転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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4544話

「俺を忘れて貰っては困るな!」

 

 スピナーと向き合っている俺に、口裂け男が不意に蒼炎を放ってくる。

 口裂け男にしてみれば、スピナーと向き合っている俺に隙があると思ったのだろう。

 そんな口裂け男に対し、俺は白炎を放つ。

 一瞬だけ空中で白炎と蒼炎が拮抗するものの、次の瞬間には白炎が蒼炎を飲み込み、口裂け男に向かって飛んでいく。

 だが、口裂け男も自分の個性の蒼炎で俺の白炎に敵わないというのは、これまでの経験から分かっているのだろう。

 白炎が向かった時、そこには既に口裂け男の姿はない、

 

「いやん、離してちょうだい!」

 

 不意に聞こえてきたその声に一瞬視線を向ける。

 するとそこでは、サングラスの大男が虎によって拘束されていた。

 ……ただ、その拘束は押さえつけるという意味での拘束ではない。

 虎の身体が紐状……軟体動物的な? そんな感じになって、サングラスの大男を拘束していた。

 恐らくあれが虎の個性なのだろう。

 プッシーキャッツは4人のヒーローのチーム名だ。

 ピクシーボブは土、マンダレイはテレパス、ラグドールはサーチ。

 これまで3人の個性は分かっていたが、残る最後の虎の個性がこれ……何だ? 軟体とでも表現すればいいのか? とにかくそんな個性だったらしい。

 それによって敵の……開闢行動隊の残りの戦力はまた2人に戻った。

 ……その2人の攻撃は何故か俺に集中しているが。

 ちなみにマンダレイは隙を見てこちらに介入しようとしているものの、口裂け男の存在が厄介らしく、上手い具合に行動は出来ていない。

 

「お前達で俺に勝てると思うのか? 大人しく降伏すれば、こっちとしても楽なんだけどな」

「貴様のような存在に降伏するなど有り得ない! ステインの為にも!」

 

 今の一言は、別に挑発をするつもりで口にした言葉ではない。

 言葉ではないのだが、それを聞いた瞬間スピナーの怒りは一瞬にして頂点に達し、手にした刃物の塊を俺に向けて叩き付けてきた。

 1本ずつの刃物はそこまで重くはないだろう。

 だが塵も積もれば山となるという言葉通り、数十本……いや、百本単位の刃物が集まったあの塊は、かなりの重量になっている筈だ。

 だが、スピナーは若干その重さに振り回されてはいるようだったが、それでもそれなりに使う事が出来ていた。

 異形系としての、人間以上の身体能力があってこその行動なのは間違いないだろう。

 間違いないだろうが……それでも、俺に命中させるにはあまりに動きが鈍すぎた。

 先程は足を引っ掛けただけで終わったが、今度はしっかりと倒させて貰おう。

 ……一瞬、本当に一瞬、スピナーもまた口裂け男と同じように分身だったら? と思ったが、それはそれ。これはこれだろう。

 分身であったら、それはそれで構わない。

 幸いというか、口裂け男と違ってスピナーは今のところ個性らしい個性を使っていない。

 まだ個性を隠しているだけなのか、それとも異形系ではあってもそれだけなのか、もしくは個性があっても戦闘に使えるような個性ではないのか。

 その辺りは生憎と俺にも分からなかったが、とにかくこの戦いにおいて個性を使わないのなら、こちらとしては倒しやすい相手でしかない。

 だからこそ、俺としては今この場でスピナーは倒してもいいと、そのように判断したのだ。

 

「邪魔だ」

 

 素早く立ち位置を変え、俺の視界の外から蒼炎を放ってくる口裂け男。

 ……さっき戦った時、個性はそれなりの強さを持っているが、体術的な意味ではそこまでではないと判断したのだが、スピナーの動きを見る限り、ヴィランにしてはやっぱりそれなりに動けるんだな。

 とはいえ、気配を消すといった事もせずに動いても、俺にとっては意味のない事なのだが。

 そんな訳で、あらぬ方――口裂け男の認識的に――から蒼炎が放たれるが、その時は既に白炎を放って蒼炎を迎撃していた。

 そのタイミングでスピナーは俺に向かって刃物の塊を振り下ろす。

 トン、と。

 地面を蹴ってスピナーの一撃を回避し、目の前を刃物の塊が通りすぎ、地面に叩き付けられた瞬間にスピナーの顔を、力を加減し……1発で頭がパァンッ、としないような力加減で殴る。

 グシャリ、と。

 肉を潰す感触が俺の手に感じられる。

 同時に、吹き飛ぶスピナー。

 今の一撃を入れても解除されないという事は、スピナーは口裂け男のような分身ではないという事を現していた。

 となると……一瞬、虎に拘束されているサングラスの大男に視線を向けるが、恐らく向こうも分身ではない可能性が高い。

 そんな風に思いつつ、その場で跳躍して後ろに向かって回し蹴りを放つ。

 

「ぐ……おおおおおおっ!」

 

 口裂け男の拳と俺の足がぶつかり、一瞬も拮抗しないで俺の一撃が勝利し、口裂け男は吹き飛んでいく。

 蒼炎と白炎でやり合えば自分の蒼炎が負けるという判断をし、なら個性ではなく近接戦闘で俺に挑もうとしたのだろう。

 その判断はそう悪くない。

 自分の最大の武器である個性を捨て、あっさりと近接戦闘に持ち込もうと考えたのは英断ですらあっただろう。

 しかし口裂け男にとっての最大の計算違いは、俺が個性を使わなくても素の状態で強いというのを想像出来なかった事だろう。

 いや、勿論俺の情報は集めているんだろうし、例えば体育祭の放映であったり、ステインを倒した時の映像なんかを見れば、俺が個性を使っていない素の状態であってもそれなりに動けるというのは分かっていた筈だ。

 だが……口裂け男にとって不運だったのは、それが俺の全力だと思った事だろう。

 実際には決してそんな事はなく、俺はこの世界で本当の意味で全力を出してはいない。

 全力ではないが、それでも一番力を発揮したとなると、期末テストの実技演習でオールマイトと戦った時だろう。

 そして、あの口裂け男はそれなりに動けるが、オールマイト――重りつき――には到底及ばない。

 そういう意味では、俺の蹴りと口裂け男の拳がぶつかりあって、俺が勝利するのは当然の事だった。

 そもそもの話、足は手の3倍の力があると言われている。

 そういう意味でも、口裂け男が拳で俺に勝利をするというのが、そもそもの間違いではあったのだろう。

 

「さて、それじゃあ、そろそろ……」

 

 勝負もついたし、降伏しないのなら捕らえよう。

 そう言おうとした瞬間、ちょうどそのタイミングで空中に黒い穴が生み出される。

 それが何か、俺は知っていた。

 ……というか、そもそも今回の襲撃でも俺に対して執拗に口裂け男の分身を送ってきたり、脳無を送ってきたりと妨害に専念していた。

 そのお陰で、かなり面倒な目に遭ったのは間違いないのだから。

 

「虎、離れろ!」

 

 ずず……と、黒い穴が、ワープゲートとしても使われる黒霧の身体がサングラスの大男を拘束している虎に向かったのに気が付き、咄嗟に叫ぶ。

 そんな俺の叫びが聞こえたのだろう。虎は咄嗟に個性を解除してサングラスの大男から離れ……次の瞬間、サングラスの大男が黒霧の身体に包まれる。

 

「スピナー、貴方も来て下さい」

「やらせると思うのか?」

 

 この場に唯一残った――分身という意味では口裂け男もいるが――スピナーに向かって声を掛ける黒霧に、そう言う。

 だが、黒霧はその名前通り空中に浮かぶ黒い霧に浮かぶ目で俺を見ると、口を開く。

 

「勿論、このまま見逃してくれるとは思いません。なので、これは私からのプレゼントです」

 

 その言葉と共に、2匹の脳無が姿を現す。

 ちっ、まだ脳無の予備戦力があったのか。

 狛治に1匹回し、ミルコが結構な数の脳無を倒した筈。

 だというのに、それでもまだ脳無を出せるだけの余裕があるというのは、予想外だった。

 1匹はサーベルタイガーの如き巨大な牙を持つ脳無。

 もう1匹は人型……だと思うのだが、皮膚は一切なく、脳だけではなく眼球や顔、身体中の筋肉が剥き出しになっている脳無。

 幸いだったのは、どちらも空を飛ぶようなタイプではないという事だろう。

 ……まぁ、このヒロアカ世界でも空を飛ぶ個性というのはそれなりに希少だ。

 そう考えれば、空を飛ぶ脳無というのもまた希少なのだろう。

 とはいえ、空を飛べないからといってその脳無が弱いという訳ではない。

 

「ふざけるなっ! ステインの意思を途絶えさせた存在をこのままにしておけと!?」

 

 スピナーが大きな身振りで不満一杯に叫ぶ。

 俺はこちらの様子を窺う脳無の様子を見つつ、これはいけるか? と思う。

 スピナーにとって、俺という存在はそれだけ許されざる者なのだろう。

 それこそ、仮にも仲間である黒霧……それもやり取りからして、身分的には黒霧の方が上であっても、こうして言い返しているのだから、半ば暴走状態に近いのだろう。

 つまり、上手くいけばこのままスピナーをこっちで確保出来るかもしれなという事を意味している。

 これが分身の口裂け男なら捕虜にしてもすぐに自害をするなり、あるいは暴れ回って結局大きなダメージを受けて分身が解除されるなりといった事になるのだろうが、スピナーは俺が殴ってもそのままだという事で、分身ではないのは明らかだ。

 だからこそ、黒霧もスピナーを確保しようとしてるのだろうが。

 トン、と。

 そんな話の中、一切空気を読まず、瞬動を使って巨大な牙を持つ脳無との間合いを詰める。

 スピナーをどうこうするにしろ、黒霧が用意した2匹の脳無は間違いなく戦う事になる。

 であれば、スピナーを確保するにしろ何にしろ、とにかく脳無は可能な限り素早く倒しておく必要があった。

 

「グ……ガアアアア!」

 

 拳が身体にめり込み、牙の脳無が吹き飛ぶ。

 それも、皮膚のない脳無に向かって。

 そうして2匹の脳無がぶつかったところで……

 

「急ぎなさい! こちらの目標は達成したのです! それを貴方1人の私情で台無しにするつもりですか!?」

 

 白炎を生み出そうとした瞬間、聞こえてきた黒霧の声。

 その内容に一瞬止まり、だがすぐに白炎を放つ。

 だが……目的を達しただと?

 それはつまり、かっちゃん……爆豪を向こうに奪われたという事なのか?

 2匹の脳無が白炎に包まれるのを見ながら、蒼炎を放とうとしていた口裂け男に向かって白炎を放つ。

 その瞬間を見逃さず、スピナーが走り出す。俺……ではなく、黒霧に向かって。

 ちっ、まだスピナーの中に冷静さが残っていたか。

 そうなるといっそ、スピナーが黒霧のゲートに入るのとタイミングを合わせて白炎を……いや、駄目だ。爆豪が捕らえられている以上、白炎を使うと爆豪に被害がいきかねない。

 なら、それ以外の……手榴弾? と一瞬思い浮かべたが、これもまた爆豪に被害が……となると、半ば嫌がらせ目的でしかないが……

 空間倉庫からスタングレネードやフラッシュグレネード、いわゆる閃光手榴弾と呼ばれる物を複数取り出す。

 どの世界でかはもう忘れたが、テロリストか何かのアジトを襲ったか、あるいは盗みに入った時に入手した代物だった筈だ。

 ともあれ、そんな数個のピンを抜かれたフラッシュグレネードがスピナーと一緒に黒霧の中に消え……そしてゲートを作り出している黒霧の身体も消える。

 残念、フラッシュグレネードの効果は分からなかったな。

 しっかりとピンを抜いていたので、黒霧の転移先でしっかりと効果を発揮している筈だ。

 爆豪が捕らわれたという話なので、もしかしたら爆豪も光に目を眩まされるかもしれないし、轟音で耳が一時的に麻痺するかもしれないが、それはそれで仕方がない。

 これで爆豪がいなければ、本来なら炎獣を突っ込ませて暴れさせたりしてもよかったのだが、それが出来ない以上は無理もない。

 

「お前……何を投げた?」

 

 蒼炎を手に、口裂け男がそう聞いてくる。

 いや、それは聞いてくるのではなく詰問や尋問といった表現の方が正しいだろう。

 

「さて、何だと思う? 取りあえず分かっていることは黒霧達が大変な事に……なってるって事だ」

 

 最後に一瞬言葉を止めたのは、口裂け男の後ろ……まだ距離があるが、気配を消してこちらに近付いてくる狛治の姿を見つけたからだ。

 脳無の相手を任せていた筈だが……狛治の実力を考えれば、脳無一匹では時間稼ぎにしかならないか。

 

「お前の本体も、恐らく大変な事になってるんだろうな。見た感じお前には影響がないみたいだけど」

「……てめえ」

「意外だな。ヴィラン連合にも仲間意識ってのがあるのか? それとも、やっぱり自分の本体を心配しての行動か? どっちにしろ、お前がここに残っても出来る事はそうないと思うんだけどな。降伏しろよ。お前の炎、蒼炎じゃ俺の白炎には勝てない。個性じゃなくて、純粋に身体能力や近接戦闘の技量でも俺に勝てないのは十分に分かってるんだろう?」

 

 それは事実ではあるが、同時に挑発でもある。

 これで口裂け男が俺に注意を向ければ、狛治の存在に気が付く可能性が少しでも減るのだから。

 狛治の気配の殺し方はそれなりに上手い。

 俺の気配遮断には遠く及ばないが……まぁ、俺の場合は気配を殺すじゃなくて、気配遮断というスキルを使っての行動だしな。

 ともあれ、狛治は気配を殺したまま口裂け男の後ろまでやって来て……

 

「俺はギュペ……」

 

 何かを言おうとした口裂け男だったが、それを言うよりも前に狛治が首筋に手刀を振るい、意識を刈り取る。

 ……分身が解除されないのは、それだけ手加減が上手かったからだろう。

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