「では、I・アイランドの出会いと騒動の終結に……乾杯ですわ!」
『乾杯!』
ヤオモモがそう言ってウーロン茶の入ったコップを手に言うと、他の面々もウーロン茶……他にも緑茶や炭酸飲料、ジュース等々の入ったコップを掲げて乾杯と口にする。
乾杯の音頭を取るのは誰にするかといった事で少し揉めたのだが、結局は学級委員長のヤオモモの仕事になる。
八百万家の令嬢として、多くのパーティに出ていたからというのもあるのだろうが。
とはいえ、これはあくまでも身内でのバーベキューで……うーん、一応扱い的にはホームパーティという扱いになったりするのか?
ともあれ、そういうのに慣れているヤオモモに任せるという事になったのだ。
そういう意味では、オールマイトや龍子もそういうのには慣れてそうではあるが。
それにこのバーベキューは殆どがオールマイトの奢りなのだから、普通ならオールマイトが乾杯の音頭を取ってもいいと思う。
そのようにしなかったは、オールマイトにも何か考えがあってなんだろうな。
具体的には、こうして学級委員長のヤオモモが乾杯の音頭を取る事によってA組の……より正確にはこの場には拳藤や茨といったB組の面子もいるし、A組の中でもいない奴もいるが、とにかくこの場にいる者達の関係を深めようといったところか。
もっとも今まで色々とA組で経験してきた以上、A組はかなり仲が良い。
「てめえっ、こらデクゥッ! その肉は俺が食うつもりだったんだぞ!」
「わあっ、ごめんかっちゃんっ!」
「おい、見ろよ上鳴。拳藤の足。昨日のチャイナドレスの時もそうだったが、いい足をしてるよな」
「いやいや、俺は塩崎の胸の方が……」
うん、まぁ。A組のアレな奴代表2人+上鳴の事について気にしない方向で。
あ、でも爆豪はともかく、峰田と上鳴の声が聞こえたらしい拳藤と茨は、微妙な……軽蔑が込められた視線を向けているな。
今日はバーベキューという事で、全員が動きやすい格好で来ている。
それこそ拳藤は足が剥き出しになっている……女用の短パン、ショートパンツとか言うんだったか? そういうのを履いていて太股のかなりの部分が剥き出しになっているし、茨は露出そのものはそこまで多くはないものの、夏という事で薄着を身に付けており、その身体のラインが分かりやすい
「ほら、アクセル。お前も食えよ」
「ん? ああ、悪いな。……それより昨日の件で聞いたけど、爆豪と一緒に迷子になっていたって?」
焼けたスペアリブをトングで渡してきた切島に感謝の言葉を言いつつ、そう言う。
昨日、俺達との待ち合わせの場所に来なかった切島と爆豪だが、何がどうなったのかタワーの中に迷い込んでいたらしい。
……レセプションパーティの会場とタワーは全く別の場所なのに、何がどうなってそうなったのかは分からないが。
ともあれ、そうした中でヴィランの騒動が起きてしまい、タワーを占拠したヴィランに見つかり、そのヴィランと戦っている時に緑谷達と合流したらしい。
「あー……いや、俺も本当に何であんな場所に行ったのかは分からねえんだけどよ。まぁ、結果的には緑谷達と合流してヴィランと戦えたんだし、漢らしく行動出来たと思うぜ」
「……漢らしい、か?」
「漢らしいだろ?」
「まぁ、切島がそう言うのなら、俺からは特に何も言うつもりはないけど」
ただ、今の切島の言葉で漢らしいところがあったかと言われれば、俺としては疑問ではあったが。
こういうのは自分がそのように思っていればいいだけの事なので、それならここで俺がどうこうと言わない方がいいだろう。
そんな風に思いつつ、切島に渡されたスペアリブを食べる。
「……美味いな、これ」
「だろう? もっとも、これは俺の焼き方が上手いってのもあるけど、それ以上にオールマイトが用意してくれた肉がどれも美味い肉なんだよ」
濃厚な脂身の美味さと、肉に振り掛けられた香辛料の香り、それらが口の中で一体化し、いつまでも食べていたいと思ってしまう程だ。
また、普通の肉も美味いが、こういった骨付き肉もまた美味いんだよな。
一応理由としては、骨髄の旨みが肉に染みこむとかそんなのがあったと思うが、それが正しいのかどうかは俺には分からない。
……ちなみに、以前ホワイトスターにある四葉の店で食べた中華料理……中華料理か? まぁ、味付けは中華料理だったし、多分そう間違ってはいないと思うんだが。
とにかくこのスペアリブと同じ部位を調理したのを食べた事があるが、どういう風に料理をしたのか、肉だけではなく骨までサクリと噛み切れる味だった。
混沌精霊の俺なら、その気になれば硬い骨であっても噛み砕けるのだが、四葉の作った料理は俺ではない一般人であっても、骨ごとサクリと噛み切れるような、そんな料理だった。
その事に驚いたし、純粋に料理として食べてもかなり美味かった。
「うおおおおっ! このカルビは貰ったぁっ!」
瀬呂が珍しくやる気になりつつ、叫んでいる。
その声に視線を向けると……うわぁ、凄いカルビだな。
それこそA5ランクのカルビといったような……寧ろ全てが脂身と言ってもいいのではないかと思える程にサシの入っているカルビの争奪戦の勝者となった瀬呂。
ああいうのが評価の高い肉なのは分かるけど、あそこまで露骨に脂身まみれってのは……いやまぁ、全くサシが入っていない肉も、それはそれで問題だけど。
「お、アクセル、あれ見ろよ」
「ん? ……あ、いいなあれ」
切島がトングで指した先にあったのは、牛タン。
それも薄切りではなく、それなりに厚みのある牛タンだった。
……薄い牛タンもネギを包んで食べるにはいいけど、ああいう風に厚い牛タンもいいよな。
かといって、厚すぎる牛タンの、いわゆるマンゴーカット? されている奴は、それはそれでグニュリとした食感があまり好みじゃないんだよな。
なので、薄切りではなくても、それなりに厚くてしっかりと火の通った牛タンが俺の好みで、切島が見つけた牛タンはまさにそれだった。
スペアリブを食べ終わると、すぐにその牛タンを確保しにいく。
「頑張れよ」
そして何故か切島は俺に向かってトングを振っていた。
どうやら切島はいわゆる焼き肉奉行とか、そんな感じらしい。
まぁ、肉を一番美味い状態で食べさせてくれるのなら、俺としてはそれに不満なんかはないが。
ただそんな焼き肉奉行の切島も、面倒を見る事が出来るのは自分の周囲だけ。
このバーベキューでは多くの焼き台があるので、切島の焼き肉行動範囲外に出てしまえば、肉の管理は自分で行う必要がある。
あるいは、他に焼き肉奉行がいるかだが。
この牛タンは幸い誰の物でもなかったらしく、素早く皿に取り、近くにあったレモンを絞り……岩塩のミルを使って塩を振り、口に運ぶ。
うん、美味い。
どうやらこれは牛タンの中でも根元の部分……いわゆる、タン元と呼ばれる部分らしい。
ちなみにスーパーとかで安く売っている牛タンは、基本的にタン先と呼ばれるタンの中でも先端の部位だ。
あれはあれで噛み応えがあるし、肉を食ってるって感じで美味いんだが……まぁ、その辺は人の好みにもよるな。
そんな風に思って色々な場所を回って肉や海産物、野菜といったのを食べていると……網ではなく鉄板の置かれている場所に近づき、そこで思わずといった様子でその場にいた人物に尋ねる。
「えっと……常闇、一体何をしてるんだ?」
「闇のお好み焼きだが、何か?」
俺の言葉に常闇はそう返してくる。
闇のお好み焼き……いやまぁ、実際に生地は真っ黒なのを思えば、闇のお好み焼きといった表現は正しいと思う。
ただ、この真っ黒なお好み焼きは……見た感じ、とてもではないが食欲を刺激するとは思えない。
「まさに名は体を表すといった感じだけど、どうやって作ったんだ?」
そうして話を聞くと、どうやらオールマイトが用意してくれたバーベキューの具材から幾らか貰って作ったらしい。
お好み焼き粉であったり、あるいは小麦粉や出汁といったものは一体どこから入手したのかといった疑問があったが……まぁ、オールマイトの事だからこんなこともあろうかと用意してあったのだろう。
もしくはオールマイトにその気はなくても、購入した中にいつの間にか入っていたとか。
で、海産物の中には生のイカもあり、そのイカを解体してお好み焼きの具にしたらしいのだが、そのイカの中には墨袋があったので、生地にイカスミを混ぜたらしい。
……なるほど。イカスミのパスタとかでもソースは真っ黒だしな。
「食べるか? 丁度焼けたところだ。普段なら人にはあまり分けないのだが、闇を統べる者であれば話は別だろう」
そう言うと、これもまた恐らくはオールマイトが買ってきたセットの中にあったのだろう、お好み焼き用のヘラで鉄板の上のお好み焼きを切ると、俺の皿に乗せてくる。
「……黒いな」
「だろう?」
別に褒めた訳ではないのだが、常闇はふふんと得意げな様子で鼻を鳴らす。
ただ、少し気になったのは、お好み焼きの上に肉がない事だろう。
普通ならお好み焼きの上には肉が……豚バラ肉が乗っているのだが、このお好み焼きは黒い生地だけがそこにある。
「肉はないのか?」
「いや、生地に混ぜ込んだ。俺は肉がカリカリに焼かれたよりもしっとりと柔らかい方が好みなのでな。それに、肉を上に載せるとこの芸術的な黒が見えなくなる」
おい、それは明らかに前者よりも後者の事情が大きな理由だろ。
常闇の趣味嗜好の全てを理解している訳ではないが、厨二病まっしぐらの常闇だ。
であれば、折角黒いお好み焼きを作っているんだから、完璧を求めるというのも分からないではない。
そんな風に思いながら、常闇の作ったお好み焼きを食べると……
「美味いな」
意外……と言っては失礼かもしれないが、その黒いお好み焼きは普通に美味かった。
イカスミというのは美味さの塊ではあるものの、それだけに使いすぎると料理の味が一気に落ちる……というか、イカスミに侵食されてしまう。
なので、イカスミを使う時は適切な量をと、以前四葉から聞いた覚えがある。
「アクセルに褒めて貰えて光栄だ」
その後も常闇と少し話をしてから、他の場所に向かう。
「アクセル君、丁度いいところに……って、ちょっ、アクセル君、かっちゃんを、かっちゃんを!」
緑谷と爆豪の場所に近付いたものの、すぐに歩く方向を変える。
緑谷のいる場所に向かうと、間違いなく面倒な事になりそうだったし。
飯田もいるから、爆豪の相手も何とか出来るだろう。
……それにこう見れば、何だかんだと緑谷と爆豪は仲が良いようにも見える。
「ああああ、美味しい、幸せ……あ、でもこれにはお餅も……あかん、あかん。こんな良いお肉、次はいつ食べられるか分からへん。今はお肉を食べるんや」
「ちょっと、お肉だけじゃなくて野菜も食べないと駄目だよ。ベジファーストって言って……」
「それは甘えや」
「甘え!?」
「ケロ。お茶子ちゃん、それはちょっと違うと思うわ」
三奈、麗日、梅雨ちゃんの3人が集まっている場所に近付いたところ、そんな声が聞こえてきた。
ベジファーストというのは何だったか……何かで聞いた覚えがあるな。
ああ、食べ放題とかそういう店では、肉とかのがっつりした料理を食べるよりも前に、前菜……って訳じゃないが、軽くサラダとかを食べるといいんだったか。
理由は……ちょっと忘れたけど。
そうすればより多くを食べられるからだったか、それとも健康に良いとか、そういう理由だったか。
ちょっとその辺は分からないが。
「肉や野菜もいいけど、海産物……シーフードも美味いと思うぞ」
「あ、それいいね。アクセルはシーフードだと何が好き?」
三奈のその問いに、少し考え……るまでもなく、答える。
「エビだな」
「え? エビ? ……ちょっと意外。てっきりサザエとかアワビとか、そういうのが来ると思ったのに」
「いやまぁ、そういうのも嫌いって訳じゃない……寧ろ好きだけど、エビはそれ以上に好きなんだよな」
エビの種類にもよるが、美味く焼ければ殻も一緒にバリバリと食べられたりする。
もっとも、そうして焼くのには相応の技術が必要になるが。
「ふーん、ちょっと意外。ね?」
「ウチもカニとエビならエビの方がまだ手が出るけど……」
「ケロ、私もエビは好きだわ、うちの弟達はエビフライが好きよ」
「あ、俺もエビフライは好きだな」
そう言うと、梅雨ちゃんが嬉しそうな表情を浮かべる。
ただ、スーパーとかの惣菜コーナーとかで売っているエビフライって、中身が甘エビくらいのエビで、それに衣を何度も付けて大きく見せ掛けている奴とか、そういうのもあるんだよな。
ただ、俺の住んでいるマンションの1階にあるスーパーは値段の高い店だけあって、そういうのはしない。
かなり大きめのエビフライが普通に売っている。
もっとも、その代わり値段は高いが。
値段相応という事もあり、俺にとってはお気に入りの一品だ。
そんな風に思いつつ、俺はバーベキューを楽しむのだった。