生徒達の多くが帰るのを眺めてから、俺は雄英の校舎内に入る。
生徒達に見つからないようにしている……が、俺の後ろをAI搭載型のスーツケースがついてきているので、見る者が見れば、すぐに気が付くだろう。
そんな風に思って校舎の中に入ると……
「こうして直接会うのは久しぶり……という程でもありませんね、アクセル君」
目良が姿を現し、そう言ってくる。
「まぁ、そうだな。I・アイランドから戻ってきた時に会ったし。……で、この際だから聞いておくが、俺が頼んだサポートアイテムの件はどうなっている?」
そう聞くと、目良は困った様子で頭を下げてくる。
「申し訳ありませんが、さすがにこの短時間では……あのサポートアイテムについては、他の国でも慎重になっているので」
「だろうな」
その辺りについては目良から色々と事情を聞いているし、分かってもいる。
だが……それでも、やはり俺としてはあのサポートアイテムを諦めたくないと思っているのは事実だった。
何しろ、あのサポートアイテムを使った事によって、スキル欄の空欄が2つ増えたのだから。
であれば、運が良ければ……あるいは運以外の何かが必要なのかもしれないが、とにかくあのサポートアイテムによって、スキル欄の空欄を無限に増やせるかもしれない訳だ。
もっとも、あのサポートアイテムは1度使えば壊れてしまうので、そういう意味では使い捨てになってしまうのだが。
あれで、使い捨てじゃなくてしっかりと残ってくれるなら、何度も連続して使って、その分だけスキル欄の空欄を増やす事が出来たかもしれないのだが。
「無理をしてでも……とは言わないが、俺にとってはあのサポートアイテムは是非とも欲しい物だ。それは分かるな?」
「ええ、分かっています。なので、もう少し待って貰えると……」
「その時間があればいいんだけどな」
目良に向かってそう言う。
目良は俺の言葉の意味が分からず、不思議そうな……そして不安そうな表情を浮かべるものの、それ以上は何も言わず俺の案内をする。
既に説明会を行う会議室については、知っていたらしい。
迷う様子もなく、その部屋まで到着する。
「ここです」
「分かった。じゃあ……行くか」
そう言い、俺は目良の開けた扉から中に入る。
へぇ……オールマイトもいるのか。
いや、オールマイトの立場を考えれば、それは当然なのか?
原作主人公である緑谷の、恐らくは師匠的なポジションにいるのがオールマイトだ。
であれば、俺というイレギュラーな存在について少しでも事情を知りたいと思うのはおかしな話ではない。
実際、部屋……会議室に集まっている雄英の教師達の多くは、俺に強い視線、あるいは疑惑の視線、中には敵意に近いのではないかと思われる視線を向けている者もいる。
最後の視線は少し大袈裟じゃないかと思わないでもなかったが、昨夜の開闢行動隊の襲撃を考えれば、敵ではない。敵ではないにしろ、明らかに怪しい存在である俺に対して、そのような視線が向けられるのもそうおかしなことではない……のだろう。
ただ、それでも俺とそれなりに関係のある……相澤やミッドナイト、プレゼントマイクといった面々は、驚き、疑問を抱いてはいるものの、敵意の類を向けてくるようなことはない。
また、会議室の中には龍子と優の姿もあった。
昨日龍子には連絡をしておいたので、龍子がいるのはおかしくなかったが、優がいるのは……まぁ、今はチームアップをしているので、龍子に連絡すれば優にも伝わるのはそうおかしな話ではないのだろう。
後いないのは……プッシーキャッツとミルコか。
いやまぁ、朝にはもう合宿施設にいなかったミルコはともかく、プッシーキャッツは合宿施設から出立する俺達を見送っていたんだから、俺達よりも早く雄英に到着するのは無理だろう。
となると、ミルコはともかくプッシーキャッツが到着するまで待つのか、あるいはここで説明した後で雄英側からプッシーキャッツに説明をするのか。
その辺りは俺にも分からないので、何とも言えないが。
「すまなかったね、アクセル君。林間合宿から戻ってきたばかりなのに急に呼んでしまった。悪かったと思うのさ」
そう俺に言ってきたのは、校長。
校長の俺に向ける視線には好奇心の色はあるが、嫌悪感や敵対心といったものはない。
この様子からすると、校長は俺を敵と、ヴィランと、あるいは開闢行動隊やヴィラン連合の一員といったようには思っていないらしい。
まぁ、実際に俺は昨夜の戦いでは生徒達の為に奮闘したと思う。
その辺りの状況を考えれば、俺を敵対視するのが間違っているのは明らかだ。
……もっとも、それでも公安と繋がりがあるというのが、疑惑の視線を向ける理由になっているのだろうが。
つまり、それだけ公安はプロヒーローから疑惑の視線を向けられているのだろう。
とはいえ、公安委員長から聞いた話によれば、色々と後ろ暗い噂があったのはその前の公安委員長の時で、今は真っ当らしいが。
勿論、公安というヒーローを纏め上げる立場として真っ当という意味であり、恐らく何らかの後ろ暗いところはあったりするのだろうが、その辺は組織として仕方のない一面もあるのだろう。
「いえ、そろそろ俺の事について話す必要もあると思っていましたから。そういう意味では、今回の一件は良い機会……というのは開闢行動隊の襲撃の件を思えば不謹慎かもしれませんけど、1つの切っ掛けになったのは間違いないかと」
そんな俺の言葉に校長は頷く。
まぁ、校長にとっても俺は色々な意味で普通ではない生徒だったしな。
公安からは個性事故によって云々という説明をされていた筈だが、恐らく……というか、間違いなくその辺りについては信じていなかったのだろう。
あるいは信じていても、それ以上に何らかの秘密があるとでも思っていたのか。
ともあれそんな訳で、俺が事情を説明する機会を待っていた……あるいは窺っていたといったところか?
「そうかもしれないね。……さて、本来ならすぐにでも事情を聞かせて貰いたいところなのだけど、もう少し待って欲しいのさ。プッシーキャッツが来る事になってるのでね」
どうやら俺が予想したように、プッシーキャッツもこの説明会には参加するらしい。
「それは構いませんけど、プッシーキャッツが来るまでは何をしてますか?」
「丁度いい機会だから、昨夜の襲撃の件について説明して貰おう」
そう言いながら校長は相澤に視線を向ける。
視線を向けられた相澤は、すぐに頷いてから起ち上がる。
「では、昨夜の襲撃の件について説明します。ただ、私は補習授業でブラドキングと共に合宿施設にいたので、これから話す件についてはアクセルを含めて他の面々から聞いた話を纏めたものになるのを承知しておいて下さい」
そう言い、相澤は昨夜の襲撃について説明していく。
とはいえ、その説明そのものは俺の知ってる情報だ。
あるいは昨日の第一報でも校長に連絡はしていたのだろうが、中には初めて聞く者もいるらしく、真剣な表情で相澤の話を聞いていた。
中でも爆豪とラグドールが連れ去られたという話になると、怒りや悲しみ、悔しさといった感情を浮かべている者が多い。
俺に対しては疑惑の視線を向けてくる者もいるが、こうして見る限りだと生徒思いの教師ばかりなんだよな。
とはいえ、雄英側に内通者がいるのはほぼ確定事項だ。
そうなると、今のような仕草も恐らくは見せ掛けなのだろう。
そう考えると、内通者は演技も上手いという事になる。
もっとも、万が一……本当に万が一の可能性だが、実は雄英に内通者がいないという可能性もあるが。
そうなるのが一番いいのは間違いないものの、それでも現在の状況を考えるとやっぱり内通者はいると考えた方が合っているんだよな。
「分身、か。……一定のダメージを与えるとその分身は崩れるようだけど、個性もそのまま使えるというのは厄介だね」
オールマイトの言葉に、皆が頷く。
実際問題、分身が個性を使える……それも恐らくはという但し書きがつくが、オリジナルと同じ強さで個性を使えるというのは非常に厄介な存在だ。
せめてもの救いは、一気に多数の分身を作る事は出来ず、あくまでも分身は1人のヴィランにつき1体という事だろう。
とはいえ、そこで黒霧がいると、本当に対処のしようがなくなるのも事実。
何しろ分身が死んだら再度分身を作って、黒霧の個性で同じ場所に転移させれば延々と消耗戦を行えるのだから。
とはいえ、分身がやられたというのは分かるにせよ、どのような状況で分身がやられたのかというのは分からないというのが、せめてもの救いだろうが。
「アクセルは、実際にその分身と何度も戦ったのよね? どうだった?」
ミッドナイトの言葉に、自分の思っている言葉を口にする。
分身は非常に厄介だが、分身が倒された時に記憶の継承は行われないので、そういう意味ではまだマシだといったように。
「なるほど、黒霧とかいうヴィランがいなければ、対処はまだ可能だという事か」
セメントスが確認を込めて尋ねてくるので、それに頷く。
「そうなりますね。また……これは正確にはどうかわからずに今のところの予想でしかないですが、分身を作ったヴィランが任意で分身を解除するといった事は出来ないように思えます。そうなると最善なのは分身と遭遇した時は倒すのではなく無力化して……動けなくして、捕縛する事でしょうね。そうすれば、新たな分身は作れないですし」
実際、昨夜は俺も口裂け男を殺さずに確保した。
それから暫くの間は口裂け男が出てくる事がなかったので、この予想はそう間違っていないと思う。
もっとも、今回の襲撃は奥の手を見せない……言ってみれば開闢行動隊のお披露目に近いアピールの場だとすれば、分身の個性を持つヴィランもそういう事は出来るものの、実際にはやってみせなかっただけ……といった可能性もあるが。
馬の炎獣を生み出して捕縛した口裂け男を運ばせたが、途中で何らかの理由によって口裂け男の分身は消され、結果として再び分身が出るようになったし。
「しかし、分身の個性ですか。ヴィランではなくヒーローになったら、それこそ幾らでも活躍の場があったでしょうに」
13号がしみじみと呟き、多くの者がそれに同意するように頷く。
実際、分身という個性は極めて強力だ。
例えば、オールマイトにその個性を使えば、単純にオールマイト2人分の戦力となる。
あるいは、エンデヴァーを始めとした、他のプロヒーローでも構わない。
そう考えれば、何だってわざわざそんな強力な個性の持ち主がヴィランになったのか、理解は出来なかった。
いやまぁ、勿論人にはそれぞれ歴史がある。
他の者にしてみれば特に気にするような事ではなくても、本人は決して譲れないような事があってもおかしくはない。
分身の個性を持つヴィランも、何かそうしなければならない理由があって、ヴィランになった可能性は十分にあったとしても驚くべき事ではない。
というか、分身という個性の詳細が分からないから何とも言えないが、現在判明しているだけでも非常に強力な個性なのは間違いない。
その上でヴィランなんだから、スライムを使ってそのスキルを奪いたいところだ。
……もっとも、ギアスという失敗例もある。
個性についても、個性因子が必要だとか、あるいは分身する対象は個性因子が必要だとか、そういうことになる可能性は十分にある訳で。
であれば、少し慎重になった方がいいかもしれないが……まぁ、スキル欄の空欄は現在2個だ。
最悪1個使えない個性で埋まってしまってもいい。
その場合であっても、公安に要望しているI・アイランドのサポートアイテムによって解決出来る可能性は十分にあるのだから。
そんな風に考えていると、こちらに急速に近付いてくる気配に気が付く。
その速度から、一瞬敵か? とも思ったのだが……知っている気配だったので、すぐに違うと理解出来た。
「はっはぁっ! さて、アクセルの件について話を聞かせて貰おうか! 私が蹴らなくてもいいような事だといいんだけどな!」
ばん、と。
そんな擬音が相応しい感じで扉を蹴破るかのように姿を現したのは、ミルコだった。
また、そんなミルコから少し離れた場所では、ラグドールを除くプッシーキャッツの面々もいる。
なるほど、どうやらこのタイミングで到着したらしい。
というか、プッシーキャッツとミルコは一緒に来たんだな。
これはちょっと……いや、かなり意外だった。
今回の一件に関わりがあるというのを考えれば一緒に来てもおかしくはないが、今朝もうミルコは合宿施設にいなかったし。
そうなると、プッシーキャッツがミルコを見つけてすぐに俺達を追ったのか、あるいはミルコが早く行くぞと言って一緒に来たのか。
その辺りは分からないが……説明会については具体的にいつやるというのは決めてなかったと思うんだが……まぁ、その辺は雄英側の考えによるものだろうと、そう思っておく事にするのだった。