林間合宿、3日目。
今日もまた、俺は炎獣を出しては個性を伸ばす訓練をしている者達に向かって放っていた。
生徒達はそれぞれに自分の個性の訓練を行っているので、そんな面々がいつ何かあっても炎獣に対処する必要があるので、個性の訓練だけに集中は出来ない。
……炎獣を生み出して放っている俺が言うのもなんだが、この林間合宿はあくまでも個性を強化するのが目的なので、そういう風に考えると俺が炎獣で個性の訓練を妨害するのはどうかと思わないでもない。
とはいえ、相澤からそういう風にするように言われているのだから、俺としてもやらない訳にはいかない。
「アクセル、ちょっといい?」
炎獣を生み出している俺に対し、マンダレイがそう声を掛けてくる。
昨日、俺とマンダレイの間には色々とあったが、さすがプロヒーローと言うべきか、マンダレイは、もうあまり気にした様子はない。
……ただ、言動には出していないものの、頬が薄らと赤くなっているのは……まぁ、それは仕方がないだろう。
「何ですか?」
「イレイザーからの要望だけど、もっと炎獣を増やして欲しいという事よ」
「炎獣を? いいんですか? 今の状況でもかなり厳しい感じですけど」
今日生み出され、生徒達の妨害を行っている炎獣の数は、既に百匹近くになっていた。
生徒の数が40人となると、1人辺り2匹以上の炎獣が妨害をしている計算となる。
今でこそ生徒達にしてみればかなり厳しいのは間違いないのに、そこに更に炎獣を増やすというのは、かなり厳しくなるだろう。
「ええ、折角の林間合宿なんだもの。どうせなら厳しい訓練にした方がいいでしょう? Plus Ultraよ。それとも、アクセルの方はこれ以上炎獣は出せないのかしら?」
少しだけ心配そうにマンダレイが聞いてくる。
無理もないか。
俺の炎獣は……混沌精霊もだけど、個性ではないというのをマンダレイは知っている。
それだけに、個性についての訓練はともかく、全く理解出来ない状態なのだ。
なので、マンダレイとしては炎獣や混沌精霊については俺がどのくらい使ってもいいのか、つまり俺に負担がないかどうか、その辺りを心配しているのだろう。
とはいえ、実際には俺にとってその辺りは何の問題もないので、マンダレイの心配はあまり意味がなかったりする。
いやまぁ、マンダレイに心配して貰えるのが嬉しくないかと言えば、それは否なのだが。
「いや、俺には何の問題もないですね。それこそ、ここどころか魔獣の森全体を炎獣で埋めつくす程に炎獣を出せば、多少は疲れるかもしれませんけど」
「あのね……どのくらい広いのか、アクセルは理解出来ているの?」
呆れと共にそう言ってくるマンダレイだったが、実際に俺がやろうと思えばそのくらいは出来るだろうという自覚が俺の中にはあった。
もっとも、それを実際口にしたところで信じられるかどうかは微妙なところだが。
あるいは実際にやってみれば信じるかもしれないが……うん、それはそれで後々問題になりそうではあるしな。
「その辺りについては、ある程度理解はしてますよ。……とにかくそんな訳で、この程度の炎獣なら問題ないです」
「……そう。なら、私からは何も言わないわ。ただ、疲れたとかそういう事があったら、すぐに私に連絡をしてね」
「分かりました。多分そういう事はないと思うけど、そうなったらすぐに話しますよ。……もっとも、俺の場合はマンダレイとテレパシーで繋がる事が出来ないから、普通に声を掛ける事になる……マンダレイ?」
「馬鹿」
俺が最後まで言うよりも前に、顔を赤くしたマンダレイがそう言うと、俺の前から走り去る。
あー……うん、なるほど。そういう事か。
昨日の件を思い出して、俺の話の持っていきかたが問題だったのだろうと納得する。
魔力によって色々とあるのはそれなりに経験があるものの、念動力によって問題があるというのは珍しいのもあって、ちょっとデリカシーに欠けていたな。
昨日、マンダレイが俺にテレパシーを繋ごうとしたところで、俺の持つ念動力と妙な干渉をしたんだよな。
マンダレイのテレパシーはあくまでも個性であって超能力ではないのだが……俺の持つ念動力は超能力と認識してしまったらしい。
その結果……うん、干渉の何がどうなってそうなったのかはちょっと分からないが、とにかくマンダレイは性的な快感を身体全身で味わってしまい、達してしまった。
それも俺……だけではなく、他にも何人もいる前で。
昨日は何とか羞恥心に耐えたマンダレイだったが、今日改めてここでその件について言われ、昨日の一件を思い出してしまったのだろう。
走り去るマンダレイは、さすがプロヒーローだけあって鍛えており、その動きは素早い。
そんなマンダレイの後ろ姿を見送ると、俺は反省の意味も込めて炎獣を生み出す。
「おいこら、ヒモ野郎ぉっ! てめえ、どんだけ炎獣を出すつもりだごらぁっ!」
そうして炎獣を生み出し続けていると、不意に爆豪から声が掛けられる。
相変わらずドラム缶の中に入っている水の中でひたすらに個性を使っていた爆豪だったが、ヒーロー科の生徒とは到底思えない、それこそヴィラン連合に所属しているヴィランではないかと思えるような、そんな顔で睨み付けてくる。
これ、もしかしたら俺が原作に影響を与えたから、爆豪は雄英にいる訳で、もし原作通りの流れだったら爆豪ってヴィラン連合に寝返っていたりしないだろうな?
「ああ、悪いな。爆豪にはこの程度の炎獣は厳しかったか。悪いな、もう少し手加減をして炎獣を生み出すから、安心してくれ」
意図的に爆豪を挑発するように言う。
何しろ、この林間合宿は個性を伸ばす為の厳しい訓練をする為の合宿だ。
ましてや、俺が原作に介入している影響もあってか、原作主人公の緑谷や他の面々……A組の仲間達も実戦経験がかなり減らされている可能性がある。
勿論それをカバーするように自主訓練を積極的に行ったり、ステインの時のように戦うのを任せたりといったような手を回してはいるが、それでも俺がいる事によって実戦経験が減っているのはどうしようもない事実。
であれば、やはりこの機会を逃さずしっかりと訓練を……それこそかなり厳しい訓練を行う必要があった。
そうするには、爆豪を挑発するのが一番手っ取り早い訳で……
「んだとこらぁっ! この程度、楽勝だよ! もっと増やしやがれクソが!」
「ちょっ、爆豪!? お前いきなり何を言ってるんだよ! うおっ!」
少し離れた場所にいた切島が爆豪の言葉を聞いて咄嗟にそれを止めようとしたものの、同じ訓練をしている鉄哲を蹴り飛ばしたミルコが、その反動で硬化の個性を使った切島の身体を蹴る。
鉄哲を一撃で蹴り飛ばしただけに、ミルコの一撃は間違いなく威力が落ちていた。
落ちていたものの、それでも切島の足が地面を削る程度の威力は発揮されている。
何だかんだと、ミルコはプロヒーローの中でもトップクラスの実力があるという事の証明でもあった。
ともあれ、そうして切島の言葉が途中で途切れたのをこれ幸いと、俺はこの場で訓練をしている者達全員に聞こえるように大声を出す。
「よし、爆豪からのリクエストだ! どうやら炎獣の数が足りないみたいだから、これからどんどん炎獣を増やしていくぞ!」
『爆豪ぉっ!』
俺の言葉に、A組……だけではなく、B組の面々からも爆豪を非難するような声が上がる。
だが、爆豪はそんな周囲の声は全く気にした様子もなく、寧ろ望むところだと言った様子で獰猛な、ヴィランの如き笑みを浮かべる。
「こいやぁっ、ヒモ野郎! 炎獣がなんぼのもんだぁっ!」
うん、やる気があって結構。
さすがに何度負けても俺に挑み続けるだけの実力の持ち主ではあるな。
そんな訳で、俺は一気に100匹炎獣を追加する。
どん、と。
ただ、それでもやりすぎればそれはそれで問題だろうと考え、増やしたのは最大でも犬や猫といった程度の炎獣だけだ。
猪や鹿といった大きめの炎獣はいないし、ライオンや虎、熊といった肉食獣の炎獣もいないし、グリフォンやドラゴンといったようなモンスター型の炎獣もいない。
そういう意味では、数こそ多いものの質という点では決して優れていない……そんな炎獣の群れだ。
とはいえ、ヒーロー科の生徒達にはそういうのが分かる訳でもなく……
「ぎゃあああああっ! 無理無理無理ぃっ!」
「くっ、テープで……うわああっ、空にも鶏の炎獣がいる!?」
「身体中をバラバラにすれば……あ、ちょっ、それ私の手だから咥えて持っていかないで! 熱い!」
「鱗を飛ばしても、全く効果がないぞこれ!」
うわぁ、悲惨。
自分でやっておいてなんだが、一気に増えた炎獣に訓練をしている者達が滅茶苦茶な状態になっている。
A組、B組の面々は必死になって炎獣から逃げたり、中には自分の個性で反撃をしたりする者もいるのだが、炎獣には効果がない。
「ちょっ、茨!? あんた何をしてるのさ!」
不意に聞こえてきた拳藤の声に視線を向けると……うわぁ。
そこでは茨が自分の個性である蔦を使って檻を作り、炎獣を外に出さないようにしていた。
いや、それだけなら凄いと評価してもいいんだろうが……蔦で出来た檻は、茨を中心にして作られている。
それはつまり、多数の炎獣を閉じ込めた蔦の檻の中心には茨がいるという事になる。
炎獣は触れた相手に熱いと思わせる温度の白炎で身体を構成されているものの、実際には火傷を負わせるとか、そういう力はない。
ないのだが……それでも触れた瞬間には熱いと思う程度の温度なのは間違いなく、そんな炎獣を大量に自分を中心とした檻の中に閉じ込めるというのは、自殺行為にしか思えない。
実際、掌を巨大化させて炎獣に対処しようとしていた拳藤の声には、切羽詰まったものがある。
拳藤にとって、茨は……俺を信仰するという意味の分からない事をしてはいるが、だからこそ何だかんだと俺と一緒にいる事が多い拳藤は、茨と一緒にいる事も多い。
まぁ、俺を抜きにしても拳藤と茨は同じB組なので、そういう意味でも一緒にいる機会は多いのかもしれないが。
「大丈夫、心配しなくてもいいわ」
焦った様子の拳藤に、ピクシーボブがそう声を掛ける。
「ピクシーボブ? けど……」
「マンダレイがしっかり中の子とテレパシーで意思疎通してるから、大丈夫。……でも、凄いわね。私から見てもとても耐えられるとは思えないのに、中の子は平気みたいよ。勿論、厳しいとは思っているんでしょうけど」
そう言うピクシーボブは決して嘘を言ってるようには思えない。
林間合宿の担当……というか、補助? それとも別の呼び方があるのかは分からないが、とにかく俺が言うのもなんだけど生徒達の安全には最大限気を付けている筈だ。
だからこそ、今も茨の様子を見てしっかりと安全かどうか様子を見てはいるんだろう。
……いや、寧ろこの場合、驚くのはプッシーキャッツの面々の対応ではなく、炎獣をあそこまで一ヶ所に集めているにも関わらず、まだ平気な茨か?
勿論、茨が何でそこまで頑張れるのかというのは、考えるまでもなく知っている。
茨にとって俺は信仰の対象となっており、そんな俺が生み出した炎獣だけに、それに耐えられない筈はないと、そう思っての行動なのだろう。
混沌精霊としての俺を知ってる訳でもないのに、何でそこまで茨は俺を信仰するのか……その辺は俺にもちょっと分からないものの、茨がそのように考え、お遊びではなく真剣な様子でそのようにしているのなら、俺が特に何かを言ったりは出来ない。
いや、茨の信仰する対象が俺なら、俺が止めろと言えば恐らく止めるとは思う。
思うのだが、だからといって林間合宿の訓練で止めろと言う訳にもいかないだろうし。
取りあえずラグドールやマンダレイがそれぞれの個性で様子を見て、問題ないと判断したのなら俺としてもこれ以上は何も言うつもりはない。
「うおおおおっ!」
茨の件は取り合えず問題ないだろうと判断していると、再びそんな声が聞こえてくる。
声の聞こえた方に視線を向けると、そこでは飯田が個性のエンジンを使って追ってくる犬の炎獣から逃げていた。
見る者が見れば、あるいは追いかけっこといったように見えるかもしれない。
……もしくは、犬の炎獣に襲われて逃げているといったような感じか。
とにかく、今こうして必死に逃げている飯田だったが、これもまた個性の訓練の一環なのだろう。
なので、取りあえずもう数匹犬の炎獣を飯田に向かわせる事にする。
そう言えば、緑谷のような増強系の面々は……と、飯田を追うように炎獣に指示を出してから緑谷の方を見ると、何人かの増強系の個性の持ち主と一緒に虎を相手に筋トレを重ねていた。
Plus Ultraしろよ、Plus Ultra、と。
微妙に煽るように言ってる虎は……多分、やる気にさせる為、意図的にそういう風に言ってるんだとは思うけど。
こうして他の面々を見ながら、俺は随時炎獣を追加していくのだった。