龍子から詳しい話を聞こうとするも、どうやら龍子の方も内通者がいたという話しか知らないらしく、詳細は分からなかった。
……あるいは龍子は詳細を知っているものの、それを俺に教えない方がいいと判断して、今のように言ってるのかもしれないが。
俺もそこまでして内通者が誰なのかを知りたいという訳でもなかったので、その辺については気にしない事にする。
これで実はメリッサが内通者だったとかなら驚いたかもしれないが……俺達と一緒にいた時のメリッサの様子を思えば、取りあえずそんな心配がないのは間違いないだろう。
「それで、後見人だからといって、何で龍子がI・アイランドに来る必要があったんだ?」
「アクセルが、ヴィランに立ち向かったからに決まってるでしょ」
「いや、それなら俺だけじゃなくて、タワーに向かった全員がそうだと思うが。……あれ? もしかして、タワーに向かった面子の親とかも来ていたりするのか?」
そう聞くが、龍子は首を横に振る。
「私だけよ。……本当なら優も来たがってたんだけど、仕事から抜けられなくて私だけで来たのよ」
「……こう、何と言えばいいのか……いつもなら逆じゃないか?」
優も、マウントレディもヒーローとして人気があるものの、龍子、リューキュウはそんな優以上の人気を誇る。
それこそもう少しで行われるヒーロービルボードチャートにおいて、トップ10に入るのは確実だと言われているくらいなのだ。
優も人気はあるものの、それでもトップ10に入る程ではない。
そう考えると、龍子の人気が一体どれ程のものかは容易に想像出来るだろう。
だというのに、龍子はI・アイランドに来られたが、優は仕事で忙しくて来られなかったと、そう言うのだ。
普段なら逆の立場なのに、一体何があった?
そう思ってもおかしくはないだろう。
だが、そんな俺に対し龍子は特に困った様子もなく笑みを浮かべる。
「別にそこまで大袈裟な事じゃないのよ。今日はちょうどCMの撮影があって」
「CMの撮影? あれ? 優が? それって、まさか……ソースか?」
「ええ、ソースのCMね。何でもメーカーの責任者にもの凄く惚れ込まれたらしいわね」
「……一応聞くけど、それって優を女として見てとか、そういう事じゃないよな?」
別に俺と優はそういう関係ではない。
だが、それでも優は俺の協力者なのは間違いなく、だからこそ優の美貌に惹かれて妙な真似をする奴がいたりしたら、思うところはある。
しかし、そんな俺の言葉に龍子は笑みを浮かべて口を開く。
「アクセルが何を心配しているのかは分かるけど、そういうのじゃないから安心しなさい。私もちょっと優から話を聞いて心配になってちょっと覗いてきたんだけど、純粋にソースの化身として見られているみたいね」
「えっと……え? 何? ソースの化身? 何だ、それ?」
龍子の口から出た『ソースの化身』という、まさかの単語。
一体何がどうなって優がソースの化身なんて存在になったのか分からないが……まぁ、うん。龍子の様子を見る限りだと、俺の心配はいらないらしい。
とはいえ、ソースの化身か。
そのCMを見るのが怖いような、楽しみなような。
「ソースの化身はソースの化身よ。それで、CM撮影にも力が入っていて、優を連れてくる事は出来なかったわ。本人は来たがっていたんだけどね。もう事件が解決した後だったし。……これでもし事件がまだ解決していなかったら、戦力として呼んだかもしれないけど」
「オールマイトがいればこんなものだろ」
「あら、最後の最後はアクセルが活躍したって聞いたわよ?」
「そう言われてもな。ヴィランのリーダーが何かのサポートアイテムを使おうとしたのを防いだだけだし」
もっとも、混沌精霊の俺にすらあそこまでの効果があったサークレットだ。
もしあのヴィランのリーダーが使っていれば……あれ? もしかして実は原作おいて、このI・アイランドにおける本当の意味での最後の戦いを邪魔したのか?
だとすれば、緑谷の実戦経験をまたも邪魔した事に……
「アクセル? どうしたの?」
「いや、何でもない。とにかくサポートアイテムを使おうとしたのを防いだだけだから、実際にはそこまで活躍してないんだよ。それよりも、俺じゃなくて他の連中の方が大きな活躍をしたんだよな」
「あら、でも拘束されていたオールマイトを助けたのはアクセルなんでしょう? なら、十分に活躍してると思うけど」
どうやらその辺の事情についても知っているらしい。
とはいえ、オールマイトの事を考えれば、俺が助けなくても自力で何とかしていたと思うんだよな。
実際原作においては俺という存在はいない訳で、そうなると一体誰がオールマイトを助けるのかという事になる。
あるいは茨が個性を使って……いや、茨がI・アイランドにいるのは、俺がいるからだ。
原作において俺という存在はいない以上、茨も……もしかしたら拳藤もI・アイランドに来ていない可能性が高い。
だとすれば……まぁ、ここでそういうのを考えても意味はないか。
今のこの状況で必要なのは、原作はともかくこの世界においても無事にI・アイランドの騒動が解決したという事だろう。
「龍子にそう言って貰えて嬉しいな」
素直にそう言う。
実際、このヒロアカ世界においてトップクラスのヒーローの1人である龍子にこうして褒められるのは、俺にとっても嬉しい事なのは間違いない。
「あら、まさかそこまで素直にアクセルがそんな事を言うとは意外ね」
「意外って言われてもな。一体俺を何だと思ってるんだ?」
「アクセルの事をよく知ってるからこそ、そういう風に言うのよ」
そう言う龍子にどのように反応すればいいのか少し迷ったが、今この場でそのような事を言えば面倒になりそうなので、止めておく。
「それで、龍子は俺の後見人としてやって来たという話だったけど、これからどうなるんだ?」
「もうやるべき事は特にないわよ。さっきも言ったけど、もう騒動が終わっているしね。だから私がここに来たのは……まぁ、アクセルがどうしているのかと思ってかしら」
「見ての通り、今は暇だよ。他の連中はどうしているか分かるか?」
「一佳も含めて、怪我をした人は治療をしてゆっくりしてるみたいだけど」
「……拳藤も怪我をしたのか?」
プロヒーローを目指している以上、ヴィランとの戦いで怪我をするくらいは分かっている。
だが、それでも拳藤をI・アイランドに連れてきたのは俺だ。
勿論、拳藤がI・アイランドに来るのを断っていれば、今回の騒動に巻き込まれなかったのも事実ではある。
そう考えると、拳藤が怪我をしたら少し思うところがあるのも間違いない。
「安心しなさい。怪我はしたけど、軽い打撲とかそのくらいだから。他の子達も大きな怪我……重傷とかは負っていないから」
龍子のその言葉に、安堵する。
I・アイランドの戦いにおいて、重傷を負った者が誰もいないというのは、安堵すべき事だった。
「そうか。なら、いい。俺がタワーの屋上に行った時、そこにいたのは緑谷とオールマイト、後は……メリッサもいたか? そのくらいだったから、他の連中がどうしたのかと思ったんだが」
「……もしかして、また女の人を引っ掛けたの?」
「あのな、別にそういう相手じゃない。寧ろメリッサと仲が良いのは緑谷だし、一目惚れに近い感じだったのは瀬呂だな」
峰田と上鳴もいるのだが、あの2人を数に入れるのは間違っているだろう。
あの2人を一緒にすると、瀬呂辺りならもの凄く怒りそうだしな。
「瀬呂……アクセルの友人よね?」
「受験の時に会ってから、何だかんだと付き合いが長い相手だな」
親友……という程に大袈裟な存在ではないが、それでもA組の男の中では一番親しい相手なのは間違いない。
「アクセルが男の子と仲良くなるのは難しいんだから、大事にしなさい」
「その言い方だと、俺が男とは仲良くなれないと言ってるように思えるんだが?」
そう言い返すも、実際に俺と親しい相手は女が多いのは事実なんだよな。
爆豪にヒモ野郎とかホスト野郎とか、そんな風に言われているのも、その辺りに理由があるし。
とはいえ、別に俺だって男と仲良くない訳ではない。
峰田には嫉妬されてはいるが、普通に友人としてもやっているし、上鳴もそんな感じだ。
常闇とかとは普通に……普通に……いや、何か微妙に同士っぽい扱いを受けているような?
ともあれ、それなりに仲が良いのは間違いない訳で、そういう意味では友人と評してもいいと……思う。
「アクセルがどう思うのかは、自由よ」
それはつまり、俺が自分では男の友人がそれなりにいると言っても、他の者からどのように見えるのかはまた別の話だと、そういう風に言いたいのか?
……そう聞いて、そうだと言われると俺も反論しようとしても出来なくなるので、その辺については取りあえず考えるのは止めておくとしよう。
「とにかく、龍子が俺の後見人としてI・アイランドに来たのはいいけど、これからどうするんだ? もう事件が解決してる訳だけど」
「ぐっ、それは……まさか、こうも早く解決するとは思ってもいなかったのよ。いえ、アクセルの力を考えれば、そうなるかもしれないと予想しておく必要があったのかもしれないけど」
そう言い、微妙に責めるような視線……いや、そこまで強くはないものの、それでも結局のところ色々と思うところがあるといったような、そんな視線を向けてくる。
「いや、そんな風に言われてもな。俺だって、別に龍子を困らせたくて行動した訳じゃないんだし」
そもそもこの状況で龍子が来るというのは、俺にとっても予想外ではあったのだ。
……いや、あるいは龍子や優は俺の後見人であるというのを考えると、俺が何らかのトラブルに巻き込まれたと考えて、I・アイランドに来る可能性があるかもしれないと思っておいた方がよかったのかもしれないが。
「けど……そうね。私もI・アイランドには色々と興味があったし、最新のサポートアイテムの展示会、I・エキスポには興味があったから、少しゆっくりとしていくわ」
「いいのか?」
そう聞いたのは、龍子が忙しいのを理解していたからだ。
次のヒーロービルボードチャートにおいてトップ10入りが確実というのは、決して伊達ではない。
若手で実力もあり、何よりドラゴンという多くの者達が憧れを抱くモンスターに変身可能なその個性は、人気も高い。
……男、それも一定の年齢以上の男からはかなり人気を誇るが、それ以外の者達からは嫌われているとまではいかないものの、人気がある訳ではない優とは、大きく違う。
とはいえ、龍子はドラゴンに変身は出来るし、空を飛んだりとかも出来るが、言ってみればそれだけなんだよな。
ドラゴンの攻撃手段と言われて真っ先に思い浮かべる、ブレスは使えない。
そういう意味では、ハリボテ……というのは少しどうかと思うが、そんな感じであるのは間違いない。
とにかくそれであってもリューキュウの人気は高く、また空を飛べるというのも個性の中ではそれなりに珍しい。また、その巨体から災害救助とか大きな事故の後始末とか、そういうのにも向いているのは間違いなかった。
だからこそ、I・アイランドで休んでもいいのかと、そう疑問に思ったのだが……
「いいのよ。幾つか仕事はあるけど、急ぎの仕事はないし、それに事務所の子達からも少し働きすぎたと言われていたしね」
「……まぁ、それは俺も否定は出来ないと思うけど」
人気が高いだけに、仕事が多く入るのは仕方がない。
そんな中で、龍子はまだ若いので受けられる仕事は可能な限り受けてしまいたいと思ってしまうのは仕方がない。
それにねじれだったり、チームアップをしている優だったりが優秀な人材であるというのも、仕事をこなせてしまう理由だろう。
事務所の面々も、そんな龍子を心配するのは当然ではあった。
……もっとも、これで龍子が優のような性格であったりした場合は、事務所の者達にここまで慕われていたかどうかは微妙なところだろうけど。
「でしょう? だから、前々から興味があったI・アイランドにこうして来られたんだから、少しゆっくりしていく事にしたのよ。……それで、1人で見て回るのもどうかと思うし、アクセルも一緒にどう?」
「俺も? 龍子の方で問題がなければ俺は構わないけど。……ただ、変装は必須だと思うぞ」
幅広い年齢層に人気の龍子だ。
ヒーローコスチュームを脱いで私服で行動したとしても、見る者が見ればそれが龍子だと即座に分かるだろう。
それにI・アイランドには日本人じゃなくて外国人も多い。
そしてドラゴンは日本人に人気だが、同時に外国人においても人気の存在だ。
……いや、寧ろ日本よりも外国の方がドラゴンは人気かもしれないな。
そんな訳で、龍子がヒーローとしてではなく、プライベートで行動するのなら、変装が必須なのは間違いない。
龍子も自分の件だけにその辺りについては理解しているのか、俺の言葉に素直に頷くのだった。