「ほら、荷物は入ってすぐのところに纏めてあるから、それを持って部屋に移動。荷物を置いたら食堂で夕食。その後は就寝だ。本格的な林間合宿の内容は明日からになる。早くしろ。……ああ、それとバスに積まれていた荷物を運んだのはアクセルだ。感謝するように」
緑谷の緑谷が殴られた件とか、それ以外にも諸々とやっていると、相澤がそう声を掛けてくる。
どうやら魔獣の森をクリアしてある程度時間が経ち、それでもうある程度体力も回復したと、合理的に考えたらしい。
「え? そうなのかよ? 悪い、アクセル。助かった」
相澤の言葉を聞き、真っ先にそう言って来たのは切島だった。
漢らしいという事に拘っている切島なので、世話になったらすぐに感謝の言葉を口にするのが漢らしいと、そのように思ったのだろう。
とはいえ、そんな切島の態度に釣られてか、他の面々も俺に感謝の言葉を口にしてくる。
「気にするな。俺はあの崖からスタートして、10分も経たないうちにここに到着してたしな。夕方までかなり暇だったんだ」
「けっ!」
俺の言葉に、爆豪が不満そうにそう吐き捨てる。
普通ならそんな爆豪の態度に面白くないと思ったりするのだろうが……爆豪とは何だかんだと一学期一緒にいた事もあり、その性格については十分に理解している。
また、原作主人公の緑谷のライバルキャラ的な存在なのだろうというのもあって、こういう態度には慣れていた。
それに……爆豪はA組の中で最も俺に対抗心を燃やし、何度負けても挑んでくる。
勿論他の面々も俺に挑むのは変わらないし、俺は壁としてクラスの面々の前に立ち塞がる。
普通ならそんな壁を前に心が折れてしまう者もいるのだろうが……さすがと言うべきか、A組の面々は今のところ心が折れた者はいない。
折れた者はいないが、それでも慎重になっている者が多くなっているのも事実。
そんな中で、爆豪は他の者達よりも俺に挑んでくる事が多い。
勿論何の意味もなく挑んできている訳ではなく、一度負けたら同じ負けた方をしないようにと、修正してから挑んでくる感じだ。
そんな爆豪だけに、俺が出発してすぐにここまで到着していたと聞いて、対抗心を抱いたのだろう。
爆豪も一応空は飛べる……跳べるが、その距離はそこまで大きくはない。
あのスタート地点の崖から、合宿施設まで跳んで来られるかとなると……難しいだろう。
それに、ピクシーボブが個性で作った、空を飛ぶ土のモンスターもいたしな。
なので他の面々と一緒に来たというのは間違っていない。
それは爆豪も分かっているのだろうが、それでもやはり悔しいという思いはあるのだろう。
「女子はこっちに来てね。私が案内するから。男子はアクセルがお願いね」
マンダレイがそう言い、A組の女達を連れていく。
そしてマンダレイの言葉から、男は俺が連れて行く必要があるらしい。
「じゃあ、そういう訳で行くぞ。ちなみに女子の部屋は分からないが、男子は大広間のような場所で雑魚寝になる感じだ」
「うわ、合宿っぽいな」
上鳴が嬉しそうな様子で言う。
いやまぁ、うん。……合宿っぽいと言われれば、そうか?
ただ、部活の合宿っぽい感じのイメージだけど。
ヒーロー科の合宿も、考えようによっては部活の合宿と同じようなものか。
……いや、寧ろ部活よりも厳しい訓練になりそうな気がする。
何しろ相澤が担任なのだから。
実際、初日ですら魔獣の森の横断だったし。
それでいて、相澤曰く合宿の本番は明日からだしな。
そんな風に考えながら男子用に用意された大広間に行く。
「うわ、本当に広いな」
砂藤の言葉にだろうなと頷く。
「布団とかそういうのをどうやって敷くのかは分からないけど、取りあえず荷物は端に置いておいた方がいい。ほら、あんな感じで」
そう言い、俺のスーツケースが置かれている場所を示す。
「ふむ、では俺はアクセルの荷物の側に置かせて貰おう」
常闇がそう言い、バッグを手に移動するんだが……常闇のバッグは、何て表現すればいいだろうな?
ボクシングとかの格闘技で使うサンドのバッグっぽい奴?
そんなバッグ……と言ってもいいのかどうか分からないが、それを俺のスーツケースの側に置く。
すると、その衝撃でスーツケースのAIが起動したのか、スーツケースが勝手に動く。
「何だ!? 動くぞ、こいつ!」
飯田がスーツケースを見てそんな反応をするが……飯田って俺のスーツケース知らなかったっけ?
I・アイランドに行った時に見た事があったような?
まぁ、ともあれそんな風に驚く飯田に声を掛ける。
「安心してくれ。俺のスーツケースはAI搭載型の奴だ。今のは衝撃でAIがスリープ状態から復帰した感じだな」
「そ、そうか。……驚いて過剰に反応してしまった」
「気にするな、アムロ」
「……え?」
「あ? ああ、いや。何でもない。飯田だな、飯田」
あれ? 何で今アムロの名前が出たんだ?
それに疑問を抱きつつも、取りあえず今は気にしない事にする。
多分……何かアムロと被るようなところがあったのだろう。
もしかしたら、飯田はそのうちニュータイプに覚醒するのかもしれないな。
そうなったらそれはそれで面白そうだと思うけど。
俺が飯田とそんなやり取りをしている間に、他の面々も荷物を適当な場所に置いていく。
別にどこに誰が置かなければならないと決まっている訳でもないので、本当に適当にだったが。
全員が荷物を置くと、その時点で何人かの腹が空腹を訴えるように音を鳴らす。
無理もないか。
昼くらいに到着出来ていれば別だったのだろうが、その時はまだ魔獣の森の中だったしな。
もっとも、昼前に到着していた俺の昼食はコンビニ弁当だった訳で……うん、もし本当に昼前に到着していても、それはそれで昼食に困っただろう。
となると、ピクシーボブやマンダレイ、相澤は最初からこのくらいの時間になると予想していたのだろう。
実際、4時くらいに到着した時も、マンダレイはその到着時間が予想していたよりも早いと驚いていたし。
ともあれ、そんな訳で皆が空腹を訴えることもあって食堂に向かう。
どうせなら今日昼食を食べた時のように、外で食べるのもいいと思ったんだが……どうやら中での食事になるらしい。
「さて、じゃあ食堂に向かうぞ。女子達もそろそろ来るだろうから、すぐに夕食になる筈だ。……ちょっと早いけどな」
普段であれば、5時前というのは夕食には少し早い時間だ。
もっとも、その辺は人によって違うだろうけど。
俺にとって夕食というのは、やっぱり午後7時くらいといったイメージがある。
それに、普段ならこの時間は場合によってはだが自主訓練をしている時間だし。
少し早ければ自主訓練を終えて、どこかで買い食いをしていたりする。
そういう意味では普段の時間からするとまだちょっと早いのだが、それでも昼を抜きにしている今なら、このくらいの時間でもおかしくはない。
ともあれ、皆が……それこそ爆豪であっても腹が減っているのは間違いなく、食堂に向かう。
そうして食堂に到着すると、そこで俺達を待っていたのは……まさにご馳走といった表現が正しい料理の数々だった。
いや、正確には例えばフカヒレとかフォアグラとかキャビアとか、そういう高級食材を使ったような類のご馳走ではなく、唐揚げとかハンバーグとかカツとか、高校生が喜ぶような食事の類だ。
普通ならそういうのを好むのは男だけで、女はパスタとかサンドイッチとかそういうのを好みそうなものだが……やはり昼食抜きでずっと緊張し、動き、戦い続けて魔獣の森を脱出してきたのは、女達にも堪えたのだろう。
切島とか上鳴はまさに貪るように夕食を食べていたが、女達はそんな2人とは違って行儀良くだが、それでもずっと食べ続けている。
……というか、個性でカロリーを使ったヤオモモならそれを補給する為に次々と料理を食べているのは分かるが、麗日がちょっと……
いや、決して行儀が悪いといった訳ではないんだが、素早く、それでいて休む事なく食べ続けている。
あー……まぁ、麗日にしてみればこれも仕方がないのか?
以前ちょっと聞いた話によると、麗日の家は決して金持ちって訳ではなかったらしい。
小さいとはいえ会社を経営しているらしいので、貧乏とまではいかないものの、それでも若干中流階級に届かないところ……といった感じっぽい。
あくまでも人聞きの話の上での予想なので、色々と間違っているところもあったりするかもしれないが。
その上で、麗日は両親思いの性格をしている。
実際、麗日がプロヒーローになろうとしたのは、金を儲けて両親を楽にしたいというのが理由らしいし。
そういう麗日だけに、両親からの仕送りも最低限にしているのは容易に予想出来る。
これが夏休みがなくて普通に学食を使えるのなら、昼食でしっかりと食べる事も出来るだろう。
雄英は日本一のヒーロー科を持つだけあって、補助金の類もかなり出ている。
また、税金対策なのか、単純に出身校を思ってなのか、雄英出身のプロヒーローの中には稼いだ金をそれなりに寄付したりもしているらしいので、そういうので食堂の料理にも補助金が出ていて、かなり安く食べる事も出来るのだが……夏休みは当然ながら学食は使えない。
いや、もしかしたらランチラッシュがいれば料理を作って貰ったりも出来るのかもしれないが、確実ではない。
そんな訳で、夏休みの今、麗日にしてみれば食費を気にせずにこうして食べられるというのは非常に嬉しく、だからこそ食べ続けているのだろう。
「ちょっと、他の子達は喜んで食べているのに、アクセルはあまり食べてないわね。その……もしかして、口に合わなかったかしら?」
ピクシーボブが不満そうに、そして不安そうに聞いてくる。
しかし、俺はそんなピクシーボブに対して首を横に振る。
「いや、別にそういう訳じゃないですよ。ただ、ピクシーボブも知っての通り俺は昼食は普通に食べましたから。……まぁ、コンビニ弁当だったけど。とにかくそんな訳で俺は他の連中みたいに空腹じゃないんですよ。勿論、夕方だからそれなりに腹は減ってるし、この料理は美味いと思うけど」
そう言うと、ピクシーボブは安堵した様子で再度料理を作り始める。
そんなピクシーボブに対し、切島や上鳴が土鍋で炊いたご飯! とかテンション高めに叫び、それにピクシーボブが呆れた様子で反応していたりしていた。
「ふーん。……私達が苦労している間に、アクセルはピクシーボブと随分仲良くなったんだね」
俺の正面に座っている三奈が、何故かジト目でそう言ってくる。
「そうか? まぁ、俺は今日真っ先にこの合宿施設に到着して、本当にやるような事がなかったしな。ピクシーボブやマンダレイと軽い訓練をしていたから、それもあって仲良くなったように見えるんだろうな」
「ちょっと、軽い訓練ってあれが?」
俺と三奈の会話を、麻婆春雨を持ってきたマンダレイが聞いて不満そうに言ってくる。
「軽い訓練でしたよね?」
「……アクセルにとってはそうかもしれないけど、私やピクシーボブにとっては、とてもじゃないけどそうは思えなかったわ。もし虎がいたら、ちょっとはいい勝負になったかもしれないけど」
「ですよね。マンダレイもそう思います? アクセルって、本人が凄いのは分かるんですけど、それを他人も出来て当然といったように思っているところがあって」
「あ、そうそう。でも、そのお陰で強くなったのも事実だし。私のキックもそうだよ」
三奈の隣に座っている葉隠がそう言う。
……ちなみに、その会話を聞いていたうちの何人かは、葉隠のキックという言葉にヒュンとし、我知らず股間を押さえている者もいた。
そう、透明の葉隠にとって男の最大の弱点たる金的蹴りというのは、これ以上ない程に強力な攻撃手段ではある。
ではあるのだが……幾ら手加減をしているからとはいえ、それでも痛いものは痛いのだ。
模擬戦の中で手加減をしつつもそれを食らった者はそれなりにいる。
もっとも、中にはそれを微妙に喜んでいるような奴もいたが。
料理を食べつつ、ピクシーボブやマンダレイ、三奈や葉隠といった面々と話をしている俺に向かって血の涙を流しながら睨んでくる某峰田とか。
ちなみに、俺は気配を察知できるのもあって、葉隠のキックを食らった事はない。
葉隠も何とか気配を消す訓練をしてはいるのだが、そう簡単に出来るようなものじゃないしな。
「アクセル、貴方……もしかして私達にやったのと同じような感じで他の子達にも訓練してるの?」
マンダレイが呆れの視線を向けてくるが、俺は特に躊躇する事なくそれに頷く。
「そうなりますね。何しろ、俺は壁ですから」
「ああ、体育祭の選手宣誓の時に言っていた。……それでも十分にやりすぎだと思うけど」
マンダレイの言葉に何人もが同意するように頷いていたが、俺は壁としての仕事を受けている以上、そんな面々をスルーして食事に集中するのだった。