マンダレイに情報を教えるべく移動しようとしたが、問題なのはマンダレイのいる場所が分からないという事だろう。
肝試しが始まる前にマンダレイが……ピクシーボブや虎と一緒にいた場所にまだいるかどうかは分からない。
それでもまず手掛かりはスタート地点なのでそちらに向かおうと思ったのだが、幸いな事にミルコがその辺りについての情報を知っていた。
ヴィラン連合……正確には開闢行動隊の襲撃があってから一度ピクシーボブ達と合流したのかとも思ったが、どうやら脳無と戦っている時に上空から見たらしい。
その時、どうやら開闢行動隊に所属する他のヴィランと戦いになっていたらしいが、ミルコは脳無を倒す方を優先したらしい。
ミルコの判断は決して間違っているとは言わない。
実際、俺と遭遇した脳無以外にも複数の脳無の姿が確認されており、ミルコはその脳無と戦っていたらしいし。
もしミルコがいなければ、生徒達が脳無と遭遇する事になり、最悪何人もの死者が出ていただろう。
そういう意味では、ヴィラン連合や開闢行動隊の狙いは外れた形になる。
多分……本当に多分だが、今回投入された脳無は俺に対処する為に用意された戦力のような気がするんだよな。
ヴィラン連合にしろ、開闢行動隊にしろ、俺という突出した戦力の存在は認識している筈だ。
特にヴィラン連合……シラタキと黒霧は実際に間近で俺の戦いを見ている。
であれば、俺の対処の為に脳無を用意するというのは分からないでもない。
……もっとも、そんな脳無もミルコによって大体が倒されたのだが。
そう考えると、俺を襲ってきた脳無はミルコに見つからずにすんで運が良かったのだろう。
あるいはミルコが他の脳無の相手をしている時に、偶然俺を見つけたか。
けど、そこまで脳無が大量に投入されていると知っていれば、狛治にも時間稼ぎをしないで普通に倒してもいいと言っておけばよかったな。
ともあれ、そんな訳で脳無の心配は……追加で投入されない限り、今のところは特に心配をしなくてもいい。
そんな風に思いつつ、ミルコから教えて貰ったマンダレイ達のいる場所に向かっていると、不意に何かが近付いてくる気配を察知する。
噂をすれば何とやら、追加の脳無か?
そう思ったのだが……森に生えている木々を破壊するようにして姿を現したのは、巨大な黒い塊だった。
何だ?
そう思ってよく見てみると……
「ダークシャドウ!?」
大きさこそ俺の知っているダークシャドウと大きく違うが、それでも形を見ればダークシャドウなのは間違いない。
そしてダークシャドウは常闇の個性である以上、これは常闇に何かが起こったのか?
一瞬、迷う。
ダークシャドウをそのままにして、少しでも早く今回の襲撃はヴィラン連合によるものだという情報をマンダレイに届けるべきか、それともダークシャドウの方を何とかするべきか。
そうして迷ったが、視界の隅に緑谷を背負った障子を見ると、まずはダークシャドウをどうにかする方が先だろうと判断する。
緑谷の性格を考えれば、このような状況で障子に背負われたままという事はないだろう。
だが、それでも障子に背負われているという事は、緑谷に何かあったという事を示している。
この世界の原作主人公である緑谷が危険な状態になっている以上、俺の中にそれを助けないという選択肢は存在しない。
もしここで緑谷を放っておけば、最悪ここで緑谷が死んでしまうといった可能性も否定は出来ないのだから。
マンダレイに情報を持ち込むのも重要だが、緑谷の安全とのどちらが重要なのかと言われれば、間違いなく緑谷の方が重要だろう。
「障子、緑谷!」
森に生えている木々の中に突入し、声を掛ける。
「アクセルか」
「アクセル君!?」
障子と緑谷は俺を見てそう声を掛けてくる。
そのタイミングでダークシャドウが巨大な腕を振るって周囲の木々ごとこちらに向かって攻撃してくる。
緑谷を背負った障子は、その攻撃を回避しながら俺の側までやってくる。
「で、何があった?」
「俺がヴィランの攻撃でダメージを受けたのを見た常闇が……な」
短い言葉だが、その言葉で納得出来た。
常闇は厨二病を患っているものの、性格的には仲間思いの一面が強い。
それだけに、仲間が……クラスの中でもそれなりに常闇と仲の良い障子が怪我をしたのを見て我慢出来なかったのだろう。
「なるほど。そうなると、まずは常闇を止める必要があるな」
「俺の事は……いい! 他と合流し、他の者達を助けろ!」
ダークシャドウの中に埋まっているといった表現が正しい常闇が、何とか我慢しながら叫ぶ。
常闇も何とかダークシャドウを抑えようとしているのだろう。
普段のダークシャドウは常闇の影から生えている――といった表現が正しいのかどうかは微妙だが――のに対し、今は常闇の影から出るのではなく、常闇の身体全体がダークシャドウの身体に埋まっているような状態だ。
それを見れば、やはりダークシャドウが暴走しているのは間違いない。
「常闇、待て。すぐにお前を助けるから」
「アクセル……だが、お前は……」
「心配するな。お前のダークシャドウは俺にとって相性の良い相手だ。それもこれ以上なくな」
「……すまん、頼む……俺が何とか動きを封じているうちに!」
「任せろ」
その言葉と共に、大きく手を動かす。
するとそんな俺の手の動きに合わせるように、空中に白炎が生み出される。
周囲を照らし出す白炎。
それを見た瞬間、常闇を身体に埋めているダークシャドウが間違いなく怯んだ。
そして一度怯んでしまえば、後はむずかしくはない。
常闇を中心に白炎を生み出し、白い炎で常闇を……ダークシャドウを照らしていく。
白炎が生み出されるに従い、ダークシャドウの姿は小さくなっていく。
ダークシャドウを何とか抑えようとしていた常闇の顔からも、強ばりが……何とかダークシャドウを抑えようとする動きがなくなり、安堵の表情を浮かべていく。
「……どうだ?」
「すまん、闇を統べる者。助かった」
アクセルから、いつものように闇を統べる者といった呼び掛けに変わっているのは、常闇もそれなりに安心した証だろう。
実は、白炎を生み出して炎の明かりでダークシャドウを弱めるか、いっそ刈り取る者を召喚し、ダークシャドウよりも強力な闇の存在の圧力を発してダークシャドウを抑えるか、どちらにするのか迷ったんだけどな。
狛治の件もあったので、そろそろ召喚魔法について解禁しても……と思いもしたのだが、ここにいるのは緑谷、障子、常闇の3人だ。
それを思えば、わざわざ召喚魔法を見せなくてもいいだろうと判断した。
……いっそ狛治とかならまだ何とか誤魔化しが利くんだが、刈り取る者はあからさまに悪役っぽい感じだしな。
そう考えると、やはりここは召喚魔法よりも白炎の方がいいと判断したのだが、どうやら当たりだったらしい。
白炎によってダークシャドウは見る間に小さくなっていく。
明かりがあれば、それだけダークシャドウは弱まる……つまり、常闇にとって操りやすくなるのだろう。
「無事なようで何よりだ。……一応聞くけど、今はもう落ち着いたが、まだ明かりは必要か?」
この状況で明かりを消した瞬間、再びダークシャドウが暴れるような事になったら、対処するのは大変になる。
いや、これで襲撃がない状態なら轟の炎や爆豪の爆発といったように、ダークシャドウをどうにかする方法があるのだが、襲撃中の今はとてもではないがそのような事は出来ない。
ましてや、開闢行動隊の狙いが爆豪である以上は、可能な限り爆豪を目立たせたくはない。
もっとも、爆豪の性格を考えるとお前が狙われているから目立つなと言っても、素直にそれを聞くとは思えなかったが。
そんな心配をしながら常闇の返事を待つと……
「大丈夫だ、問題ない。俺の闇は既に安寧にある。この身の限界を超えなければ、俺の闇の分身が今のように暴れるようなことはない……」
「ゴメンヨウ」
常闇の影からダークシャドウが姿を現し、そう謝ってくる。
……うん、これを見れば確かにダークシャドウが元に戻ってるな。
どうやら暴走しても、一度落ち着かせれば元に戻るらしい。
そういう意味では、こんな夜の森の中でダークシャドウを暴れさせてしまったのが、常闇のミスなのだろう。
いや、ヴィランの襲撃があった以上、仕方がないとは思うが。
「なら、この話はこれで終わりだ」
見た感じだと、緑谷や障子は……特に緑谷はダークシャドウによって大きなダメージを受けた様子だ。
だが、その緑谷がダークシャドウを……常闇を責める様子はない。
もっとも、緑谷も未だに自分の個性を完全に使いこなしているといった訳ではない以上、自分と同じように個性に振り回される常闇には親近感を持っていてもおかしくはないし、個性の暴走も仕方がないと思えるのだろう。
あるいは、そういう緑谷だからこそこの世界の原作の主人公なのかもしれないが。
「すまん」
「だから気にするなって」
改めて謝る常闇に、そう声を掛ける。
「とにかく常闇の件はこれで片づいたとして、これからどうするかだな」
「アクセル君はどうするの?」
「俺はマンダレイの所に行く。マンダレイ達がどうなっているのか分かるか? 生憎と俺は個性の関係でテレパスを受信出来ないから詳細な情報は分からないんだ」
あるいは、マンダレイに余裕がある状態でなら自分がどのようになるのかを承知の上で俺にテレパスを送ったりするかもしれない。
だが、今のところそのような状況がないのを考えると、恐らくマンダレイも……つまり、ピクシーボブや虎もヴィラン、開闢行動隊の襲撃を受けている可能性が高い。
さすが原作における主人公の敵対組織と言うべきか、結構な数の戦力を有しているっぽいんだよな。
「マンダレイ、ピクシーボブ、虎の3人はヴィランと戦っていたよ。ピクシーボブは最初の一撃で気絶していて、今はマンダレイと虎が何とかヴィラン2人と戦っていた」
緑谷からの情報になるほどと頷く。
どうやら俺が知らない間に緑谷はプッシーキャッツの面々と遭遇していたらしい。
とはいえ、ピクシーボブ、マンダレイ、虎の3人がヴィランと戦っているとなると、ラグドールはどうしたのかという疑問がある。
まぁ、今はそれよりもマンダレイに情報を伝える必要があるので、そちらに向かうのを優先するが。
「お前達には先に言っておくか。俺が知らせればマンダレイからのテレパスで知る事が出来るかもしれないが、別に今ここで教えても構わないだろうし。……襲ってきたヴィランは、開闢行動隊。話を聞く限りだと、どうやらヴィラン連合の特殊部隊か何かの役割を持ってるっぽい感じだ」
「ヴィラン連合の!?」
俺の言葉に緑谷が驚愕した様子を見せる。
常闇と障子も言葉には出していないものの、驚きの表情を浮かべているのは同じだ。
無理もないか。
ヴィラン連合はUSJで俺達を襲撃してきた組織だ。
原作では恐らく主人公である緑谷の宿命のライバルとでも呼ぶべき存在になっている筈だ。
特に緑谷は、以前クラスの面々とショッピングモールに買い物に行った時、ヴィラン連合の幹部であるシラタキと遭遇しているくらいだしな。
「ちょっ、ちょっと待って、アクセル君。敵がヴィラン連合って事は……かっちゃんを狙ってるのがヴィラン連合って事!?」
轟から聞いた話によると、開闢行動隊の狙いがかっちゃん……つまり、爆豪であるというのをマンダレイがテレパスで連絡してきたらしい。
そして爆豪をかっちゃんと呼ぶのはA組の中では緑谷しかいない。
つまり、開闢行動隊の狙いが爆豪であるという情報をマンダレイに伝えたのは、緑谷だという事になる。
「そうなるな。何を思って爆豪を狙ってるのかは分からないが。……単純にヴィラン連合にスカウトする為って言われても納得するけど」
「そうだな」
障子が俺の言葉にあっさりと同意してくる。
どうやら障子にとっても、俺の言葉は正解であるように思えたらしい。
……まぁ、爆豪を知っていれば、誰でもそれが容易に予想出来る事ではるが。
「ちょっ、2人共……まぁ、その、かっちゃんだから強く反論は出来ないけど……」
反論したいが反論は難しいといった様子で緑谷が言う。
「とにかく、爆豪は轟と一緒だし、炎獣も護衛にいる。それにミルコも……まぁ、多分護衛としている」
「ちょっ、アクセル君、それ一番重要なところ!」
俺の言葉を聞いた緑谷がそう返してくるが、実際問題、ミルコの性格を考えると大人しく爆豪を護衛するよりも、爆豪が連れ去られるよりも前に開闢行動隊の面々を全員倒してしまえばいいといったような考えになってもおかしくはない。
そうなれば、ミルコは自分の考えに従って即座に行動を起こすだろう。
「では、俺達も爆豪に合流するという事で構わんか?」
話を聞いていた常闇がそう尋ねてくるので、頷く。
「そうしてくれ。爆豪が狙われている以上、護衛の戦力は多い方がいいしな」
そう言う俺の言葉に、緑谷達3人は真剣な表情で頷くのだった。