プッシーキャッツとミルコが到着し、昨夜の件についての話も終わっていた事もあって、いよいよ本題に入る事になった
「じゃあ、アクセル君。関係者も全員集まったし、話して欲しいのさ」
校長に促されて頷き、口を開こうとしたところで……
「その前に、少しよろしいですか?」
俺の言葉を遮るように、目良が口を開く。
いよいよこれからというところで目良が口を開いたのが面白くなかったのだろう。
会議室にいる何人かは、目良に対して不満そうな視線を向ける。
とはいえ、目良も公安の人物……それもその辺の人物ではなく、公安委員長が信頼を置き、俺の担当とする人物だ。
……まぁ、単純に面倒を丸投げされただけだと言われてもおかしくはないが。
ともあれ、そんな目良は周囲に視線を向けられても気にした様子もなく、校長を見ていた。
そして校長が、このままではいつまで経っても話が進まないと判断したのか、無言で頷く。
それを見た目良は、改めて会議室にいる面々に向けて口を開く。
「これからアクセル君の事情を説明する事になる。それはいいですが、その内容はかなり信じられないようなものです。……ですが、それも事実である以上、これからアクセル君が話す内容は他言無用として下さい。もしそれを破った場合、公安としても本気で動く必要が出てきますので」
ざわり、と。
目良の言葉を聞いた会議室の者達がざわめく。
無理もないか。
後ろ暗い噂のある公安だが、それでもヒーローという存在を動かしている組織であるのは間違いない。
そんな公安の人物が本気で動くと言うのだから、それに驚くなという方が無理だろう。
……あるいは後ろ暗い噂があるからこそ、何をするか、何をされるか分からないという思いがあるのかもしれないな。
なお、事情を知っている……というか、俺がこの世界に来た時、最初に接触した龍子と優は目良の言葉を聞いても特に何とも思っていない。
当然か。龍子や優にしてみれば、俺と関わった時点で俺や公安と一蓮托生なのだから。
それが嫌なら後見人とかにならなければよかったのだが……プロヒーローだけあって、困っている奴は見捨てられないんだろうな。
勿論、プロヒーローと一口に言っても色々な者がいる。
中には自分に面倒がないようにと考える者がいてもおかしくはない。
そういう意味では、俺がこの世界で最初に会ったのが龍子と優だったのは幸運だったのだろう。
「勿論、それが嫌だというのなら……他言無用という条件が受け入れられないのなら、ここで会議室を出ても何も問題はありません」
そう言う目良だったが、何人かの教師はお互いに顔を合わせたりするものの、目良の言葉に従って会議室を出ていく様子はない。
公安に所属する目良の言うことを聞くのがそれだけ嫌だったのか、あるいは単純に事情を知る為にはそのくらいのことは受け入れなければならないと思ったのか。
あるいは、それ以外の何らかの理由なのか。
……内通者がいる場合は、ヴィラン連合にとって俺という存在は明らかに異質だという事もあり、危険を承知の上でここに残っていてもおかしくはないが。
ともあれ、目良が会議室から出てもいいと言ってから、数分。
それでも結局誰も会議室から出ていくことはなかった。
「分かりました。では、これから皆さんには書類を渡しますので、サインをお願いします」
そう言い、目良は持っていた鞄から書類を取り出すと、会議室にいる面々に渡していく。
……少し見た感じだと、この会議室で知った事は決して第三者に漏らさないと、そんな感じの事が書かれていた。
もし破った時は……うん。まぁ、取りあえずろくな事にならないのは事実だろう。
そして意外な事に、会議室にいた面々はそんな目良の出した書類をじっくりと確認するように、あるいは何か裏がないかと思った様子で見てはいたが、最終的には全員がそれに署名した事だろう。
ミルコなんかは、ざっと流し読みをした程度でサインをしていたのだから、驚きだ。
まぁ、ミルコの場合はもし何かあっても自分の力だけでどうとでもなるという風に思っているからなのかもしれないが。
ともあれ、それぞれがサインした書類を集めると、目良が俺に向かって深々と一礼してくる。
「では、お願いします。アクセル・アルマー代表」
先程まではアクセル君と気安い様子で俺に接していた目良が、明らかに自分よりも上位者に対する仕草をした様子に、会議室にいた面々の多くは驚きの表情を浮かべる。
ピクシーボブやマンダレイといった、今回の合宿で俺と親しくなった2人も、いきなりの目良の態度の変化に驚く。
無理もないか。ピクシーボブはヒーロービルボードチャートにおいてもトップ10には入らずとも、上位の常連だ。
そんな面々であっても、公安という組織には頭が上がらないのだ。
……これがトップ10に入るような者達、この場ではオールマイトやミルコであれば、また少し話も違ってくるのだろうが。
ともあれ、目良の俺に対する態度からすると、俺も自分なりの態度を示しておく必要はある訳か。
「分かった。さて、では改めて自己紹介をさせて貰おう。俺はアクセル・アルマー……というのは、もう知ってるな」
本名で雄英に入学して、その上で色々な面で目立っていたのだから、まさかこの場にいる者で俺の名前を知らない者はいないだろう。
それこそ、昨日少しだけ素を出して話した相澤達も、このくらいでは特にどうこうといった事はない筈だ。
なので本番はここからとなる。
「けど、俺の所属について知ってる者は……まぁ、何人かいるが、それだけの筈だ」
目良、龍子、優の3人を見る。
あるいはここにねじれがいればその顔も見たかもしれないが、生憎と……生徒だからか、ねじれの姿はこの会議室にはない。
「異世界、並行世界、パラレルワールド……そういう言葉は知っているな?」
ヒロアカ世界には普通に漫画とかアニメとかゲームとか、そういうのが存在している。
まぁ、最近の流行となると、例えばスポーツ物は殆どなかったりするが。
何しろヒロアカ世界の住人の大半が個性を持っていて、その結果としてスポーツも衰退してるのだから仕方がない。
だが、そうして衰退したジャンルとは違い、異世界ファンタジーとかそういうのは一番人気とまではいかないが、それでも相応に流行ってはいる。
……まぁ、学生時代からそういうのに興味を持たず、プロヒーローになる為に勉強や訓練に集中してきたといった者はいるかもしれないが。
というか、実際にいた。
何人かが、俺の言葉の意味を理解出来ないといった様子で首を傾げている。
まぁ、今の話の流れで分からないのなら、後で誰かに聞いてくれ。
プロヒーローの集まりだけに、何だかんだと世話焼きが多いから、しっかりと教えてくれる筈だ。
「俺の国の名前は、シャドウミラー。この世界……取りあえずヒロアカ世界と呼んでるが、このヒロアカ世界とは別の世界に存在する国だ」
正確にはシャドウミラーの本拠地であるホワイトスターがあるのは世界と世界の狭間なのだが……まぁ、その辺は分かりやすい説明という事で。
「ちなみにこの世界とは別の世界だから、当然ながら個性とかそういうのはない」
ざわり、と。
俺の言葉を聞いた者達が、個性がないという言葉にざわめく。
それこそ先程の目良の一件の時よりも大きなざわめき。
まぁ、このヒロアカ世界にいる者達にしてみれば、個性はあって当然――無個性は取りあえず考えないとして――のものだ。
幾つもの世界を知っている俺だからこそ、このヒロアカ世界の個性というのがこの世界の特徴であるというのを理解は出来る。
だが、このヒロアカ世界の者達にとって、個性というのはあって当然のものなのだ。
だからこそ、俺の言葉が素直に信じられないのだろう。
「世界というのは、色々な特徴がある。例えば、魔法がある世界、魔術がある世界、ペルソナといった特殊な能力のある世界、あるいは人型機動兵器の存在する世界……そんな風にな。そういう意味では、個性というのがあるこのヒロアカ世界は珍しいな」
「……待ってくれないかな、アクセル君。……いや、目良君の言葉からすると、アクセル代表とお呼びした方がいいのかな?」
校長がどう呼べばいいのかといった様子で聞いてくる。
「そうだな。今はアクセル代表と呼んでくれると、この場に相応しいと思う」
「……分かったよ、アクセル代表。そう呼ばせて貰おう」
校長はそう言うと、俺に視線を向けて改めて口を開く。
「アクセル代表が言う、色々な世界。その話が本当だとして、アクセル代表は何をしにこの世界へ?」
「俺の国……シャドウミラーには、以前から1つの国是がある。それが、未知の技術の収集だ。もっとも、そういう意味ではこのヒロアカ世界というのは当たりであり、外れでもあるんだけどな」
その言葉に校長だけではなく多くの者達が疑問の視線を向けてくる。
「どういう事かな?」
校長の言葉に、俺はこの場にいる者達を見回す。
「今、この場所にいる者の多くが強力な個性を持っている。だが、その個性というのはあくまでも個性因子があってのもので、それがなければ使えない」
いやまぁ、レモン辺りなら個性因子がなくても個性を使えるように出来そうな気もするが。
何しろ、レモンは凛の魔術回路を研究し、量産型Wにガンドを標準装備したのだから。
勿論、量産型Wのガンドは凛のように連射が出来る訳でもないし、一撃の威力もそこまで高くはない。
だが、それでも量産型Wにガンドを搭載したのは間違いのない事実だ。
そういう意味では、量産型Wに個性を使わせる事が出来てもおかしくはない。
とはいえ、今ここでその件について話すつもりはないが。
「そういう意味では、個性因子を持たない俺達にしてみれば、この世界は外れだ。だが同時に、この世界では個性のお陰もあってか科学技術はかなり発達している。具体的には、サポートアイテムとか、I・アイランドの持つ技術とかな」
そこで一度言葉を止め、目良を見る。
目良は俺が何を言いたいのかを理解し、困ったように笑う。
……実際、俺のステータスにあるスキル欄の空欄が2つ増えただけで、この世界にやって来た甲斐はあったんだよな。
ぶっちゃけ、それだけでも元を取れている……どころか、大きな利益になっているとすら言ってもいい。
後は、どれだけプラスにするかだが……公安の方でも、あのサポートアイテムを確保するのには難航してるらしいんだよな。
「なるほど、そういう意味では協力出来るかもしれないね。アクセル代表も知っての通り、雄英は多くのサポートアイテムの製作会社と協力関係にある。また、サポート科にも優秀な人材はいる」
「そうだな。そういう意味でも、公安からの依頼とはいえ雄英に入学して良かったと思ってるよ」
「そう、その辺についても聞きたい。この世界に来たアクセル代表が、一体何がどうなって雄英に入学するような事になったんだい? 勿論、うちとしてはアクセル代表のお陰で1年A組が……それにB組も例年以上に生徒達が実力を持っているから、そういう意味では大歓迎さ。だけど、何故そうなったのか聞かせて貰えないかい? 特に先程の、当たりでもあり外れでもあるという話を聞く限り、アクセル代表が意図的にこの世界を選んでやって来た……という訳ではないのだろう?」
校長が真剣な様子でそう聞いてくる。
どうやら校長的にはこの疑問は是非とも解決したいものらしい。
「そうなるな。正確にはホワイトスターにある転移システムを使って、ランダムに座標を決定して転移するってやり方で未知の世界に行ってるんだけど、それで転移した時、ちょうど龍子と優……リューキュウとマウントレディが訓練をしている場所だったんだよな」
いや、正直あの時は驚いた。
この世界の事を何も知らない状態でそれだったので、俺の目からは巨人に襲い掛かっているドラゴンといったようにしか見えなかったのだから。
もしちょっと何かを間違っていれば、俺はドラゴンに変身した龍子に攻撃をしていた可能性もある。
そうなれば当然ながら龍子もただですんだ筈がなく……そういう意味では、本当に幸運だった事になる。
「で、異世界からの存在という事で公安に連絡がいって、その後諸々の交渉をした後でゲート……ホワイトスターと行き来出来るようにする為の転移装置を置く為の場所を譲って貰う予定になっていたんだが、何だかんだとその辺はまだで……その後は雄英の生徒達を鍛えるという依頼で、雄英に入学した訳だ」
「……なるほど。では、こうしたらどうかな? 雄英は敷地が広くて使っていない場所も余っている。そこをアクセル代表に……シャドウミラーに譲渡するという事で」
校長は俺の説明を聞いて少し考えた後、そう提案してくるのだった。