランだしな。
兵士に……自分よりも立場が下の者に対し、どのような態度を取るのかは考えるまでもなく明らかだろう。
勿論、全員が全員そういう対応をする訳ではないが、レセプションパーティの会場を観察していた限りでは、どうやらさっきの幹部はそういう感じらしい。
ともあれ、ヴィランの兵士達の気が緩んだのを確認すると、俺は狙うべき相手を捜す。
……残念なことに、今の俺は10代半ばの姿ということもあってか、身長の大きなヴィランの軍服とかマスクとか、そういうのは奪えない。
いやまぁ、20代の姿になればその辺も問題はないだろうが、オールマイトに接触しなければならない以上、やはり今の……10代半ばの姿のままの方がいい。
オールマイトは時々妙に抜けているところがあったりするので、あるいは20代の姿でも気が付かれないといった可能性がない訳ではないが……もしオールマイトに怪しまれたら、面倒な事になるだろうし。
なので、ヴィランの兵士のうち小柄な人物を捜す。
そうして数分……いた。
俺より若干大きいが、取りあえず誤魔化せるくらいだろうヴィランの兵士を見つける。
しかも都合のいいことに、丁度レセプションパーティの会場を出て近くを見回りに向かったらしい。
こういう時は何か異変があってもいいように、2人1組で行動するものだと思うのだが、何故か1人で行動している。
見回りよりもレセプションパーティの会場内の見張りに人員を割いた方がいいという判断からなのか、それとも何も考えていないのか。
……まさか、周辺に潜んでいるかもしれないヒーローを誘き出すとか、そういうのを考えていたりはしないよな?
まぁ、それならそれで対処すればいいだけだ。
1人くらいならともかく、何人もが一気に連絡を取れなくなるとヴィラン側で何らかの行動を起こしてもおかしくはなかったが、オールマイトの拘束を解けばどうとでも対処出来る。
いざとなれば、俺の方でどうにかすればいいだけだしな。
そんな訳で、スライムを収納して影のゲートを使って移動し……
「あれ?」
あっさりと俺と身長の近いヴィランを倒してしまった事に、そんな声を漏らす。
てっきり罠か何かの可能性が高いと思っていたんだが……どうやら何も考えていなかったタイプっぽい。
あるいは、あの幹部の男がいなくなったから気が抜けたのかもしれないが。
ともあれ、気絶したヴィランの兵士を連れて影のゲートで移動する。
まさかレセプションパーティの会場の近くで軍服を脱がしたりとか出来る訳がないしな。
すぐに他のヴィランの兵士に見つかってしまいかねない。
なので、この状況で俺がやるべきなのは影のゲートを使って一度移動することだ。
先程までいたリネン室に戻ると、素早くヴィランの兵士の服を脱がせていく。
……男の服を脱がせるのって、どうしてこう面白くないんだろうな。
そんな風に思いつつ服を脱がせると、その軍服を着て、目元を隠すマスクも装着する。
当然ではあるが、このマスクは特に何らかの機能がある訳ではない、完全にファッションのようなものだ。
いや、自分の顔をある程度隠せるというのは、一応の効果なのか?
俺のヒーローコスチュームにもこういう感じのマスクがあるけど、俺のマスクは色々な性能を持つ、きちんとしたヒーローコスチュームの一部なんだよな。
あるいは、さっきまでレセプションパーティの会場にいた幹部の男なら、もしかしたら何らかの性能を持つ特殊なマスクである可能性は否定出来ないが。
ともあれ、俺がこの状況でやるべきなのはオールマイトを助ける事だ。
そんな訳で、ヴィランの兵士の格好をすると影のゲートで先程の場所に戻る。
同時に気配遮断を使う。
取りあえずこれで俺を直接見ても認識出来なくなった。
レセプションパーティの会場の内部にある監視カメラの類であれば俺の存在も認識出来るだろうが、変装をしている以上は問題ない。
もっとも、緑谷達がタワーで暴れている以上、レセプションパーティの会場の様子を確認している余裕があるかどうか、微妙なところではあるが。
そういう意味では、緑谷達にはもっと暴れて欲しいところだな。
そんな風に思いつつ、レセプションパーティの会場の中に入っていく。
入り口にはヴィランの兵士がいたが、当然ながら俺の存在には気が付いていない。
そんな中、俺は悠々と歩いて会場の中でも一番目立つ場所……司会とかあるいはお偉いさんが挨拶をするように少し高くなっている場所に向かう。
オールマイトがそこにいたんだから、仕方がない。
緑谷や耳郎と一緒に来た時も思ったが、多分オールマイトが挨拶をする時にヴィランが行動を起こしたんだろう。
オールマイトは雄英の教師になった今でも、日本のNo.1ヒーローだ。
それこそエンデヴァーと違って世界中に名前が知られている。
だからこそ、レセプションパーティにおいて挨拶を頼まれるのは不思議ではない。
オールマイトがその辺に慣れているかは……どうだろうな。
教師としては新人だが、No.1ヒーローである以上、こういう場に呼ばれる事もあるだろうし、そうなれば挨拶を頼まれてたりもするだろう。
だからこそ、オールマイトが舞台――というのは大袈裟かもしれないが――にいても、おかしくはない。
とはいえ、気配遮断は攻撃をすれば解除される。
この場合の攻撃というのはどの辺りからの判断になるのかは微妙だが……オールマイトに話し掛ければ、間違いなく気配遮断の効果が消えるだろうというのは予想出来た。
なので、やるべきことをしっかりと考えてからやる必要がある。
まずは、オールマイトの身体を拘束している光だ。
どうやら床に発射装置があるらしい。
ただ、オールマイトならこのくらいのものはどうとでもなるような気がするが……いや、これはレセプションパーティの会場の他の面々が人質になっている感じか。
とはいえ、それならそれで対処のしようはある。
それこそ具体的には、ヴィランの兵士達に気が付かれないようにオールマイトを拘束している光を放っている部位を破壊するだけでいい。
ただ問題なのは、オールマイトが自由を取り戻した時、そこにはヴィランの兵士の格好をした俺がいるという訳で……うん、オールマイトがそんな俺を見て、どういう反応をするのか分からないといったところか。
他の面々を助けるよりも前に、ヴィランの兵士を倒してしまった方が手っ取り早いのではないか。
そうオールマイトが考えないとは、誰も言えない。
であれば、まずはオールマイトに俺だけを認識させる必要がある訳か。
やるべき事を決めると、俺はオールマイトを拘束している光が出ている、床にある機器を破壊する。
「っ!?」
さすがオールマイトと言うべきだろう。
自分を拘束していた光が消えた瞬間には立ち上がり、1秒にも満たない……それこそ一瞬で俺に向かって手を伸ばしてくる。
ちっ、やっぱりこうなったか。
俺の攻撃によって拘束が解け、そして同時に気配遮断の効果が消えて俺の姿がオールマイトに認識される。
そうなるとこうなるのは予想していた。
……予想していたからこそ、オールマイトの、No.1ヒーローの一撃であっても回避する事が出来た。
「な……アクセル少年!?」
俺の動きから見破ったのか、それとも目元しか隠していないマスクによって俺を俺だと認識出来たのか、とにかくオールマイトが俺の名前を呟いた時、既にその姿はレセプションパーティの会場にいるヴィランの兵士達の前にいて、次々と気絶させていった。
そして気が付けば、レセプションパーティの会場にいたヴィランの兵士は全員が気絶し、床に倒れている。
それぞれ突撃銃の類を持っていたが、誰1人としてそれを抜くような暇はなかった。
この辺りが、オールマイトとヴィランとはいえ雑魚の間にある、圧倒的なまでの力の差か。
……けど、何だ? オールマイトの身体から煙のようなものが出ているような……?
そう思ったが、次の瞬間にはその煙は消えていた。
「アクセル少年、何故このような事を!」
そしてオールマイトが俺の前までやって来ると、そう言ってくる。
会場にいる他の客達は、オールマイトの行動に戸惑った様子を見せていた。
まぁ、無理もないか。
オールマイトが何故かヴィランの兵士を前に、倒すようなこともなく話をしているのだから。
No.1ヒーローとして、何故そのような事を?
そんな風に思ってしまうのは仕方がない。
「俺が一番安全にオールマイト先生を助けられると思ったからですね。それにタワーの方に向かった緑谷達の戦力を少しでも増やしたかったという思いもありますし」
そう言いつつ、軍服を脱いでいく。
その下にあるのは、白いスーツのズボンと、Yシャツ。
さすがにスーツの上着の部分の上から軍服を着るのは難しかったので、そちらは空間倉庫に収納してる。
そんな姿になり、最後に目元を覆っていたマスクを取ると……
「あれ……もしかして、アクセル・アルマーじゃないのか?」
「え? あの雄英の? 体育祭で優勝した?」
「それもだけど、ステインを倒した動画の件が……」
俺の姿を見た他の客達が、そんな風に話している。
I・アイランドにいる者達でも、どうやら俺の事を知っている者がいたらいし。
中には俺に付いて知らない者もいたが……それは多分、外国の企業の人物なんだろうな。
勿論外国の企業の者であっても、ある程度情報を入手しいる者であれば、俺がステインを倒した件については日本でなら大々的に知らされている件もあってその情報は入手していてもおかしくはないのだが。
そう考えると、俺について知らないのはその辺を怠っている者か、怠っていても何の問題もないような、そんな者達だろう。
そんな風に考えながら、俺はオールマイトとの話を続ける。
「アクセル少年、そうなると緑谷少年達は現在、タワーにいるのだな?」
真剣な表情で聞いてくるオールマイト。
ここで他の生徒達の名前が出るのではなく、緑谷個人の名前を出すのが甘いところだよな。
オールマイト本人としては、自分が緑谷と特別な関係であるというのは知らせたくないのだろうに。
とはいえ、地味な緑谷だがA組の中では不思議な程の存在感を持っているのも事実。
主人公だから……と言えばそれまでだが、カリスマ性とは少し違うものの、自然と話の中心にいたりする事が多いのも事実。
「そうなります。なので、オールマイトには出来れば俺と一緒にタワーに行って欲しいんですが」
「本来なら、アクセル少年はここで待っていて貰った方がいいのだが……」
そう言うオールマイトだったが、俺の実力については知っている分、それ以上は何も言わずに頷くのだった。