取りあえず煽ってくる物間の件は放っておく。
拳藤がここにいれば1発で黙らせてくれたかもしれないが、生憎と拳藤は今ここにはいない。
結局森の中では拳藤と会う事はなかったので、どうなっているのかは分からないが……無事だといいな。
ともあれ物間の件は置いておき、ピクシーボブをまだ無事な……蒼炎の被害が出ていない部屋のベッドに寝かせると、改めて話し合いを行う。
なお、俺がピクシーボブを、同じ女という事で三奈と共に休ませている間に、相澤やブラドキングは雄英に連絡をしたり、救急車を呼んだりとかしていたらしい。
ともあれ本当に緊急な状態については一段落したところで、俺は改めて森の中での件……開闢行動隊についての事とかを説明する。
「改めて聞くが、アクセル。その開闢行動隊は、撤退したんだな? お前達が撃退したのではなく」
相澤が自販機で買ってきたペットボトルの紅茶を俺に渡しつつ、聞いてくる。
俺が紅茶好きというのを知っていたのか、それとも偶然なのか。
……まぁ、この状況でコーヒーを渡されても、俺としては困るが。
そんな風に思いながら、相澤の言葉に頷く。
「はい、撤退です。黒霧が現れて、プッシーキャッツが戦っていた2人のヴィランを連れていきました。口裂け男……と俺が呼んでいる、蒼い炎を使うヴィランの分身? コピー? とにかくそういうのもいましたけど、そっちは気絶させてマンダレイと虎が確保しています」
そう言う俺の言葉に、相澤とブラドキングは苦い表情を浮かべる。
「マンダレイからのテレパスによれば、開闢行動隊の狙いはかっちゃん。これは緑谷が爆豪を呼ぶ時の呼び方だったな」
「はい」
「つまり、開闢行動隊は爆豪を確保した。そう思っていいのか?」
「多分ですが。ただ、俺が知ってる限りでも轟や緑谷、障子、常闇といった面々が爆豪と一緒にいました。俺以外の面々にマンダレイのテレパスが届いていたのなら、他の面々も爆豪に合流していてもおかしくないですし」
そんな俺の言葉に、補習組の生徒達が訝しげな視線を向けてくる。
俺の言葉に違和感を覚えたのだろう。
今の俺の言葉からすると、俺にはマンダレイのテレパスが届いていなかったのだから。
……とはいえ、事情を知っている相澤とブラドキングも、まさかマンダレイが俺にテレパスを繋げると、レベル11の念動力の影響によって圧倒され快楽による絶頂を経験してしまう……などと言える筈もない。
なので、相澤はそんな補習組の様子をスルーして、話を続けるように視線で促してくる。
「向こうにとって最大の目的が爆豪の奪取である以上、今回の襲撃は開闢行動隊の勝利という認識で間違いないかと」
「……そうか。USJの一件に続けて林間合宿でもか」
はぁ、と息を吐く相澤。
相澤にしてみれば、まさかと言いたくなっても無理はない。
というか、そもそも開闢行動隊、もしくはヴィラン連合はここで林間合宿をしていると、どうやって知ったんだろうな。
ショッピングモールでシラタキが緑谷に接触した一件で、当初の予定を変えてここに来たのだ。
であれば、それを知る機会は限られているだろう。
一番考えやすいのは、やはりヴィラン連合と繋がっているスパイがいる事だろう。
あるいはこのヒロアカ世界の特徴である個性を考えると、例えば誰かがどこにいるのかが分かるようになる個性とか、そういうのがあってもおかしくはない。
もしくは、視覚や聴覚を同調させる……というか、対象から一方的に情報を奪えるような個性とかがある可能性もあるな。
すぐに思いつくだけでもこれだけの個性があるのだから、俺がすぐには思いつけないような何かがあっても不思議ではない。
「イレイザー、これは面倒な事になるぞ」
「だろうな。……マスコミが黙ってはいないだろう」
ブラドキングの言葉に相澤が億劫そうな様子で言う。
雄英は日本において最高のヒーロー科を有する高校だ。
そうである以上、マスコミからの注目も大きい。
……もっと具体的に言えば、マスコミじゃなくてマスゴミだな。
以前、オールマイトが教師をやっているという情報を知り、そのインタビューの為に雄英の前に集まっていたような連中。
何人かは生放送中に俺の殺気によってお漏らしする光景を全国……もしくは特定の地方だけというのもあるが、とにかく放映されてしまった事があってからは、ある程度大人しかったのだが。
いや、お漏らしの件もだが、恐らくはシラタキがやったのだろう雄英の校門を破壊して勝手に中に入ってきたマスゴミが警察に逮捕された方が理由としては大きかったりするか?
ともあれ、そんな訳で最近は静かだったマスゴミだったが、雄英の林間合宿が開闢行動隊に襲撃されたというのは、絶好の攻撃の機会だろう。
ましてや、マスゴミ達は以前雄英に無断侵入して警察に捕まったという恨みもある。
ここぞとばかりに、雄英を攻撃してもおかしくはない。
「とにかく、今はまず森の中にいる者達をこの合宿施設に集める事だ。……ヴィランは何人くらいいるか分かるか?」
「俺が遭遇したのは口裂け男とシルクハットの男、後はスピナーとサングラスの大男の4人で、スピナーとサングラスの大男は黒霧が連れていったことから本物でしょうけど、口裂け男とシルクハットの男は分身でした。シルクハットの男の方は一度分身を倒したらもう出て来なかったようですけど、口裂け男の方は……この合宿施設の様子を見る限りだと、こっちにも出たんですよね?」
「ああ、その通りだ。もっともあの……アクセルが言う分身か? その分身は一定のダメージを与えると解除されて、何か妙な残骸になるけどな」
相澤の認識は大体俺と一緒だ。
本体を……いや、違うな。分身を作っている個性の持ち主をまずはどうにかする必要があるんだろうけど、それがちょっと難しいんだよな。
分身を自由に……という訳ではないにしろ、とにかく作れるのは間違いない。
そうである以上、分身を作る個性の持ち主は別に自分が前に出る必要はない訳で。
黒霧が今回の開闢行動隊の行動に同調していたのを考えると、最悪どこか他の場所で分身を作っていて、その分身を黒霧が個性を使ってこの森に転移させていたって可能性もある訳だ。
……この森にいるのが俺とヴィラン達だけなら、いっそスライムを使ってこの森一帯をそのまま吸収してしまうといった手段もあったんだけどな。
今更の話だな。
林間合宿でここに来ていて、しかも肝試しの最中というのを考えると、とてもではないが俺の狙い通りにするのは無理だろうし。
「そうですね。その分身です。後は……黒霧がいた為か、脳無が結構な数いました。ミルコが優先して倒していたみたいですけど」
狛治の件を言うか?
そうも思ったが、相澤とブラドキングだけならともかく、補習組もいるので止めておく。
まぁ、プッシーキャッツが戻ってきたら、関係者だけを集めて事情を説明すると言っておいたので、その時に説明すればいいだろう。
「脳無もか」
苦々しげな様子で呟く相澤。
USJの一件の時、相澤は脳無にボコボコにされた。
相澤の戦闘スタイルは相手の個性を抹消の個性で消し、捕縛布を使って戦うというものだ。
だが、USJの時に出て来た脳無は個性を抹消で消されても、素の身体能力が高くて捕縛布を使う相澤では相手にならなかった。
……これについては、あの時の脳無が対オールマイト用の脳無だったから、相澤にとっては相性が悪かったといった感じなのだが。
ともあれ、それでも相澤が脳無によってボコボコにされたのは事実。
だからこそ、相澤は脳無に苦手意識に近いものを持っているのだろう。
だが、脳無というのは千差万別。
保須市で戦った脳無や、この森で戦った脳無は数こそそれなりに多かったが、質という点では決して高くはない。
USJの時の脳無程の強さを持つ個体はいなかった。
勿論、それはあくまでも俺が知ってる限りの脳無の話で、開闢行動隊の襲撃において用意された脳無の中には、USJの時の脳無よりも強い個体がいてもおかしくはなかったが。
「はい、黒霧が逃げた時の事を考えれば……正確には俺が渡した土産の事を考えれば、森の中に転がっている脳無を回収するのは難しいと思います」
「土産、だと? ……何をした?」
訝しげな、それでいて俺が何かをやらかしたといった様子でそう聞いてくる相澤。
それ、ちょっと酷くないか?
そう思わないでもなかったが、実際に俺がやらかしたのは間違いない事実。
とはいえ、俺がやったのはフラッシュグレネード……音や光によって相手を戦闘不能にするといった物だ。
爆豪がいなければ、そういうのを気にせずに普通に手榴弾なり、あるいは炎獣を黒霧のゲートを通して向こうに突っ込ませ、爆発させるなり、好き勝手に暴れるなりさせたりも出来たんだが……爆豪が向こうにいる以上、そこまでは出来なかった。
あるいはこれで原作において爆豪が雄英を裏切ってヴィラン連合につくのなら、ここで一気に爆豪ごと……と頭の片隅で考えないでもなかったんだが、その辺についてはまだ不明だしな。
「本来なら炎獣を突っ込ませて思い切り暴れさせようかとも思ったんですけど、爆豪が捕まっている事を考えて、フラッシュグレネード……閃光手榴弾と言えば分かりますか? それとか音響手榴弾とか、数個纏めて黒霧のゲートの向こう側に投げました」
そう言うと、話を聞いていた補習組の面々が信じられないといった視線を向けてくる。
いや、それは補習組だけではなく、ブラドキングも同様に俺に視線を向けている。
そんな中、相澤は表情を変えないままで俺を見ていた。
……ただし、すぐに大きく息を吐く。
「まぁ、炎獣を突っ込ませなかったのは、素直に褒めてもいい。代わりに爆豪が怪我をしないようにフラッシュグレネードを投擲したのも……まぁ、悪くない判断だと言ってもいいだろう」
「イレイザー!?」
ブラドキングが、驚いた様子でそう叫ぶ。
どうやらブラドキングにしてみれば、俺の行動は到底許容出来るものではなかったらしい。
だが、イレイザーはそんなブラドキングの言葉を無視し、俺をじっと見てくる。
あれ? これ、何か不味いんじゃないか? そう思ったが、そんな俺が何かを言うよりも前に、相澤が口を開く。
「だが、フラッシュグレネードなどという物をどこに持っていた? これでヒーローコスチュームでも着ていたのならともかく、制服だった。だというのに、フラッシュグレネードを持っていたんだ?」
あ、なるほど。そう来たか。
実際には、俺のヒーローコスチュームは別にフラッシュグレネードの類が標準装備されていたりはしない。
しないのだが、それでも制服姿の時に持っているよりは、まだ納得出来る事ではあった。
まさか空間倉庫に収納されていたとか、そんなことは……後でならともかく、補習組のいる面々の前では何とも言えないしな。
しまった、いっそ眩しさに振り切った炎獣を作って、それを黒霧のゲートに突っ込ませた方がよかったか?
もしくは炎獣ではなく眩しくなる白炎をそのまま黒霧のゲートに投擲してもよかった。
……今更そんな事を考えても仕方がない。
それに相澤やブラドキングには後で話す必要があるんだし……
「そこはまぁ、色々と……」
そう誤魔化し、意味ありげな視線を相澤に向ける。
さて、どうだ? これで素直に俺の言いたい事を理解してくれるか?
「……分かった。詳しい話は後で聞こう」
セーフ、ギリギリセーフ。
何とか俺がどうやってフラッシュグレネードを用意したのかは、誤魔化す……というか、後で説明することに成功した。
「おい、イレイザー?」
とはいえ、俺の様子からその辺りを察したのはあくまでも相澤だけだ。
ブラドキングはそもそも俺と関わる事が少ないしな。
期末試験の実習テストでも、ブラドキングが出てきたりはしなかったし。
拳藤や茨、あるいは俺と知り合いのB組の生徒から話を聞いたりとかはあるかもしれないが、それでも人から話を聞くのと、自分で直接接触するのとでは大きく違うだろう。
そんな訳で、ブラドキングは俺の言葉に相澤が納得した理由が分からなかったらしい。
「まぁ、話は分かった。やりすぎなようが気がしないでもないが、フラッシュグレネードを使ったのなら開闢行動隊の……いや、この場合はヴィラン連合か? とにかくその拠点の手掛かりになるかもしれん」
「ああ、なるほど」
俺としては、あくまでも土産……嫌がらせの一貫でしかない攻撃方法だったが、相澤の言う事にも一理ある。
もしヴィラン連合の拠点が山の中とかにあった場合は、フラッシュグレネードの光はあまり意味がない。
……偶然その山の近くを通った者が見たりしたら、話は別だが。
しかし街中でフラッシュグレネードが……それも複数個、音響手榴弾つきで起動したら、どうしても目立つ。
まぁ、個性を使ってそういうのが外に漏れないようにしていたりしたら、話は別だが。
ともあれ、相澤はすぐにスマホを出してどこかに連絡をするのだった。