「うおっ!」
狛治が消えた光景を見て、ミルコの口から驚きの声が上がる。
ミルコ以外の面々……相澤、ブラドキング、ピクシーボブ、マンダレイ、虎といった面々は、狛治が召喚される光景を目にしていたのもあってか、狛治が消えた光景を見てもそこまで驚いた様子はなかったが。
実際には召喚と送還ではそれなりに違うのだが。
ともあれ、狛治がこうしていなくなったところで俺は口を開く。
「じゃあ、俺はそろそろ寝るよ。明日もやるべき事は幾らでもあるだろうし」
「ああ、そうしろ。出来れば明日にでもお前には色々と事情を話して貰う事になるだろうからな」
相澤のその言葉に頷き、俺は部屋を出ようとしたのだが……
「ちょっと待てよ」
「ミルコ?」
横を通りすぎようとした俺に、ミルコがそう声を掛けてくる。
「お前がするっていう話、私もしっかりと聞かせてもらうからな」
「分かってる」
というか、俺は元々ミルコも呼ぶつもりだったんだが。
ただ、この様子を見る限りだとミルコは自分が呼ばれないとでも思っていたっぽいな。
「分かればいいんだよ」
「じゃ、そういう事で」
俺が素直に頷いた為だろう。
ミルコが満足そうに頷くのを見ると、そう言って部屋を出る。
……俺が部屋を出てから、すぐに部屋に残っていた面々で何かを話し始めた様子だったが、その辺はこの林間合宿の監督役である以上は、色々と相談する事もあるんだろう。
俺は早ければ明日にでも林間合宿から帰った後で話をするつもりなので、それくらいしかやるべき事はないだが、相澤達は色々とやるべき事が多いのだから。
そんな訳で、俺は部屋に戻ろうとしたところで、何か飲みたくなって自販機に向かう。
すると……
「あれ? 三奈?」
「あ……アクセル。えっと、どうしたの?」
三奈の姿を見つけ、声を掛ける。
そんな俺に対し、三奈は驚いたように顔を上げ、そこに俺がいたのに気が付いて、何かを誤魔化すようにそう言ってくる。
「いや、どうしたも……ちょっと喉が渇いてな。で、三奈は?」
「あはは、私も喉が渇いて」
「……その割には、何も飲んでもないようだけど?」
三奈はしゃがんで自販機に寄りか掛かり、下を向いていた。
喉が渇いただけなら、飲み物を何か買ってもおかしくはないが、そのような様子もない。
「うん、ちょっとね」
そう短く返す三奈。
普段の元気な三奈の様子とは違う様子に、このまま放ってはおけないだろうと判断する。
幸いなことに、相澤達への事情の説明も一段落したので、今日は特に他に何かやるような事はない。
それこそ後は寝るだけである以上、ここで三奈と少し話をしても構わないだろうと判断する。
そう判断すると、俺は三奈の横で自販機に寄りかかった。
「え? 何? どうしたの? 何か飲み物を買うんじゃなかったの?」
俺の行動が予想外だったのか、三奈は下を向いていた顔を上げ、俺の方を見ながらそう聞いてくる。
「そのつもりだったんだけどな。今の三奈をそのままにはしておけないだろ」
「……馬鹿だね、アクセル」
いや、何故ここで馬鹿扱いされる?
そうも思ったが、今の三奈にはそういう風に馬鹿話をするよりも、普通の態度で話した方がいいだろうと判断する。
「そうかもしれないな。それで? 三奈は何だって他の面々が寝ている中でこんな場所にいるんだ?」
普通なら、寝る前には色々と話をしたりする筈だ。
実際、昼休みとかに話をしていると、そんな感じの事が聞こえてきたし。
もっとも、具体的にどのような内容について話しているのかとか、そういうのは教えて貰えなかったが。
ただ、今日は開闢行動隊の襲撃があった。
その騒動で、生徒達は……それこそ男子女子関係なく疲れ、眠っている筈だ。
……いやまぁ、興奮して眠れない奴とかもいるかもしれないが。
あるいは、緑谷のように爆豪を連れ去られた悔しさから眠れないとかもあるかもしれないな。
「うん、私……皆がヴィランと戦っている時、何も出来なかった」
「あー……それはな」
なるほど、何で落ち込んでいるのかと思ったら、それでか。
三奈は上鳴達と一緒に、肝試しは出来ずに補習を行っていた。
その結果として、開闢行動隊の襲撃においてはヴィラン達に襲撃されるような事はなかった。
いや、正確には建物が蒼炎で燃えたので口裂け男は俺の前に現れるよりも前に合宿施設の方に顔を出したのだろう。
だが、補習をやっていたのだから当然ながら教師がいる。
ましてや、口裂け男のように個性を中心にした戦闘スタイルの者にとって、相澤の抹消は極端に相性が悪い。
その上で相澤は相手の個性を抹消で使えないようにしてから捕縛布を使った戦闘をするのに慣れているし、ブラドキングもいる。
結果として、口裂け男はあっさりと相応のダメージを食らい、分身が解除されたのだろう。
あの分身は、個性も使える分身という意味では非常に強力な個性だが、その代わり……あるいは代償か? とにかく一定以上のダメージを受けると分身が解除されるという欠点がある。
もっとも、その一定のダメージというのも骨を折るといったような、普通に考えればそれなりに強力なダメージなので、相手にそのような攻撃力がない場合は分身は最悪の攻撃方法となるのだが。
「私がいたら、爆豪が連れ去られなかった……とは言わないよ? 言わないけど、それでももしかしたら何とかなった可能性もあるし、怪我をした人達も怪我をしなかったり、あるいはもっと軽傷になっていたかもしれないって思うとね」
そう言い、俯いて顔を隠す三奈。
なるほど。確かに三奈の個性である酸は応用の範囲が広い。
例えば酸を出す事によって地面を滑るように移動出来るので、機動性は非常に高い。
肝試しをやる筈だった森の中では、それこそ三奈にとってはかなり素早く移動出来ただろう。
木にぶつかったりする可能性もあるが、三奈は高い運動神経を持つ。
それこそ競争率300倍の受験を勝ち抜いて入学してきた生徒達の中でも、純粋な運動神経という点ではトップクラスの1人だろう。
そんな三奈だけに、酸で滑って移動している時に間違って生えている木にぶつかるといった事は、まずない。
また、移動だけではなく攻撃力という点でも高い。
もっとも、三奈は何だかんだと優しい性格をしているのもあってか、個性の酸を使って攻撃するといった事はこのまないが。
あるいはヴィランを相手に酸で攻撃するにしても、相手はそこまで大きな怪我をしないようにするだろう。
そういう意味では、もし開闢行動隊の襲撃に三奈が参戦していたとしても、対処するのは難しかったかもしれない。
しれないが……そう言われても、三奈としては納得出来ないのだろう。
「俺が言える事はそう多くはない。多くはないけど……そうだな、悔しかったら強くなれ。もし次に今回と同じような事があったら、三奈の実力でどうにか出来るようにな」
「次って……今回みたいな襲撃がまたあるって事?」
俯いていた顔を上げ、そう聞いてくる三奈。
俺はそんな三奈に対し、頷く。
「そうだな。USJの件があって、ショッピングモールの件は……まぁ、少し違うかもしれないけど、そして今回の林間合宿だ。これが3回目である以上、4回目、5回目があってもおかしくはないだろ?」
実際には、緑谷というこの世界の原作の主人公がいるからこそ、ヴィラン連合や開闢行動隊の襲撃を受けているのだろう。
勿論、襲撃をしてくるのは原作主人公だからといったような理由だけではなく、何らかの理由があってのものだろうとは思うけど。
ただ、生憎と今のところはその辺りの理由は分かっていないんだよな。
明日か明後日か、あるいはもう少し後か……それは分からないが、雄英で俺の事情を説明する時、その辺りについても教えて貰えると助かるんだけどな。
「……本当に、あるのかな?」
「今回の一件があったのに、ないとは言い切れないと思うぞ」
それに、ショッピングモールでのシラタキの一件があったから、急遽林間合宿の場所は変わってここになった。
にも関わらず、こうして襲撃をされたのだ。
それを思えば、ヴィラン連合に通じている者が雄英にいるのは間違いない。
そうなると、また襲撃されるような事になる可能性は十分にある……と思う。
もっとも、内通者がいるというのはあくまでも俺の予想でしかない。
状況証拠からそのように考えているだけなので、口に出す訳にはいかない。
いや、そういうのがないとしても、今の三奈の様子を見る限りでは、話したりは出来ないか。
内通者というのが、教師ならまだいい。
だが、もしそれが生徒だったら……それもB組ではなくA組の生徒だったら。
友人思いな三奈だけに、その時に受ける衝撃は大きいだろう。
……とはいえ、俺の予想では内通者が生徒の可能性はかなり低い。
何しろ、生徒達は林間合宿の林間合宿の場所が変わったというのは知っていたが、具体的にどこだったのかというのは分からなかった。
その辺の事情を知っているのは、あくまでも教師だけだった。
もっとも今日は合宿3日目で、合宿施設ではスマホも普通に使える事を考えると、生徒が内通者は絶対に有り得ないって事はない。
あくまで生徒より教師の方が怪しいというだけの話だ。
「じゃあ……私、もっと強くなる」
「それがいい。今回のような一件は例外としても、ヒーロー科の生徒なんだから弱いよりも強い方がいいのは間違いないしな」
元々、三奈には素質がある。
本人にやる気があれば、しっかりと強くなれるだろう事は間違いない。
「自主訓練、もっと本気でやるね」
そういう三奈だったが、別に今まで自主訓練をサボっていたり、中途半端にやっていたりした訳ではない。
だが、今日こうして強さを求めて、その結果として今まで以上に真剣に自主訓練に参加す気になったという事だろう。
「三奈が強くなりたいのなら、俺がしっかりと付き合ってやる。お前がどれだけ凄い奴なのか、俺はきちんと分かってるしな」
「……馬鹿。そうやって女が弱ってるところでこうして優しくしてるんだから、爆豪にヒモ野郎って言われるんだよ」
言葉とは違い、笑みを浮かべつつ三奈はそれに向かってそう言ってくる。
「その場合は、最初の方に言われていたホスト野郎の方が合ってるんじゃないか? ヒモというのは、俺の状況とちょっと違うと思うけど」
「そう? 私から見れば、ホストもヒモもそう違わないように思えるんだけど」
「いやいや、大分違うって。……それ以前に、俺がそういう扱いをされるのがそもそも間違っていると思うんだが」
爆豪が俺をヒモ野郎やホスト野郎と呼ぶが、ホワイトスターでならともかく、このヒロアカ世界においてはそういう事をしているつもりはない。
「自覚がないって……全く。じゃあ、私もこれ以上ここにいてアクセルに落とされる前に、部屋に戻るね。今、アクセルに迫られたら、流されそうだし」
「何を言ってるんだ、何を。まぁ、取りあえず三奈が元気になったようで、俺も安心したよ。ほら、落ち着いたらそろそろ部屋に戻れ。いつまでも部屋にいないと、それこそヴィランに連れ去られたんじゃないかと心配されるぞ」
「あはは、そうだね。じゃあ、戻るよ。話を聞いてくれたありがと」
そう言い、立ち上がる三奈。
完全に元気になった……とまではいかないが、それでもある程度は元気になったのは間違いないと思う。
そんな三奈だったが、数歩進んだところで不意に足を止め、振り向く。
「あの、ね。アクセル」
「うん? どうした?」
「その……私なら少し、本当に少しだけだけど、流されてもいいかなって思ったよ」
そう言うと、三奈は再び俺の前から走り去る。
最後に見た三奈の頬は、皮膚がピンクであるにも関わらず赤くなっているのが見えた。
……恋バナ大好きな三奈の事だ。
雰囲気とかシチュエーションとか、そういうので多分今のように言ったんだろうな。
そんな風に思いつつ、改めて自販機で飲み物を買おうとすると、スマホに着信があった。
誰だ? と思って見てみると、龍子かららしい。
「もしもし、どうしたこんな時間に」
『あのねぇ……こんな時間にじゃないでしょ。ヴィラン連合の襲撃があったって聞いたわよ? アクセルの事だから大丈夫だとは思うけど、本当に問題はないのよね?』
「……随分と耳が早いな」
『公安の目良さんから連絡があったのよ』
そう言われ、納得する。
相澤やブラドキングも、当然ながら開闢行動隊の襲撃があった事は雄英に知らせただろう。
そして雄英から、ヒーロー関係を纏める組織である公安に襲撃があったという連絡が行くのは当然であり、それを知った目良が俺の後見人である龍子や優に連絡をしたといったところだろう。
「そうか、悪いな。俺は何の問題もない。とはいえ、雄英の生徒が1人、後はプッシーキャッツのラグドールがヴィランに連れ去られたっぽいけど。……明日か明後日か、取りあえず近いうちに雄英で俺の事情を話す事になると思う。その時は優と一緒に来てくれ」
そう言うと、リューキュウは予想外なことにあっさりと了承するのだった。