I・アイランドでの諸々が終わり、帰ってきた。
……I・アイランドでの騒動が大きかっただけに、何だか微妙にやる気が起きなかったが……
ピンポンと、部屋のチャイムが鳴る。
勿論このチャイムは部屋の前まで来た相手が鳴らした訳ではなく、マンションの前で誰かがこの部屋に連絡をしてきたものだ。
さて、一体誰なんだろうな?
そう思いつつ、マンションの前の映像を出すと……
「ああ、目良か」
『はい。お久しぶりです』
「随分と早かったな。てっきりもっと待つかと思ってたけど」
映像モニタに表示されているのは、公安において俺の担当という事になっている目良だった。
I・アイランドから帰ってきたのは昨日なのだが、昨日のうちに公安……というか、目良には連絡を入れておいた。
ただ、今言ったように連絡をしてもまさか翌日に来るというのはちょっと……いや、かなり予想外だったのだ。
『そう意地悪を言わないで下さい。私共は、出来る限りアクセル君とのやり取りは真摯に行いたいと思っていますから』
その割には、ゲートを設置する土地の件は未だに何もないな。
そう言ってやりたかったものの、映像モニタ越しでも分かる目良の目の下の隈を見ると、何も言えなくなる。
あるいはこれで目良が俺をいいように使おうとか、適当にやりすごそうとか、そういう風に考えているのなら、俺の方も相応の態度を取る必要がある。
だが、目良の様子を見ると忙しくしているのは間違いない。
そうなると、ここで不満を口にするのは、それはそれで可哀想だろうと思う。
「取りあえず、色々と話があるしな。上がってこい」
そう言い、映像を消す。
目良が来るまで、部屋の中で待つ。
……視線の先では、AI搭載型のスーツケースとロボット掃除機が一緒に行動している。
うーん……これは一体どういう感じなんだろうな。
以前……俺がスーツケースを購入した時から見る事が出来る光景ではあったが、昨日帰ってきた時からはかなり珍しい光景ではあるよな。
そんな風に思っていると、先程とは違うチャイムの音が部屋の中に響く。
今度のチャイムの音は、さっきと違って部屋の前にあるチャイムの音だ。
寝転がっていたソファから起き上がると、部屋の前にいく。
そうして扉を開けると、そこには目良の姿。
「お久しぶりです、アクセル君」
「そうだな。……そっちも忙しそうだけど、大丈夫か?」
映像モニタ越しに見ても目良の目の下の隈ははっきりと分かったが、こうして直接見ると、改めて凄い隈だな。
以前……俺がまだ雄英に入学する前に会った時も目良の目の下には隈があったが、今日こうして見ると以前よりも隈が濃くなっているような気がする。
「あははは、公安は給料はいいんですけど忙しいんですよね。……特にアクセル君が雄英に入学してからは、USJの一件であったり、保須市の一件だったり、今回のI・アイランドの一件だったり……とあるので」
「それは……まぁ、頑張れとしか言えないな」
原作主人公の緑谷が雄英に入学した事によって原作が始まった。
それによって原作のイベントが始まり、公安も忙しくなってしまったのだろう。
つまり、俺が関係していない原作でも、恐らく目良はこうして忙しかった筈なのだ。
……とはいえ、今回はそれにプラスして俺の件もあるので原作よりも忙しくなっているのは間違いないと思うけど。
いや、でも俺の件で目良がというか、公安がそこまで何かをしているのかと言われれば、そうでもない。
まぁ、給料であったり、家賃を含めた生活費とか、そういうのは助かっているのだが。
とはいえ、ぶっちゃけその辺は公安のバックアップがなくても、俺の方でどうにかしようと思えば出来る事でもあるんだよな。
「あはは。この世界の為にも頑張りますよ。……それで、今日の用件はI・アイランドの一件についてでしたか?」
「それもある……というか、正確にはそれに付随した件になるんだけど。デヴィット・シールドって知ってるよな?」
「……ええ、勿論」
うん? 何だ?
目良が返事をするまで、少し時間があったように思うけど。
その辺は少し気になるが、取りあえず今は本題について話を進めよう。
「デヴィット・シールドが作ったサークレットのようなサポートアイテムについて知ってるか?」
「っ!? アクセルさん、それを一体どこで!?」
予想外の反応だった。
この様子から見ると、やっぱりあのサークレットは非常に大きな意味を持つらしいな。
「I・アイランドの一件でちょっとな。……その辺の情報は入ってきてないのか?」
「いえ、こちらも色々と忙しかったので」
俺の言葉にそう言う目良。
本当にその件については知らないのか、それとも誤魔化しているだけなのか。
その辺については俺にも分からなかったが、それでも目良があのサークレットについて知っているのはだけは俺にも理解出来た。
さて、どうするか。
そう思ったが、誤魔化しているのか、それとも本当に知らないのかは分からないが、もし後者だった場合は、どのみち後でその辺についての報告があるだろうし、隠すまでもないか。
「そうか。俺があのサークレットについて知ってるのは簡単だ。レセプションパーティの会場でオールマイトを助けた後、オールマイトを追ってタワーの屋上に到着した時、ヴィランのボスが逃げようとしていたヘリコプターをオールマイトが落としてな。落下したヘリコプターの中にいたヴィランのボスが何か意味ありげにサークレットを持っていて、それを自分で被ろうとしていたから、邪魔をしてそのサークレットを奪ったんだが……ちょっとしたミスでそのサークレットを俺が被ってしまってな。結果的にサークレットは壊れたんだが……」
俺の言葉の途中で、目良の表情はまさに喜怒哀楽といった表現が相応しい……いや、顔芸といった方が正しいのか? とにかくそんな感じになるのが楽しい。
この様子を見る限りだと、やっぱりあのサークレットは何か重要な物だったっぽいな。
いやまぁ、俺のスキル欄の空欄を2つ作ってくれたと思えば、それで重要な物の筈がないだろう。
ただ、この様子からすると、あのサークレットを量産して欲しいと言っても、無理っぽい。
「壊れた……ですか。その、アクセル君はあれを……アクセル君が言うサークレットを使って、何も問題はありませんでしたか?」
問題というか、異変があったかどうかと言われれば、俺のスキル欄が増えたんだからあったんだが、その辺の事情については目良に言う訳にもいかないので……そうだな、少し誤魔化しながら言うか。
「あったかどうかと言われれば、あった。俺の使う能力が使いやすくなったといった感じだな」
「……個性以外にも……」
俺の説明に、目良は戸惑った様子で呟く。
個性以外にもというのは、俺が異世界から来た存在なので個性は使えないというのを知っての事だろう。
けど、目良のその言葉で何となくあのサークレットの効果が理解出来た。
恐らくは個性を強化するものなのだろう。
それも少しだけ強化するとかそういうのではなく、劇的に。
ヴィランのボスがあのサークレットを自分で使おうとしていたのは、あのサークレットを使って個性を強化すればオールマイトと戦えると、そう判断したのだろう。
俺が介入しない原作においては、恐らくオールマイトと緑谷がサークレットを使って個性を強化したヴィランのボスを相手に、苦戦しながらも勝利したといったところか。
それを俺が邪魔をしたとなると……あれ? ちょっと待った。そうなると、もしかしてまた俺が緑谷から実戦経験の機会を奪った事にならないか?
勿論、あのサークレットを使う前には緑谷があのヴィランのリーダーと戦っていたので、そういう意味では相応に実戦経験は積めたのだろうが。
しくじったな。
特に今は夏休みで、林間合宿が始まるまでは緑谷と会って訓練をするのも難しい。
もっとも、緑谷は努力家という意味ではかなりのものだ。
夏休みだからといって、訓練をサボったりとかそういう事はしていないだろう。
ただ……それでも学校があった時に行われていた自主訓練と比べると、どうしても訓練量は劣っている筈だ。
林間合宿が緑谷にとって厳しいものであるのを祈ろう。
もっとも、相澤の性格を考えれば林間合宿において楽しくレクリエーションをやるとか、そういう風には思えない。
それこそ強化合宿的な感じで今まで以上にしっかりと訓練をするのは間違いないと思う。
そんな風に考えていると、ようやく目良が我に返った様子で俺に視線を向けてくる。
「それで、アクセル君の頼みとは?」
「今までの話の流れから分かっているとは思うが、デヴィット・シールドが作ったあのサークレットが欲しい。それも、出来れば複数」
俺が最初に使った時に、ステータスにあるスキル欄の空欄が2つ増えた。
だとすれば、次に使った時ももしかしたら2つスキル欄が増え、スキル欄が延々と増えていくといった可能性もある。
あくまでもこれは可能性の話でしかなく、効果は1回だけかもしれないが。
ただ、個性を強化するのなら、それこそ原作主人公で実戦経験が足りていない緑谷に使わせてみるといった手段もあるだろう。
なによりも、レモン率いる技術班にしてみれば、あのサークレットは土産として丁度いい。
そう思ったのだが、目良は俺の言葉に難しい表情を浮かべる。
「それは……少し難しいです。いえ、もっとはっきりと言えば、不可能に近いかと」
「何でだ?」
「デヴィット・シールド博士のその研究については、公安……いえ、日本だけの話ではなく、世界中で封印すると決めた事だからです」
「封印……ね。随分と大袈裟な話だな」
「アクセル君には少し分かりにくいかもしれませんが、アクセル君の言うサークレット。これは場合によってはこの世界そのものを揺るがすかのような、そんな危険性を持っています」
そこまでか?
そうも思ったが、目良の様子を見る限りだと、冗談でそのように言ってる訳ではなく、本気で言ってるのは間違いないように思えた。
「俺の頼みでも難しいか?」
「……申し訳ありませんが」
「こう言うのどうかと思うが、俺はお前達に対して随分と譲歩してるよな? ホワイトスターと行き来する為のゲートを設置する場所についても、本来ならどこかに適当な場所に設置しても構わないのに、お前達が用意するまで大人しく待っているし」
「……」
俺の言葉に沈黙を返す目良。
実際、俺がその気になればどこぞの山奥にでも勝手にゲートを設置してしまえばいい。
あるいは日本ではなく、どの国の領土でもない無人島とかにゲートを設置してもいい。
シャドウミラーにおいては、転移技術は普通に使われているので、多少の手間ではあるものの、それでも問題はなかったりする。
だが……それでも俺は勝手に行動するような事はせず、大人しく公安が土地を用意するのを待っている。
そうして俺が譲歩しているのだから、公安側にも相応の態度を見せて欲しいとは思う。
……割の良い仕事を俺が受けているというのは分かるが、それだって言ってみれば報酬は月100万程度だ。
ホワイトスターが異世界間貿易によって稼いでいる金額は……それこそ月どころか、1日どころか、1時間……あるいは10分、もしくは数分でそのくらいは容易に稼げてもおかしくはない。
そう考えれば、公安としては俺に便宜を図っているつもりかもしれないが、決してそうではない訳だ。
それに、原作主人公を始めとした面々を鍛えており、次代のプロヒーローの育成という意味でも、しっかりと仕事はしているし。
「黙っているって事は、俺の言葉を認めていると思ってもいいんだよな?」
「それは……」
確認するように目良にそう言うと、目良は何か反論をしようとするものの、結局それ以上は何も口に出来ない。
公安で、それも公安委員長が直々に俺の担当という扱いにしている以上、目良が優秀な人物なのは間違いない。
だが、それでも目良としては俺の言葉に答えられないのだろう。
「……まぁ、俺も鬼じゃない」
いやまぁ、混沌精霊の本当の姿を見せれば、角が生えていたりするのし、ネギま世界でリョウメンスクナノカミを吸収したり、鬼眼といったスキルが使えたり……あれ? これ、よく考えたら俺は結構な割合で鬼じゃないか?
もっとも、今の場合の鬼じゃないというのはあくまでも比喩であって、俺が鬼だとかとそういうのは気にしなくてもいいと思うんだが。
「だから、あのサークレットを複数、何十個も寄越せとか、そういう風には言わない。3個……それが無理なら2個でもいいから欲しい」
そう言う俺の言葉に、目良は難しい表情を浮かべる。
あるいはこれが日本だけで決まった話なら、公安の力ですぐにでもどうにかなったかもしれない。
だが、日本以外の国も関係しているとなると、そう簡単には返事が出来ないのだろう。
「一度……持ち帰ってもいいでしょうか?」
数分の沈黙の後にそう言った目良に、俺は構わないと頷くのだった。