ラグドールの個性によって、A組の生徒は次々と個性のアドバイスをもらい、その個性を訓練する為にピクシーボブの個性によって施設……という程に立派なものではないが、とにかく用意されていく。
基本的に列は出席番号順ではあったが、相澤からの指示で俺は一番最後になった。
……こうして一番最後に回されたというのは、何か微妙に嫌な予感がするのだが……ともあれ、俺の前にいる人物……A組では出席番号で一番最後となるヤオモモがラグドールの個性によってアドバイスを受けているのを眺め、視線を逸らす。
A組の面々は既に個性を強化する為の訓練を続けている。
具体的には、砂藤は甘いものを食べながら筋トレを行い、峰田は血が出てもひたすらモギモギを生み出し続け、爆豪はドラム缶風呂の中に手を突っ込んで個性を使い、上鳴はひたすらに電気を出し、麗日は吐きそうになっても我慢して浮かび続け、轟はひたすらに氷を生み出し、尾白は全力で尻尾を振り回し、切島は個性の硬化を使って尾白の尻尾の一撃を受けて、常闇は洞窟の中にいて、瀬呂はテープを、青山はビームをひたすら出している……といったように。
あくまでもこれは一例で、名前を出さなかった面々もそれぞれにしっかりと個性を強化する為の訓練を行っている。
うん、まぁ……何も知らない者がこれを見れば、地獄絵図といった感じではあるな。
というか、恐らくだがそういう誤解を招きかねないので、こういう部外者は誰も来ないような場所で訓練を行っているんだろうけど。
「では、私も……その、ひたすらに食べながら、個性を使い続けるという感じでいいのですか?」
「アチシの個性で見た感じだとそうかな」
そう言いつ何だか妙な動きをするラグドール。
こう……ピクシーボブとマンダレイは4人の中でもお色気キャラ的な感じ――その中でもマンダレイは常識人枠的な感じだが――で、虎は異色すぎてどういう風に反応したらいいのか分からないものの、ラグドールは……マスコットキャラ的な? それも、子供が見る教育放送に出てくる、そんな番組のマスコットキャラ的な感じがするな。
普通のマスコットと、こう……違う感じ?
違うのは分かるのだが、どういう風に説明したらいいのか分からない。
そんな風に思っていると、ヤオモモも砂藤のいる方に向かって歩き出す。
カロリーを消費して創造という個性を使えるというのを考えると、これはそうおかしな事ではない、のか?
ともあれ、こうして俺以外のA組の生徒は全員がラグドールのアドバイスによって個性を強化する訓練を始めたので、最後に残ったのは俺だけとなる。
「さて、それじゃあ最後がアクセルな訳だが……ここから少し離れるぞ。ここでじっとしていれば、他の連中の邪魔になるかもしれないしな」
相澤の指示に従い、俺達はその場からより奥の……ピクシーボブ曰く、魔獣の森の中に入り、そこから更に数分移動し、そこでようやく足を止める。
そして、俺の前にはラグドール……なのはいいんだが、俺の横には相澤と虎、後ろにはピクシーボブとマンダレイが回り込む気配があった。
えっと……これってやっぱり何か疑われているとか、そんな感じだよな?
俺は特に何かをした覚えがないし。
これが峰田や爆豪ならまだ分かるんだが。
A組代表のアレな連中の事を思い浮かべながら、この状況をどうしたものかと考える。
いっそ、龍子や優を呼ぶか?
いや、寧ろこの場合は公安の目良に連絡をした方がいいのかもしれないな。
ともあれ、相澤やプッシーキャッツの面々は俺を疑ってはいるものの、問答無用で捕らえようとしたりしていない辺りを考えると、怪しいと思ってはいるが、確証はないといった感じか?
そんな風に思っていると、ラグドールが俺に意識を集中し……
「あにゃにゃ……? 何も見えない?」
戸惑った様子で、そう言う。
「それは、どういう事です? 無個性とかそういう事ですか?」
「いや、無個性の人ならアチシも前に見たことがあるけど、それとは違うね」
「……アクセル?」
ラグドールとの会話を終えた相澤が、俺を見てくる。
どうやらやっぱり俺の予想通り……というか、最悪とは言わないまでも大変な状況になってしまったらしい。
とはいえ、問題なのはこの状況で一体何をどうするのかって事だろうが。
「うーん……どういう風に説明すればいいんですかね?」
「色々と聞きたいところはあったが、まずこれだけは聞かせろ。お前はヴィラン? あるいは、ヴィランに……例えば以前USJを襲ってきたヴィラン連合の手の者だったりするか?」
「それに対しては、答えはNoですね。というか、そもそも俺がUSJで戦ったから被害は小さかったのは、相澤先生も分かってると思いますが?」
もしUSJで俺が戦っていなければ、どうなっていたか。
脳無にボコボコにされていた相澤はより重傷を負い、死柄木……もといシラタキからそう離れていない場所にいた緑谷、峰田、梅雨ちゃんは死んでいた可能性が高い。
いや、緑谷は原作主人公なので死ぬような事はなかったと思うが。
そうなると、峰田や梅雨ちゃんが死んでいた訳だ。
……同級生をヴィランに殺された事によって、緑谷は奮起し、ヴィラン連合と戦いながらプロヒーローを目指していくとか、原作ではそんな感じなのかもしれないな。
もっともこれは俺の予想でしかないし、その予想も俺がシラタキ達を倒して捕らえた事によって、完全にその流れは消えたのだが。
そこまでした俺が、ヴィラン連合に通じているなどという事は、まず有り得ないだろう。
「そうだな。それは俺も否定しない。だが……俺達に、雄英の教師達にお前を信じさせる為にそのような事をしたというのであればどうだ?」
「……なるほど」
少し苦しい説ではあるが、実際にその可能性があるかどうかと言われれば、あると思えるくらいには、俺は怪しい訳か。
実際には俺はヴィラン連合と通じている訳ではないのだが、それは自分の事だから俺がそうだと分かっている訳で、他の面々は……特に俺を疑っている相澤にしてみれば、素直に納得出来ないところでもあるだろう。
「なら、ステインとの戦いでもあの件は自作自演だったと?」
「……事件の流れからステインがヴィラン連合の一員であるという可能性は否定出来ないが、それもまだ確定した事実ではない」
「つまり、USJの一件は序章でしかなく、これから本編があると?」
「あくまでも可能性だが、十分に有り得ると思っている」
そう告げる相澤だったが、今の状況を思えばそういう風に思ってもおかしくはない。
それに、この世界の原作については既に始まっている以上、原作主人公の敵であるヴィラン連合はこれから派手に動く筈だ。
そう考えると、相澤の心配は決して考えすぎではないものの、だからといって俺がそれに関わっていると思われてもな。
しかも客観的に見た場合、それが間違っていないように思えるのが何とも言えない。
「違う……と俺が言っても、説得力はないでしょうね」
「だろうな。ラグドールの能力でお前の個性が分からないのだから、素直に信じる事は出来ん」
「それを考えれば、もし俺が何か企んでいても相澤先生の個性を使えば容易に対処出来るのでは?」
「……お前の個性は俺の個性で消す事が出来ない」
「え?」
確信を抱いてそう言う相澤に、俺は疑問を抱く。
何故そうやって確信を持てる?
「昨日、峰田の件で話した時、お前は炎獣を出しただろう。その時、お前に気が付かれないように炎獣に抹消を使ったが、消える事はなかった。俺の個性は異形系には効果がないが、炎獣のような個性なら本来は消せる筈だ」
その言葉に、昨日の一件を思い出す。
あの時、俺に紅茶を買いに行かせた事に疑問があったが……なるほど、そこで抹消を使ったのか。
そして抹消が異形系については消せないものの、それ以外は普通に消せるというのは、以前相澤から聞いた覚えがあった。
……まぁ、もし異形系であっても個性を消せるのなら、例えば障子とかでも抹消を使えば異形系ではなくなって人の姿に戻る……戻る……どうなんだろうな?
まさか、異形系じゃなくなったからといって死ぬとか、そういう事はないと思う。
普通に考えれば、やっぱり人間になると思うんだが、
その辺については俺がどうこう考えるまでもないか。
どのみち、異形系の個性は消せないとそう相澤が口にしているのだから。
「そうなると、どうなります?」
「……考えられる可能性は幾つかある。お前の個性は混沌精霊だったな? 炎獣はともかく、基本的には増強系だ。そうなると、その混沌精霊という個性が何か特殊な性質を持ち、俺の個性を妨害しているといったところか」
あー……なるほど。そういくか。
まぁ、ヒロアカ世界の人間であれば、しかもプロヒーローとしても活躍している相澤の事を思えば、そういう結論になってもおかしくはない。
「幾つかと言ってましたけど、他には?」
「お前が無個性の場合だ」
「混沌精霊はどうなりますか?」
「そもそも、その辺りは公安からの情報だろう。公安であれば、何かを企んでいてもおかしくはない」
うわぁ……相澤の様子からすると、かなり公安を疑っているな。
いや、実際その疑いは決して間違いという訳ではないのだが。
俺が公安と取引をして、今のような状況になっているのは間違いないのだから。
「それに……お前の使う瞬動や虚空瞬動だったか。それは個性ではなく、訓練は必要だが、誰でも使えるようになるんだろう?」
「そうですね。才能にもよりますけど、相応の訓練時間を必要としますが」
天才とかそういう類の者なら、あるいはそれなりに短い訓練時間でどうにかなるかもしれないが……ただ、瞬動にしろ虚空瞬動にしろ、魔力や気を使えるのが前提となっている。
そういう意味では、そこから訓練が必要になる訳だ。
龍子や優は殺気とかを感じる訓練をしているものの、そこから更に上昇して魔力や気を使えるようになるのは、一体いつの事やら。
もっとも殺気を感じるのと魔力や気を使えるようになるのは別の話なのだが。
ただ、前提条件として殺気や気配を感じられるようになっておいた方が、魔力や気を使いやすくなるというのも事実なのだが。
「そうらしいな。実際、今のところまだA組の生徒で瞬動や虚空瞬動を使えるような者はいない。だが……アクセル、お前は使える。個性ではないにも関わらず、傍から見れば個性にしか見えないような技術をな。なら、お前の個性の混沌精霊……それもまた、個性ではなく、瞬動や虚空瞬動のように誰でも使えるようになるものではないのか?」
あー……こっちでもそう思ったか。
いや、相澤の考えを整理すれば、決してその予想が間違っているという訳ではない。
だが、俺が使えるからといって、瞬動や虚空瞬動と混沌精霊を一緒にするのは、明らかに間違っているだろう。
そもそも瞬動や虚空瞬動はこう、人の形のままでどうにかなるが、炎獣は俺の白炎によって生み出された存在なのだ。
であれば、瞬動や虚空瞬動と一緒にするのが間違っている。
もっとも、この辺については実際にそれらを使える俺だからこそ分かる事な訳で、傍から見た場合、相澤にしてみれば瞬動や虚空瞬動と炎獣は同じように見えてもおかしくはない……のか? いや、明らかにおかしいだろうとは思うが。
それに、炎獣そのままは無理でも、ネギま世界の魔法……シャドウミラーでも一般的になっている魔法を使えるようになれば、その魔法で精霊を召喚して使役する事が出来る。
精霊の種類や数にもよって大きく違うが、一匹だけで下級の精霊くらいならある程度魔法を使えるようになればそれなりに手が届く難易度ではあった。
そういう意味では、相澤の考えがそこまで間違っていない……のかもしれないな。
とはいえ、だからといって今のこの状況で大人しくしているのもどうかと思うが。
「それについてはNoと言わせて貰いますね」
「……ほう。では、混沌精霊は個性だと?」
これで話は最初に戻ってしまうか。
とはいえ、この状況……本当にどうしたらいいんだろうな。
やっぱりここは公安に電話して目良に事情を説明して貰うか?
とはいえ、相澤の様子を見る限りだと、公安については信用していないっぽいんだよな。
そんな中で俺が公安の目良に連絡を取ると、それはそれで相澤が俺を余計に怪しみそうなんだよな。
こうなると、本当に一体どうしたものか。
そう思っていると、ふとこちらに近付いてくる気配に気が付く。
走るのではなく、空を飛ぶかのような、そんな速度で近付いてくる気配。
……そして、俺はその気配の主を知っていた。
相澤の話を取りあえずスルーし、視線を上に向けると……空から女が、それもウサギの耳を持つ――決してバニーガールではない――女が降ってくるのだった。