「……ねぇ、アクセル。1つ聞いてもいい?」
刈り取る者が俺の影に潜り、その姿が完全に消えてから数秒。
マンダレイが不意にそう尋ねてくる。
「何だ?」
「さっきそっちの狛治を呼ぶ……召喚する時は何か呪文のようなものを唱えていたけど、今消えた刈り取る者を呼ぶ時は、特に何も呪文を唱えていなかったみたいだけど、何で?」
ああ、どうやらその辺が気になっていたらしい。
魔法とかに詠唱はつきものとか、そういう風に思ってのものなのかどうかはちょっと分からないが……別に隠す必要がある訳でもないので、あっさりと教える。
「狛治は俺と離れていた。だからこうしてわざわざ召喚をして呼び出す必要がある。けど、刈り取る者はさっき見て貰って分かるように、俺の影の中に潜っていっただろう? つまり、刈り取る者は常に俺の影の中にいる訳だ」
「……え? ちょっ、ちょっと待って。それじゃあ私がアクセルにお姫様抱っこをして貰ったのも、見られてたの!?」
不意にそう叫ぶピクシーボブ。
何でそうなる?
実際、それは決して間違いって訳じゃないけど。
刈り取る者は常に俺の影にいる以上、俺が何をしているのかは把握している。
とはいえ、そういうのに興味があるといった訳でもないので、俺が召喚しない限りは影の中でじっとしているだけだ。
……そもそもそういうのを気にするのなら、それこそホワイトスターの家でレモンを始めとした恋人達との夜の行為とかは出来ないし。
なので刈り取る者については特に気にする必要がない。
それでも気になる者は気になるかもしれないが、俺は気にならない。
「あまり気にしないでいい。さっき見て分かったと思うが、刈り取る者は色々と普通とは違うからな」
「うー……」
俺の言葉に、納得出来ない様子のピクシーボブ。
この様子からすると、あるいはピクシーボブがお姫様抱っこをさせたのは俺が初めてだったのかもしれないな。
「ともあれ、召喚魔法についてはこんなところだ」
「ねぇ、アクセル。一応聞いておくけど、アクセルが召喚の契約をしているのは、今の2人だけなの?」
マンダレイのその言葉に、鋭いなと思う。
「いや、もう1人……というか、1匹いる。匹といったように、そっちは人型じゃなくてグリフィンドラゴンという奴だ」
「グリフィン……ドラゴン? グリフォン? ドラゴン?」
戸惑ったように言うマンダレイ。
無理もないか。グリフィンドラゴンは俺の知る限りネギま世界にしか存在しないモンスターだ。
そうである以上、ヒロアカ世界でグリフィンドラゴンと口にしても、それがどのような存在なのか分かる筈がない。
「簡単に言えば、グリフォンとドラゴンの合いの子だよ。とにかくモンスターだ。それも本物のな」
そう言いながら、もし口田なら個性を使ってグリフィンドラゴンを相手に指示が出来るのだろうか? と少しだけ不思議に思う。
ヒロアカ世界で個性を持っているのは、基本的に人間だけだ。
動物は個性を持っていない。
そうなると、ヒロアカ世界以外の生き物……モンスターを含むが、そのようなモンスターを操ったりしても不思議ではない。
A組の生徒達に俺の正体を知らせた後で、召喚魔法で呼び出したグリを相手に、口谷の個性を使って貰ってみるのもいいかもしれないな。
「そんなモンスターと、一体どこで契約したの?」
「その辺については複雑な話になるから、ここでは言えないな。明日か明後日か……とにかく林間合宿が終わって雄英で話をする機会があったら、そこで説明するよ。プッシーキャッツも今回の騒動には大きく関係してるんだから」
ラグドールが連れ去られたのだから、プッシーキャッツはこの件にこれ以上関わらないといったことはしないだろう。
であれば、俺が今回の一件で色々と話をする説明もしっかりと聞いて貰った方がいいだろう。
俺が個性を持たない無個性であるというのは、プッシーキャッツのラグドールによって明らかになったのだから。
相澤が炎獣を抹消出来なかったというのも、混沌精霊としての能力が個性ではない事を意味していた。
そんな訳で、プッシーキャッツはガッツリと俺に関わっているのだから、雄英で行われる説明会にも参加しても問題はないだろう。
寧ろ、中途半端に事情を知っているような状況になると、その方が危険だろうし。
当然ながら、その説明会には俺の後見人となっている龍子と優……リューキュウやマウントレディ、そして公安からは目黒も参加するだろう。
……雄英の生徒の中で唯一俺の事情を知っているねじれは、どうなるんだろうな。
やっぱり生徒だから参加しないか、あるいは生徒であっても事情を知っているので参加するのか。
「……どうしても言えないのか?」
念を押すように聞いてくる相澤に、その通りだと頷く。
相澤にしてみれば、召喚魔法というのが理解出来ないのだろう。
あるいはそういう個性であったのなら、また話は別だったのだろうが。
だが、相澤の抹消やラグドールのサーチによって、俺が無個性であるというのは既に知られている。
だが……それでも、それだからこそ俺の魔法について少しでも知りたいといったところか。
「今は言えませんね。ただ、いつになるのか……もう日付は変わってますし、そういう意味では今日か、それとも明日が明後日か……あるいは爆豪やラグドールを助け出した後での事になるのか。その辺りは分かりませんが、その辺は雄英次第になるかと。もしくは公安次第ってところもあるかもしれませんけど」
そう言うと、相澤は黙り込む。
ただし、ブラドキングの方は不満そうな様子ではあったが。
プッシーキャッツの面々は俺の言葉にどのように反応したらいいのか分からず沈黙していた。
そんな中……
「ん?」
ふと、こちらに近付いてくる気配に気が付く。
俺から少し遅れ、狛治も気が付いたらしい。
扉に視線を向け……そんな俺達の行動に引きずられるように、部屋の中にいた他の面々も扉に視線を向ける。
そうして、部屋の中にいた全員が扉に視線を向けて数十秒が経過し……その沈黙にたまりかね、誰かが口を開こうとした瞬間、扉が開く。
入ってきたのは、ミルコ。
いやまぁ、この場にいない関係者となると今はミルコくらいしかいないんだから、ある意味妥当なところではあるのだが。
「うおっ! 一体……っ!?」
ミルコもミルコで、まさか自分に視線が集中するとは思っていなかったのか、驚きで一瞬動きが止まる。
もっともノックもせずにいきなり部屋の中に入ってきたのだから、全員に視線を向けられるのはそうおかしな事ではないと思うが。
ただ、そのミルコは部屋の中にいた俺達……顔見知りの面々についてはともかく、それ以外の人物、つまり狛治を見た瞬間、半ば反射的に構える。
無理もないか。ミルコにしてみれば、いきなり部屋の中に竜翼と額から角を生やしている狛治がいたのだから。
開闢行動隊の襲撃があってすぐなだけに、それで警戒するなという方が無理だった。
とはいえ、それでも部屋の中にいる全員が特に狛治を警戒……はしているものの、取り押さえようとしたりしていないのを見て取ったのだろう。蹴りを放とうとする動きを止める。
……もっとも、狛治は格闘の専門家だ。
ミルコが蹴りを放ってきても、十分に対処出来ただろう。
「安心しろ、こいつは狛治。俺が召喚魔法で召喚した存在だ。ちなみにだが、開闢行動隊の襲撃があった時も脳無の対策として召喚していた。……同じように脳無を倒していたミルコとは遭遇しなかったみたいだけどな」
「なるほどな」
俺の言葉で納得したのか、それとも本能で何かを感じたのか、ミルコはすぐに構えを解く。
……ウサギの本能と言われると頼りない感じがするのに、ミルコの本能と言われると素直に頼れると思ってしまうのは、一体なんなんだろうな。
ミルコの個性がウサギってのは……それこそ豹とか虎とかそういうのなら、寧ろ納得出来たんだが。
「で? その召喚魔法ってので呼ばれた奴が何の為にここにいるんだ?」
「俺の実力を教える為に、召喚して見せたんだよ」
そう言いながら、刈り取る者を影に戻しておいて良かったと、しみじみと思う。
もし刈り取る者がここにいたら、ミルコは狛治を前にした時のように我慢する事なく、即座に蹴りを放っていただろう。
刈り取る者には、そうした雰囲気がある。
そうなると、ミルコVS刈り取る者の戦いが始まっていた可能性もあるだろう。
……うん、最悪この合宿施設が全壊していてもおかしくはない。
何しろ刈り取る者は大規模破壊魔法を得意としているのだから。
他にも極端に銃身が長い拳銃も持ってるしな。
いっそグリでも召喚を……いや、そうなれば、それこそ今寝ている他の生徒達も何かが起きたかと起きてきてもおかしくはない。
さすがにそれは遠慮したかった。
「なるほど。……ああ、取りあえず森の周辺を見回ってきたけど、ヴィランの姿はなかった。ただ、救急車やパトカーがかなり来たから、マスコミと思われる連中はいたぞ。蹴りたかったが、我慢してきた」
取りあえず狛治の件は置いておく事にでもしたのか、そうミルコが言う。
だが……マスゴミか。
どこからともなく湧いてでるよな、あいつら。
ミルコもマスゴミとまでは口にしていないが、その口調には嫌そうな色がある。
嫌悪感……とまではいっていないが、それに近い感じか。
この様子からすると、恐らくミルコもマスゴミによって適当な記事を書かれたりした事があるのだろう。
マスゴミにしてみれば、ヒーロービルボードチャートでもトップ10に入り、実質的に女のプロヒーローにおいてはNo.1の存在であるミルコは……それも顔立ちの整った美人のミルコは、良い記事のネタといったところなのだろう。
だからこそ、下世話な内容とかを書かれてもおかしくはない。
特にミルコの個性はウサギだ。
そしてウサギというのは年中発情期の動物としてよく知られている。
その辺の事をネタにされていてもおかしくはない。
マスゴミというのは、知る権利を盾に自分達は何をやってもいいと思っている。
……いっそ、そういうマスコミの連中を強引に取材してネットなりなんなりにアップしてみたりしたら、それはそれで面白い事になりそうなんだけどな。
「すまんな」
ミルコに対し、相澤が謝罪の言葉を口にする。
……ちなみに相澤はマスゴミとかを嫌っているのもあって、メディアの露出度という点はかなり少ないらしい。
緑谷が相澤をアングラヒーローとか呼んでいたのを聞いた覚えがある。
マスゴミが嫌なら、それこそネットとかに動画をアップするとかすればいいと思うんだが、相澤はそういうのに興味はないっぽいしな。
「ふんっ、それでどうなったんだ? アクセルの力について聞いていたんだろう?」
「特に何もしない。ミルコの言うように、アクセルの力を少し聞いただけだからな。……召喚魔法、か。また随分と便利な力があったものだ」
相澤の言葉に、部屋の中にいる何人かが頷く。
ゲートと自由に行き来出来るようになったら、魔法を教えるのもいいかもしれないな。
召喚魔法は少し特殊だから難しいかもしれないけど、単純な魔法なら特殊な例外を除いて誰でもある程度までは使えるようになる。
ちなみにこの特殊な例外は、呪文の詠唱が出来ない体質の高畑とかだ。
……呪文の詠唱が出来ないのなら、無詠唱魔法なら使えるのでは? と思わないでもなかったが、その辺りについては俺がどうこう考えるまでもない。
ただ、ヒロアカ世界の面々……特にプロヒーローの面々がネギま世界に……いや、ネギま世界に限らず、他の世界に行くとトラブルを起こしそうなんだよな。
何しろこのヒロアカ世界は色々な意味で特殊な世界だ。
資格が必要だとはいえ、警察でも軍人でもない……いわば、警備員に近い存在が普通にヴィランを捕らえているのだ。
プロヒーローが何も考えずに他の世界に行った時、犯罪者を見つけたら街中でも堂々と個性を使って犯罪者を捕らえたりしてもおかしくはない。
これが例えば、個性……というか、魔法や気もそうだが、特殊能力が普通に存在している世界、例えば狛治がいるネギま世界の魔法界のような場所ならともかく、シャドウミラーが関与している世界は、とてもではないが個性とかを使えば大きな騒動になるだろう。
「ミルコもそうだが、俺についての詳細を知りたいのなら雄英に連絡を入れてくれ。雄英が許可をしたのなら、俺について説明する場に来てもいいと思う。その辺は雄英の判断だから、俺からは何とも言えないけど」
公安の方に話を通せば、あるいは雄英が反対をしても説明会に参加出来るかもしれないが……さすがにそこまでやろうとは思わない。
I・アイランドで開発されたサポートアイテムを量産する件についてもあるしな。
「アクセル、そろそろ俺はいいだろう。戻っても構わないか?」
狛治がそう聞いてくる。
実際に今ここで狛治がこれ以上いる理由もないので、俺は召喚を解除するのだった。