「凄いわね……私が知ってるサポートアイテムと比べても、全然違う」
龍子が展示されているサポートアイテムを見ながら、感嘆した様子で言う。
昨日、ヴィランによってあれだけの騒動があったにも関わらず、翌日の今日は普通にサポートアイテムの展示会が行われていた。
……いや、昨日あのようなヴィランの騒動があったからこそ、決して今日ここで展示を休む訳にはいかなかったのだろう。
もしここで展示を休むような事があれば、世の中にはヴィランに負けたと思うような者もいるだろうし。
それにサポートアイテムが展示されている場所は大きな被害はない……どころか、完全に無事だったというのもある。
昨日のヴィランの騒動で被害を受けたのは、タワーの屋上だけだろう。
あるいは緑谷達がタワーで戦った際に何らかの被害が周囲にあった可能性もあるが……まぁ、その辺についてはオールマイトが手を回してくれるだろう。
「そうだな。てっきり昨日のヴィランのうちの何人かがこういう場所からサポートアイテムを奪うかもしれないと思っていたんだけど、そういう事もなかったようだし。……そういう意味では、昨日のヴィラン達は真面目……いや、プロフェッショナルだったんだろうな。ヴィランを褒めるのはどうかと思うが」
そう言いつつも、少しだけ惜しいと思う。
もし昨日のヴィラン達がこういう展示会場を襲って最新のサポートアイテムを奪っていたら、俺がそのヴィランを倒してそのサポートアイテムを奪おうかとも考えていたんだが。
しかし、あのヴィラン達はヴィランのボスが持っていたサークレットを……正確にはそのデータとかそういうのもだが、とにかくあのサークレットだけが狙いだったらしい。
俺のスキル欄の空欄を増やせるかもしれない為にも、I・アイランドから戻ったら公安に連絡して、どうにか増産出来ないか頼んでみるつもりではあるが。
「別に褒めてる訳じゃないでしょ。……正直なところを言わせて貰えば、これだけのサポートアイテムだもの。私も欲しいとは思うわ。……ただ、これはあくまでも展示品であって、売ってはくれないのよね」
そう言い、残念そうに息を吐く龍子。
どうやら龍子にとっても、展示されているサポートアイテムは魅力的らしい。
「龍子でも無理なのか?」
「私でもって……私はプロヒーローではあるけど、それだけなのよ。これがオールマイトなら話は別でしょうけど」
日本のNo.1ヒーロー。それも数十年もの間、ずっとNo.1ヒーローの座に留まっているのだから、オールマイトは世界的に有名だ。
そんなオールマイトからの要望であれば、あるいはこの展示品も売るかもしれないが……ただ、オールマイトの場合は相棒のデヴィット・シールドがいる。
何か欲しいサポートアイテムがあれば、それこそデヴィットに作って貰えばいいだけだろう。
わざわざ展示品が欲しいとか、そういう風には言わないと思う。
「けど、龍子も次のヒーロービルボードチャートでトップ10入りは確実なんだろう?」
「……そういう風に言われてるのは知ってるわ、けど、それはあくまでも今そういう風に言われているというだけで、実際にまだそうなった訳じゃないの。日本でならそういうのも通用するかもしれないけど、I・アイランドでは難しいでしょうね」
そう言う龍子は、残念そうな様子を見せる。
「そうか……なら残念だけど諦めるしかないだろうな。それより、昼までに出来るだけ多くの場所を見て回るんだろう? いつまでもここだけにいる訳にもいかないんじゃないか?」
「それはそうね。……けど、アクセル。私も本当にバーベキューに出てもいいの?」
そう龍子が聞いて来たのは、今朝起きた時にLINにあったメッセージが原因だ。
昨日の一件の感謝を込めて、オールマイトがバーベキューを奢ってくれるらしい。
……普通なら生徒が勝手に行動したという事で怒ってもおかしくはないのだが、何しろ俺達が行動を起こしていなければ、オールマイトの親友であるデヴィットは死んでいたか、あるいはヴィランに連れ去られていた可能性は高い。
それを思えば、オールマイトとしてもバーベキューを奢るくらいは問題ないのだろう。
それに……オールマイトは長年No.1ヒーローとして活動してきただけに、貯金とかそういうのも結構あるだろうし。
資産運用とか、そういうのはどうしてるんだろうな。
もしオールマイトがFXとかそういうのをやっていたら、何だか一瞬で金を溶かしそうな気がすると思うのは、きっと俺だけではない筈だ。
オールマイトも自分がそういうのに向いていないというのは知ってるだろうから、FXとかそういうのはやっていないと思う。
恐らくは貯金とかしてるだろうから、バーベキューを奢るくらいは問題ないのだろう。
……あ、でもオールマイトは根っからのお人好し、宵越しの金は持たぬ的な意味で孤児院や何らかの基金とか、そういうのに寄付してそうな気もするな。
それはそれで、騙されてそうでちょっと怖いが。
そんな風に思いながら、俺は龍子の言葉に頷く。
「俺が連れていってもいいか聞いたところ、OKを貰ったらしいし、そういう意味では問題ないだろ。……峰田辺りがどう反応しているのかは、想像したくないが」
クラスのグループでの話だったので、当然ながら龍子が俺と一緒にいるというのは、峰田にも知られている。
「ああ、あの子は……個性だけで見ればかなり有望そうなんだけど……」
職場体験の時に峰田と会った事があるからだろう。
龍子は微妙な表情を浮かべる。
実際、龍子から見ても峰田のモギモギという個性は汎用性が高くて色々と出来るというのは認めているのだろうが、極度の女好きというのが龍子的には微妙なのだろう。
男のプロヒーローであれば峰田と組んでも何の問題もないが、峰田のテンションというか、やる気というか、そういうのがそこまでではない。
女のプロヒーローと組めば峰田のテンションとかやる気は限界突破して非常に大きな戦力となる。
……もっとも、女のプロヒーローの場合はセクハラされる可能性が高いが。
ただ、優は……うん。何気に優と峰田で行動させるのはありかもしれないな。
「いっそ、優のソースのCM撮影がなければ、優も一緒に来て峰田も大人しくなったんだろうけど」
「可哀想でしょ、そうなれば。保須市での事、アクセルも忘れた訳ではないでしょう?」
生真面目というか、凜々しい系の美人の龍子だったが、そのような外見とは違って優しいところが多い。
それこそ、場合によっては自分にもセクハラをしてくる峰田を庇うくらいには。
「まぁ、保須市の時は色々と酷かったからな。……とはいえ、ステインと戦う機会があったんだから、峰田的には総合的にプラスだとは思うけど」
ふざけるなぁああぁぁぁぁあぁっ! という峰田の幻聴が聞こえてきたような気がするが、それについては気のせいだろうと思っておく。
実際、峰田にしてみれば散々だったと思ってはいるかもしれないが、経験という意味では決して悪くなかった筈だ。
「そう? まぁ、そうだといいわね。……あ、ほら、アクセル。今度は向こうの展示場に行ってみましょう」
そう言い、俺の手を引っ張って歩く龍子。
久しぶりの休日という事もあってか、かなり浮かれているな。
I・アイランドには来てみたかったと昨日言っていたし、そういう意味でも今日こうして展示会を見て回るのは楽しいらしい。
さっきまではバーベキューについて考えていた筈だったが、気が付けば今はもう他の展示場に興味が向いているらしい。
龍子の意外な一面だな。
凜々しい系美人の龍子がこうして嬉しそうな表情を浮かべているは……何というか、凄い破壊力だ。
もし龍子の……リューキュウのファンがこれを見たら、一体どう反応するんだろうな。
そんな風に思いつつ、俺は龍子と共に様々な展示品を見て回るのだった。
「その、一応お土産を持ってきたわ、皆で食べてちょうだい」
バーベキューの会場に到着すると、多くの者達……それこそA組のほぼ全員がいるのではないかと思える面子に、龍子が途中で買ってきた肉の詰め合わせ……バーベキューセットを差し入れる。
メリッサを始めとして、I・アイランドにも住んでいる者がいる以上、当然ながら食料とかを売っているスーパーは普通にある。
途中でそのスーパーで買ってきたのだ。
「リューキュウ、すまない。ありがとう。皆で美味しく頂かせて貰うよ」
オールマイトがいつもの画風が違う笑みを浮かべ、バーベキューセットを受け取っていた。
「ちょっと、アクセル君。……こっちに来てくれる?」
「え? おい、葉隠?」
龍子と共にバーベキュー会場にやって来た俺だったが、何故か葉隠に引っ張られていく。
勿論葉隠の身体能力はそれなりに鍛えているとはいえ、一般的な学生よりも少し上といった程度だ。
引っ張られないように耐えようと思えば、耐えるのはそう難しくはない。
難しくはないのだが、だからといってここでそういう事をすると後々面倒になりそうなので、そのまま引っ張られていく。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ」
そして案の定、もしくはお約束的に峰田は血涙を流しながら俺を見ていた。
とはいえ、俺は今まで何度も峰田には欲望を全開にするな、表に出すなと忠告してきた。
だが、峰田にとっては自分の欲望を隠すというのは決して許容出来ないことらしく、それが自分だと、そう断言までした。
であれば、このような状況になっても、それはそれで仕方がないとは思わないか?
そんな風に考えていると、俺が連れて来られたのは女達の集まっている場所。
具体的には、ヤオモモ、三奈、耳郎、拳藤、茨。後は俺を連れて来た葉隠。
麗日と梅雨ちゃん、メリッサは、バーベキューの準備をしたり、話をしたりしており、ここにはいない。
この面子が集まっているのなら、せめて瀬呂も一緒に……と、切島や爆豪と話している瀬呂に視線を向けるものの、俺と一瞬視線が合った瀬呂は、そっと視線を逸らす。
おい。
「さて、アクセルさん。今日の午前中はリューキュウとその……一緒にお出かけを……その……」
「デートね」
言葉に詰まるヤオモモに対し、三奈が鋭くそう言う。
「いや、デートって訳じゃないんだが」
「あのね、アクセル。男と女が一緒に遊んでいるんだから、それはデートでしょう?」
三奈の突っ込みに他の面々も頷く。
……茨もそんな三奈の言葉に頷いているのは、どうなんだ?
俺に仕えているのなら、こういう時は俺を庇ってくれてもいいんじゃないか?
そう思ったが、今ここで何かを言えば、それはそれで面倒な事になりそうだし。
「……まぁ、それならデートでもいいけど、それで何で俺がここで弾劾されてるんだ?」
「それは……その、やはり私としてもクラスメイトが、それもヒーロー科の1年の代表的な存在であるアクセル君がふしだらな事をしていないかどうか、気になったのですわ」
ヤオモモが薄らと頬を赤くしてそう言ってくる。
ヤオモモはこの手の話題には疎いと思っていたんだが、この様子を見る限りだとそれなりに詳しくなっているらしい。
「そう言われてもな、特に何かがあった訳じゃないぞ? 展示会場で展示されているサポートアイテムを見ているとか、そんな感じだし」
これは嘘でも何でもなく、正確に言っている。
それこそヤオモモが言うようなふしだらな事というのはしていないのは明らかだ。
「でも、アクセルだから何をするか分からないんだよな。素で口説いていると思うような事もあるし」
「おい、拳藤?」
まさか拳藤からそんな風に言われるとは思っていなかっただけに、思わずそう返す。
だが、俺が声を掛けた拳藤は、ジト目を向けてくる。
「取りあえず、アクセルは普段の言動を見直した方がいいんじゃないか?」
「別に俺は何か問題になるような事を言ってるつもりはないぞ」
「……そういうところだぞ、アクセル」
「うーん……でも、それでこそアクセル君ではあるんだよね」
「ちょっ、透。いきなり何を?」
何故か俺をここまで連れてきた葉隠が俺をフォローするような事を言う。
そして三奈がそんな葉隠に向かっていきなり何を言うのかといった様子を見せていた。
「だって、アクセル君だよ?」
「……何だかもの凄い説得力のある言葉ですわね」
「さすがアクセルさん」
ヤオモモが唖然とした様子で言い、そして何故か茨は自慢げに言う。
ヤオモモはとにかく、茨は一体どういう立ち位置でここにいるんだ?
そんな風に思っていると、切島がこっちに近付いてくる。
「おーい、そろそろ肉も焼けてきたし、バーベキュー始めるぞ。お前達も乾杯の準備をしろよ」
「そうだな。折角のバーベキューなんだし、乾杯はしないとな」
切島の登場に、これ幸いと俺はその場を抜け出す。
……何だか後ろから不満の声が聞こえてきたものの、それについてはスルーするのだった。